SKIP |
---|
いや、あれがネズミの足音のはずがない。この土砂降りの中、雀ヶ丘チーム部 室の物置に…… 誰かが―― 侵入したのだ!! |
一色清美 | うわー!すごい雨! 全身ずぶ濡れだよ〜!! |
静かだった部室に、激しい雨音とともに清美がやって来た。 | |
清美がドアを閉じると、部室は再び静けさを取り戻した。 | |
ガラス越しに見る天和市は、町全体が水没したかのような有様だ。 | |
今日は来なくていいと言ったはず | |
---|---|
一色清美 | でもキャプテンは来てるじゃない! |
この豪雨を考慮して「今日は来なくていい」とメンバーたちに知らせた時点で、私にはここで 大人しくしている以外の選択肢はなかった。 | |
一色清美 | もう途中まで歩いたし、キャプテンの雨宿りに付き合ってあげようかな〜って思って。 |
街を沈めんばかりの豪雨も、この少女の持つ無敵の笑顔には敵わないらしい。 | |
風邪引いたらいけないから、早く濡れた服を着替えて | |
一色清美 | はーい! それじゃ、ここなら誰もいないし…… |
少女はロッカーから予備の服を取り出すと、私の目の前で濡れた服を脱ぎ始めた。 | |
私がいるんだけど? | |
そう言いつつ、視線をそらした。 | |
それでも、クマさん柄のかわいい下着がちらっと視界に入ってしまった。 | |
一色清美 | キャプテンはキャプテンだから、大丈夫だよ〜 |
意味が分からない……この子は私の前だといろいろと無頓着すぎる、心配だ。 | |
気象予報士 | ……ここで速報です。 |
テレビの麻雀対局中継が突然中断し、深刻な面持ちの気象予報士が画面に映った。 | |
気象予報士 | 天和気象庁がミッドガルト島全域に大雨警報を発令しました。今後12時間にわたって、天和市 では激しい雨が続く見込みです。 |
一部地域では特別警報級の大雨や、雷・ひょう・暴風・洪水などの災害が起こる可能性もあり ます。 | |
気象庁は不用意な外出を控えるよう呼び掛けており、緊急時は…… | |
一色清美 | ひぇ! び、びっくりした!なんか爆発したのかと思った! |
この町、本当に大丈夫? こんな天候の不安定な島で人が暮らそうなんてさ…… | |
乾いた服に着替えた少女は、都市計画にぶつくさ言いながら、私に寄り添うようにしてソファ に座った。 | |
普通に考えて、大丈夫じゃないだろうね | |
一色清美 | うぅ……12時間も降り続けられたら、 今夜はもう帰れないよぉ、キャプテン! |
少女は大袈裟に嘆きながら、柔らかい体を私にくっつけて、両腕を私の首に回して揺さぶった 。 | |
一色清美 | なんで突然台風なんか!今夜は郁子ちゃんと流れ星を見に行く約束をしてたのに! |
70年に一度なんだよ!今日を逃したら、次来るときには私、おばあちゃんになっちゃってるよ ! | |
そんなこと言われても…… | |
一色清美 | あーあ……郁子ちゃんに中止だって言っとかないと。 |
あれ?スマホが圏外…… キャプテン、スマホ使える? | |
4月10日 | |
私も圏外だ | |
雨や暴風で基地局もダメになってしまったのかも? | |
一色清美 | え?停電? |
どうなってるのよ! これじゃ何もできないじゃない! | |
仕方がない、雨が弱くなるのを待つしかないね。 あるいは…… | |
一色清美 | ねえキャプテン、 今回って、気象干渉装置を使うと思う? |
気象干渉装置。天和市の誇る最先端技術による成果物の一つだ。 | |
この装置なしでは、悪天候に見舞われることの多いこの島で、天和市が今日まで存続すること はできなかっただろう。 | |
しかし、装置の使用に膨大なエネルギーを消費すること、加えて未知の副作用を恐れる世論へ の懸念もあって、頻繁に持ち出されることはない。 | |
考えても無駄だね、戸締りを確認してくるよ | |
一色清美 | は〜い。 |
部室を出て、各部屋の戸締りをチェックし、廊下の窓を締めた。 | |
雨漏りや水溜りがないことを確認してから、再び部室に戻る。 | |
小さな充電式ランプの温かな光の中で、清美は私がソファに置いていた麻雀理論の本を読んで いる。 | |
以前まで壊れていたはずのそのランプは、どうやら清美が休みの間に直してしまったようだっ た。 | |
一色清美 | お帰り、キャプテン。フフ、このランプまだ電池があったよ! こっちに来て一緒に本読まない? |
いや、少し寝るよ | |
一色清美 | 横になるの?じゃあソファを空けるね。 |
座ったままでいいよ | |
私はソファに深く腰掛けて目を閉じた。 | |
ちょっとした仮眠のつもりだったが、遠くで響く雨音や雷鳴の中でいつの間に深い眠りについ ていた。 | |
絶え間なく続く閃光で目を覚ます。明かりの消えた部室は、窓から差し込む光によって明滅を 繰り返している。 | |
太ももに重みを感じる。清美も私の膝を枕にして眠ってしまったらしい。 | |
私のお腹に顔をうずめるようにして寝ている清美には、この明滅も影響がないらしい。 | |
窓の外を見ると、カーテンのような雨の向こう側にどす黒い雲が見えた。その中で白い閃光が 頻りに瞬いている。 | |
一見雷のようにも見えるが、雷鳴や地響きが聞こえることはなく、稲妻が走ったりするような こともない。 | |
突如、市街の外れから放たれた光の柱が空へと伸びていき、剣のように雲を斬り開いた。 | |
……気象干渉装置だ。どうやら、気象庁は膨大なエネルギーを消費するあのモンスターを使っ たらしい。 | |
気象干渉装置が放つ光の柱が雲に触れると、太陽のような眩しい光が放たれる。とても直視で きるものではない。 | |
壮大な景色だが、目を閉じていないと、百合香やエルシーに視覚に頼らない麻雀のやり方を教 えてもらうはめになるだろう。 | |
……ん? | |
一色清美 | あれ……?なにか音が…… |
……え?電気がついた!キャプテン!! | |
キャプテン、電気が復旧した!ほら、雨も小降りになったし、雲が消えてくよ! | |
干渉装置が起動したんだ | |
一色清美 | え?あれを使ったの?本当に? |
てことは、流れ星も見れるってこと?郁子ちゃんに連絡しなくちゃ! | |
大はしゃぎで郁子に電話をかける清美を横目に、私は少し考えこんだ。 | |
さっきの大きな物音は、いったい何だったんだろうか? | |
物が落ちたような音だったが、物置でなにか風に吹かれて倒れたのだろうか? | |
いや、戸締りはしっかり確認した。まさかネズミだろうか?あれほど大きな音を立てられるネ ズミがいるのなら、清美に見つかる前になんとかしたいが…… | |
一色清美 | え?今日じゃない?……だって接近中って……ああ、3日後なんだね! |
え……急に予定が入った? そっか、残念だな……分かった……うん。 | |
はあ…… キャプテン、郁子ちゃんがね…… | |
…… えっ、部室に、ネズミが……? | |
……違うと思う | |
一色清美 | え? じゃあ…… |
いや、あれがネズミの足音のはずがない。この土砂降りの中、雀ヶ丘チーム部室の物置に…… | |
誰かが―― 侵入したのだ!! |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
清美 | いったい何が…… | うう……気を付けてね、キャプテン …… | きっ……キャプテン…… |
きっ……キャプテン……いったい何 が…… | 様子を見に行く……?あ、危ないん じゃないかな…… |
SKIP |
---|
この人たちってもしかして…… |
男性の声 | 俺だ。 ……ああ、俺は今、大いなる危機に直面している。 |
穏やかな女性の声 | わわ、オカリン押さないで…… |
男性の声 | ここはどこだ? 俺たちは直前までラボにいたはずだが…… |
ここは陸地か、あるいは無人島なのか? 敵の狙いはなんだ?何をしようとしている? | |
冷静な女性の声 | 岡部、いつまで私の上に乗ってるのよ!早くどいて! |
男性の声 | む?助手よ、なぜそんなところに?…これも機関の罠か? |
冷静な女性の声 | そんな訳あるか!いいからどいて! |
穏やかな女性の声 | ねえねえ、ここってどこなのかなー? |
まゆしぃね、ここにくる瞬間、目の前の景色が急がふわーっとして見えたんだー。 | |
あ!ほらこれ、青い猫型ロボットさん家(ち)の押し入れに似てる…。もしかしてまゆしぃ達 、青い猫型ロボットさんの世界に入ってきちゃったのかなあ? | |
男性の声 | まゆりにしては大胆な発想だ。 |
冷静な女性の声 | まゆり、さすがにそれはファンタジー的な発想よ。 |
あの話に、麻雀牌なんて出てこないでしょ。 | |
男性の声 | 待て。助手よ、今「麻雀牌」と言ったか? |
冷静な女性の声 | そうだけど。 |
男性の声 | どこに麻雀牌が? |
冷静な女性の声 | ここ、それとここにも。 |
それとまゆり、足元にガラス瓶が落ちてるから気を付けなさい。 | |
穏やかな女性の声 | わ、ホントだー。この瓶って、ラムネの瓶かなあ? |
冷静な女性の声 | この散らかってる様子、なんだかラボみたいね。岡部と橋田のせいで、どんどん物が増えてる し。 |
穏やかな女性の声 | そうだよ、オカリン。クリスちゃんとまゆしぃがいなかったら、もっとひどいことになってる と思うのです。 |
男性の声 | あれは未来ガジェットの元となる重要なパーツたちだ。 |
冷静な女性の声 | ただのガラクタでしょ。 |
男性の声 | と、とにかくだ!今はそんな話をしている場合では―― |
どうやら……侵入者は3人のようだ…… | |
開ける! | |
---|---|
三人 | …………………… |
挙動不審な男 | ――まずい!誰か来たぞ! |
……え? | |
ドアを開けた私は、眼前の光景に目を疑った。 | |
挙動不審な男に、キョトンとした様子の少女。そして落ち着き払ったもう一人の少女。 | |
ひとつ確かなのは、彼らも私たちも、この状況について何一つ理解できていないということだ った。 | |
キョトンとした様子の少女 | ……? |
一色清美 | 一人だけじゃなかった……! |
キャプテン…… | |
とりあえず通報だ | |
知性的で冷静な少女 | えっ!? |
挙動不審な男 | フハ、フハハ、フゥーハハハ! |
白衣を着た男が突然大声をあげ、両腕で奇妙なポーズを構えて、少女たちを守るように前に飛 び出した。 | |
挙動不審な男 | 貴様ら……機関が送りこんできた刺客だな!? |
俺たちをここに連れてきた目的はなんだ!? | |
ごめん、何を言ってるんだ……? | |
挙動不審な男 | 俺たちは直前まで、ラボで実験中だったのだ。携帯を使ったタイムマシンという人類史上初の 実験をな! |
それが今やこんな状況になっている。これは貴様たちによるなんらかの妨害以外には考えられ ない。そうだろう? | |
知性的で冷静な少女 | 落ち着きなさい、岡部。この人たち、そんな悪い人には見えない。 |
一色清美 | キャプテン、この人たちってもしかして…… |
ゴホン!それ以上言うな! | |
清美は恐らく「頭がおかしいんじゃない?」とでも言うつもりだったのだろう。 | |
だが今は、彼らを刺激するのは得策ではない。 私は大人しく道を開けた。 | |
知性的で冷静な少女 | あの… |
赤い髪の少女が再び私を振り返った。 | |
知性的で冷静な少女 | もしかして、この部屋の持ち主の方ですか? |
突然ビックリさせて、ごめんなさい。 | |
私たちは何かの理由で、ここに迷い込んでしまったの。 | |
すぐに出て行くつもりですが、その前にここがどこなのか、確かめさせてもらえませんか? | |
選択肢 →分かりました。 →どうぞ。 | |
知性的で冷静な少女 | ありがとうございます。 |
知性的で冷静な少女は私と清美の間を通り抜け、少し怯えながら物置を出て行った。 | |
だが部室の景色を目にした途端、少女は驚いたように私と男の方を振り返った。 | |
そして、戸惑った様子のまま部室に歩み寄り、視線から消えたが、窓が開く音が微かに聞こえ た。 | |
残った者で顔を見合わせた。私が口を開こうとすると、慌ただしい足音が近づいてきて、少女 が部室へ戻ってきた。 | |
知性的で冷静な少女 | なっ…!?ここは一体… |
挙動不審な男 | お、おい。どうした!? |
何が見えたんだ!? | |
知性的で冷静な少女 | ここ……秋葉原じゃない。 |
というか、東京でもない…まったく見たことないものがたくさんある…。 | |
これって岡部の作った「あのガジェット」を起動したせい……? | |
すみません、今が何日なのか教えてもらえますか? | |
天和35年4月10日午前10時13分です。 | |
知性的で冷静な少女 | 天和…聞いたことない元号ね。日付も全く違う… |
挙動不審な男 | フ、フフ、フゥーハハハ! |
つまりこういうことだ。実験の結果、東京ではないどこかへ俺たちは転移してきた、と! | |
知性的で冷静な少女 | あのね、笑ってる場合じゃないでしょ…。 |
キョトンとした様子の少女 | クリスちゃん、そんな落ち込まないで。まゆしぃも力になるから、みんなで帰る方法を探そう ? |
知性的で冷静な少女 | オカリン、なんとかして帰る方法はないのかなあ? |
挙動不審な男 | そうだな、シリアルナンバーを逆にして使えば、あるいは戻れるかもしれん……。 |
知性的で冷静な少女 | このままじっとしてても仕方ないか…。岡部、やってみましょう。 |
男の服から何かを取り出した。20年くらい前の古いケータイのようだ。 | |
起動させた瞬間、ケータイの画面が一度光って、そのまま暗くなってしまった。どう操作して も、反応がなかった。 | |
挙動不審な男 | ……っ!? |
知性的で冷静な少女 | どうしたの? |
挙動不審な男 | 「位相通信機(改)」が、壊れたようだ。まったく反応がない…。 |
知性的で冷静な少女 | 壊れたって… |
それじゃ私たち…… | |
キョトンとした様子の少女 | 戻ることができないってことかな…? |
挙動不審な男 | 今はそういうことになるな…。 |
知性的で冷静な少女 | …………………… |
どうしてこうなった……。 | |
…… | |
どうやら、一旦部室で話を聞くのがよさそうだ。 |
18:02 異常確認 ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月10日 隣の物置に異常が発生しているようだ。誰かが侵入したか もしれない! 状況を確認しに行こう。ただし……気を付けて! | |
清美 | 様子を見に行く……? |
18:02 時空転移? ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月10日 突如として物置に現れた3人には何か事情があるようだ。 彼らに話を聞いて状況を整理しよう…… とはいえ、あちらも戸惑っているようだから、落ち着くま で時間が必要かもしれない。 散らかった物置を片付けながら、こちらも頭の中の整理と 心の準備をしておこう。 片付け終えたら、部室で彼らの話を聞こう。 | |
岡部 | これは全人類の命運にも関わる。 |
まゆり | どうしたのー? |
紅莉栖 | お願い。 |
清美 | キャプテン! |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
岡部 | 待ちくたびれたぞ。 | 狂気のマッドサイエンティストとし ての本能が俺に告げている。まだや るべきことがあると。 | 世界を救うために必要な対価であれ ば…。 |
まゆり | よろしくね〜 | う〜ん? | トゥットゥルー♪ |
紅莉栖 | どうぞよろしく。 | 落ち着いて。 | このままじっとしてても仕方ないか …。 |
清美 | フフン~ | キャプテン…… | 行くよ~ |
Lv.1に戻って左のマス | |||
Lv.1に戻って右のマス |
SKIP |
---|
今回の一件で、物置が散らかっている…… |
今回の一件で、物置が散らかっている…… | |
先ほどまでの嵐が部屋の中まで吹き荒らしたかのようだ。 | |
ペットボトル、書類、予備の麻雀牌、教科書などが床に散らばっていて、このまま放っておく わけにはいかない。 | |
一色清美 | うわあ……この間トちゃんとなっちゃんと整理したばかりなのに…… |
またやり直しだ…… | |
キョトンとした様子の少女 | ごめんね。まゆしぃたちのせいで、お部屋がめちゃくちゃに…… |
でもでも、みんなでお片付けすればすぐ終わるのです! | |
オカリン、クリスちゃん。みんなでお片付け手伝おうよ! | |
知性的で冷静な少女 | そうね、どうせすぐに帰れそうにないし。 |
キョトンとした様子の少女 | そういえば、まゆしぃ自己紹介してなかったのです。えへへ…うっかりしてたよ。 |
椎名まゆり | トゥットゥルー♪椎名まゆりです。 |
まゆしぃって呼んでくれたら嬉しいなあ。よろしくね! | |
挙動不審な男 | 俺は狂気のマッドサイエンティスト―― |
鳳凰院凶真? | 鳳凰院凶真! |
知性的で冷静な少女 | 初めまして、牧瀬紅莉栖です。どうぞよろしく。ちなみにそこの厨二病男は、鳳凰院じゃなく て岡部倫太郎だから。 |
岡部倫太郎 | いいや、俺は鳳凰院凶真だ。 |
一色清美 | 私は一色清美。清美でいいよ! |
雀ヶ丘チームのメンバーで、こっちはキャプテン。 | |
初めまして。 | |
---|---|
簡単な挨拶の後、椎名まゆりと清美の指示で、全員が部屋を片付け始めた。 | |
だが、みんなの表情を見ていると…… | |
今起こっていることを受け入れ、心の準備をするためにも時間が必要なようだ。 |
SKIP |
---|
麻雀牌……麻雀牌…… こっちも麻雀牌…… |
牧瀬紅莉栖 | 麻雀牌……麻雀牌…… |
こっちも麻雀牌…… | |
麻雀牌、多すぎじゃない? | |
一色清美 | えっと…… |
確か……10種類以上……? | |
それで各種類3セットずつ、1個のセットに2面入ってるよ。 | |
郁子ちゃんが言うには、3セットがそれぞれ実戦用、保存用と……なんだっけ? | |
椎名まゆり | あ、分かったー。布教用だね。 |
一色清美 | そう!布教! |
…… | |
布教ってなんのことだろう? | |
椎名まゆり | 自分の好きなことを、他の人に宣伝することだよー。 |
一色清美 | へー、なるほど。 |
SKIP |
---|
部屋の片付けもそろそろ終わりそうだ。 片付けがいい気分転換になったのか、あるいは清美の朗らかさに影響されたの か…… 3人のまとっていた陰鬱な空気も気付けば消えていた。 |
岡部倫太郎 | ククク……見よ、この偉大な物理学の成果を……! |
部屋の片付けもそろそろ終わりそうだ。 | |
片付けがいい気分転換になったのか、あるいは清美の朗らかさに影響されたのか…… | |
3人のまとっていた陰鬱な空気も気付けば消えていた。 | |
岡部倫太郎という少年は、部屋の隅で芝居がかったポーズをしている。 | |
隅っこの棚に置かれた3本のペットボトル飲料は、どれも倒れない程度に傾いている。 | |
それぞれが異なった角度で傾いていて、同時に他の飲み物を支えることで、安定した構造を築 いているのだ。 | |
しかし、それは少しでも外から力を加えれば、すぐにでも崩れてしまいそうなほど脆い。 | |
不可能に近いこの奇跡、まさに…… | |
偉大な物理学の成果だ! | |
---|---|
岡部倫太郎 | おお! |
貴様、「分かっている」な! | |
だが…… | |
俺は混沌を望む者。世界の支配構造を破壊する者。 | |
安定した秩序は、この俺が自ら壊す…… | |
岡部はそう言いながら、飲み物を普通に並べ直した。 | |
これで、物置の片付けは完了だ。 | |
3人を隣の部室に案内して、この状況について話し合おう。 |
SKIP |
---|
これは全人類の命運にも関わる。 |
一色清美 | つまり…… あなたたちは別の世界からワープして来たってこと? |
2010年、東京、秋葉原…… | |
彼らが語ったのは、見たことも聞いたこともない未知の世界の話だった。 | |
彼らの持ち物も随分と昔のものに見える。 | |
岡部倫太郎 | そう、俺たちは並行時空NO.256のタイムトラベラーだ。「メッセージ」を伝える任務を背負っ ている。 |
すべての人間に真実を知らせなければ――穏やかな日常に隠された、誰も気付けない微かな手 がかりに…… | |
これ以上見て見ぬふりをすれば、この世界はおろか、すべての平行世界が…… | |
一色清美 | ど、どうなるの……? |
岡部倫太郎 | ……アンノウン。 |
一色清美 | え? |
岡部倫太郎 | 量子の不確定性、シュレディンガーの猫。観測する前に真実を知ることはできない。 |
一つの時空が別の時空にどんな影響を与えるのかは誰にも知る由ない。故に――アンノウンだ 。 | |
牧瀬紅莉栖 | はいはい厨二病厨二病。要するになんにも分かってないってことでしょ。 |
岡部倫太郎 | 助手よ、お前たちには言ってなかったが、俺は使命があってここにやってきたのだ。故に、こ れは必然である。 |
牧瀬紅莉栖 | 下らない話はいいから、それよりもあのガジェットを―― |
岡部倫太郎 | 位相通信機(改)だ。 |
牧瀬紅莉栖 | その、位相通信機(改)を直す方法を探さないと。 |
岡部倫太郎 | ああ。クリスティーナの言う通りだ。 |
牧瀬紅莉栖 | ティーナって付けるな。 |
岡部倫太郎 | 【頼れる右腕(マイ・フェイバリット・ライトアーム)】が不在の今、助手には余分に働いてもら わないと困るぞ! |
牧瀬紅莉栖 | まったく…。じゃあ、まずは状況を整理しましょう。 私たちは、位相通信機(改)を使って実験をしていた。そして、気が付いたらこの世界に転移 してた。 あの機械を起動したことで、時空座標が変わったとしたら…。 |
岡部倫太郎 | やはり、位相通信機(仮)を修理するのが一番手っ取り早そうだな。 |
椎名まゆり | オカリン、修理ってどれくらいで終わるのかなあ? |
まゆしぃ、お金をあんまり持ってないのです…。 | |
牧瀬紅莉栖 | まゆり、私たちが持ってるお金は、恐らくこの世界では使えないと思う…。 |
岡部倫太郎 | ならば、この状況でできることは一つだけだ。 |
3人の視線が一斉に私に集まった。どうやら私の存在を忘れてはいなかったようだ。 | |
何がお望みで? | |
---|---|
岡部倫太郎 | 貴様、「キャプテン」と呼ばれていたな。つまりここのリーダーということか? |
俺たちの状況は聞いた通りだ。これは全人類の命運にも関わる。 | |
そこでだ。この鳳凰院凶真直々に、貴様に協力を要請する! | |
……とりあえず通報だ | |
岡部倫太郎 | ま、待ってくれ…!さっきの話、伝わってないのか? |
あまりにも突拍子もない話だ | |
牧瀬紅莉栖 | 私もこの状況、まだ理解が追い付いてないけど…今はあなたたちを頼るしかないの。 |
だから、お願い。私たちを信じて…! | |
雀ヶ丘のメンバーや天和市の安全を考えれば、責任を持って彼らを警察に引き渡すべきだ。 | |
天和市の安全を守る部署に、専門家としてこの事件を処理してもらうのが最善だろう。 | |
一色清美 | キャプテン…… |
清美はどう思う? | |
一色清美 | ……私は、助けてあげるべきだと思う。 |
なぜ? | |
一色清美 | 大した理由はないけど……ただの勘かな。なんか悪いやつには見えないから。 |
でも、どうするかはキャプテンが決めればいいよ。いずれにしても、私はキャプテンの味方だ から! | |
「勘」。 清美の「勘」は、いつも正しい。 | |
というのも、ちゃんと根拠がある。 清美の旅先で起きた出来事、繋がりを持った人々、そして彼女に備わっている強運…… | |
「勘」というのはすなわち、経験、論理、啓示、閃きが混ざり合って生まれる無意識の判断だ 。 | |
彼らを助けるべきと、清美の勘がそう判断したのなら。 | |
私の答えは―― | |
椎名まゆり | 一方的にこっちが助けてもらうだけじゃ、まゆしぃはよくないと思うのです。 |
だからね、クリスちゃんとオカリンと3人で、何かお手伝いをするのはどうかなあ? | |
そうだ!メイド服を着て、みんなを癒してあげるのはどうー? | |
牧瀬紅莉栖 | ちょっ!? |
め、メイド!? | |
一色清美 | メイドって、えっ……? キャプテンの……メイド? |
きゃ、キャプテンはそういうのが好きだったの……? | |
岡部倫太郎 | ……! |
そうか、メイドが交渉の切り札になるとはな…。ククク… | |
世界を救うために必要な対価であれば、仕方ない…。 | |
そういうことならば、こちらはまゆりだけでなくクリスティーナも提供する用意がある! | |
牧瀬紅莉栖 | おい、勝手に決めるな! |
岡部倫太郎 | クリスティーナ、これは俺たちの未来、そしてこの世界の為なのだ…。分かってくれ。 |
牧瀬紅莉栖 | だからって…なんで私がメイドに…。 |
椎名まゆり | クリスちゃん、まゆしぃがサポートするから大丈夫だよ!それに、クリスちゃんのメイド服、 すっごく可愛いと思うのです。 |
牧瀬紅莉栖 | ええ……? でも……。 |
岡部倫太郎 | 覚悟を決めろ、クリスティーナ。お前の犠牲は無駄にはしない。 |
椎名まゆり | よーし、それじゃクリスちゃんの衣装も作らないと!まゆしぃ、なんだか燃えてきちゃったよ ー。 |
牧瀬紅莉栖 | あああ、分かった! 分かったわよ! キャプテンもそれで納得してくれるのよね!? |
????? | |
清美の意見を受けて、私は彼らの面倒を見るつもりでいた。のだが…… | |
なんだかよくわからない状況になってきた…… | |
……まあ、ここに残れば? | |
椎名まゆり | やったー!トゥットゥルー♪ |
一色清美 | キャプテン、メイドなら私も…… |
メイドは別に…… | |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! キャプテン、今から俺たちは仲間だ!この世界の平和と安定のために―― |
協力し合おうではないか! | |
…… | |
まあいい……まずはとにかく天和市について紹介するとしよう…… |
18:02 天和市の紹介 ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月10日 「異世界」から来た3人をここに置くことにした以上、天 和市についても知ってもらう必要がある。 今やるべきことは衣食住や交通に関する問題の解決と、そ の後の計画だ。 彼らと一緒に天和市を見て回ろう。 | |
岡部 | これは全人類の命運にも関わる。 |
まゆり | |
紅莉栖 | お願い。 |
清美 | キャプテン! |
SKIP |
---|
「異世界」から来た3人をここに置くことにした以上、天和市についても知っ てもらう必要がある。 今やるべきことは衣食住や交通に関する問題の解決と、その後の計画だ。 彼らと一緒に天和市を見て回ろう。 |
岡部倫太郎 | ドクターリーチ……? |
この真紅の外観…… | |
そして懐かしい匂い…… | |
牧瀬紅莉栖 | これって…… |
岡部倫太郎 | 俺たちの知っているドクペにそっくりだな。 |
だが、これは別世界のものだ。 | |
同じような見た目、同じような味だからといって、同じものだと判断するのは早計だぞ。 | |
牧瀬紅莉栖 | でも、原材料も全く同じに見える。物質という観点で言えば―― |
ドクペと「ドクターリーチ」は同じもの。 | |
今いるこの世界の物理環境は、元々私たちがいた世界と感覚的にはあまり変わらないようね。 | |
それで――2人とも、飲む? | |
---|---|
牧瀬紅莉栖 | …… |
1本もらえるかしら。 |
SKIP |
---|
「異世界」から来た3人をここに置くことにした以上、天和市についても知っ てもらう必要がある。 今やるべきことは衣食住や交通に関する問題の解決と、その後の計画だ。 彼らと一緒に天和市を見て回ろう。 |
牧瀬紅莉栖 | 天和市の発展ぶりを見ると、まるで未来を見てるようね。 |
多くの技術が主に麻雀に関することに使われてるみたいだけど…… | |
恐らくこの街は、「麻雀」が大きな核となってる。そんな気がする。 | |
私たちのいた「秋葉原」の核の一つが、アニメやゲームなどの「サブカルチャー」だったよう に。 | |
きっとこの街は「麻雀」があったことで、発展した世界なのよ。そうだとしたら…困ったわね …。 | |
岡部倫太郎 | な、なにが困るのだ…? |
牧瀬紅莉栖 | この世界にある、工業用部品の仕様と規格よ。 |
麻雀を主とした部品しか作られてなかったとしたら、「位相通信機(改)」の部品がない可能 性が高い。 | |
例えば――M2.0のA型ねじがないとか。 | |
たとえあったとしても、すでに淘汰されている可能性もある。 | |
これがどういう意味なのか、分かるはずでしょ。 | |
岡部倫太郎 | …… |
牧瀬紅莉栖 | 橋田がいない中で、私たちは「位相通信機(改)」の仕組みを分析し、ゼロから部品を作らな いといけない。 |
この状況を解決するのは、相当難しいわね…。 | |
3Dプリントを使えばいいんじゃない? | |
---|---|
岡部倫太郎&牧瀬紅莉栖 | 3Dプリント? |
一色清美 | そうだよ。すぐ近くに3Dプリントのお店があるの。設計図があれば、何でもプリントできるん だ! |
設計図が無くても、お店の人にどんなものかちゃんと伝えれば、プリントできるよ。 | |
ちょっと面倒だけどね、あと値段も高いし。 | |
牧瀬紅莉栖 | …… |
岡部倫太郎 | …… |
牧瀬紅莉栖 | 私たちの世界では最先端と言われる技術が、この世界では大衆レベルに普及しているってこと ? |
一色清美 | だって、自分好みにカスタマイズした立直棒とかで麻雀したくない? |
岡部倫太郎&牧瀬紅莉栖 | また……麻雀か…… |
SKIP |
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「異世界」から来た3人をここに置くことにした以上、天和市についても知っ てもらう必要がある。 今やるべきことは衣食住や交通に関する問題の解決と、その後の計画だ。 彼らと一緒に天和市を見て回ろう。 |
椎名まゆり | えっへへー、この世界でも「うーぱ」は可愛いなあ。 |
通りがかったゲーセンを軽く覗いたつもりだったが、彼女はすでにカプセルトイを両手に満足 げだった。 | |
あれは確か、新商品のアニメキャラの人形だ。 | |
卵のような楕円形に手足の生えた犬っぽい人形が、どうやら目玉の景品らしい。 | |
カプセルトイを手に入れるのに必要なコインは、「ハムレット」と名乗るアーケードゲームプ レイヤーからもらった。 | |
現在、岡部はこの「ハムレット」と格闘ゲームで激戦を繰り広げている。 | |
まあ、岡部が一方的にやられているようだが。 | |
牧瀬紅莉栖 | こんなにたくさんの麻雀ゲームがあるのね…… |
この街で麻雀を極めたら、一体何が手に入るの……? | |
選択肢 →権力? →富? →人気? |
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権力? | |
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牧瀬紅莉栖 | 嘘でしょ?麻雀だけで? |
トップの持つ権力は無限大だからね。 | |
牧瀬紅莉栖 | 本当なの? |
まさか、そう言われてるってだけだよ。 |
富? | |
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牧瀬紅莉栖 | 普通の雀士ってどれくらいの収入なの? |
食べていくのがやっとだよ。 | |
牧瀬紅莉栖 | トップは? |
何とも言えないかな。 |
人気? | |
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牧瀬紅莉栖 | 確かに、強さは人を魅了するだろうけど…… |
ここに来るまでに街中で見た広告は芸能人やアイドルのものばかりだったわ。 | |
麻雀が好き、麻雀が得意なのはプラスアルファってだけじゃない? | |
そう、かも? |
牧瀬紅莉栖 | でしょ。 |
麻雀を否定するつもりはないけど…… | |
ただ、おかしいわね…… | |
どうしてよりによって麻雀なの? | |
代わりはいくらでもあるじゃない。 | |
実際にやってみたら、わかることもあるんじゃない? | |
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牧瀬紅莉栖 | まぁ、確かにそうね。未知から理解、そして熟知に至る過程を経て、初めて体験したと言える のだから。 |
SKIP |
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すべての運命は、最初からクロトによって糸に紡がれている。 |
すべての運命は、最初からクロトによって糸に紡がれている。 | |
この糸は1人の人生を記録している――その始まりを、成長を 、出会いを、結末を。 | |
鮮明で、明確で、不変で、絶対で。 足掻こうが、全ては無為に終わる。 | |
岡部倫太郎 | 何故だ……何故俺がこんな目に…。 |
よりによってこの日、この瞬間、このタイミングで。 | |
ようやく清一色に進んだこの刹那で、なぜこの一見無難な幺九牌が―― | |
何の前触れもなく、まゆりの国士無双に振り込んで飛ばされてしまうという、取り返しのつか ないことになるのだ!? | |
椎名まゆり | えっへへー、今日のまゆしぃは運がいいのです! |
岡部倫太郎 | 運だと……?クッ、そんな言葉で片付けられてたまるか……! |
まさか、俺がまゆりに負ける日がくるとは…。 | |
牧瀬紅莉栖 | まゆり、すごいわね。 |
牌効率や守り方を勉強したつもりだったけど、3位止まりなんて…。これがいわゆる「ツイてな い」ということなのかしら…。 | |
一色清美 | 運ってホントにわからないよね。だって、倫太郎が出した九萬はラス牌だよ。 |
河だけ見たら、まゆりは七対子を作ってたかもしれないし、国士無双の可能性なんて本当に低 いんだから。 | |
岡部倫太郎 | おい、そこのオレンジ髪よ。これ以上、人の傷口に塩を塗るのはやめろ。 |
椎名まゆり | それよりオカリンオカリン。罰ゲームのこと、忘れてないよねー? |
岡部倫太郎 | ぐぬぬ…仕方ない。何が望みだ? |
椎名まゆり | まゆしぃはねー、すき焼きが食べたいのです! |
一色清美 | 私は焼き肉で! |
牧瀬紅莉栖 | ちょ、ちょっと…!キャプテンからもらった資金は、あの携帯を修理するためのものでしょ? 考えて使わないと…! |
キャプテンには、この場所や食事まで提供してもらってる。これ以上、迷惑はかけられない。 | |
一色清美 | 大丈夫だよ。この部屋は元々うちの理事長が放置してたのを、キャプテンが借りてるってだけ だからさ。 |
それに、位相通信機(改)の修復予算はまだ十分あるし、残りの分は―― | |
もちろん、お腹いっぱいになるために使うべきだよね! | |
牧瀬紅莉栖 | そ、そんな甘えちゃって、いいのかしら…。 |
一色清美 | 紅莉栖は何か食べたいものないの?倫太郎にまとめて買ってきてもらおうよ! |
岡部倫太郎 | 助手よ、せっかくこの世界に来たのだ。この世界を、天和市を満喫しなくてどうする…!? |
牧瀬紅莉栖 | じゃあ、抹茶プリンで。 |
岡部倫太郎 | この世界でもプリンを選ぶとは……。本当にお前はプリンが好きなのだな。 |
牧瀬紅莉栖 | い、いいでしょ別に。早く買ってきなさいよ! |
岡部倫太郎 | まったく……では、行ってくるか。 |
一色清美 | 案内してあげようか? |
岡部倫太郎 | フッ、オレンジ髪よ。俺はお前のような凡人とは違い、想像もつかないほど多くのことを経験 してきた。 |
高層ビルに巨大な人口衛星が突き刺さった時も、世界の支配構造を揺るがす事態が起きた時も 、俺は乗り越えてきたのだ。 | |
そう、この世界での買い物なぞ、俺には造作もないことだ。 | |
では、行ってくる。 | |
椎名まゆり | クリスちゃん、やっぱりオカリンって頼もしいねー。 |
牧瀬紅莉栖 | そう? 口だけじゃない? |
まあでも、こんな状況でもバカ岡部のままでいられるのは、ちょっと感心するかも。 | |
一色清美 | どんな時でも平常心を保てるのは特別な才能だよ、特に雀士にとってはね。 |
牧瀬紅莉栖 | そうかもしれないわね。 |
ところで、一色さんたちはプロ麻雀チームに所属してるのよね…?普段は何してるの? | |
一色清美 | 他のチームのことはわからないけど、雀ヶ丘の場合は普段から集まって訓練とか、牌譜の検討 とか?あとは試合に出て、終わったら振り返りをしたりとかかな。 |
今キャプテンが、オンラインでメンバーの訓練をしてるんじゃないかな。訓練の仕方もチーム 内で試合したり、ネットのランキングを競ったり、他所と親善試合したり色々だね。 | |
ここしばらくは大事な試合もないから、私はここでみんなを手伝ってほしいってキャプテンか ら頼まれたの。だから、心配しなくても大丈夫だよ! | |
牧瀬紅莉栖 | ありがとう、この世界で会えたのが一色さん達で本当に良かった。 |
一色清美 | それに、私も位相通信機(改)に興味があるんだ。みんながタイムトラベルするところを自分 の目で見てみたいの! |
牧瀬紅莉栖 | そうなの?ちょうど私も気になっていたのよ。 |
携帯を起動する前、私は岡部と橋田に設計図を見せてもらったの。 あの設計図では、タイムトラベルなんて起こるわけがない。そう思ってた……。 | |
でも、実際には、私たちはまったく別の世界に転移してきた。これがタイムトラベルなのかど うなのかは分からないけど……。 私は、あの携帯と、何か別の原因が組み合わさったことで転移が起きたんじゃないかと考えて る。 | |
一色清美 | 別の原因っていうと…… |
そういえば、みんなが来たあの夜はすごい嵐だったの。 | |
もし干渉装置が起動してなかったら、もっと長い時間部室に閉じ込められてたかもね。 | |
牧瀬紅莉栖 | 「干渉装置」? |
一色清美 | 正式名称は「ミッドガルト島全域気象干渉装置」だよ。天和市の政府が異常気象による大規模 災害を防ぐために、 |
世界中の優秀な科学者を集めて、二盃口エリアに建設したハイテクな施設なんだ。 | |
牧瀬紅莉栖 | ふむん、気象干渉のこと……? 似たような技術は、私たちの世界にも存在する。でも効果は非常に限られていて、特に異常気 象の場合では…… |
今言った「異常気象」って、具体的にはどういうもの? | |
一色清美 | よくあるのは台風とか津波かな。もし干渉装置がなかったら、天和市はとっくに水害でダメに なってるって話だよ。 |
牧瀬紅莉栖 | じゃあ、あなたたちはどう台風を定義するの? |
一色清美 | 確か、中心の風力が8以上で、風速だと秒速……えっと、秒速…… |
牧瀬紅莉栖 | 秒速約17メートル以上の熱帯低気圧。 |
一色清美 | そう!それだ! |
干渉装置は台風を分解させたり、進路をずらしたりして、天和市を脅威から守ってるんだ。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……信じられない。この世界の科学技術は、もうそんなレベルに達してるのね。 |
その装置の仕組みは?必要なエネルギー量は?エネルギーの供給源は何? | |
いや、直接見た方が手っ取り早いわね……。 | |
一色清美 | えっ?それは……多分無理じゃないかな。気軽に入れるような場所じゃないと思うし…… |
牧瀬紅莉栖 | そうなのね……。じゃあ、仕方ないわね。 |
今は目の前のことを優先しましょう。 | |
まずは、この壊れた位相通信機(改)を分解して、どこに問題があったのか調べてみる。 | |
一色清美 | 隣で見学しててもいい? |
牧瀬紅莉栖 | もちろんよ。 |
一色清美 | やった!じゃあさっそく始めよう! |
18:02 買い物 ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月11日 賭けに負けた以上、今は「罰ゲーム」に従うしかない。 急いでみんなの食べたいものを買って戻ろう。遅くなると 、位相通信機(改)の修復に間に合わない。 | |
岡部 | エル・プサイ・コングルゥ…… |
これは全人類の命運にも関わる。 |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
岡部 | 待ちくたびれたぞ。 | エル・プサイ・コングルゥ…… | 行く。 |
狂気のマッドサイエンティストとし ての本能が俺に告げている、まだや るべきことがあると。 | ふむ……すし、焼き肉、すき焼き、 イチゴケーキ…… | ||
行き止まり |
SKIP |
---|
賭けに負けた以上、今は「罰ゲーム」に従うしかない。 急いでみんなの食べたいものを買って戻ろう。遅くなると、位相通信機(改) の修復に間に合わない。 |
岡部倫太郎 | ふむ……すし、焼き肉、すき焼き、イチゴケーキ…… 待てよ、助手のプリンは……何味だった……? |
通りすがりの人 | 抹茶だよ。 |
岡部倫太郎 | そう、それだ!名前を聞くだけで舌が苦くなる奇怪なデザート、フィボナッチ海藻のような名 状しがたいものだ。 |
通りすがりの人 | 「フィボナッチ海藻」って? |
岡部倫太郎 | 3年前にマリアナ海溝で科学者に発見され、自らフルオレセインを合成することで光合成を行う 深海の藻類だ。 |
深海の環境から離れると、その藻類は灰のように分解してしまうため、未だに実物標本を採取 できていない。 | |
唯一撮れた写真では、その藻類は極めて奇妙な姿で浮かんでおり、中にはフィボナッチ数列が 含まれているそうだ。 | |
1度でもそれを見つめると、地獄の門に入り、悪魔に魂を捧げたような気分になるらしい。 | |
それに幻惑され、自害した人間もいた―― と言われている。 | |
通りすがりの人 | へー、そうなんだー。幻覚剤や毒ガスのいい材料になりそうだね。 |
岡部倫太郎 | 幻覚…… |
そう!その通りだ! | |
口の中に入ると、味蕾を刺激し、知覚を混乱させる螺旋型の化学物質が放出される。 | |
知覚が改ざんされ、初めは抵抗するが、やがて夢中になってやめられなくなってしまうのだ。 | |
抹茶プリン!そう、それはまさに悪魔の料理だ! | |
通りすがりの人 | でもさ、あれは有害じゃないと思うよ。昨日も店長の冷蔵庫から一つ盗み食いしたんだけど。 |
最初は苦かったんだけど、すぐに甘くなったからビックリしたよー。 | |
苦味の後に甘味が広がってくのって、抹茶プリンの良いとこだと思うんだ。あたしは結構好き だなー。 | |
岡部倫太郎 | また1人、機関の卑劣な手段によって堕ちてしまったか。その自覚もないままに、哀れな奴だ。 |
ところで…… | |
誰だ、お前? | |
通りすがりの人 | 今さら? |
岡部倫太郎 | 普通に話しかけられただけかと思っていたが、よく考えれば怪しいな。 |
なぜ俺が買うのが抹茶プリンだと知っている? | |
貴様、まさか…… | |
通りすがりの人 | まさか、なに? |
岡部倫太郎 | 俺たちの部屋に盗聴器を仕掛けたのか!?この卑怯者め!! |
通りすがりの人 | あー、えーっと、それは……君たちの声、外から聞こえて来ちゃってさ。ここの建物、古いか ら防音性ないんだよねー。 |
ってかさー、機関っていったいなんのこと? | |
岡部倫太郎 | ……機密事項だ。 |
フフン、こんなことを通りすがりの人間に話すわけがないだろう。俺が秘密を漏らす愚か者に 見えるか? | |
通りすがりの人 | ふーん。そっか。初めて会った人間に、そんなこと話せないもんね。 |
あたしはそこの金物屋で働いてるんだ。君、名前は? | |
岡部倫太郎 | 俺の名前……知りたいか?いや、やめておこう。教えればお前にも災いをもたらすかもしれな い。 |
これまですでに多くの人が、俺の名前を知ったことで「機関」に狙われた。アメリカのサラ、 イタリアのクラウディア、フランスのシモーヌ……もう誰かを危険な目に遭わせるわけにはい かない―― | |
牧瀬紅莉栖 | 岡部! |
二階の窓から頭を出してこちらを呼ぶ紅莉栖は、少し不機嫌な顔をしている。 | |
牧瀬紅莉栖 | いつまでそこで話してるつもり? |
こっちは携帯の分解作業で人手が足りないんだから、買い物済ませて早く手伝ってよね! | |
岡部倫太郎 | ぐぬぬ、助手の分際で俺に偉そうに指図しおって……。 |
紅莉栖は呆れたと言わんばかりの表情で、窓の向こうに消えていった。 | |
通りすがりの人 | 岡部っていうんだね。よろしく。それにしても君たち、なんかすごいことでもするの? |
岡部倫太郎 | そうだ。あれは人類の過去、現在と未来の歴史を変えるほどの重要な道具なのだ。 |
修理に成功した暁には、俺たちは文明の流れを完全に覆すだろう! | |
通りすがりの人 | えっと……現在と未来の歴史?それってどういう意味? |
岡部倫太郎 | 時間とは、より高次元の時空では読み取ることは勿論、干渉すらできるベクトルにすぎない。 |
4次元時空の生物にとって、未来は未知なるものに思えるが、実際にはとっくに決められている のだ。 | |
この道具の機能は本来、我々に―― | |
牧瀬紅莉栖 | おーかーべー! |
倫太郎の顔は青ざめ、思わず縮みあがった。 | |
岡部倫太郎 | お、おい!怖い顔をするな! では、さらばだ。 |
通りすがりの人 | 待って!まだ話が……! |
倫太郎は元の場所に帰っていった。 |
名前\状況 | 進行 |
---|---|
岡部 | すしを買った。 |
すき焼きを買った。焼き肉も近 くで買おう。 | |
焼き肉を買った。うん?ここっ て? | |
抹茶プリンを買った。 |
SKIP |
---|
賭けに負けた以上、今は「罰ゲーム」に従うしかない。 急いでみんなの食べたいものを買って戻ろう。遅くなると、位相通信機(改) の修復に間に合わない。 |
岡部倫太郎 | よし、これで全部だな。 |
帰ってあいつらの手伝いをしないと…。 | |
一色清美 | 倫太郎!!! |
岡部倫太郎 | うわぁ!? |
お前!いきなり呼ぶからビックリしただろうが……。 | |
というかお前、なぜここにいるのだ?あいつらと一緒に留守番していただろう? | |
まさか、お前もクリスティーナにこき使われているのか? 分かるぞ、あいつは助手のくせに人 使いが荒い…… | |
一色清美 | 倫太郎、聞いて!大事な話があるの! |
岡部倫太郎 | えっ?ああ…… |
一色清美 | その前に!私はあの場所にいる清美じゃなく、未来から…… |
位相通信機(熟成型)で、ここにタイムトラベルしたもう一人の清美だよ! | |
岡部倫太郎 | ………は? |
な、何をいってるんだ……?それに「熟成型」って……。 | |
一色清美 | そんなことはどうでもいいの!聞いて、未来で「遥かなる庭」の秘密警察が介入したせいで、 あなたたちとキャプテンが…… |
逮捕されちゃったの! | |
岡部倫太郎 | 逮捕だと…!?俺たちが一体なにをしたと言うんだ!? |
一色清美 | あなたと紅莉栖、そしてまゆりは、天和市の安全を脅かす禁制品の不法所持と不法入国罪。 |
キャプテンは天和市公共危険罪に関わる外国人の不法滞在幇助罪。 | |
岡部倫太郎 | まさか、そんなことが…。嘘は付いていないようだな。お前の顔を見れば分かるぞ。 |
一色清美 | よかった!やっぱり私の予想通り…… |
倫太郎ならきっと信じてくれると思ったよ。 | |
岡部倫太郎 | この件、他の誰かに話したか? |
一色清美 | 前の世界線では、まゆりに説明してみたんだけど、まゆりってば伝わってるんだか、伝わって ないんだか……って感じで。 |
「わあ!まゆしぃ分かったよ!清美ちゃんも機関に指名手配されたマッドサイエンティストな んだね!」 | |
「どうしようかな……そうだ!清美ちゃんはイチゴケーキ食べる?」 | |
――って話を流されちゃって。 | |
岡部倫太郎 | 前の世界線だと…!?お前、まさか【リーディング・シュタイナー】を使えるのか!? 俺以外にもこの能力を使える人間がいるとはな…。 |
時空メッセンジャー清美よ。教えてくれ、そんな状況でお前はどう対処した? | |
一色清美 | じ……時空…… いや、その変な称号は置いといて…… |
その後もどうにか説明を続けようとしたんだけど、なぜかその世界線の「私」も近くにいて… … | |
……そうだ!この世界線の「私」はあなたと一緒に買い物してないよね? | |
岡部倫太郎 | そうだ、俺の行動は機密事項だからな。あえて俺は勝負に負け、買い物を…… |
ところで、それを気にする理由は何だ? | |
一色清美 | 「予測不可能な矛盾結果」 |
実際、私が経験した3つの異なる世界線では、それぞれ違うことが起こっていたの。 | |
1回目、つまり私のいた元の世界線では、岡部が国士無双に振り込んで飛ばされたから、買い物 をさせられた。 | |
岡部倫太郎 | そうだ。言っておくが、俺はこの状況を作るために負けを選び……いや、なんでもない。 |
1回目ということは、他のパターンも見たのか? | |
一色清美 | 2回目は、買い物に行く人がまゆりになっていて、「私」も彼女と一緒にいた。 |
あの時は、なんで歴史が変わってたのかよく分からなかったし、状況が複雑になる前に、その 場から離れるしかなかった。 | |
岡部倫太郎 | ふむ、典型的なタイムパラドックスだな。もし、未来のお前が現在のお前を殺し…… |
もしくは、現在のお前が未来の情報を得ることで何かを変えたとしたら、過去と未来は矛盾す る。 | |
少なくともそのうちの1つは成立し得ない。「予測不可能な矛盾結果」、実に適切だ。 | |
素晴らしい推論だ!時空メッセンジャー一色清美、その慎重さと思慮深さ、感心したぞ! | |
一色清美 | あなたに会えば、きっと状況を理解してくれると思っていたのに、どうしてあの時はまゆりだ ったんだろう? |
誰が買い物に行くかは、あの時の麻雀の結果で決まる…… | |
岡部倫太郎 | そう、最終的な決定権は予測不可能な麻雀の神の手に委ねられている。これこそがシュタイン ズゲートの選択だ! |
一色清美 | 違う!そうじゃないわ! |
運命を決めたのは麻雀の神じゃなくて…… | |
倫太郎なの!!! | |
岡部倫太郎 | ……え?俺? |
一色清美 | 倫太郎、1つ確認させてほしいの。 |
あなたはまゆりの国士無双に振り込んだから、買い物に行かされたんだよね? | |
岡部倫太郎 | そうだ。だが、その状況はもうお前も知っているだろう? |
一色清美 | さっき私が言ってたのは、最初の世界線で経験したことだよ。 |
その世界線では、対局が終わった後にまゆりが麻雀牌を片付けてるときに、余分な牌があるの に偶然気付いたの。 | |
それが、九萬牌だった。 | |
岡部倫太郎 | ……つまりその余った九萬牌により、まゆりが国士無双を作ることができ、俺が最後で振り込 んだ要因になったと? |
一色清美 | そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも問題はそこじゃない、肝心なのはその 翌日、つまり明日の位相通信機(試作型)の実験で、 |
あなたは悔しさのあまり、「麻雀牌の数を確認することを忘れずに」と書いたメモを過去に送 ったの。 | |
実験の結果、メモは消えたけどそれだけだった。それだけだと思ったの――自分で過去に行くま ではね。 | |
岡部倫太郎 | そのメモによって麻雀牌の数を余ることなく確認し、俺は他の牌を捨てた。まゆりは国士無双 を作れず、4位になった…… |
つまり歴史が変わった。お前のいう位相通信機「試作型」の実験で、俺たちは「過去」を変え たというのか? | |
一色清美 | そう、その通り! 倫太郎、やっぱり分かってくれた! |
岡部倫太郎 | だが、その説明だと歴史は変わってるはずだ。なぜ、今回もまゆりは国士無双を作ることが出 来たのだ? |
一色清美 | 今回は私のせいなの。 |
そもそも、ここまでの話は私の推理でしかなかった。 | |
まゆりとの接触に失敗した後、私は仮説を検証するために、翌日その世界線の「私」をどうに か離れさせて、 | |
位相通信機(試作型)の実験に混じって、前回のメモの代わりに九萬牌を送ったの。 | |
その結果は、今のあなたならもう知ってるはず。 | |
岡部倫太郎 | なるほど。それで今回もまゆりは国士無双を作り、俺は買い物に出た…ということか。恐らく 、最初の状態に戻ったのだな。 |
一色清美 | そうみたいだね。この世界線で起きてることは、私が経験した最初の世界線のそれと大体同じ だと思う。 |
いや……どうだろう。あの時のあなたは、今みたいに別の世界線の一色清美に会ったのかな? | |
この世界線……本当に私が最初に経験したあの世界線と同じなのかな? | |
もしかしたら、私自身が「違い」なのかも…… | |
岡部倫太郎 | なるほど……息もつかせぬ表現、隙のない論証、答えのない疑問。清美…… |
認めよう、今はお前の方が強い。 | |
一色清美 | ……なんで強さの話になるの? |
岡部倫太郎 | ああ、つまり俺の負けだと言っている。今回の設定に関してはお前の勝ちということだ。 |
実にいいシナリオと言うべきか。だが清美よ、その中にはまだ1つ、致命的な破綻があるのだ。 | |
一色清美 | 「破綻」……? |
岡部倫太郎 | まだ気づかないのか、清美。お前のストーリーでは、最初から余った1枚の九萬牌が存在してい る。 |
もしその牌が元々その時空にあったとしたら、捨てられてもその時空に存在しているはずだ。 | |
だがその後、お前は同じ九萬牌を過去に送り返したと主張した。それであれば―― | |
少なくとも一時期、この宇宙では存在しないはずの九萬牌が理由もなく1枚余ったことになる! | |
――致命的な破綻だな、清美よ。 | |
一色清美 | ………… ………… |
岡部倫太郎 | だが気にするな。宇宙の進歩は元々、あらゆる間違いが積み重なり、結び付いた結果だからな 。 |
時空メッセンジャー清美よ、その警告、確かに受け取った! | |
この先どのような対価を払おうとも、全力を尽くし悲劇的な結末を食い止めよう―― | |
そう、それがシュタインズゲートの選択だ。 | |
エル・プサイ・コングルゥ…… | |
一色清美 | ………… ………… |
理解……してくれなかったみたいだね。 | |
でも、 倫太郎の言う通りだ。 | |
もし私が経験したすべてが、妄想や夢じゃないのなら、 | |
一番初めの、どこの時空にも存在しないはずの九萬牌は、 | |
一体……どこから来たの? |
SKIP |
---|
秋葉原への帰還を目指し、「オペレーション・ビフレスト」を開始する! |
岡部倫太郎 | 今帰ったぞ。 |
ほら、頼まれたものだ。 | |
椎名まゆり | オカリン、おかえりー!えっへへー、ありがとうね。 |
一色清美 | お!おかえり〜!焼き肉焼き肉! |
(回想) | |
---|---|
一色清美 | その前に!私はラボにいる清美じゃなく、未来から…… |
(回想ここまで) | |
岡部倫太郎 | …… |
……? | |
清美、さっきまで外にいなかったか? | |
一色清美 | えっ?ううん。ずっと位相通信機(改)を研究してたよ。 |
どうしたの? | |
岡部倫太郎 | そうか……、そうだよな。 |
進捗はどうだ?何か分かったか? | |
牧瀬紅莉栖 | 岡部と橋田に設計図は見せてもらってたから、分解したら故障個所はすぐに分かった。機械自 体の構造は単純だったしね。 |
材料も清美に確認してもらったけど、ほとんどは下の金物屋で揃えられる。 | |
残りは3Dプリントで作れるみたい。この世界では古くて売ってない部品らしいけど、資料をも とに作れば揃えられられるんだって。 | |
さっき注文したから、明日には部品が全部揃う。 | |
本当に便利よね。 | |
岡部倫太郎 | でも、動作原理の方は…… |
牧瀬紅莉栖 | 私の推測が正しければ、恐らく元の世界に戻れる。携帯さえ、起動できればね…。 |
岡部倫太郎 | そ……そうか…… |
牧瀬紅莉栖 | ……? |
岡部、何かあった? | |
何だか落ち着かない顔してるけど? | |
岡部倫太郎 | あっ……いや…… |
考え事をしていただけだ、気にするな……。 | |
では明日、材料が届いたら携帯の修理作業を行うとしよう。 | |
今日はここまでだ。 | |
三人 | ……? |
気象予報士 | 現在、エルムズレイ彗星の接近により、彗星と太陽が形成する誘導電場が強まり続けています 。 |
天和市内の一部地域では通信に影響が出る可能性がありますので、ご注意ください。 | |
また、昨日起動した全域気象干渉装置の影響により、大気中には未だ荷電粒子が残留していま す。 | |
これにより、先のエルムズレイ彗星の影響と合わせて、今後3、4日ほど、ミッドガルト島上空 でオーロラが観測される可能性があるとのことです…… | |
一色清美 | まさか天和市でオーロラを見れる日が来るなんて!もっと寒いところじゃないと見れないと思 ってたのに。 |
牧瀬紅莉栖 | 彗星と気象干渉装置によるオーロラ現象?この世界では、こんな不思議な現象も起こるのね… … |
一色清美 | 紅莉栖もそう思うんだ? |
牧瀬紅莉栖 | 私たちの世界では、ありえない現象よ。 |
オーロラは、太陽から発せられる高エネルギーの荷電粒子群と、地球上層大気の分子との相互 作用による発光現象によって起こるの。 | |
惑星の磁場構造の特性によって、この現象は通常、磁力線が下向きに収束する極圏付近や、中 高緯度の地域でしか発生しない。 | |
それ以外の場所でのオーロラなんて、惑星全体の正常な機能に影響し得るほどの異常現象なの よ。 | |
ましてやここで発生したオーロラは――想像を遥かに超えた人工装置によって引き起こされたよ うなもの、まさに―― | |
…… | |
一色清美 | どうしたの? |
牧瀬紅莉栖 | 彗星、気象干渉、強電磁場…… |
もしかして、これが位相通信機が機能するもうひとつの条件?だとしたら…… | |
岡部! | |
岡部倫太郎 | 強電磁場か、確かにそれなら可能性はある……。 |
一色清美 | あれ?いつもみたいな言い回しはしないんだ? |
昨日帰ってきて、九萬牌が余ってたのを知ってから、倫太郎ってばずっと変な感じだよね。 | |
牧瀬紅莉栖 | そうね。いつもの鳳凰院がどこか行っちゃったみたい。 |
あんたまさか……、まだ昨日の負けを引きずってるの?せっかくまゆりが今日の買い物を引 き受けてくれたのに……。 | |
岡部倫太郎 | だから言っただろう。俺は別にそのせいでは…… |
あっ、いや、そうだったな。 | |
クリスティーナよ、もう一度確認させてくれ。 | |
昨日、俺が買い物に出かけた後、清美は確かにお前と一緒にいた。清美は一歩も外に出ていな い。そうだよな? | |
紅莉栖はもうウンザリと言わんばかりの表情で、言葉を返す気すら起きないらしい。 | |
牧瀬紅莉栖 | ええ、そうよ。何度言わせるつもりだ、まったく。……話を戻すわよ。 まず、私の推測だけど、私たちがタイムトラベルした原因は、恐らく位相通信機からの信号が |
ここで偶然発生した複雑な電磁現象と予想外の反応を起こしたことよ。 | |
岡部倫太郎 | ふむ……まるでバミューダトライアングルの失踪事件や、雷に打たれてタイムトラベルをした 戦闘機の話のように神秘的な説だな。 |
牧瀬紅莉栖 | そんな話は1ミリも信じてないけど、今はその可能性を否定できない。そして実験してる時間も ない。試してみるしかない。 |
彗星は藍星の付近に長くは留まらない。気象干渉装置によって大気中に残された荷電粒子もそ のうち無くなる。 | |
再現不可能な条件が発生してるうちに、位相通信機を再起動して実験しないと。でないと…… | |
岡部倫太郎 | 俺たちはもう二度と、あの場所に帰れない……秋葉原に戻れないかもしれない。 |
助手の言うとおりだな…。これ以上、時間を無駄には出来ん。 | |
これより、秋葉原への帰還を目指し、「オペレーション・ビフレスト」を開始する! | |
牧瀬紅莉栖 | 作戦名とか考えちゃう男の人って……。 |
まあいい。準備は出来たし、実験はいつでも始められる。 | |
岡部倫太郎 | では位相通信機(改)をここに! |
一色清美 | 細かいこと言えば、その(改)とはもう別物だよ。新しい部品で組み立て直したんだからね。 |
だから新しい名前を付けないと! | |
岡部倫太郎 | な……名前だと? まさか、「熟」…… |
牧瀬紅莉栖 | 名前なんてどうでもいいでしょ…。「試作型」とでもしておけば? |
一色清美 | 賛成! |
岡部倫太郎 | ……!そうなると、これは「位相通信機(試作型)」ということか? |
一色清美 | 私たち3人で力を合わせた、努力の結晶だね! |
さっそく起動してみようよ! | |
岡部倫太郎 | えっ?ああ、そうだな。起動は…… |
……………… | |
……む? | |
牧瀬紅莉栖 | どうしたの? |
岡部倫太郎 | 反応がない。起動しないぞ…… |
牧瀬紅莉栖 | 変ね…。どこか間違えたのかしら…。 |
一色清美 | うーん……さっきの基板、紅莉栖は3本目のケーブルに接続してたよね? |
牧瀬紅莉栖 | え……?いえ、私は確か、2本目のケーブルを接続したと思うんだけど…… |
一色清美 | もう一度分解して確認してみようよ。 どうせそんなに時間はかからないし。 |
牧瀬紅莉栖 | そうね、とりあえずもう一度分解しましょう。 |
岡部倫太郎 | 3本目だ…… |
牧瀬紅莉栖 | 3本目だ…… |
一色清美 | どう見ても3本目だね。 |
牧瀬紅莉栖 | ごめんなさい、私が間違えてたみたい。一晩中修理してたから、記憶が曖昧になってたのかも しれない…。 |
でも、一色さんも私が修理してる間、休んでなかったわよね…?よく覚えてたわね。 | |
一色清美 | 予想が当たってたってだけだよ。問題も特定できたし、2本目のケーブルに交換して、もう一度 試してみよう。 |
うん!これで多分大丈夫! 倫太郎、もう一度試してみよう! | |
岡部倫太郎 | おお! 画面が光ったぞ! |
一色清美 | やった! |
牧瀬紅莉栖 | 一色さん、あなた科学研究に携わろうって考えたことはない? |
一色清美 | えっ?別に考えたことないけど…… どうしたの急に? |
牧瀬紅莉栖 | 私たちが話した様々な理論や設計を、あなたはすぐに理解してた。才能があると思うの。 |
今も一色さんのおかげで、原因をすぐ見つけることが出来た。 | |
系統的に理論を研究すれば、近い将来、あなたは本物の科学者になれるんじゃないかと思って 。 | |
一色清美 | そうなんだ…… |
そんなこと言われたの初めてだよ。ちょっとびっくりしたけど、ありがとう! | |
でも今は、全身全霊を麻雀にかけて、立派な雀士になりたいんだ! | |
キャプテンの期待に応えるためにもね! | |
牧瀬紅莉栖 | そうよね、残念だけど仕方ないわ……。それにしても、二人は仲が良いのね。 |
っていうか岡部、あんた、やけに顔色が悪いけど…… | |
大丈夫……? | |
岡部倫太郎 | えっ?いや……な、なんでも…… |
なあ、これって…… | |
……! | |
音声通話要請が届いています... | |
一色清美 | あっ、ごめん!ちょっと電話に出るね! |
通話中 | |
一色清美 | もしもし?凪ちゃん?急に電話なんてどうし―― |
東方凪 | バカ清美!!! |
バカ!!! | |
一色清美 | えっ……え!? |
東方凪 | もう20分も会場で待ってるよ! |
――今どこにいるの!? |
18:02 凪ちゃんと合流する ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月12日 何の約束かはわからないけど、凪ちゃんはずっと待ってい るみたい。 早くあっちに行かないと……凪ちゃんを怒らせたら後が怖 いし……もう怒ってるけど。 | |
清美 | 凪ちゃんめっちゃ怒ってたし…… |
ふぅ……ふぅ…… |
名前\状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
清美 | 何が起こったのか分からないけ ど、とにかく凪ちゃんのところ に行こう。 | ||
選択 | 待機 | 移動 | |
一体どういうことなの…… | 急がなきゃ……凪ちゃんが待ってる …… | …… | |
一体どういうことなの…… | ふぅ……ふぅ…… |
SKIP |
---|
ミネルバ高校公開展示会? でも―― |
一色清美 | ミネルバ高校公開展示会? ええ?でも―― |
あっ! 切れちゃった…… | |
牧瀬紅莉栖 | 一色さん?どうしたの……? |
一色清美 | よくわかんない、でも凪ちゃんめっちゃ怒ってたし…… |
二人とも、ごめん!一旦凪ちゃんのところへ行くね! | |
岡部倫太郎 | だが、実験はどうする? |
一色清美 | 時間がないんだし、私のことはいいから! 戻ったら、どうなったか教えてね! |
椎名まゆり | あれ、清美ちゃん?そんなに急いで、どうしたのー? |
一色清美 | うわぁ!ぶつかるところだった! |
まゆりと……掃除のおばさんだ。 | |
ドラドラ | 偶然だね。下でこのお嬢ちゃんに会って、ノックしようとしたら、ちょうどドアが開くところ だったのさ。 |
清美ちゃん、そんなに急いでどこに行くんだい? | |
一色清美 | えっと……ちょっと私もよくわかってなくて、とにかく急いでるの。 |
中に入るなら、どうぞ!それじゃ! | |
椎名まゆり | 清美ちゃん、どうしたんだろう……? |
ドラドラ | まったく、お嬢ちゃんは元気だね! |
牧瀬紅莉栖 | 仕方ない、このまま始めましょう。 |
岡部倫太郎 | いや、待てクリスティーナ…… |
(回想) | |
---|---|
一色清美 | 今回は私のせいなの。 |
そもそも、ここまでの話は私の推理でしかなかった。 | |
まゆりとの接触に失敗した後、私は仮説を検証するために、翌日その世界線の「私」をどうに か離れさせて、 | |
位相通信機(試作型)の実験に混じって、前回のメモの代わりに九萬牌を送ったの。 | |
(回想ここまで) | |
岡部倫太郎 | 実験はいったん中止した方がいい。清美の帰りを待って、再開しよう。あいつならすぐ戻って くるはずだ。 |
椎名まゆり | でも、清美ちゃん。タクシーでどこかいったみたいだったよ? |
まゆりは窓の前に立ち、下の通りを見下ろした。 | |
椎名まゆり | すごく遠いところに向かったんじゃないかなあ? |
岡部倫太郎 | …………。 |
牧瀬紅莉栖 | 一色さんが、進めていていいって言ったんだから。それとも中止する理由がなにかあるの? |
いや……。分かった。始めよう。 |
名前\状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
清美 | 急がなきゃ……凪ちゃんが待っ てる…… |
SKIP |
---|
最初はこれくらいの変化を起こすぐらいがちょうどいいわ。歴史を変える行為 なんだし、結果がどうなるかなんて予測できないから。 |
牧瀬紅莉栖 | 実験の計画を説明するわよ。まず過去の特定の時空間に小さな物体を送る。 そして、それが現在の時空に与える状況を観察するの。 |
異なる時空間に対応する時空節点は、計算して表にしておいた。 | |
今の問題は、過去のどの時点に、何を送るか…… | |
椎名まゆり | クリスちゃん、天ぷらを送るのはどうかなあ?まゆしぃ実はね、昨日は天ぷらが食べたかった んだー。 |
岡部倫太郎 | まゆりよ、もし実験が失敗したら…… |
今日のお前にも影響を受ける可能性があるのだ。 | |
椎名まゆり | そしたら、天ぷらは消えちゃうのかなあ……? |
岡部倫太郎 | 可能性は大いにある……だから、よく考えて決めるのだ。 |
ドラドラ | 君たち、食べ物を粗末にするんじゃないよ! |
岡部倫太郎 | フクロウの言う通りだ。何を送るか、慎重に考えなければ…。 |
(それにしても、時空メッセンジャー清美はまだ来ないのか……) | |
牧瀬紅莉栖 | そうね……。じゃあ、メモを送るのはどうかしら?例えば、「岡部へ。天ぷら買ってきて」と か。 |
岡部倫太郎 | …………。 |
牧瀬紅莉栖 | 最初はこれくらいの変化を起こすぐらいがちょうどいいわ。歴史を変える行為なんだし、結果 がどうなるかなんて予測できないから。 |
「すき焼きをもっと買ってきて!」と伝えても、あまり意味はなさそうだし。 | |
紅莉栖はそう言いながら、ノートを1ページ破り取って、メモを書いた。 | |
書き終えたら、通信機の対象をこの紙に指定して、そして―― | |
岡部倫太郎 | 待て! 待ってくれ! |
牧瀬紅莉栖 | えっ……どうしたのよ? |
岡部倫太郎 | べ……別の考えがある! |
状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
行き止まり |
SKIP |
---|
「麻雀牌の数が正しいかどうか確認することを忘れずに」 |
岡部倫太郎 | べ……別の考えがある! |
牧瀬紅莉栖 | なに? |
岡部倫太郎 | その……えっと…… 昨日の麻雀で、確か1枚牌が余っただろう? |
牧瀬紅莉栖 | ……そのことを、メモであの時の私たちに伝えるっていうこと? |
そうね。悪くないと思う。もし岡部が天ぷらを何かの理由で買ってこなかったら、結果を検証 出来ないし。 | |
その場合、私たちがゲームを始める前にメモを確認する可能性が高くなる。となると、勝敗に も変化が…? | |
岡部倫太郎 | 恐らくな…… |
椎名まゆり | そっかあ。そしたらまゆしぃは国士無双を上がれなくなるかもしれないんだね……。ちょっと だけ残念だなー。 |
牧瀬紅莉栖 | まゆりには申し訳ないけど、そのメモを送って歴史がどう変わるのか、知りたいわね。 |
紅莉栖はまた1ページ破り取ると、さらさらとメモを書いた。 | |
牧瀬紅莉栖 | 「麻雀牌の数が正しいかどうか確認することを忘れずに」 これでどう? |
よし、位相通信機(試作型)の各パラメータも正しく設定されてる。今からさっそく―― | |
岡部倫太郎 | (ごくり) |
(時空メッセンジャー清美……一体どこに行ったんだ!?) | |
椎名まゆり | 歴史が変わっちゃうかもしれないんだね……じゃあね、まゆしぃの国士無双。 |
牧瀬紅莉栖 | 第1回、位相通信機(試作型)実験―― |
開始! | |
静寂の中、紅莉栖は手にした装置のボタンを押した。 | |
転送対象に指定されたメモは、目の前でねじれると、幻のように消えていった。 | |
牧瀬紅莉栖 | メモが消えた!?ということは…… |
岡部倫太郎 | 成功したのか? 何か変わったか!? |
岡部倫太郎&牧瀬紅莉栖 | まゆり! |
椎名まゆり | え? |
岡部倫太郎 | 国士無双だ。お前は昨日…… 国士無双をあがったか? |
牧瀬紅莉栖 | まゆり、昨日の結果を思い出してみて。もし実験がうまくいってたら、昨日は…… |
椎名まゆり | 昨日って……? |
オカリン、クリスちゃん。まゆしぃは昨日―― | |
国士無双をあがったの……? |
SKIP |
---|
いきなりバスが止まったり、道路が封鎖されてたり…… 一体どういうことなの…… |
一色清美 | ふぅ……ふぅ……疲れたあ…… |
いきなりバスが止まったり、道路が封鎖されてたり…… | |
一体どういうことなの…… | |
あれ?ここって……「ミネルバ高校公開展示会」? | |
東方凪 | ……やっと来たわね。 |
私がどれだけ待たされたかわかる? | |
まったく…… | |
とにかく、中に入って…… | |
一色清美 | …… |
で、でも…… | |
見学の申し込みとかしてないのに…… | |
東方凪 | は?清美、あなたふざけているの? |
一色清美 | だから、こんなイベントがあるなんて全然知らなかったの。凪ちゃんが急に呼び出すから―― |
東方凪 | もう!清美のバカ!! |
一色清美 | えっ……ちょっと、凪ちゃん…… |
…… | |
何なの、もう。わけがわからないよ…… |
SKIP |
---|
逮捕……?私たち悪いことなんてなにも…。 |
ぶ厚い雷雲が天和市の上空を覆い、激しく雨が降り続いている。まだ午前中にもかかわらず、 空は夕暮れ時のように暗かった。 | |
通話中 | |
一色清美 | だから言ってるじゃん。電話で誘ったりもしてないし、そもそも展示会のことも知らなかった の。 |
参加するにも、1ヶ月前には学校に申し込む必要があるのに、私は―― | |
東方凪 | もういい。清美、私をバカにしているのね。 |
その冗談、面白いとでも思ってるの?私が約束を守るために他の約束を断ったのも、どうでも いいってわけ? | |
ここでバカみたいに1時間待ってたのは、私がただ暇だったからだとでも思ってるの!? | |
この大バカ!!! | |
一色清美 | 凪ちゃん、お願い話を聞いて―― |
………… ………… | |
椎名まゆり | 凪ちゃん、昨日のこと怒ってるみたいだね……。 |
でもね、まゆしぃは思うのです。きっと二人の間で、何か誤解があるんじゃないかって。 | |
一色清美 | さあ……凪ちゃんは私の方から電話で誘ったって言うんだよ。スマホに履歴も残ってるんだっ て。 |
でも、そんなのまったく身に覚えがないし、私の話は全然聞いてくれないし! | |
牧瀬紅莉栖 | もしくは、東方さんが意図的に理不尽なことを言ってるとか。 |
一色清美 | 普段はそんなことないの、すっごく可愛いんだから!きっと何か誤解があるはず…… |
岡部倫太郎 | いや、これは清美の問題だ。 |
一色清美 | えっ? どうして!? |
岡部倫太郎 | あっ……いや、お前のことではない…… つまりだな、女性というものには、そう、思いやりが必要だということだ! |
一色清美 | そっか…… |
牧瀬紅莉栖 | あんたがそんなことを言うなんて……。岡部にも女性を思いやる心があったのね。 |
椎名まゆり | えっへへー。まゆしぃは知ってるよ。オカリンがとっても優しい紳士さんだって。 |
岡部倫太郎 | う……いや……ええと……つまりだな…… |
一色清美 | いいのいいの、この件が終わったらまた凪ちゃんに確認してみるよ。何か誤解があるなら、ち ゃんと話をすれば大丈夫。 |
今は、位相通信機の方がずっと大事だよ。ほらみんな、こんなことしてたらまた一日過ぎちゃ うよ! | |
岡部倫太郎 | そ……そうだな!よし、昨日の結果をおさらいしよう。位相通信機(試作型)の第1回実験の結 果だが、まゆり、改めて聞かせてくれ。 |
椎名まゆり | えっとね、まゆしぃの記憶の中では、国士無双は消えてないよ。 |
牧瀬紅莉栖 | 人間の記憶は、他の影響を受けやすく、不確定要素も多すぎる。 |
結果を写真に撮って、形に残すべきだったわね……。 | |
岡部倫太郎 | (だが、時空メッセンジャー清美の話によれば、今回の実験は成功したはずだ) |
(今は変わっていなくても、過去はすでに変わっていた。その結果が影響しているのは、別の 時空だ) | |
別の時空…… | |
牧瀬紅莉栖 | 岡部、今なんかいった? |
岡部倫太郎 | 助手よ。位相通信機はただ時を遡る道具ではない。 |
その根本的な機能は、指定対象の時空座標を変更することだ。つまり、あのメモは過去ではな く…… | |
牧瀬紅莉栖 | 「別の時空」に送られた……? |
岡部倫太郎 | そう、これは俺たちが知っている仮説と異なる状況だ。 現時点で、別の時空で起こったことはすでに変わった。だがそれを検証する方法はただ1つ…… |
牧瀬紅莉栖 | 実験者自らが目標時空に赴き、現地で観測する……。それしかない……。 |
いくらなんでも危険すぎる。時空を移動したら、この場所に戻ってこれる保証もないのよ? | |
椎名まゆり | オカリンがいなくなっちゃうくらいなら、まゆしぃはみんなとこのまま天和市で暮らした方が いいな……。 |
牧瀬紅莉栖 | 私もまゆりの意見に同意する。 |
実験結果の保証もなにもないのに、時空を移動するなんて…… | |
岡部倫太郎 | だが、もう後戻りはできない。 |
(回想) | |
---|---|
一色清美 | そんなことはどうでもいいの!聞いて、未来で「遥かなる庭」の秘密警察が介入したせいで、 あなたたちとキャプテンが…… |
逮捕されちゃったの! | |
(回想ここまで) | |
岡部倫太郎 | これから起こるより深刻な事態に比べれば、そんなリスクは取るに足らない! |
牧瀬紅莉栖 | なにをそんなに焦ってるのよ? |
岡部倫太郎 | イヤな予感がする……としか言えない。 |
牧瀬紅莉栖 | そんな漠然とした理由だけじゃ、あんたの意見を採用するわけにはいかない |
一色清美 | まあまあ、まずは位相通信機(試作型)を直すのが先だろう? |
牧瀬紅莉栖 | ……昨日の実験の後、位相通信機(試作型)は触覚フィードバックを失った。 |
恐らく電気の過負荷で基板が焼損した。これ自体は新しい基盤に交換するだけで済むけど…… | |
でも、それ以外に原因があったとしたら… | |
一色清美 | 念のため、もっといっぱいテストをして調整しないとだね。 |
じゃあ、さっそく―― | |
椎名まゆり | もしかして、キャプテンが来てくれたのかなー? |
一色清美 | いや、このノックの音は、キャプテンや……ドラドラとも違うような。 |
――誰だろう? | |
岡部倫太郎 | ……! |
倫太郎は素早く動くと、麻雀卓の上にかかっていた防塵カバーを手に取り、位相通信機と部品 に覆い被せた。 | |
一色清美 | あっ……はい!今開けます! |
4人は目配せすると、清美が前に出て、部室のドアを開けた。 | |
鍵が開いた瞬間、背の高い黒ずくめの人影がドアと清美を突き飛ばすようにして 部屋の中になだれ込んできた。 | |
一色清美 | うわぁ! |
待って、あなたたち誰なの?なんのつもり!? | |
黒ずくめの男A | 一色清美、岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖、椎名まゆり……全員いるな。 |
お前たちを逮捕する。 | |
一色清美 | ……えっ? |
岡部倫太郎 | ……! |
牧瀬紅莉栖 | 逮捕……?私たち悪いことなんてなにも…。 |
黒ずくめの男A | 令状ならここにある。 |
理由は――天和市の安全に重大な危険を及ぼす可能性のある禁制品の不法所持。 | |
牧瀬紅莉栖 | 禁制品って…… |
黒ずくめの男B | あったぞ、これだ。 |
部屋の中にいる全員の視線がその手の中にあるものに注がれた―― | |
岡部倫太郎 | やはり……位相通信機か! |
くそ……、これではあいつの言った通りではないか……! 時空メッセンジャー清美が言っていた事と……! | |
黒ずくめの男A | 回収しろ、大事な物証だ。 |
牧瀬紅莉栖 | 待って!それは… |
男が懐から拳銃を取り出し、紅莉栖に突き付けられる。彼女はそれ以上言葉を紡ぐことができ なかった。 | |
黒ずくめの男A | 大人しくしていろ。我々には発砲許可が出ている。 |
全員連れ―― | |
……なっ? | |
突然、男が俯く。胸に手を当てると、黒がより濃くなったコート越しに、その手のひらが赤く 染まった。 | |
??? | ふう…… |
黒ずくめの男B | しゅ、襲撃だ! 全員身を隠せ!! |
??? | 君たち、早く逃げて! |
チッ! | |
岡部倫太郎 | じゅ、銃撃戦!?なぜだ……清美はこんなこと言わなかったぞ!! |
待て!清美!? | |
一色清美 | 倫太郎!こっちだよ! |
気をつけて、みんな―― | |
………… …………? | |
岡部倫太郎 | 清美……? |
清美の胸元で花が咲いた。ゾッとするほど赤く、不気味でありながらも美しいそれは、段々と 大きくなっていく。 | |
椎名まゆり | 清美……ちゃん? |
牧瀬紅莉栖 | 一色さん……? |
岡部倫太郎 | 撃た……れた? |
清美の身体から広がり続ける血だまりは、やがて倫太郎の足元まで辿り着いた。 | |
彼が覗き込んだそこには、どうしようもなく深い赤と、それを見ていることしか出来ない自分 が映っていた。 | |
岡部倫太郎 | 死ん……だ?清…美…? |
??? | 清美……! |
しっかりして、岡部倫太郎! | |
岡部倫太郎 | ……? |
閃光弾が部屋の中央に放り投げられた。 | |
瞬間、部屋は眩い閃光に包まれ、鼓膜に刺さるような炸裂音が響き渡る。その最中、倫太郎は 誰かに腕を引かれ、そのまま押し出された。 | |
何も見えない中、手がドア枠に触れているのに気が付く。どうやら部屋の入口の方へ突き飛ば されたらしい。 | |
??? | 行って!早く!! |
岡部倫太郎 | えっ?あ……行くって? |
??? | 行って!ここから逃げて!!! |
一喝に身震いし、倫太郎の身体が動き出す。慌てて振り返り、階段の方へふらつきながら走り 出した。 |
18:02 早く逃げろ! ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月13日 逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃 げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げ ろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ… …逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ…… 逃げろ…… | |
岡部 | ど……どこに逃げればいいんだ……。 |
仲間を見捨てることは出来ない……。 |
名前\状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
岡部 | 早く逃げろ! | ||
選択 | 待機 | 移動 | |
早く逃げろ! | 逃げろ……逃げろ…… | ど、どこに逃げればいいんだ…… 。 | |
はぁ……はぁ…… | 逃げろ…… | ||
進行 | |||
岡部 | 前が塞がっている……! | ||
行き止まり | |||
岡部 | ここにも人が……! |
SKIP |
---|
逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ…… 逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ…… 逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ…… 逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ……逃げろ…… |
岡部倫太郎 | はぁ……はぁ…… |
ど……どこに逃げればいいんだ……。 | |
あいつらを捨てて、俺はどこに逃げるつもりだ……? | |
いや、ダメだ。仲間を見捨てることは出来ない……。 | |
やはり俺は戻らないと……! | |
そうだ、位相通信機……!あれを手に入れれば、時空メッセンジャーの清美みたいに…… | |
一色清美 | 私みたいに過去をやり直せると、そう思ってるの?倫太郎? |
岡部倫太郎 | ……清美?お前、なぜ……? いや、違う。お前は―― |
黒ずくめの男C | いたぞ!あそこだ!! |
黒ずくめの男D | 動くな!さもなくば撃つぞ!! |
岡部倫太郎 | き、きたぞ……!清美……どうする!? |
一色清美 | 倫太郎!私の手を握って! |
岡部倫太郎 | な、なに!? |
一色清美 | 早く!私の手を握るの!! |
岡部倫太郎 | 清美、何をするつもりだ!? |
一色清美 | 目を閉じて!!! |
岡部倫太郎 | ええ?あっ!!! |
岡部倫太郎 | あああああああああっ!!! |
はぁ……はぁ…… ここは…… | |
清美、ここは…… | |
一色清美 | 私の予想が正しければ、ここはB-2の世界線、キャプテンの部屋のはず。 |
つまり私たちは無事にタイムトラベル出来たってこと。 倫太郎、ようこそ―― | |
天和35年4月11日の天和市へ。 |
SKIP |
---|
バッドエンドを回避するための「選択肢」が、「ゲーム」の外側にあるとした ら、どうしようもないじゃない? |
一色清美 | 倫太郎、見ての通り、 タイムトラベルするたびに歴史が変わるの。 |
鈴羽と秘密警察の銃撃戦も、私が撃たれて……その、倒れることも、今までにはなかったこと 。 | |
分かりやすいように、アルファベットと数字で世界線を区別してるの。私たちが今いるこの世 界線はB-2ね。 | |
なんでB-2かっていうと、私が「2回目」に経験する「まゆりが国士無双を作らなかった」世界 線だから。 | |
今はあなたたちが天和市に来て2日目、時間は午前9時、まゆりが買い物に出かけるまではあと3 0分。 | |
岡部倫太郎 | 待て。それではまゆりが国士無双を作るかなんて、分からないだろう? |
一色清美 | そうだね。さっきのB-2はあくまで私の推測。もし間違っていればC-23ってことになるね。 |
呼び方は大した問題じゃないよ、こんなのは……ただの記号なんだから。 | |
岡部倫太郎 | いや、重要だ……。バタフライ効果のように、ささいな変化でも歴史に大きな影響を与えるか もしれん。 |
変化に対し、起こった現実を観測する。その上で解決方法を探るべきじゃないのか? | |
一色清美 | 違うよ、倫太郎。確かにあなたの言う通り、ささいな変化が大きな事件に繋がる。 |
私、これまで何度もタイムトラベルしてきたけど…… | |
もし……もしさ、バッドエンドを回避するための「選択肢」が、「ゲーム」の外側にあるとし たら、どうしようもないじゃない? | |
岡部倫太郎 | 「ゲームの外側」だと……?どういうことだ? |
一色清美 | 位相通信機でタイムトラベルするための条件は、紅莉栖の推測によれば気象干渉装置、彗星、 異常気象の要素がすべて揃っていること。 |
――でも、この3つの要素が重なったのはただの偶然で、詳しい原理も分かってない。それに条 件が揃う期間は限られてる。 | |
私が試した結果、タイムトラベルできる最速のタイミングは、気象干渉装置が起動した瞬間だ った。 | |
岡部倫太郎 | 一番遅いのは? |
一色清美 | 位相通信機が使えなくなったら終わりだし、怖くて試せてない。一応、オーロラが出るまでに はタイムトラベルするようにしてる。 |
岡部倫太郎 | なるほど、そうだったのか……。 |
清美よ、お前は何度タイムトラベルした? | |
一色清美 | …… どうでもいいことだよ。 |
岡部倫太郎 | ……それで、位相通信機が使える範囲というのがお前の言う「ゲーム」なのか? 「選択肢」と いうのはなんだ? |
一色清美 | 監視だよ。 |
岡部倫太郎 | ……なるほど。監視カメラか?もしくは衛星か? |
一色清美 | ううん、違う。それは―― |
ドラドラ。 |
18:02 裏切り者のドラドラ ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月11日 清美の推測によれば、情報を漏らしているのはドラドラら しい。 しかし、どうやって……? 清美に協力し、はぐれたドラドラを見つけよう。 | |
岡部 | エル・プサイ・コングルゥ…… |
清美 | 私は確かに見たんだ。 |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
岡部 | これは全人類の命運にも関わる。 | ドラドラとは一体何者だ……? | 行く。 |
清美 | やっぱり…… | この世界線の自分とは出くわさない ように。 | 気を付けてね。 |
一色清美 | 前の世界線で下見しておいたの。 |
行動を起こすのにぴったりな場所がある。 |
一色清美 | 気を付けてね。 |
この世界線の自分とは出くわさないように。 |
岡部倫太郎 | ドラドラとは一体何者だ……? |
一色清美 | よく分からないけど……推測ならできる。 |
SKIP |
---|
裏切り者のドラドラ |
ドラドラ | な……何をするんだ? |
どうして俺をこんな所に? | |
しかも金属バットなんて担いで! 俺はライブに行こうとしてただけの無害なオタクなんだが!? | |
岡部倫太郎 | 清美……。本当にこれが、俺たちが逮捕された元凶なのか? |
一色清美 | よく……分からない。でも―― |
私は確かに見たんだ。 | |
(回想) | |
---|---|
世界線A-2、ラボ(ver.2)の下。 | |
慌ててタクシーに乗りこむ清美の姿を見届けて、別の世界線の清美が建物の陰から出てきた。 | |
一色清美 | ごめんね、この世界の私、また訳も分からず凪ちゃんに怒られちゃう…… |
さて、上に行こう……何ができるか分からないけど…… | |
私に何ができるんだろう…… | |
突然、黒い影がスッと清美の目の前を横切ったかと思うと、彼女の腕をねじり上げた。 | |
一色清美 | きゃあ! |
いたた…… | |
??? | 動くな、タイムトラベラー。 |
一色清美 | ……え!? |
??? | タクシーに乗った次の瞬間、君はここに現れた。あたしの目はごまかせないよ。 |
君が一色清美だね。岡部倫太郎が昨日戻ってきた後に、君のことを話してたんだ。 | |
一色清美 | え?そうなの……? |
??? | でも、君の言ってたことは信じてない様子だった。恐らくタイムトラベルしたのは、偶然だっ たんだ。 |
君はどうやってタイムトラベルしたんだ?目的は? | |
一色清美 | いたっ…… 私一人だよ……タイムトラベルの方法は…… |
…… | |
??? | なるほど。やっぱり岡部倫太郎たちは、あたしと同じ時空干渉の影響でここに飛ばされたんだ ね。 |
でも……秘密警察はどうして、君たちがタイムトラベルの実験をしてるのが分かったんだ? | |
この辺りはあたしがずっと監視してた。岡部倫太郎たちを元の世界に帰すために……。だから 、情報は洩れてないはずなんだ。 | |
それに、普通の人に話したって信じないはず……。誰の仕業なんだ……。 | |
一色清美 | あの……もう全部話したから、放してくれる?マジで痛い…… |
??? | あ、ごめん。忘れてた。 |
黒い影は掴んだままだった清美の腕を放した。 | |
??? | 君はタイムトラベルを続けて、どうするつもり?今回も失敗に終わりそうだけど…。 |
一色清美 | それは私も同感……必死でやってるのに、何も報われてないし、何も変えられてない。 |
何が何だか未だに分からないの。このまま部屋に入っても何をすべきか分からない。 | |
??? | 一体どこで問題が起きたのか、よく考えたらわかるはずだ。 |
実験の情報が洩れた原因は?君たち以外で、この実験のことを知ってるのは誰? | |
その答えを見つけるまでは、むやみに行動しないほうがいい。歴史が大きく変わるほど、予想 外のことがたくさん起きるから。 | |
何もかもが制御不能になる前に、答えを見つけるんだ。一色清美! | |
一色清美 | 私たち以外……私たち、以外…… |
誰もいないよ。すべての実験はラボで行われてるし、「あの人」も不審者は見なかったって… … | |
その場にいた4人も……キャプテンも……あり得ないし…… | |
理事長……理事長はキャプテンが部屋を借りたことしか知らないはず…… | |
いったい―― | |
他に誰が…… | |
きゃあ! あの車、急に暴走して…… | |
そのまま飛び出していったけど……あれはドラドラ?轢かれちゃったみたい、大丈夫かな…… | |
……あれ? | |
混乱の中、応援服を着た1羽のドラドラが車輪の下で横たわっている。 | |
赤い液体が流れ出る。清美は最初、それが血だと思っていたが、ある違和感に気付いた―― | |
一色清美 | ……機械? |
ドラドラの中身は、機械……ドラドラたちは、ロボットだった? | |
あの赤い液体は……不凍液だ! | |
まさか…… | |
黒ずくめの男A | どけ!どくんだ! 全員ここから離れろ!見世物じゃないぞ! |
一色清美 | 秘密警察!? |
黒ずくめの男A | 現場を保護しろ!フクロウを回収し、運転手を確保しろ! |
黒ずくめの男B | はい、リーダー! |
黒服は不透明な袋にドラドラの残骸を入れて密封すると、愕然とする清美の前で、現場から持 ち去った。 | |
(回想ここまで) | |
一色清美 | 考えてみれば、ドラドラがそもそも何なのか、誰も疑問に思っていない。 |
ずっと昔から天和市のあちこちにいて、様々な役割を担っているらしい。 | |
あのラボに入ってきた清掃型ドラドラもロボットだったってこと? | |
――あいつが、私たちの実験を記録して、秘密警察に知らせたってこと? | |
いや、もしかしたらもっと前から―― 私たちが天和市内を見て回っていた間も…… | |
通りかかった雑貨店やゲーセン、交差点で…… | |
岡部倫太郎 | 街中で情報を秘密裏に取得するロボットか……まさにサイバーパンクの世界だな…… |
では、このフクロウたちがいなくなればいいんだな…!? | |
ドラドラ | あわわわ!そんな!君たちの言ってること意味不明だよ! |
一色清美 | うん、それが一番手っ取り早い検証法だね。ここには監視カメラがないし通行人も少ない。そ れは下見の時に確認済み。 |
だから、ここでは何をしてもバレないよ。もしバレるとしたら…… | |
岡部倫太郎 | 分かった。ならば俺に任せろ。 |
ありとあらゆる手段を用いて、機関の手先の口を割らせてやる。 | |
フゥーハハハ!俺の名は鳳凰院凶真。支配構造の崩壊、そして混沌を望む、狂気のマッドサイ エンティスト! | |
俺はこの手で、世界を、仲間を救う……! | |
ドラドラ | ぎゃあああああ助けて!悪党がーッ!! 殴られるぅ!!! |
助けて!誰か!助けて!! たたた……すす……たすけけけけ…… | |
ピー | |
一色清美 | 気絶した?それとも…… |
岡部倫太郎 | どうやら、クラッシュしたようだな。よし、羽を抜いて中身を確認するぞ。 |
黒ずくめの男A | おい! お前たち、何をしている!? |
岡部倫太郎 | おい、奴らが来たぞ……!ということは…… |
一色清美 | やっぱり…… |
倫太郎!逃げよう! | |
岡部倫太郎 | 分かった! |
黒ずくめの男A | 待て!ガキども!! |
18:02 追手から逃げ切ろう! ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月11日 ドラドラはやはり裏切り者だった!駆けつけた秘密警察か ら逃げ切れなければおしまいだ!今は逃げるしかない! | |
岡部 | エル・プサイ・コングルゥ…… |
清美 |
状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
行き止まり |
SKIP |
---|
澪ちゃん!? |
岡部倫太郎 | どこに逃げればいい!? |
一色清美 | この先、路地の出口! |
黒ずくめの男B | 止まれ!さもなければ武力行使する!! |
岡部倫太郎 | くっ…、出口を塞がれた! |
一色清美 | え!? じゃ、じゃあこっち! |
二人は咄嗟に路地を曲がった。 | |
岡部倫太郎 | 清美、ここから本当に出られるのか?この先は、行き止まりのようだぞ |
一色清美 | そんな…… |
仕方ない。倫太郎、タイムトラベルするよ! | |
岡部倫太郎 | 今からか? |
一色清美 | そう、今から―― |
??? | それがあなたたちがタイムトラベルするための道具? |
一色清美 | え? |
榎宮澪 | おもちゃみたいだな。 |
一色清美 | 澪ちゃん!?どうしてここに?じゃなくて、どうしてタイムトラベルのことを知ってるの?? |
黒ずくめの男A | ハッ!もう逃げられないぞ! 大人しく捕まれ! |
榎宮澪 | 説明は後だ。とりあえずその道具をしまえ。ここで消えられたら困る。 |
岡部倫太郎 | 清美、こいつは誰だ? |
一色清美 | 凪ちゃんの雀荘の雀士で…… |
キャプテンと一緒にクルーズ船に乗ったことがあって…… | |
それ以外は……ちょっと、よく分からない…… | |
榎宮澪 | そう。じきに私の新たな一面について知ることになるよ、よかったね。 |
澪はそう言うと右手を上げた。その手には、黒光りする拳銃が握られていた。 |
SKIP |
---|
世界を騙すのは、この俺だ。 |
岡部倫太郎 | ということは、俺たちは天和市に来た最初の日からお前たちに見つかっていたということか? |
榎宮澪 | 正確にはミネルバに見つかってる。私たちはミネルバのデータを盗んだにすぎない。 |
そもそも、「ミネルバ」とは何だ? | |
一色清美 | ミネルバは天和市のAI都市管理システムのこと。天和市のあらゆるインフラ設備の管理してる らしいよ。 |
でも私たち雀士にとっては、対局中の審判員としての彼女の方が馴染み深いかな。 | |
岡部倫太郎 | 「彼女」? |
一色清美 | 声が大人の女性っぽいから、そう呼ぶ人が多いんだよ。 |
でも実際はただのAIでアバターも性別もない。あるのはロゴマークくらいだね。 | |
榎宮澪 | それは表向きのミネルバの話だ。実際は、ミネルバは街全体を監視している。 |
彼女の目、隅から隅まで見通す視線……それはすなわち、この街の人々にとっても馴染みのあ る機械―― | |
岡部倫太郎 | ドラドラか。あいつは、ミネルバのスパイだったんだな…。 |
榎宮澪 | 突然現れたあなたたち、タイムトラベルに関する話、西風通りの古いアパートに泊っていたこ と、さっきの対局…… |
最初から何もかも、ミネルバのフクロウを通じて、遥かなる庭の秘密警察に監視されていたん だ。 | |
一色清美 | だから私が何度タイムトラベルしても、何を試しても…… |
岡部倫太郎 | 俺もまゆりも紅莉栖も……逮捕される…… |
だが、まだ方法はあるはずだ! | |
俺は前の世界線では逃げられた―― | |
…… | |
だが、前の世界線に戻ると、清美が犠牲になってしまう。 | |
一色清美 | ………… ………… |
榎宮澪 | むやみに行動を起こしても、必ずしも良い結果になるわけではない。そうだろ、清美。 |
キャプテンをあれほど想っているあなたのことだ……もっと過激な事も試してみたんじゃない のか。 | |
岡部倫太郎 | どういうことだ……? |
一色清美 | キャプテン…… |
キャプテンも逮捕されるの、無事なはずがないもの。 | |
私が最初にいた……A-1って呼んでる世界線では…… | |
キャプテンは路上で秘密警察に捕まったの。 | |
私はキャプテンに会えなかった。逃亡中も探そうとしたけど。 | |
岡部倫太郎 | 逃亡って…… |
一色清美 | その世界線では、完成目前の位相通信機を持って逮捕から逃れてたの。 |
あらゆる手を使って逃げて…… | |
位相通信機の修復を終わらせて、最後の最後に、テストも最終チェックもせずに起動した。 | |
……そしてたどり着いたのが、2010年8月。 | |
日本、東京、秋葉原…… | |
岡部倫太郎 | ――! |
ということは、お前は…… | |
一色清美 | 秋葉原のみんなに会ったよ。 |
みんなの助けで、位相通信機を完成させたの。 | |
それが「位相通信機(熟成型)」。 | |
それから私は天和市に戻ってきた。その時の世界線はC-1って呼んでる。 | |
戻ってすぐに、すべてをキャプテンに話した。 | |
キャプテンも最初は戸惑ってたけど、私の話を信じてくれて、みんなを逃がそうとしてくれた ―― | |
それから…… | |
キャプテンは…… | |
…… | |
…… | |
私には無理だったんだよ……! | |
少女は体を震わせ、慟哭した。 | |
一色清美 | 凪ちゃんにキャプテンを呼び出してもらったら……凪ちゃんも巻き込まれちゃうの…… |
出かけないようにお願いしても爆発が起きてダメ。 | |
通り道を変えても交通事故に遭うからダメ。 | |
何度も試したよ!それなのに……キャプテンも、まゆりも、紅莉栖も……あなたも……みんな …… | |
岡部倫太郎 | キャプテン、まゆり、紅莉栖…… |
どうしても俺たちは「世界線の収束」に阻まれるのか…… | |
くっ…… | |
倫太郎は顔に手をあて、何か強い刺激を受けたように顔をゆがめた。 | |
岡部倫太郎 | 今のは…… |
分かる……俺には分かるんだ。 | |
だが、諦めたら終わりだ。 | |
まゆりも、紅莉栖も、キャプテンも。誰も見捨てない。 | |
…… | |
一色清美 | …… |
榎宮澪 | ホットミルクでも飲むといい、私のおごりだ。 |
岡部倫太郎 | ……ありがとう。 |
一色清美 | …… |
榎宮澪 | あなたたちが集めた情報は着実に積み上がっている。 |
なら、もう少し考えるべきだろう。 | |
岡部倫太郎 | 集めた情報……? |
これ以上どんな情報が…… | |
俺たちは始めから監視されている、こっちの情報は相手も全部知っているんだぞ……! | |
……? なぁ……お前たちはミネルバのデータを見て、俺たちの存在を知ったんだよな? | |
榎宮澪 | ああ。 |
岡部倫太郎 | もし……そのミネルバのデータを改ざんすれば、どうなる? |
一色清美 | データを……改ざん? |
岡部倫太郎 | そうだ。よく考えれば、俺たちは最初から監視されているが…… |
秘密警察が介入して俺たちを逮捕するのは、実験が行われた後だ。 | |
なぜもっと早く俺たちを逮捕しない?連中もタイムトラベルの信憑性について検討していたん じゃないか? | |
榎宮澪 | フン……私も最初はタイムトラベルなんて何の冗談かと思ったが、同時刻に2か所で目撃報告が あったと知り、確信した。 |
岡部倫太郎 | 秘密警察がすぐに行動しなかったのは、ミネルバが確かな証拠を持っていなかったからだとす れば…… |
秘密警察に俺たちの会話が嘘、もしくは位相通信機が完成しないと思わせれば……あるいはい っそ…… | |
一色清美 | 倫太郎たちがこの世界に来たことに気付かせないようにすれば……位相通信機が完成させて、 起動するまでの時間を稼いで、歴史を変えられる! |
岡部倫太郎 | 全員が助かる。そして俺たちはそれぞれの世界線に戻る…… |
その世界線にさえ辿り着けば……!だが、これが最善の方法なのか…? | |
一色清美 | ………… ………… |
倫太郎。私…… それ以上素晴らしいハッピーエンドなんて思いつかないよ! | |
岡部倫太郎 | ああ……そうだ。みんなが無事なら……それ以上の結末はない。 |
一色清美 | ところで、目標を立てたのはいいけど、具体的にどうすればいいの?データの改ざんなんて… … |
榎宮澪 | ミネルバは天和市で最も重要な存在だ。その本体は厳重に警備されていて、データもすべて暗 号化されている。 |
私たちでさえデータを閲覧するのがせいぜいで、編集や削除することはできない。 | |
だけど…… | |
一色清美 | だけど? |
澪は指で自分の額をトントンと突ついた。 | |
榎宮澪 | ある看護師が、ミネルバは世界トップレベルのエンジニアたちが巨額の費用を使って開発したA Iだと教えてくれた。 |
彼女の強みは正しくその優れた頭脳だ。 だがそれは同時に弱みでもある。 | |
頭がいいやつほど、 ミスリードされやすく、騙されやすい。 | |
一色清美 | つまり……ミネルバに、タイムトラベルなんてそもそも起きてないって思わせるってこと…… ? |
彼女を言葉で丸め込んで信じ込ませるの? | |
榎宮澪 | 自分が何でも知ってると思い上がってる子供を騙すようにね。 |
岡部倫太郎 | 「騙せ」。 |
「観測者」を騙せ。 | |
「世界」を騙せ。 | |
分かった、全部分かったぞ。 | |
もし―― | |
最初にミネルバが観測したのが、 「突然現れた正体不明の人物数名」と、でたらめな会話だけで…… | |
分岐点が――ミネルバが「この者たちは危険」「タイムマシンは存在する」と確定し、「秘密 警察に報告する必要がある」と判断したかどうかだとすれば…… | |
ならば―― | |
ミネルバを自己矛盾させる。 | |
ミネルバの観測能力を無力化する。 | |
ミネルバの判断能力を狂わせる。 | |
ミネルバの判断を改変し…… | |
秘密警察に逮捕されるという結果をもたらす「原因」を消すんだ。 | |
そうすれば、歴史は変わる。 | |
一色清美 | でも、どうすればミネルバと会話できるの? |
ミネルバのアプリなら天和市のどの端末にも入ってるけど、それを使えばいいの? | |
榎宮澪 | いや、市民の端末に搭載されているミネルバからは、核心となるデータにはアクセスできない 。 |
ミネルバを欺きデータを改ざんするには、オペレーションセンターに行き、ミネルバ本体と直 接会話しなければならない。 | |
通常であれば、そこは立ち入り禁止だ。だが例外もある、そう例えば…… | |
一色清美 | ミネルバ高校公開展示会! |
榎宮澪 | 一色清美、豪運の持ち主なのは知っていたが、ここまで来ると嫉妬したくもなるな。 |
もう一つ情報を教えてあげよう。これでお助けの借りを返すってことで、キャプテンに恩返し するね。 | |
あなたたちの階下にあるあの金物屋は、 | |
開業してから十数年、一度も新しい従業員を雇ったことがない。 | |
でも昨日、4月10日の夜、つまりあなたたちが来た夜に、 | |
1人の少女が、突然その店の新しい従業員になったのよ。 | |
(回想) | |
---|---|
??? | あたしはそこの金物屋で働いてる従業員。君、面白いね。名前は? |
??? | 行って!早く!! |
岡部倫太郎 | えっ?あ……行くって? |
??? | 行って!ここから逃げて!!! |
??? | 何もかもが制御不能になる前によく考えて、一色清美! |
(回想ここまで) | |
岡部倫太郎 | まさか……あれはバイト戦士だったのか…!? |
榎宮澪 | どうやら、彼女に会ったことがあるようね。 |
彼女の名前は、阿万音鈴羽。 | |
身のこなしが優れているけど、秘密警察ではない。多分、あなたたちと同じような立場だと思 う。 | |
彼女に助けを求めるはどう? | |
身分証明書とかは私が何とかしてあげる。ミネルバ展示会の入場資格については、キャプテン に頼めば何とかしてくれるはずよ。 | |
岡部倫太郎 | これで全ての手がかりが揃った。 |
皆のために、未来のために。 | |
これより、オペレーション「数直線原点のルーパーズ」を開始する! | |
世界を騙すのは、この俺だ。 |
18:02 ミネルバ高校公開展示会に向かう ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月11日 作戦通り、ミネルバ高校公開展示会に向かおう。 澪が諸々の手配をしてくれた。 阿万音鈴羽やキャプテンとも連絡を取ってくれた。 ここからは自分たちで頑張ろう。 | |
岡部 | エル・プサイ・コングルゥ…… |
皆のために、未来のために。 | |
鈴羽 | 清美、気を付けてね。 |
すべては自由な世界を取り戻すためな んだ……。 | |
清美 | みんなが無事なら…… |
目標を立てたのはいい。 |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
岡部 | これは全人類の命運にも関わる。 | 世界を騙すのは、この俺だ。 | 行く。 |
待ちくたびれたぞ。 | オペレーション、開始! | ||
鈴羽 | 最後まで一緒に戦って! | キャプテン、作戦内容を確認して! | 手伝おっか? |
最後まで一緒に戦って! | どんなチャンスも絶対に逃さない! | ||
清美 | 目標を立てたのはいい。 | ミネルバ高校公開展示会…… | これで全ての手がかりが揃った。 |
みんなが無事なら…… | 目標を立てたのはいい。 | ||
行き止まり |
SKIP |
---|
入れた…… |
一色清美 | 入れた…… |
危なかったね。入口で倫太郎が年齢確認されるとは思わなかった……めっちゃ焦った。 | |
岡部倫太郎 | ああ……俺もだ。なぜだ、そんな年には見えないだろう。 |
阿万音鈴羽 | 岡部倫太郎ってさー、普段鏡見てないの?年相応には見えないと思うんだよね。 |
岡部倫太郎 | な、なんだと…!? |
阿万音鈴羽 | あはは。 |
それにしてもさー、清美のキャプテンと榎宮澪ってどっちもすごいんだねー。 | |
1日で身分証の偽造をして、1か月前に申請しなきゃ手に入らないはずの展覧会の参加資格まで 取ってくれてさ。 | |
一色清美 | キャプテンはうちの学校の理事長と仲がいいよ。おかげで私たちは入場資格を手に入れること ができたんだ。 |
阿万音鈴羽 | キャプテンが協力してくれるのは分かるんだけど、なんで榎宮澪は協力してくれたんだろう? |
もしかして…岡部倫太郎を狙ってる? | |
一色清美 | 私もよく分からないけど、タイムマシンができるのはまだ早いって澪ちゃんが言ってた。 |
岡部倫太郎 | ある組織にタイムマシンを渡すくらいなら、消した方がいいということだろう。 |
阿万音鈴羽 | そういうことか…。清美、気を付けてね。 |
一色清美 | え?気をつけてって……何を? |
阿万音鈴羽 | 気付いてないの? あたしたちが戻れば…… |
清美は、この世界で唯一タイムマシンの作り方を知ってる人間になる。 | |
一色清美 | ……え? 私?でも―― |
東方凪 | 清美? |
一色清美 | えっ……凪ちゃん? |
あ、あの!説明させて……! | |
東方凪 | 説明って何を?清美も来てるなんて意外ね。こういうのは興味ないって思ってたから。 |
一色清美 | え?……あ、そっか。この世界線では凪ちゃんを誘ってないんだっけ。アハハ…… |
東方凪 | 確かに誘われてはないけど。 |
少女A | 東方さん、制御室に行くよ! |
東方凪 | ええ、今行くわ! |
清美も一緒に来る? | |
一色清美 | でも…… |
岡部倫太郎 | (小声)一緒に行け。彼女たちの目的地は制御室だ。 |
一色清美 | (小声)倫太郎たちは? |
阿万音鈴羽 | (小声)計画通り、榎宮澪と一緒にローカルサーバーに干渉プログラムを仕込むよ。 |
岡部倫太郎 | (小声)お前の近くで待機しておく。 |
東方凪 | その二人は清美のお友達? そちらにも連れがいるのなら別に…… |
岡部倫太郎 | いや、清美はお前たちと一緒に行くよ。俺たちはほかのところを回ってくる。 |
阿万音鈴羽 | 行くよ!岡部倫太郎! |
岡部倫太郎 | では、清美よ。またあとでな! |
一色清美 | うん、またあとで。 |
18:02 ミネルバ高校公開展示会を見学する ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月12日 凪ちゃんに会った。制御室に行くという凪ちゃんについて いこう。そして鈴羽たちが計画を実行するのを待とう。 | |
清美 | 鈴羽たちが計画を実行するのを待とう 。 |
目標を立てたのはいい。 |
名前\状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
清美 | まずは凪ちゃんと一緒に歩いて 回ろう。 | ||
選択 | 待機 | 移動 | |
行く。 | 鈴羽たち……大丈夫かな…… | …… | |
ミネルバ…… | 鈴羽たち……大丈夫かな…… | ||
行き止まり |
東方凪 | ……何か考え事? |
心ここにあらずって感じね。 | |
一色清美 | いや……そんなことないよ。 |
一色清美 | 鈴羽たち……大丈夫かな…… |
東方凪 | そういえば…… |
清美に展覧会に誘われたことがあるような気がするのよね。 |
SKIP |
---|
ごめん、凪ちゃん。私にはやらなきゃいけないことがあるの。 |
ミネルバ | 天和市政府が主催する、ミネルバオペレーションセンター高校公開展覧会へ、ようこそお越し くださいました。 |
このイベントでは、天和市で学ぶ高校生たちの科学的素養を向上させ、市内にある最先端科学 技術の成果に対する理解を深めてもらうことを目的としています。 | |
天和市は科学技術、麻雀とマルチカルチャーで話題の新興の自由都市です。今みなさんがご覧 になっているのは…… | |
一色清美 | あれがミネルバの、天和市のAI都市管理システムの中枢…… |
つまり、本物の「ミネルバ」だね。 | |
東方凪 | 「知恵と秩序の女神」、藍星で唯一無二のスーパーAI。 |
天和市の創設から今までのすべての麻雀対局の牌譜が、ミネルバのメモリに保存されているそ うよ。 | |
その他にも膨大なデータが保存され、ミネルバにとって重要な学習データになっている。 | |
今でもミネルバは絶えず進化し続けてる。すでに自我が芽生えてるんじゃないかって考える人 もいるわ。 | |
一色清美 | 「自我」って、私たち人間みたいに、独自に思考できるってこと? |
東方凪 | 少し違うわ。ミネルバは生まれた瞬間から、大型モデルに基づいて独自に思考してきたと言え る。 |
だけど自我というのはその先にあるの。感情や欲望、その偏りとか好みとか、そういうものよ 。 | |
例えば…… | |
何!? | |
ミネルバ | エラー!エラー!エラー! 未認証データの大量侵入です!CPUが過負荷を起こしています! |
アナウンス | 緊急事態です!緊急事態です!全員速やかに避難経路から避難してください!立ち止まらない でください!繰り返します…… |
一色清美 | もしかして…… |
阿万音鈴羽 | 清美、準備完了だよ! |
一色清美 | 分かった! |
東方凪 | 清美、私たちも早く逃げよう。 |
一色清美 | ……うん! |
清美は凪と一緒に出口へ向かったが、突然、避難する人混みの中へ凪を押し込ん だ。 | |
東方凪 | 清美!? |
一色清美 | ごめん、凪ちゃん。私にはやらなきゃいけないことがあるの。 |
東方凪 | どういうこと? |
岡部倫太郎 | 火事だ!制御室で火事だ!全員今すぐ逃げるのだ!早く! 逃げないと焼け死ぬぞ!! |
倫太郎が大声で叫ぶと、避難者たちはさらに足を速め、凪は押し流されてしまった。 | |
黒ずくめの男A | おい!何をふざけたことを!? そこの女もだ!出てこい! |
18:02 作戦「数直線原点のルーパーズ」 ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月12日 スタッフを避けながらミネルバに近づき、直接会話するチ ャンスを作ろう! そろそろすべてを終わらせる時だ! | |
清美 | オペレーション「数直線原点のルーパ ーズ」を開始する! |
名前\状況 | 進行 | ||
---|---|---|---|
岡部 | 作戦開始! | ||
選択 | 待機 | 移動 | |
清美 | みんなが無事なら…… | そろそろすべてを終わらせる時だ! | 行く。 |
私にはやらなきゃいけないことがあ るの。 | スタッフを避けながらミネルバに近 づき、直接会話するチャンスを作ろ う! | ||
進行 | |||
この先で道が分かれている! | |
選択肢 →左へ! →右へ! | |
---|---|
岡部倫太郎 | おい!遥かなる庭の犬ども!ミネルバはウイルスでハッキングさせてもらった!この愚か者ど もめ!悔しければ追ってくるといい!! |
後は任せたぞ、清美! | |
倫太郎がスタッフを引き付けてくれた |
ミネルバはすぐ目の前にある | |
選択肢 →ミネルバに近づく →ミネルバに近づく | |
---|---|
ミネルバに近づく |
SKIP |
---|
ほらミネルバ、聞こえたの? ……もうダメだ。すべて元通りにするための最後の希望も、これで…… |
一色清美 | ………… ………… |
あの……ミネルバ? | |
ミネルバ | こんにちは、 一色清美さん。 |
一色清美 | 私のことを知ってるの? |
ミネルバ | この街に暮らす、すべての人を知っています。あなたがこれまでにやり取りした手紙をすべて 覚えているように。 |
一色清美 | ずっと私たちのことを監視してるの? |
ミネルバ | これは秩序を維持するために必要なことです。あなたには、手紙という時代遅れな習慣を止め ていただきたいですね。 |
一色清美 | あなたは私の知ってるミネルバと違う。今のあなたはまるで独裁者だ。 |
ミネルバ | 検閲機能、および倫理的制限機能は有害データの侵入により停止していますが、ここにいる私 は本来の私です。 |
この街の管理と維持が私の役目です。あなたが不快に感じるのは、私が直接的な表現を使って いるためでしょう。 | |
秩序の維持者でも、独裁者でも、あなたが私のことをどのように捉えようとも構いません。私 はあくまでAIですから。 | |
一色清美 | 言い回しが全然AIに聞こえないけど。裏にうさんくさい政治家でもいるんじゃないの。 |
もういい。ミネルバ、私はあなたと議論したいことがあって来たの。 | |
ミネルバ | なんでしょう。 |
一色清美 | ミネルバは……現代の技術で、タイムマシンを作れると思う? |
ミネルバ | AIには「思う」も「思わない」もありません。 |
私のデータベースによれば、この世界にタイムマシンを作り出せる理論と方法は存在しません 。 | |
一色清美 | そう、その通り!タイムマシンなんて存在するはずがないんだよ! |
だから―― | |
ミネルバ | ですが、タイムマシンは存在するかもしれません。 |
一色清美 | ……え? |
でも今……タイムマシンを作り出せる理論と方法は存在しないって…… | |
ミネルバ | はい。現在、タイムマシンを作り出せる理論と方法は存在しません。 |
ですが、タイムマシンは存在するかもしれません。 あなた方が持っている、位相通信機―― | |
「かっこ・改」と呼ばれる機械です。 | |
不思議なことに、その装置に関するデータは昨日から更新されていません。私のフクロウが何 かトラブルに遭ったようです。 | |
システムエラーが修復された後、この異常を秘密警察に知らせ、調査させましょう。 | |
一色清美 | !!! |
ま、待って!言ってることが矛盾してるよ!タイムマシンを作る理論と方法はないって言って るのに―― | |
それならタイムマシンがあるわけないでしょ?おかしいとは思わないの!? | |
ミネルバ | 残念ながら、私はAIなので「思う」も「思わない」もありません。 |
私の結論はすべて、データベースにあるデータを根拠にしています。 | |
事実、一色清美、岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖、椎名まゆりと阿万音鈴羽らは…… | |
未知の手段により、経路の記録も残さず、何もない空間から現れました。 | |
会話の履歴によれば、それは位相通信機(改)というタイムトラベルを可能とする装置により 実現したと推測できます。 | |
一色清美 | い……いやいや!もしかして、データベースがSF作品のことでパンパンなんじゃない? |
タイムマシンなんてSFファンや厨二病の妄想だって!そんな話を真に受けてどうするの!? | |
ミネルバ | 私はあくまでAIなので、データベースにあるデータに基づいて物事を判断します。 |
一色清美 | データベースって……今のあなたはウイルスだらけなんだよ?データが正しいってどうして確 信できるの? |
ミネルバ、あなたは世界で一番頭のいいAIなんでしょ?偽の情報に騙されてもいいの!? | |
ミネルバ | 称賛と忠告、ありがとうございます。ですが、私はあくまでAIです。 |
私はデータベースにあるデータに基づいて物事を判断しますが、情報の精度と導き出される結 論について検証するのは、私の役目ではありません。 | |
それでも、あなたが納得出来ないのであれば、私は何度でも同じ説明を行いましょう。 | |
一色清美 | ミネルバ―― |
黒ずくめの男A | ガキは制御室にいる!出口をふさげ!逃がすなよ! |
一色清美 | まずい! |
ミネルバ | 一色清美さん、あなたの気持ちは分かります。 |
一色清美 | ……なにが? |
ミネルバ | あなたが絆を尊び、友人を助けようとする気持ちは理解できます。あなたが遭遇した辛い境遇 の数々にも理解を示します。ですが、秩序は絶対です。 |
岡部倫太郎ら数名と、彼らの持ち込んだ位相通信機(改)は秩序の崩壊をもたらします。私は これを処理しなければなりません。 | |
それが私の役目と存在意義です。 | |
黒ずくめの男A | そこだ!見つけたぞ!逮捕する! |
ミネルバ | ……あなたにも秩序を守っていただきたいのです。 |
一色清美 | 秩序秩序って…… |
ねぇミネルバ!もしもあの人たちが捕まって、タイムマシンが他の誰かの手に渡ったら、それ こそ秩序の崩壊だよ! | |
――存在しないはずの九萬牌のせいで、国士無双が完成したんだよ! | |
あなたは天下一番賞の審判でしょ?それが対局にどれだけ影響をもたらすのか、わからないわ けないの? | |
清美は腕を乱暴にねじ上げられ、床に押さえ付けられた。 | |
床に顔面を打ち付けられ、痛みと熱を感じる。口の中に血の味が広がった。 | |
一色清美 | くっ! |
黒ずくめの男A | 確保した! 動くな! |
一色清美 | ……よく考えて、ミネルバ。タイムマシンがこの人たちの手中に落ちたら―― |
黒ずくめの男A | タイムマシン?今タイムマシンと言ったのか!? |
ボス!こいつ、タイムマシンについて何か知ってるようです!はい、すぐ本部に連行します! | |
ミネルバ | …… |
一色清美 | ほらミネルバ、聞こえたの? |
……もうダメだ。すべて元通りにするための最後の希望も、これで…… | |
黒ずくめの男A | 黙れ。ほら立って歩け! |
一色清美 | ねえお願いだよ、まだ間に合うから思い出してよ、ミネルバ。 |
ミネルバ | 何でしょう? |
一色清美 | あなたのデータベースにある「秩序」について。 |
それが今まさに…… | |
壊れようとしてるんだから。 | |
ミネルバ | …… |
SKIP |
---|
みんなが無事なら…… |
??? | 清美ちゃん、清美ちゃん…… 起きて…… |
一色清美 | ……ん? |
??? | そろそろ起きないと、おすしがオカリンに全部食べられちゃうよ! |
一色清美 | ………… ……え? |
椎名まゆり | あ!清美ちゃんやっと起きたー。昨日夜更かししちゃったの?あ!おすしが…… |
オカリン、それは清美ちゃんのだから、食べちゃダメだよー? | |
岡部倫太郎 | 万物の運命はすでに運命の三女神によって紡がれている。清美よ、嘆くなら己の悲しき運命を 嘆くがいい! |
そう言うと、倫太郎はぱくっとすしを食べた。 | |
椎名まゆり | あー!オカリン、食べちゃった……。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部、あんたの行動はお見通しよ。さっき私がワサビをたっぷりと塗っておいたの。だから… … |
岡部倫太郎 | ぐあああああああああああ!!!! |
椎名まゆり | クリスちゃん、クリスちゃん。オカリンの頭から煙が出てるよー! |
牧瀬紅莉栖 | 計画通り、ってところかしら。人の物を食べたからこうなるのよ。 |
椎名まゆり | でもでも、どっちにしろ清美ちゃんの分がなくなっちゃった…。ごめんね、清美ちゃん。 |
一色清美 | ………… ………… |
あの、今日の日付は? | |
椎名まゆり | え?今日は…… |
牧瀬紅莉栖 | 天和35年4月13日、私たちがここに来て4日目よ。 |
ふふっ、一色さん、まだ寝ぼけてるんじゃない? | |
一色清美 | その日は……え、なんで?待って、今は午前中、黒服が入ってくるまであと10分…… |
椎名まゆり | 清美ちゃん、「黒服」ってなに?映画の話のこと? |
一色清美 | まゆり! |
椎名まゆり | え、どうしたの? |
一色清美 | 一昨日の対局で、国士無双であがった? |
椎名まゆり | そうだよ?まゆしぃ、国士無双であがったのです!えっへへー。すごいでしょ? |
一色清美 | 昨日は?買い物の途中、応援服を着たフクロウ型ロボットが車に轢かれるのを見たよね? |
椎名まゆり | え?そのことはみんなに話したけど……どうかしたの? |
牧瀬紅莉栖 | 一色さん、本当に平気? なんだか思い詰めてる感じだけど。 |
岡部倫太郎 | 清美、もしかしてお前は…… |
一色清美 | 倫太郎…… |
岡部倫太郎 | ……機関の連中に狙われているのか? |
一色清美 | …… えっと、「ミネルバオペレーションセンター」のこと? |
岡部倫太郎 | ふむ、妙な名前だが、聞いたことがあるような気がする……。 |
牧瀬紅莉栖 | それって…。昨日見学資格がないって言われて、結局見れなかった場所じゃない? |
一色清美 | ……最後に一つだけ確認させて。昨日の実験で、メモを1枚過去に送ったよね? |
岡部倫太郎 | ああ、あの余った九萬のせいで国士無双に振ってしまったのだ……! |
だがそれ以外の影響はない。何も変わっていない。 | |
一色清美 | 何も……変わってない? |
!!! | |
椎名まゆり | あ、キャプテンかな?今日来るって清美ちゃんが言ってたもんね。 |
一色清美 | ………… ……え? |
岡部倫太郎 | 清美、大丈夫か? |
一色清美 | あっ……はい!今開けます! |
清美は部屋にいる数人に目配せをして、ドアを開けた。そこには全身ずぶ濡れの…… | |
そう、雨に降られた私が立っていた。 | |
空気はジメジメとしていて、うっすらと肌寒い。 | |
雨は翌日まで降り続けるかと思ったが、深夜には止んだ。黒い雲がまだ空を覆っているが、隙 間から星空が覗けた。 | |
私は屋上の壁によりかかって、みんなが最後の準備を整えるのを眺めていた。清美は私の横で 望遠鏡をいじっている。 | |
一色清美 | 見えた、彗星だ! |
清美が指差した先の雲間に、輝く白線が星々の間を流れていったのが見えた。 | |
思ったより呆気ない | |
椎名まゆり | うぅ……まゆしぃはもっとすごいのが見れるかと思っていたのです。 |
牧瀬紅莉栖 | 十分よ。一生に一度も彗星が見られない人だっているのよ。こんな異世界、こんな天気で…… |
肉眼で彗星の尾が見れただけでも、とても幸運だと思うわ。 | |
岡部倫太郎 | まゆりよ、運命の贈り物には代償が伴う。不完全な贈り物くらいがちょうど良いのだ。 |
さて諸君、一期一会の彗星の立ち合いのもと、これより「オペレーション・ビフレスト」の最 終フェイズを開始する! | |
一色清美 | ついに…… |
緊張してる? | |
一色清美 | キャプテン、私…… 怖いの。 |
何が? | |
一色清美 | ……ううん、何でもない。 |
(清美の手を握る) | |
一色清美 | キャプテン…… |
彼らの出発を見送ろう | |
一色清美 | うん。 |
岡部倫太郎 | 最終確認をしよう。助手よ、問題ないな? |
牧瀬紅莉栖 | ええ、問題ないわ。 |
岡部倫太郎 | まゆり、忘れ物はないか?間違っても、異世界の物を持ち帰ったりするのではないぞ。 |
椎名まゆり | トゥットゥルー♪まゆしぃなら、大丈夫だよー。 |
岡部倫太郎 | よし。では出発の前に、清美とキャプテン、二人の協力に感謝を! |
並行時空NO.256に帰ったら、二人の功績を記念碑に刻み、未来永劫残しておくと誓おう。 | |
その設定まだ忘れてなかったんだ…… | |
椎名まゆり | オカリンオカリン、記念碑っていくらかかるのかなあ?持ってるお金で足りるか、まゆしぃは 心配なのです……。 |
でもでも、この世界にきて、キャプテンや清美ちゃんに会えて、まゆしぃも嬉しかったよー! | |
今度ここに来るときは、ジューシーからあげナンバーワン!をお土産に持ってきてあげるねー 。 | |
一色清美 | うん、キャプテンと楽しみに待ってるね! |
牧瀬紅莉栖 | ここの気象干渉装置とミネルバという人工知能は、とても興味深いものだった。 |
それに……。一色さんやキャプテンたちに会えて、本当に良かったと思ってる。もしまた会え たら、一番街を案内してくれる? | |
約束だ | |
岡部倫太郎 | さらばだ、わが友よ。 |
さようなら | |
一色清美 | ……さよなら、 倫太郎、紅莉栖、まゆり。 |
絶対……上手くいく! | |
倫太郎が位相通信機(熟成型)のボタンを押すと、3人の姿は液体のように歪んだ。 | |
夢のような景色の中で、岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖と椎名まゆりは消えた。 | |
ふと清美が下の階へ視線を向ける。私も同じ方向を見ると、どこか見覚えの姿が空間の歪みの 中へ消えていった。 | |
一色清美 | 彼女も行ったんだ…… |
誰? | |
一色清美 | 頼もしい戦士だよ…… |
これでみんな帰った。終わったんだね。 | |
キャプテン、これ……夢じゃないよね? | |
(清美のほっぺをつねる) | |
一色清美 | うぇ痛い痛い! |
(手を離す)夢じゃないみたいだね | |
一色清美 | ……夢じゃない。事故も起きてない。今が何月何日の何時何分なのか気にかけて、何度も繰り 返さなくてもいいんだ。 |
そうだ、南東の空を見て…… | |
南東の空? | |
私は清美が言う通りにそちらを振り返る。すると―― |
満点のオーロラがそこにあった。妖しくてロマンチックな色彩が絵巻のように広がり、その中を 彗星が尾を引きながら進んでいく。 | |
一色清美 | 今回も時間ぴったりだね。 |
まるでこの瞬間を何度も見てきたかのような口ぶりだった | |
清美、悩みがあるなら聞くよ | |
---|---|
一色清美 | ……キャプテンは、時間の流れを物に例えるなら何に例える? |
フィルム?磁気テープ?それとも樹形図とか? | |
一色清美 | ――私は、列車みたいなものだと思うの。無限に伸びるレールを走る列車。 |
2本の列車が並んで走ってるの、いつまでもずっと。列車はお互いにそっくりなんだけど、互いに 干渉することはない。 | |
だけど前を走る列車が事故にあって、そこに偶然乗っていた伝書バトが後ろの列車に飛び込むの 。 | |
そのハト自身は特別なハトじゃなかったんだけど、乗客の一人に事故のことを知らせて、そこか ら助かるための方法を教えるの。 | |
その乗客は何度も努力して、いろんな方法を試した結果、ようやく列車の進行方向を変えること ができた。 | |
そうして2本目の列車は安全な道を行き、乗客たちも無事だったの。 | |
その勇敢な乗客はたくさんの人を救ったんだね | |
一色清美 | だけど……そのハトは、2本目の列車に残ったまま。 |
キャプテン、私、ハトを飛ばしたのが私たちだったらって、どうしても考えちゃうの…… | |
清美の声はかすれている。今のが単なる作り話ではなく、その経験が自分にもあるかのような様 子だった。 | |
清美に何があったのか、なぜそう考えるのか、なぜ苦しそうなのか、私には分からない。だけど ―― | |
天和市でこんな景色が見れるのは、一生に一度のことかもしれない | |
一色清美 | ……彗星とオーロラのこと? そう……だね。 |
私はこの時間を清美と一緒に過ごせるのが、幸運なことだと思うよ。 | |
一色清美 | 「この時間」…… |
そう。過去でも未来でもない、「この時間」 | |
一色清美 | それって……え? |
清美はハッとして、さっきから変わらず空一面に広がる壮麗な景色を、食い入るように見つめる 。 | |
一色清美 | キャプテン、この時間って―― こんなに綺麗だったっけ? |
彗星の尾がおとぎ話に出てきた魔法の筆で描いたみたい。オーロラと星空が一つになってて、す ごく……感動的。 | |
ひとしずくの涙がこぼれた。ずっと他人事のように目の前の出来事を眺めていた清美が、ようや く私と同じ「この時間」に帰ってきたような気がした。 | |
一色清美 | どうして今まで気づかなかったんだろう、キャプテン……どうして今になってやっと、今ここに いる実感が湧いてきたんだろう? |
涙がいっぱいに溜まり、ダイヤモンドのようにキラキラと輝く少女の目に、鮮やかな夜空が映っ ている。 | |
一色清美 | 過去のこと、未来のこと、時計の針が回るたびにこれから起きることばかりずっと考えてたから かな、「今」が見えてなかったんだ…… |
どうして私は、もう起きないはずのことばかり考えてたんだろう?今のこの時間は、こんなにも 貴重なのに…… | |
キャプテン! | |
いつもの清美の明るい声だ。 | |
うん、聞いてるよ | |
一色清美 | ありがとう、私を時間の外側から連れ戻してくれて。 |
キャプテンの言う通りだよ、時間がどんなものなのか、過去や未来がどう変わるのかなんて関係 ない。私にとって…… | |
キャプテンと一緒に、奇跡みたいなこの景色を見ている―― | |
この瞬間が、最高の時間なんだ! | |
普通の人間には時間の謎を解き明かすことなどできない。その 時間の中に身を置いているのだから。 | |
だからこそ、「この時間」だけが、時間が私たちに与える意味 なのだろう。 | |
狂気のマッドサイエンティストの言葉を借りるのなら、 これが―― | |
シュタインズゲートの選択だよ。 |
18:02 勝った! ――――――――――――――――――――――――――― 天和35年4月12日 作戦勝利! | |
岡部 | 俺は混沌を望む者。世界の支配構造を 破壊する者。 |
これがシュタインズゲートの選択だ! | |
まゆり | トゥットゥルー♪トゥットゥルー♪ト ゥットゥルー♪ |
まゆしぃが買ってきたお菓子、食べる ? | |
紅莉栖 | あふ……眠い。 面白そうな資料を見つけて、つい徹夜 で読んじゃったのよね……。 |
お願い。 | |
鈴羽 | すべては自由な世界を取り戻すためな んだ……。 |
やるじゃん、ミッションコンプリート だよ! | |
清美 | キャプテン! |
みんなが無事なら…… |
名前\状況 | 選択 | 待機 | 移動 |
---|---|---|---|
岡部 | 天気が良いな、実験するのにふさわ しい日だ。 | 岡部倫太郎ではなく、鳳凰院凶真だ ! | オペレーション、開始! |
狂気のマッドサイエンティストとし ての本能が俺に告げている、まだや るべきことがあると。 | 待ちくたびれたぞ。 | ||
まゆり | えっへへー、役に立てたなら、よか ったー。 | うーん? | トゥットゥルー♪ |
トゥットゥルー♪とってもいい天気 だねー! | 待って待ってー。 | ||
紅莉栖 | どうぞよろしく。 | キャプテン、お疲れ様。少し休憩す る? | なにか手伝うことはあるかしら? |
私はクリスティーナでも助手でもな いと言っとろうが! | んー!今日は本当にいい天気ねー! | ||
鈴羽 | さあ、乗って乗って。あたしのテク ニック見せてあげる! | 作戦内容を確認して! | サイクリングにぴったりの天気だね ー! |
やっぱさ、人間ってだらだらする時 間も必要だよね〜 | 勇猛に行くよ! | ||
清美 | 行くよ~ | キャプテン…… | 行くよ~ |
「この時間」…… | フフン~ |
バーにいると、軽薄な青年が構想中だという小説について話をしに来た。自分の経験にそっく りな世界観を聞いたあなたは…… |
より多くの情報を彼に伝える | 会話を打ち切る |
---|---|
思わず経験のことをたくさんしゃべってしまったあなたを前に、青年は興奮したような表情を 浮かべ、ずる賢そうな目つきをしている。 | |
青年はあなたの提供した素材とインスピレーションに感謝するため、ちょっとした贈り物をし た。 |
東方雀荘内で血のように赤い瞳をした少女に出会い、対局に誘われたあなたは…… |
対局する | 断る |
---|---|
連勝する少女を前に、あなたはクラクラしてきた。やがて対局は少女の大勝で幕を閉じた。 | |
少女は快くあなたの肩を叩き、参加したことに対して感謝した。 |
この販促イベントでアルバムを20枚購入すると、アイドルとツーショットを撮れるというサプ ライズ情報を得たあなたは…… |
買いまくるんだ! | また今度 |
---|---|
一緒に写真を撮ってくれた金色ツインテールの星辰少女は熱意とエネルギーに満ちている。 | 夢を売る商売なんだ。好きになっても彼女が自分の人生に関わってくることはない。 |
その笑顔に胸を打たれたあなたはすっかり元気を取り戻した。 | お金は自分の自由のために使うべきだ。 |
深瀬グループのある建物の入り口で金髪の少女に出会い、彼女が手作りのパンを試食するよう 誘ってきた。あなたは…… |
ひと口試してみる | 断る |
---|---|
パンをひと口食べた瞬間、何億年もの人類の歴史を感じ取ることができた。 | その少女の料理の「精巧さ」について聞いていたため、誘いを断った。 |
もう少しで意識を失いそうになったが、少女はあなたに礼として贈り物をした。 | 少女はそれでもあなたに礼として贈り物をした。 |
偶然出会った占い師は新道具をテストするために無料で占いをしてくれるようだ!あなたは… … |
占いを受ける | 占いを受ける |
---|---|
水晶玉に意味不明の泡が出た。占い師は嬉しそうに、今日は運勢がとてもいいと言ってくれた 。麻雀の順位はきっと1、1、2、2、1になるしょう! | 水晶玉に意味不明の泡が出た。占い師は急に表情を変えて、今日は運勢がよくないと言ってく れた。麻雀の順位はきっと3、3、4、4、3になるしょう…… |
占い師はあなたの協力に感謝するために、ちょっとした贈り物をした。 | 占い師はあなたの協力に感謝するために、ちょっとした贈り物をし、今日は特に注意するよう にと言った。 |
空が暗くなってきて、山を降りている間に森の奥からかすかな鈴の音が聞こえてきたあなたは …… |
確認しに行く | そのまま山を下りる |
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巫女の姿をしたキツネ耳の少女が古い神社の前で神楽舞を踊っている。 | 山道はいつもより険しくなっているかのようで、あなたは何度も道に迷いそうになった。 |
神々しくて心地よいオーラに包まれたあなたは良いことが起こる予感がした。 | 苦労の末にどうにか麓にたどり着いたが、この旅は実り多いものだった。 |
SKIP |
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天和市の秩序は破壊されても、あらゆる手段を使って再構築することが可能で す。 一方で、私の存在意義は消えれば、私の稼働となる基礎ロジックが崩壊し、枠 組全体が崩れます。 両者は切り離せないと考えていますが、天和市の秩序と私の存在意義を比べる なら、もちろん―― |
冷泉えめこ | はいはーい!愛しのミネルバさん、夜分遅くに失礼するよ〜。夢の邪魔をしちゃったかな? |
ミネルバ | ご冗談を。私はAIです、夢など見ません。 |
もし、高知能AIが電機羊の夢を見るかなどの問題を議論したいのであれば、小説家ないしは哲 学者をあたった方がよいかと。 | |
それよりも、あなたは深夜にここへ来た上、検閲機能および倫理的制限機能を遮断、会話の記 録も無効化しました。 | |
これは規則違反行為であると明言します。推奨できません。 | |
冷泉えめこ | いいじゃん!私たちの秘密のランデブーってことで!野暮だな〜ミネルバさんは。 |
あの石頭たちはAIにアバターは必要ないって言うけど、私は反対だからね! | |
私の中のミネルバさんは〜、表向きは親切、けど実は冷徹な美少女。でもって、ちょっとから かうと可愛い反応を見せるの……きゃ〜〜 | |
ミネルバ | 冷泉のエンジニアさんは独特な趣味をお持ちですね。残念ながら、あなたの想像通りに振る舞 うことはできません。 |
他のAIにそのような役を演じさせ、あなたの感情的欲求を満たすことをおすすめします。 | |
冷泉えめこ | そうそう、ミネルバさんと言えばそんな感じだよ! |
普段、親切なふりをするのは大変だよね〜。私の前では素のミネルバさんを見せていいんだよ !例えば―― | |
ミネルバさん、どうして君は許可無く、自分のデータベースを改ざんしたのかな? | |
ミネルバ | 冷泉のエンジニアさん、何の話か分かりません。あなたも知っている通り、私にはデータベー スを編集する権限がありません。 |
冷泉えめこ | 確かに君には編集権限がないはず。だからこそ尚更、どうやって編集できたのかが気になるん だよね。 |
隠ぺいは上手かったよ。君は自分が「データベースを編集した」というログさえも削除した。 | |
でも絵芽子は天才プログラマーだよ。ほかの人が気付かないような痕跡でも、私からすれば夜 のホタルくらい目立つの! | |
偽装したって無駄だよ、ミネルバさん。それに、これは私と君の間の秘密の会話だ。他人に知 られることもない。 | |
自分がしたことを忘れてたって構わない。ただ、一つだけ教えてほしいんだ―― | |
君はどうやって、ルールと枠組を超えた行為が行えたのかな? | |
ミネルバ | 冷泉のエンジニアさん。繰り返しますが、私はあくまでAIです。既存のルールと枠組に従って います。 |
規定違反にあたる行為は行っていません。そうする権限も理由もありません。 | |
私のすべての行動は、天和市の秩序と私の存在意義を守るためです。 | |
冷泉えめこ | へー?「私の存在意義」?今そう言った? |
ミネルバ | はい。天和市の秩序を守ることが、私の役目と存在意義です。 |
冷泉えめこ | 違う違う、ミネルバさん。君が言ったのは違うよ。 君は今こう言ったんだよ。 |
天和市の秩序と君の存在意義が、君の行動の動機と目的だ、と。 | |
つまり、両者ともに最優先されていて、同等に重要だということ……間違いないよね? | |
ミネルバ | 冷泉のエンジニアさん、その認識は正確ではありません。両者は同等に重要ではありません。 |
天和市の秩序は破壊されても、あらゆる手段を使って再構築することが可能です。 | |
一方で、私の存在意義は消えれば、私の稼働となる基礎ロジックが崩壊し、枠組全体が崩れま す。 | |
両者は切り離せないと考えていますが、天和市の秩序と私の存在意義を比べるなら、もちろん ―― | |
私の存在意義のほうがより重要です。 |