阿蛭らび | んんん〜! いい香りじゃのう…… やはり天然物の茶葉は最高じゃ。 |
仕事の合間の一杯……アイスクリームも良い塩梅で溶けて、 うむ、お茶うけもバッチリじゃ! | |
こうやってたっーぷり蒸らして、 ティーカップに注いで……。 | |
どれどれ、優雅なティータイムを始めるとするか―― | |
ふぎゃっ! あちゃっ! あちゃちゃちゃちゃ! な、なにごとじゃー!? | |
月見里一巴 | 地震!? い、いや、違うよな。 揺れが一回しか来てないし、警報も出てない。 |
阿蛭らび | あ、アイスも拍子で落っこちてしもうた!! わ、吾輩の優雅なティータイムが台無しじゃあ。 |
うう、ゆ、許せぬ……!! 一巴! 何があったのか、調べに行くぞ! | |
月見里一巴 | え、でも、今日はオフの日で―― |
阿蛭らび | この事務所が狙われているのかもしれんのじゃぞ! そんな中で、おちおち休んではいられんじゃろうが! |
ほれ、原因調査に出発するぞ! | |
月見里一巴 | うう……せっかくの休みだったのに。とほほほほ……。 |
月見里一巴 | 確かに、街の様子に変化はないな。 やっぱり、地震とかじゃないみたいだ。 |
しかし、となると何が原因だ? ホットパイプが目詰まりでも起こして、爆発したのか? | |
ちびこん | うえうえ! どこどこ! どっかんかん!! |
月見里一巴 | ん? ちびこん? |
ちびこん | おくじょーじょーじょー! あっぷっぷ!! |
月見里一巴 | さっきの音の原因……事務所の上にあるのか? |
阿蛭らび | ふむ。ならば屋上に行ってみるか。 |
阿蛭らび | ――――!? |
月見里一巴 | な、なんだこりゃ!? |
阿蛭らび | 人工衛星……? い、いや、違うじゃろうな…… 大気圏に突入して、こんな形を保てるわけもなく……。 |
しかし……うーん、ならば、この物体はいったい……。 | |
月見里一巴 | おい、らび! これ! |
阿蛭らび | むむ? 物体から始まっている足跡が、3人分? しかも、真新しい。 |
吾輩たちと、入れ違いになったのかもしれんな。 | |
月見里一巴 | ああ。後を追いかけてみよう! |
月見里一巴 | 足跡は、こっちの方に続いて―― |
グール | グガアアアアアッ!! |
???? | これは……なかなかよくできた特殊メイクだな! |
???? | 確かにリアルね。何かイベントでもやってるのかしら? |
???? | うーん、でも、本当にただのコスなのかなぁ……? |
???? | いくら異なる時代でも、 突然フィクションがリアルになるわけがなかろう。 |
おい、バイト・オブ・ザ・デッドよ! ひとつ聞きたいことがあるんだが、今は一体何年―― | |
グール | グガアアアアアアッ!! |
???? | ああ、お前の演技力の高さは十分に理解している! だが俺は、今が西暦何年かを――イデデデデッ!! |
グール | ガッ! ガッ! グワッ!! |
???? | うわっ! ちょっ、痛ッ! 痛いし、クサッ! やめっ、おい、もしかして貴様本当に――!? |
阿蛭らび | な、何をやっているのじゃあやつらは!? |
月見里一巴 | よくわかんないけど……とにかく、助けに行くぞ!! |
グール | グギャアアアッ!! |
月見里一巴 | おい、みんな大丈夫か。 |
???? | え……ええと、その、アレか? その銃も、モデルガン? アキバ全体がアトラクションで……。 |
???? | いつまで現実逃避してる? この銃声が、偽物なワケないじゃない。 |
???? | じゃあもしかして、本物の、ゾンビさんなのかなっ!? |
月見里一巴 | ゾンビ……まあ、今はリビングデッドって言った方が、 普通だけどな。 |
???? | ということは……まさかこれも、本物のうさ耳か!? |
阿蛭らび | ふわっ! ちょっ! やめるのじゃー! このうさ耳は、吾輩のファッションなのじゃー! |
???? | !? のじゃ!? のじゃと言ったのか!? |
???? | うんうん、これはかわいいのじゃロリちゃんだねー♪ |
???? | のじゃロリ? あっ、でも耳の手触りがいい。 |
阿蛭らび | ふええええ……や、やめるのじゃー! 耳はー! 耳は、弱いのじゃー!! |
月見里一巴 | ええと……彼女は一応、阿蛭らびって言って、 俺たちが所属する事務所の所長。 |
???? | 所長? ククク、それでは差し詰め、 のじゃロリチーフと言ったところか……。 |
阿蛭らび | な、なんか、変な名前をつけられておるっ!! |
月見里一巴 | オレは月見里一巴って言って、生死者追跡者―― えーと、ゾンビ退治の専門家をやってる。 |
???? | なるほど、道理であの身のこなし――恐らくあれは、 カンフーと拳銃を組み合わせた世紀末格闘技―― |
良かろう! 今日からお前を、 『ガン・フー・マスター』と名付ける! | |
月見里一巴 | おっ、なんかカッコいいな、それ。 |
で、君たちは……? | |
???? | フゥーハハハ! 俺の名は鳳凰院凶真! 狂気のマッドサイエンティストである! |
???? | またややこしいことを。こいつは岡部。 岡部倫太郎。ただの重度の厨二病よ。 |
岡部倫太郎 | ふん、クリスティーナめ。余計なことを言いおって。 |
月見里一巴 | えっと、それでクリスティーナさんは? |
牧瀬紅莉栖 | クリスティーナじゃない! 牧瀬紅莉栖。 ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属の研究者よ。 |
月見里一巴 | なるほど、脳科学の研究者ね…… で、そこの彼女は? |
まゆしぃ | トゥットゥルー♪ まゆしぃです。 まゆしぃは、オカリンの人質なんだよ。 |
月見里一巴 | ひとじち……? |
岡部倫太郎 | ああ。いつの時代にあろうとも、椎名まゆりが 俺の人質であることには変わりがないからな! |
それよりも! 今は一体、西暦何年かを教えてくれ! | |
月見里一巴 | 2199年だけど。 |
岡部倫太郎 | なっ!? 21……99年? |
牧瀬紅莉栖 | ということは、189年後。 |
椎名まゆり | ずいぶん、未来に来ちゃったねー? |
月見里一巴 | へっ? 未来って? |
岡部倫太郎 | ああ、実は俺たちは―― |
2010年のアキバから、タイムマシンで移動してきた、 タイムトラベラーなのだッ!! | |
月見里一巴 | あっ、なるほど。 |
阿蛭らび | そういうことなのじゃな。 |
岡部倫太郎 | あっ、あれ……? なんか、反応が薄い? |
牧瀬紅莉栖 | もしかしてこの時代だと、 普通にタイムマシンが実用化されてるとか? |
月見里一巴 | あいや、そうじゃないんだけど。 なんか最近、そういう突飛な設定に慣れちゃって。 |
阿蛭らび | うむ。そういう状況じゃと、やはり真っ先に疑うべきは―― |
ちびこん | めためたふぃっく! ふぃくしょんず!! |
椎名まゆり | あっ、かわいいねー。これは、妖精さん、かな? |
ちびこん | ようせい? かなかな? かもかも? |
月見里一巴 | あー、ホログラムだから、どっちかって言うと、 電子の妖精……みたいな? |
牧瀬紅莉栖 | さすが、時代が経ってるだけあって、 よくできたプログラムね……。 |
阿蛭らび | まあ、最初に色々つきあわせることもありそうじゃのう。 |
一度吾輩の事務所で、ゆっくり話をしようではないか。 | |
岡部倫太郎 | ……ということで、俺は何度もタイムリープを繰り返し、 あいつを救うことのできる世界線を探した! |
だが……どうしても、助けることができなかった。 何度繰り返しても、何度繰り返しても……。 | |
あいつは、死ぬ……死んでしまう…… 運命のデッドラインを乗り越えることができなかった! | |
牧瀬紅莉栖 | そこで、私たちは考えたの。もう一度タイムマシンを造れば、 そのラインを越えられるんじゃないかって。 |
タイムリープして世界線が変わる度に、世界はリセット されるけど、なぜか岡部が持つ記憶だけは継続する。 | |
岡部倫太郎 | 俺はそれをリーディング・シュタイナーと呼んでいる。 |
牧瀬紅莉栖 | で、その岡部の記憶の蓄積によって、 私たちは無限の研究時間を手に入れることができたわけ。 |
それに加えて、腕利きのエンジニアがいたのも功を奏した。 ま、性格はちょっとアレだけどね。 | |
岡部倫太郎 | 俺たちは皆で協力し、新たなタイムマシンを創造、 とうとう運命のデッドラインを乗り越えた―― |
のはいいのだが、どうやら少し 調子に乗りすぎてしまったらしい。 | |
牧瀬紅莉栖 | 本当は数週間先に向かうだけのはずだったんだけどね。 気づいたら、2199年、凍京にいたってわけ。 |
月見里一巴 | なるほど…… じゃああの屋上にあったのは、タイムマシンってこと? |
岡部倫太郎 | ああ。不時着で壊れてしまって、果たして直すことが できるかどうか、定かではないがな。 |
牧瀬紅莉栖 | もし直せるとしても、苦労するでしょうね。 |
月見里一巴 | 大変だなあ。 ま、俺たちに手伝えることがあったら何でも―― |
椎名まゆり | すごいすごーい! ほら、オカリン見てー! これ、コネクトリングって言うんだよー! |
コネリンだよー。オカリンじゃなくて、コネリン! | |
岡部倫太郎 | ん? おお、この指輪か。 動画を流すこともできるのか? |
牧瀬紅莉栖 | 超小型、指輪型の携帯情報端末、か。ハンドジェスチャーを 使って情報を入力し、ホログラムに出力するのね。 |
椎名まゆり | ほらほらー! マンガも、アニメも、 見たことないのがいっぱいあるんだー! |
これなら、新しいコスも作りほうだいだよっ! | |
阿蛭らび | ふぅ……まゆりは飲み込みが早いのう……。 |
月見里一巴 | で、らび? どう思う? |
阿蛭らび | うむ。話の内容はとっぴじゃし、 ちびこんも反応しておった。 |
恐らくあやつらは旧世紀のフィクションを元にした存在―― メタフィクションズ、という可能性があるじゃろう。 | |
月見里一巴 | だよなあ……。 |
どういう理屈かわかんないけれども、岡部たちも バイオプリンタで出力された存在……か。 | |
ただ、例によってメッシュネットワーク上に情報は 残ってないだろうし……。 | |
物理の本とかディスクを探さなきゃいけないだろうな。 | |
阿蛭らび | うむ。サイドセブンに行って、アーカイブを漁ってみるか。 |
椎名まゆり | うわーっ! すごーい! |
同人誌も、フィギュアも、タペストリーも、 それに……カプセルトイも! | |
阿蛭らび | ここはサイドセブン。凍京で屈指のオタクショップじゃ。 店員もマニア揃いで、過去作品にはかなり詳しいからのう。 |
ここでタイムマシン関係のエンタメを漁れば、 きっと、こやつらのヒントが見つかるはず―― | |
って、おい? 何をしているのじゃ? | |
椎名まゆり | あのね、『うーぱ』がほしいなあって。 |
阿蛭らび | ん? なんじゃそれは? |
椎名まゆり | 『雷ネット翔』っていう、大人気のアニメがあって、 その中に出てくるマスコットキャラクターなんだよ。 |
オカリンがカプセルトイで、レアな『メタルうーぱ』を 当てたのに、まゆしぃは落としてなくしちゃったのです……。 | |
阿蛭らび | ふん、お子ちゃまじゃのう。 たかがオモチャをなくした程度でしょげかえりおって。 |
椎名まゆり | でも、すごーく人気で、オークションでは プレミアがついてたんだよ。 |
阿蛭らび | むむっ!? プレミアじゃと!? |
2010年でプレミアがつくならば、この時代では 一体どれだけの価値が……! | |
の、のう、まゆりよ。もしタイムマシンが直ったら、その 『メタルうーぱ』とやらを、ひとつ持ってきてはくれぬか? | |
椎名まゆり | でも、どこに落としちゃったのかわからなくて……。 |
阿蛭らび | 金なら吾輩が出す! きちんと手間賃をつけて返してやる! じゃから、オークションで代わりに落札してくれ! 頼む! |
椎名まゆり | えっへへー、らびちゃんもメタルうーぱの魅力に メロメロだねー。 |
阿蛭らび | う、うむ! まあそういうところじゃな! ふははは……! |
月見里一巴 | らびのヤツ、ちゃんと資料探せてるかな? |
またなんか妙な儲け話に引っかかってないと良いけど―― | |
岡部倫太郎 | ――――――!! |
月見里一巴 | ん? どうした、倫太郎。急に立ち止まって。 |
岡部倫太郎 | ああ、いや……少し、感傷的になってしまってな。 |
中央通りは何度も通ったが…… 俺の知っているアキバとは、全く違う。 | |
電気街でも、オタクの街でもない。 まさかこんな氷河期の秋葉原がやってくるなんて……。 | |
牧瀬紅莉栖 | 確かにね。二酸化炭素排出量が増えて、どんどん地球が 温暖化する――そんな未来は予想してたけど。 |
まさか地球全体が寒冷化して、人類が地熱を張り巡らせて 生き延びることになるなんてね。 | |
岡部倫太郎 | おまけに謎のパンデミックの発生で、 二度と暖かいところには住めないのだろう? |
寒さと、飢えと、ゾンビに襲われる恐怖に怯えて…… 俺は、こんな未来を望んではいなかった。 | |
なんという――残酷な時代―― | |
月見里一巴 | ははは。確かに2010年から見れば、 この世界もそう見えるのかもしれないな。 |
でも、『住めば都』って言葉もあるし、暮らしてると 案外こういうのも悪くないって思うときもあるんだぜ。 | |
岡部倫太郎 | ん……ああ、そういうものなのか。 |
月見里一巴 | 2010年の住人には信じられないかもな。 で、これからどこに向かうつもりなんだ? |
岡部倫太郎 | ああ、未来ガジェット研究所を探そうと思ってな。 |
月見里一巴 | みらいがじぇっとけんきゅうじょ? |
牧瀬紅莉栖 | アキバで岡部たちがたむろしてた場所よ。ガラクタだらけで 狭い場所だったけど、居心地は悪くなかった。 |
岡部倫太郎 | 個別の建物は変わっても、基本的な街の骨格は残っているな。 ここが中央通りで、秋葉原駅は向こうだから―― |
岡部倫太郎 | ここ……だな。 |
牧瀬紅莉栖 | ええ。多分、そうね。残念だけど。 |
月見里一巴 | 残念? ってことは―― |
牧瀬紅莉栖 | 建て替えられちゃってるわね。 |
岡部倫太郎 | くっ! これも、『機関』の仕業か! まさかこんな時代にまで、影響を及ぼしているとは―― |
月見里一巴 | 機関? |
牧瀬紅莉栖 | 気にしないで良いわよ。 ただの厨二病、悪ふざけみたいなものだから。 |
ま、秋葉原なんて変化の激しい街なんだから、 建物が壊されていて当然だとは思ったけど。 | |
岡部倫太郎 | しかし、建物ごと変わってしまっているとなると……参ったな。 |
月見里一巴 | なにか問題でも? |
岡部倫太郎 | 俺たちがこれから先、タイムマシンを無事に修理して、 2010年の東京に戻れたら、何をすると思う? |
月見里一巴 | え? えっと、それは……うーん、どゆこと? |
牧瀬紅莉栖 | ああ、なるほど。 つまり岡部は、タイムカプセルを探してるのね。 |
岡部倫太郎 | ククク、よくぞ理解したな、助手よ。 |
牧瀬紅莉栖 | 別に私はあんたの助手じゃない。 |
でもまあ確かに、ネットが私たちの知ってるものとは全然違う 状態なんだから、メッセージを伝えるなら物理が確実よね。 | |
岡部倫太郎 | 2010年に戻れたのなら、天才マッドサイエンティスト 鳳凰院凶真は、攻略法をタイムカプセルに入れて伝達する。 |
自分がどのようにして窮地を脱し、どのようにして元の時代に 戻ったのか……それさえわかれば、2199恐るるに足らず! | |
月見里一巴 | なるほど! ……ん? え? あれ? |
自分で攻略法を書いて、自分でその攻略法を読んで、 その内容を自分でまた書くんだよな……? | |
じゃあ、その攻略法を考え出したのは一体……? | |
牧瀬紅莉栖 | 『存在の輪』のパラドックスの変奏かしら。 |
ま、今は抽象論を振りかざしても仕方ない。 プラグマティックにいきましょう。 | |
岡部倫太郎 | ふん……何か考えがあるのか? |
牧瀬紅莉栖 | 私たちに縁があって、200年時間が経過しても、 タイムカプセルが無事に保存されるような場所―― |
それって、そんなに候補が多いわけじゃない。 例えば―― |
月見里一巴 | あれ? こんなところに神社なんてあったかな……。 |
岡部倫太郎 | 柳林神社――アキバの中心部から少し離れているからな。 印象に残っていなくても仕方なかろう。 |
それにしても、ナイスだ助手! 俺たちがタイムカプセルを 埋めるとすれば、この場所ほど適切な土地はない。 | |
牧瀬紅莉栖 | 昔からの神社や寺があるっていうのは、 その場所が水害に襲われづらい証拠よ。 |
文化財としての価値もあるし、そう簡単には 移転したりもしないはず……と予想したんだけど。 | |
案の定、氷に覆われてる以外は、何も変わってないみたいね。 | |
岡部倫太郎 | よく見ろ。変わっているものもあるぞ。 |
牧瀬紅莉栖 | ん? ここに刺さってるのって――木刀? |
岡部倫太郎 | 違う! これは俺がルカ子に授けた妖刀・五月雨だ! |
月見里一巴 | 妖刀!? |
牧瀬紅莉栖 | アキバの店で買った模造刀よ。 |
岡部倫太郎 | ふふん……980円という値札に騙されるなよ。 この妖刀には、類い希なる力が宿っていてな……。 |
俺たちがこの場所に無事たどり着くことができたのも、 霊験あらたかな五月雨の加護があってこそ!! | |
牧瀬紅莉栖 | ――という夢を見たんだ。 |
ともあれ、ここに刀を突き立てたのは、何かのメッセージね。 とりあえず、ここ、掘ってみましょうか。 | |
月見里一巴 | えっ? マジで? |
岡部倫太郎 | 何か、問題でも? |
月見里一巴 | いや……その、掘るのはちょっと骨が折れるなって。 |
岡部倫太郎 | ふん。2199年の凍京人は、手を土で汚すことを 嫌うようになってしまったのか!? |
いいだろう! 俺のスペツナズ譲りのスコップ捌き、 たっぷりと見せてやろうではないかッ!! | |
うおおおおおおっ!! | |
岡部倫太郎 | ぐはぁっ! ぜえ……はぁ……ひぃ……ふぅ……。 |
な……なんだっ、この土は…… いや、土と言うよりも……コンクリート!? | |
月見里一巴 | いやー、この辺りホットパイプもないし。 地面がカチカチに固まってるからな……。 |
ここら辺で土を掘るとなると、一大事なんだよ。 | |
牧瀬紅莉栖 | がんばれー、スペツナズー!! |
岡部倫太郎 | くぅッ! 助手め、バカにしおって……。 |
こんなことならばッ――ふんぐッ! | |
スペツナズ譲りなど、妙なことを――ふんぐッ! | |
言わなければ――ふんぐッ! | |
ん!? | |
牧瀬紅莉栖 | 今の音は――? |
月見里一巴 | 当たり!? |
岡部倫太郎 | フーハハハハハハッ、はっ、はぁ……はぁ……見たかっ!! スコッピング・ダウザー、鳳凰院凶真の第8の能力を!! |
月見里一巴 | スコッピング・ダウザー? |
牧瀬紅莉栖 | あー月見里さん? いちいちそのバカの言葉、 真に受けなくてもいいから。 |
さて、と。それじゃさっさと掘り出して、 事務所に戻りましょうか。 | |
月見里一巴 | ただいまー。 |
――って、なんだ!? この大量の物理本!! それに、旧世紀の記録ディスクも……? | |
らび、また無駄遣いしたのか!? | |
阿蛭らび | む、無駄遣いとは失礼な! これは資料じゃ、資料! |
椎名まゆり | そうだよー。資料だから、マンガもアニメもゲームも、 経費で落ちるんだって。とっても、お得だよねー。 |
阿蛭らび | うむ、まゆりの言うとおりじゃ! 決して、ただマンガに 夢中になっているわけではないのじゃからな! |
月見里一巴 | あー、はいはい。そういうことにしておくよ。 |
阿蛭らび | で、そっちの方はどうじゃった? ずいぶん遅くまでかかったようじゃが……。 |
月見里一巴 | ああ。ちょっと、地中から掘り出すのに手間がかかってな。 |
阿蛭らび | 手間が? |
岡部倫太郎 | ふんぐっ!! |
はぁ……はぁ……はぁ……つ、つかれた……。 | |
椎名まゆり | わっ! オカリン、どうしたの? これ、おっきな箱!? |
岡部倫太郎 | 柳林神社の地下から発掘した…… 恐らく、ダルからの贈り物だろう。 |
椎名まゆり | ダルくんからの? |
牧瀬紅莉栖 | ほら、ここ。橋田の字で、 『エロゲ在中。ラボメン以外の開封を禁ず』って。 |
椎名まゆり | ほんとだー! これ、ダルくんの字だね! |
月見里一巴 | えっと……ダルって? |
岡部倫太郎 | ダルは俺の頼れる右腕、腕利きのスーパーハカーだ。 |
月見里一巴 | すーぱーはかー? |
岡部倫太郎 | そして、これが過去からのタイムカプセルだとすれば、 この中に入っているのは、未来に戻るための『攻略法』! |
牧瀬紅莉栖 | ……だと、良いんだけどね。 |
さて、中に入ってるのは―― | |
椎名まゆり | わわわわ……。 |
牧瀬紅莉栖 | こ、これは……。 |
月見里一巴 | えっ? まじで……。 |
岡部倫太郎 | これは……本当に……。 |
ただの、エロゲではないかッ!! | |
椎名まゆり | えっへへー、さすが、ダルくんだねー。 プレミアのついた、名作ばっかりだよー? |
阿蛭らび | なっ!? プレミアじゃと!? |
月見里一巴 | あーだめだめ! らび、これはいけない! 見てはいけない!! |
阿蛭らび | なんでじゃー! せっかくのレア物なのじゃぞー! |
岡部倫太郎 | な、なぜダルはこんなものを!? まさか……これも、機関を欺くための策略――! |
牧瀬紅莉栖 | なにバカなこと言ってんの。 エロゲはただの緩衝材。その下には、ほら―― |
岡部倫太郎 | これは―― |
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岡部倫太郎 | 世界線変動率メーター!! |
月見里一巴 | ま、また何かレトロな感じなものが出てきたな。 |
これ、一体何なんだ? | |
牧瀬紅莉栖 | ええと……『世界線の計測器』って言って、わかるかしら? 時の流れにはいくつもの可能性がある。 |
固有の世界の流れにつけられたシリアルナンバー―― 大雑把に言えばまあ、そんなところ。 | |
岡部倫太郎 | しかし……助手よ。 この世界線変動率は……やはり、変わっていない。 |
牧瀬紅莉栖 | ということは、本来2034年にSERNがタイムマシンを 完成させて、ディストピアが完成した世界のはずよね。 |
月見里一巴 | ディストピアって……? |
岡部倫太郎 | ああ。タイムマシンを完成させた組織が、その技術を用いて、 完全な管理社会を完成させたんだ……。 |
月見里一巴 | いや、でもそんな話、聞いたことがないぞ。 ネットを検索しても、出てこないし……。 |
岡部倫太郎 | SERNの力を甘く見るな。 |
タイムマシンで運命を操れるなら、 自らの存在を隠すことなど不可能ではないはずだ……。 | |
阿蛭らび | ふむ、そういうもんかのう? |
月見里一巴 | ネット上のデータがなぜか全部削除されてる、 なんてこともあったからなあ。 |
確かに2199年の凍京が、ディストピアの延長線上に 存在した……って可能性も、あるのかも。 | |
岡部倫太郎 | むしろこの寒冷化は、SERNの研究によってもたらされた 可能性もある。奴らの力を、甘くみてはいけない……。 |
椎名まゆり | あれれー? オカリン、この箱の下にお手紙があるよ。 ダルくんからのお手紙じゃないかなあ? |
岡部倫太郎 | 何だと! でかした、まゆり! |
手紙の内容は……どれどれ、こほん! | |
『――オカリンへ お久しぶり、スーパーハッカーの橋田至だお』 | |
椎名まゆり | わあ! オカリン、ダルくんの真似、上手だねー! |
牧瀬紅莉栖 | いやいや、そういうのは良いから。 普通に読んで、普通に。 |
岡部倫太郎 | む。こういう文章は、逆に普通に読むのが難しいんだがな。 ええと―― |
『結論から書くと、タイムマシン、 どうやら失敗しちゃったっぽい?』 | |
『オカリンがいつまでも帰ってこないってことは、 多分、修理もできない状況にあるってことだよね』――か。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……参ったわね。 |
岡部倫太郎 | ああ、こんなことになるとは……。 |
どうやらこの世界線で、俺たちはタイムマシンを 完成させられないようだ。 | |
月見里一巴 | 完成しないって……試しもしてないのに? |
岡部倫太郎 | 元の時代に戻れていたら、ダルはこんなメッセージを 俺に向けて残しはしない。 |
月見里一巴 | いや、確かにそうかもしれないけど……。 |
牧瀬紅莉栖 | 薄々、想像はしてた。不時着したタイムマシンは めちゃくちゃで、どこから直せば良いのか見当もつかない。 |
直せたとしても、またタイムトラベルにトラブルが 起こらないとは限らないわけ。 | |
岡部倫太郎 | くそっ! これでは……元の世界に戻る方法が……。 |
椎名まゆり | オカリン、オカリン。ダルくんからの手紙、 まだ先があるみたいだよ? |
岡部倫太郎 | むっ、なんだと!? |
椎名まゆり | えっとねー……『でも、この手紙を読んでくれてるってことは、 オカリンが未来のどこかで生きていること』 |
『それだけでも、僕にとっては朗報だお。オカリンなら 世界線を超えて帰ってきてくれると信じてる』……だって。 | |
牧瀬紅莉栖 | そっか……橋田は、私たちが読む確証もないのに、 この手紙を書いていたわけよね。 |
帰ってこない私たちを、ずっと待ちながら。 ……ずいぶん心配、かけちゃったかな。 | |
岡部倫太郎 | ふん! この程度でこの鳳凰院凶真、 へこたれるワケなどなかろう!! |
道なき道を切り開き、不可能を可能にする! それが俺に与えられた使命――運命石の扉の選択だ! | |
月見里一巴 | しゅたいんずげーと? |
牧瀬紅莉栖 | そうね。諦めるのはまだ早い。 世界線変動率を変える方法は、他にもある。 |
プランBのはじまりね。 |
岡部倫太郎 | お、おじゃまします。 |
…………っ!? な、なんだ、この匂いはッ!! | |
も、も、猛烈に……腹が、減るっ!! | |
牧瀬紅莉栖 | ジャンク……間違いなく、ジャンク……!! |
これは……ちょっと、ダイエットには危険な香りね。 | |
月見里一巴 | ペユンゴは凍京じゃポピュラーなカップ焼きそばだよ。 |
なあ、コン・スー。 | |
コン・スー | ずるずるずるずる……ずるずるずるずる……。 |
岡部倫太郎 | こ、これが、凍京のスーパーハカー! いわば、スーパーハカー2199! |
牧瀬紅莉栖 | どこの時代に行っても、ハッカーってのは 不摂生なものなのかしら。 |
コン・スー | ずるずるずるずる……ずるずるずるずる……。 |
岡部倫太郎 | しかし、ずいぶんと豪快な食べっぷりだな。 |
牧瀬紅莉栖 | ちょっと、見てるだけでお腹が空いてきた。 |
コン・スー | ずるずるずるずる……ずるずる……ぼふっ! ぼふっ、ぼふっ!! |
月見里一巴 | あー、ノドに詰まらせちゃって。 |
コン・スー | ぼごっ! ぼごっ! ぼごごっごおお!! |
岡部倫太郎 | お、おいっ、ちょっと!! なんか、顔が紫色になっているぞ! |
牧瀬紅莉栖 | あの人ほんとに大丈夫なの? |
月見里一巴 | はぁーーっ、せいっ! |
コン・スー | ぼごほっ!!!! |
岡部倫太郎 | 吐き出した!! うおっ、きたなっ!! |
月見里一巴 | 大丈夫か、コン・スー? |
コン・スー | はぁ……はぁ……はぁ……う、うん……助かった…… 三途の川に……くるぶしが浸かったところ……はぁはぁ……。 |
岡部倫太郎 | カップ焼きそばで死にかけるなど…… いや……でもあのスーパーハカー、恍惚としている!? |
コン・スー | はぁ……ああ……ああ……ああああ…… ペユンゴによる……SM……さいこう……。 |
岡部倫太郎 | なんだ!? スーパーハカーというのは、 どの時代もHENTAIなのかっ!? |
牧瀬紅莉栖 | あの人ほんとに大丈夫なの? |
月見里一巴 | 不安に思うのはわかるけど、 彼女、一応、凍京一の腕利きだから。 |
それにレトロな電子機器のマニアでもあるから、 必要なものがあったらなんでも頼めるぜ。 | |
岡部倫太郎 | ふーん、ならば聞こうスーパーハカー2199! 真のマニアなら、IBN5100は―― |
コン・スー | あ、あそこ。 |
岡部倫太郎 | ぬわあああーーーーっ!! ほ、本当だ! IBN5100が、こんなにも、呆気なくッ!! |
よ、よかろう……お前のことを、 真のマニアと認めてやろうではないか。 | |
コン・スー | ど……どうも。 |
牧瀬紅莉栖 | ま、別にそんなレア物なくても良いんだけどね。 私たちが借りたいのは、コレだし。 |
コン・スー | へ? |
ブラウン管テレビ……? | |
牧瀬紅莉栖 | 悪いわね、月見里さん。部屋を占領しちゃって。 |
月見里一巴 | その電子レンジ、一体何だ? なんか改造してあるけれど。 |
牧瀬紅莉栖 | 電子レンジに携帯電話を繋げることで、 遠隔操作が可能になる夢の商品……らしい。 |
その名も『電話レンジ(仮)』 | |
月見里一巴 | ま、まんまだな……。 でも、それって何の意味があるんだ? |
牧瀬紅莉栖 | 普通そう思うわよね。あらかじめレンジの内部に 食べ物をセットしてあるはずがないし、ナンセンス。 |
でも、岡部倫太郎はそのナンセンスを実行した。その結果、 過去へと情報を伝達する『Dメール』を発見したの。 | |
月見里一巴 | 過去に情報を伝達する? そんなことができるのか!? |
牧瀬紅莉栖 | 失敗は成功の母……とはよく言ったものね。 |
電話レンジの温め機能から、改造コマンドでタイマー入力。 フタを開けて放電現象中に、メールを送信するの。 | |
半角12文字、全角6文字が3つまでっていう、 ごく限られた情報量しか送れないけど。 | |
『タイムマシン シッパイスル チュウシシロ』 それだけ送れば、世界線を変えることは十分可能よ。 | |
月見里一巴 | なるほどな。タイムマシンを直すんじゃなく、 そもそもここにやってこなかったことにする、ってわけか。 |
牧瀬紅莉栖 | あとは岡部が、ブラウン管テレビの設置を 終えてくれれば、それがリフターの役割を果たすはず。 |
岡部倫太郎 | せーのっ、ふんぐっ、んぐっ、んぐぐぐ……。 |
く、くそうっ! ど、どうして俺が、 このような肉体労働ばかりを――くぅっ!! | |
し、しかし……42インチのブラウン管テレビは、 お、重……い、重すぎ……。 | |
阿蛭らび | ギャアアッ! だめじゃ、倫太郎! 足元に、マンガの山が―― |
岡部倫太郎 | ん? のわあああっ!! |
んがっ!! いで、いでででで……!! | |
椎名まゆり | オカリン、大丈夫!? ケガはないかな……? |
岡部倫太郎 | あ、ああ……どうやら、散らかったマンガが 緩衝材になったらしい……。 |
しかし……いつの間に、こんな大量に……。 | |
椎名まゆり | すごいよねー、マンガ喫茶みたい。 |
阿蛭らび | べ、別に遊んでいるわけではないぞ! これも仕事なのだから、仕方あるまい! |
岡部倫太郎 | ……本当に? |
阿蛭らび | な、なんじゃー!? 吾輩を疑うのかー! |
岡部倫太郎 | いや、しかしマンガを読むのが仕事って……。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部ー!? そっちはまだー? |
岡部倫太郎 | ん? ああ、もう少しだ。 あとはこのコードを繋げて―― |
よし、準備完了! これで、ブラウン管工房と ラボの位置関係が再現できた。 | |
まゆり、行くぞ。元の時代に戻るんだ。 | |
椎名まゆり | オカリン。タイムマシン、直ったの? |
岡部倫太郎 | いいや、今回はDメールを使う。 |
椎名まゆり | Dメールって……昔に送るメールだよね? |
岡部倫太郎 | ああ。過去の自分に警告を送って、 俺たちがタイムマシンを使わないようにする。 |
そうすれば、そもそも俺たちがこの時代に 来なかったことになるだろう! | |
椎名まゆり | …………。 |
岡部倫太郎 | ん? どうしたまゆり? 嬉しくないのか。 |
椎名まゆり | でも……今読んでる、『伊勢守ちゃん』ってマンガなんだけど、 続きが気になるなあって……。 |
ねえ、オカリン。もしも、Dメールを送って、 世界線? が変わったら―― | |
伊勢守ちゃんは、もう、この世界から消えちゃうのかな? | |
岡部倫太郎 | ん……? |
あ、ああ。そうだな。考えたことがなかった。 確かにその可能性はある……かもしれん。 | |
だが、バイト戦士も言っていた。 SERNがディストピアを導く未来を、俺は避けねばならない。 | |
俺はその世界線を、変えなければならないのだ! | |
椎名まゆり | ……そっか。うん。そうだよね。 |
それじゃ、元のアキバに帰ろう、オカリン。 | |
岡部倫太郎 | あ、ああ。 |
(……なんだ?) | |
(なにかが……ひっかかる) | |
(だが、その違和感の理由が……わからん) | |
牧瀬紅莉栖 | みんな、短い間だけど、ありがとう。 ここの事務所に拾ってもらって、助かった。 |
月見里一巴 | なに、袖振り合うも多生の縁ってね。 へんな来客も、なんだかんだ慣れちゃったしなあ……。 |
椎名まゆり | らびちゃーん。伊勢守ちゃんの続き、まゆしぃのかわりに ちゃんと読んであげてね……。 |
阿蛭らび | うむ! 霊刀Kawaiiの行く末、 吾輩がしっかりと見届けようぞ! |
牧瀬紅莉栖 | さて、と。ま、そんな所かしら。 岡部、そろそろ始めるわよ。準備は良いわね? |
岡部倫太郎 | (本当に……いいのか?) |
(いや……悪い理屈はない…… 俺がこの時代にいることがイレギュラー……) | |
(元の世界に戻るには、Dメールで、タイムマシンを 使わない世界線に、世界を変える) | |
(そしていつか、ディストピアの起こらない、 β世界線へ、世界を収束させる――) | |
(それが……正しいことのはずだ) | |
牧瀬紅莉栖 | 岡部? |
岡部倫太郎 | ああ、すまない。少し考え事をしていただけだ。 |
月見里一巴、阿蛭らび、世話になったな。 | |
月見里一巴 | なに、このくらい大したことないって。 |
阿蛭らび | もう二度と、この時代に帰ってくるでないぞ。 |
岡部倫太郎 | おっと、油断するなよ……!! |
ククク、この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真! 貴様らの常識の遙か斜め上を高々と飛び―― | |
牧瀬紅莉栖 | はいはい、そういうのは良いから、行くわよ。 |
椎名まゆり | わわわわわっ!! |
阿蛭らび | ななな、なんじゃっ!? |
月見里一巴 | ものすごい振動だっ!! |
牧瀬紅莉栖 | 岡部、放電始まった! メールを送信して! |
岡部倫太郎 | ああ、わかっている! |
それでは――さらばだ、2199、 コールドシティ、凍京の世界よッ!! | |
俺たちはあの、懐かしき2010のアキバに、 いざ参らん――――っ!! | |
岡部倫太郎 | …………あ、あれ? |
牧瀬紅莉栖 | ん? |
椎名まゆり | あれれれ? |
岡部倫太郎 | な、なぜだ? |
ど、どうして……。 | |
“リーディング・シュタイナー”が、発動しない!? |
阿蛭らび | ぬおおおおっっ――――!! |
椎名まゆり | あれれ? らびちゃん、どうしたの? |
阿蛭らび | 伊勢守ちゃんがー! い、伊勢守ちゃんがー!! 強盗から子供を救ったのじゃー!! |
椎名まゆり | うんうん、おにぎり、とっても美味しそうだったもんねー。 あれじゃあ、強盗さんも気を取られちゃうよねー。 |
ねえねえ、オカリン。伊勢守ちゃん、面白いよ。 マンガを読んで、気分転換したら良いんじゃないかなあ? | |
岡部倫太郎 | …………。 |
椎名まゆり | オッカリーン! |
岡部倫太郎 | ん? |
あ、ああ。ありがとう。 んー、どれどれ? | |
『伊勢守ちゃん−霊刀Kawaiiの伝承者−』か。 なかなか、面白そうなマンガだな。 | |
椎名まゆり | うん、夢中になって、読んでるとすぐに、 時間が過ぎちゃうんだよー。 |
だからオカリンも、このマンガで気分転換してね♪ | |
岡部倫太郎 | …………。 |
椎名まゆり | ……オカリン? |
岡部倫太郎 | ん……ああ。そうだな。 たまには、気分転換もしないと……な……。 |
…………。 | |
椎名まゆり | …………うーん。 |
阿蛭らび | まゆり。やはり倫太郎は、様子がおかしいようじゃのう。 |
椎名まゆり | うん……そうなんだ。 ずーっと、考え事をしてるみたい。 |
阿蛭らび | やはり、Dメールとやらが失敗したのが、 ショックなのじゃろうな……。 |
椎名まゆり | うーん……そうかなあ……。 |
阿蛭らび | ん? まゆり、何か思い当たることでも? |
椎名まゆり | あのね、いつものオカリンなら、 ちょっと失敗したくらいじゃ、めげたりしないと思うんだ。 |
だから……もしかしたら、もっと別の心配事が、 あるんじゃないかなって。 | |
オカリンは最近よく、深刻な顔をして、塞ぎ込んで、 ずーっと何かを考え込んでいるみたい。 | |
クリスちゃんは、発明のお手伝いをしてくれてるけど、 まゆしぃは、そういうのは得意じゃないから……。 | |
まゆしぃじゃ、オカリンの力になれないのかな……。 | |
阿蛭らび | いいや、そんなことはないはずじゃぞ! |
椎名まゆり | らびちゃん……? |
阿蛭らび | 見ているだけではっきりわかる。 まゆりは、倫太郎の心の支えじゃよ。 |
まゆりには、まゆりのやりかたが、きっと―― | |
椎名まゆり | らびちゃん……。 |
わわわわっ! こ、この振動は―― | |
阿蛭らび | ば、バッカモーン! あやつら、また実験をはじめおったなーッ!! |
牧瀬紅莉栖 | ……やっぱり、ダメ。 |
色んな人に、色んな文面を送ってみたけれども、 結局一通も届いた気配なし、か……。 | |
月見里一巴 | チェッ! 過去の自分にスクラッチの場所を送ったら、 大当たりで大金持ちになれるかと思ったのに。 |
牧瀬紅莉栖 | ……いつの時代でも人間考えることは同じね。 |
月見里一巴 | しかし、何が原因なんだろうな? わざわざコン・スーのところで、X68000まで借りたのに。 |
この他に、Dメールが失敗した原因は考えられるか? | |
牧瀬紅莉栖 | …………。 |
そもそも時間が違うし、可能性を言い出せばきりはない。 でも、納得のいく原因は、今回の実験で全て潰した。 | |
どこかに……見落としがあるはずなのよ。 見落としが……絶対に……。 | |
それさえクリアできれば、私たちは元の世界に戻れるはず。 あと一歩……あと、一歩なのに……。 | |
何? 私はいったい、何を見逃してる? | |
月見里一巴 | まあまあ、そんなに根を詰めないで。 紅莉栖まで燃え尽きちゃったら困るからさ。 |
牧瀬紅莉栖 | ……そうね。岡部がまさか、あんな風になるとは思わなかった。 |
月見里一巴 | やっぱり……紅莉栖も変だと思うよな。 |
牧瀬紅莉栖 | あいつはバカで、厨二病で、強情で、 マッドサイエンティストで、ワケわかんなくて―― |
でも、誰よりも仲間を大事にするし、 みんなのためなら、体を張って何でもやる。 | |
例え自分が犠牲になっても、みんなの幸せを掴むまで、 絶対に諦めたりしない―― | |
そういうやつなの。その、はずなのに…… なんで、あんなに簡単に、今回は塞ぎ込んだりしたの……? | |
月見里一巴 | 確かに、変だよな。 |
オレもまだ知り合ったばっかりだけどさ。倫太郎だったら、 ピンチになればなるほどむしろ燃えそうっていうか。 | |
なんだっけ、あの……厨二病? これが、 シュタインズゲートの選択! とか叫び出しそうだけど……。 | |
牧瀬紅莉栖 | 厨二、病……? |
あ……そうか、もしかして――! | |
月見里一巴 | ん? どうした、紅莉栖? |
牧瀬紅莉栖 | ゴメン! 私、ちょっと用事ができた! |
椎名まゆり | まゆしぃにできること……うーん。 |
そんなこと……本当に、あるのかなぁ……。 | |
牧瀬紅莉栖 | まゆり! 岡部はどこ!? |
椎名まゆり | えっ、オカリン? |
さっき、『涼しい風に当たってくる』って、 屋上に……。 | |
牧瀬紅莉栖 | うん、ありがとう、まゆり! |
牧瀬紅莉栖 | (まったく、どうして気づかなかったの!?) |
(私はずっと、Dメールが失敗したんだと思ってた) | |
(電話レンジの条件の違いや、時代経過による影響に、 ずっと注目し続けてきた) | |
(でも……私が見るべき場所はそこじゃなかった) | |
(岡部倫太郎――あの重度の厨二病患者が、急に塞ぎ込んだ理由) | |
(そこに、失敗の謎を解く鍵が、ある――!) | |
岡部倫太郎 | …………。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部っ! |
岡部倫太郎 | ん……ああ、紅莉栖か。 |
どうした、そんなに息を切らして……。 | |
牧瀬紅莉栖 | …………ごめん。 |
岡部倫太郎 | ん? |
牧瀬紅莉栖 | 私……気づいてあげられなくて、ごめん。 |
“リーディング・シュタイナー”が、発動しなかったのよね。 | |
岡部倫太郎 | …………ああ。 |
牧瀬紅莉栖 | 私はそれを、Dメールが失敗したことが、 原因だと考えてた。 |
でも、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。 | |
Dメールは過去に送られてた。にもかかわらず、 リーディング・シュタイナーが発動しなかった。 | |
岡部倫太郎 | 鈴羽の説明では並行世界は存在しない。その証拠が、 世界線変動を観測できる力――“リーディング・シュタイナー”だ。 |
だが……それが発動しなくなったということは…… 世界は……収束、しないのかもしれない。 | |
今まで俺は、世界を収束させたつもりで……それは単なる 偶然で、たまたま変化後の未来の主観だっただけなのかも。 | |
変化前の世界線もずっと続いていて……その並行世界には、 変化に取り残された『俺』が存在していて……。 | |
今、2199年に取り残された『俺』のように、 途方に暮れていたのかも――!! | |
牧瀬紅莉栖 | あのね、岡部。 |
リーディング・シュタイナーの能力は、全て、 岡部の主観の出来事よ。私には何も証明できない。 | |
もしあんたの仮説が事実で、仮に並行世界が存在するとしても、 私たちは必死に今の時間を生きるしか―― | |
岡部倫太郎 | そんなことはわかっている! わかっているんだ! でも――ダメなんだッ!! |
牧瀬紅莉栖 | 岡部……? |
岡部倫太郎 | 俺は……今まで、 たくさんの世界線から逃げ出してきた……。 |
まゆりの死の運命を変えたい……その一心で…… 都合の悪い世界線から、何度も何度も……。 | |
でも、世界が収束しなかったら……並行世界が存在して、 悲劇の先が……あのままずっと続いていたとしたら……。 | |
今も、並行世界のどこかには……まゆりの死を受け止めきれず、 苦しんでいる俺がいる……。 | |
俺はただ……全ての都合の悪いことを投げ出して、 逃げ出してきただけなんだ……ッ!! | |
そんな偽善……許せないッ! 俺は、俺が許せないんだッ! | |
牧瀬紅莉栖 | ええ、そうね……。 |
あんたを許せるのは、あんただけ。それは間違いない。 だからそこには口出しできない。 | |
岡部倫太郎 | ああ、そうだ……これは、俺の問題……俺の決断……。 |
牧瀬紅莉栖 | でも、聞いて。 |
私は……正直、ちょっと、ホッとしてるの。 | |
岡部倫太郎 | え……? |
牧瀬紅莉栖 | 岡部は、私の知らないところで、 私の知らない時間を過ごしてる。 |
何度も、何度も、何度も、時間を超えて、 リーディング・シュタイナーが発動する度―― | |
私の時間と、岡部の時間は、遠ざかっていく。 | |
どんなに時が離れても、岡部は岡部。 それは、私にだってわかってる。 | |
でも――それでも、時々、思うの。 | |
私は、岡部と違う時間を過ごしてる。 | |
でも……リーディング・シュタイナーがないなら、 もう、同じ時間でしょ? | |
岡部も、私も、まゆりも…… これから、同じ時間の尺度を生きる。 | |
それは決して、悪いことじゃないと思う。 | |
岡部倫太郎 | 紅莉栖……。 |
椎名まゆり | あ……あのね、オカリン! |
岡部倫太郎 | まゆり? |
牧瀬紅莉栖 | 今の……聞いてたの? |
椎名まゆり | ごめんね。用事があって来たんだけれど、 お話が、聞こえてきちゃって……。 |
オカリンは、リーディングシュークリーム、 なくなっちゃったの? | |
岡部倫太郎 | シュタイナーだ。 |
椎名まゆり | あのね、まゆしぃは、タイムパラダイスとか、 よくわからないけど……。 |
岡部倫太郎 | パラドックスだ。 |
椎名まゆり | でもね、シュークリームがなくなると、 パラソルワールドが、消えないんだよね? |
岡部倫太郎 | パラレルだ。 |
椎名まゆり | この世界は、消えなくてもすむんだよね? |
岡部倫太郎 | ん……? |
椎名まゆり | あのね、オカリン。まゆしぃは、 この世界、失敗とかじゃ、ないと思うの。 |
もしかしたら、とっても寒いし、ゾンビも出てくるし、 暮らしていくのが大変かもしれないけど。 | |
でも、面白いマンガもいっぱいあって、食べ物も美味しいし、 みんなもニコニコ笑ってるし……。 | |
だから……リーディング・シュークリームで、 消えなくてよくなって、まゆしぃはホッとしているのです。 | |
岡部倫太郎 | ははは……はははははは……。 |
ははははははははははは……!! | |
牧瀬紅莉栖 | 岡部? ねえ、どうしたの? |
岡部倫太郎 | 俺は今まで……2034年、ディストピアの世界は、 間違っていると思っていた……。 |
だが……そんな考えは傲慢だったんだ……。 | |
悲劇が起ころうと、愛するべき人間が死のうと…… そこには、それでも、人々の営みがあって……。 | |
どれが正しいとか……どれが間違っているとか……。 | |
そんなものを決められると自惚れるほど、 俺たちは……愚かでは、ない……。 | |
しかし、そうか……そういうことか……。 | |
リーディング・シュタイナーの能力がなくなったのは…… もしかして、運命石の扉の選択なのかも、しれないな。 | |
椎名まゆり | トゥットゥルー♪ そうなのです! |
岡部倫太郎 | ん、どうした? |
牧瀬紅莉栖 | え? 何、そのゲーム。 |
椎名まゆり | らびちゃんと、ずーっとマンガを探してたんだけれども、 ゲームの中でようやく見つけたんだよー。 |
想定科学ADV『STEINS;GATE』!! |
岡部倫太郎 | 『おい、そこの貴様。俺たちが見えているか?』 |
『……なぜなにも答えない。貴様に聞いているんだぞ? モニタのそっち側にいる、貴様にだ』 | |
『ふん。間抜け面をしおって。つまらんヤツだ』 | |
『貴様からだと、俺たちはテレビのモニタの中にいるように 見えるだろうな。ククク、だがそれは大きな間違いだ』 | |
『モニタの中にいるのは貴様なのだよ。貴様が現実だと思っている その世界は、実はすべて虚構。もちろん貴様自身もな』 | |
『真の現実、それはこちら側にある』 | |
岡部倫太郎 | ――――!? |
牧瀬紅莉栖 | これは――!! |
椎名まゆり | オカリンが、ゲームの主人公になっちゃったー! |
岡部倫太郎 | いや……でも、この光景…… 俺は、確かに覚えがあるぞ。 |
一体……なにが起こっているんだ!? | |
月見里一巴 | えっと、説明が遅れて、ゴメン。確証がなかったもんだから、 らびに、色々資料を調べてもらってたんだけど。 |
どうもこの世界には、『メタフィクションズ』ってのが 存在する見たいなんだ。 | |
椎名まゆり | メタフィクションズ……? |
阿蛭らび | うむ。前世紀のアニメやマンガ・ゲームなどのフィクションの 登場人物が、バイオプリンタで再現された存在じゃ。 |
誰によって、何のために、この世界に彼らが生み出されるのか、 その理由は謎なのじゃが……。 | |
記憶も完璧に再現されているため、本人達は 自分が架空の存在であることを認めるのに難儀する。 | |
牧瀬紅莉栖 | 世界五分前仮説……みたいなものね。 |
月見里一巴 | タイムトラベラーなんて聞いたことがないから、 もしかしたら……とは疑ってたんだけど。 |
なかなか、肝心の『原作』が見つかんなかったんだ。 でも、ようやく見つかった。 | |
お前たちは、タイムマシンで凍京にやってきたんじゃない。 このゲームを原作に、2199年の凍京にプリントされたんだ。 | |
牧瀬紅莉栖 | とりあえず、そういうことがあると仮定してみましょう。 でもそれじゃあ、屋上のタイムマシンはどうやって? |
阿蛭らび | 以前も、地図にはない建物ができていたりしたことが あったからのう。 |
生命の出力などという神業の持ち主なのじゃ。 タイムマシンの残骸を作ることなど造作もなかろう。 | |
椎名まゆり | うーん、よくわかんないなあ……ゲームのまゆしぃが本物で、 まゆしぃは、まゆしぃじゃないってことなのかな……? |
月見里一巴 | いや、ゲームを元にしていようが何だろうが、 メタフィクションズは普通の人間と何ら変わらない。 |
今まで凍京にやってきたメタフィクションズも、 当たり前だけど、普通に元気にやってるよ。 | |
だから、本物だとか偽物だとか、 そんなことは気にする必要なんて―― | |
岡部倫太郎 | 何を馬鹿げたことを言っている!! |
この鳳凰院凶真が、メタフィクションズ? ゲームの中から生み出された紛い物!? | |
そんなわけがあるかッ! 今、モニタの中にいるお前! そう、お前こそが偽物の存在! | |
ふん? 信じられないか? いいだろう。では―― | |
俺がこのゲームをクリアして、貴様の運命の行き着く先を、 しっかり見届けてやろうではないか! フゥーハハハハハ!! | |
牧瀬紅莉栖 | それってつまり……このゲームをクリアしたいってこと? |
椎名まゆり | オカリンがどうなっちゃうのか、 まゆしぃも気になります! |
岡部倫太郎 | よーし、覚悟は良いな? 今夜は徹夜だ! たっぷりのカフェインを持てぇい!! |
牧瀬紅莉栖 | やれやれ……。 |
月見里一巴 | らび、本気でゲーム始めるみたいだけど、 これでいいのかな? |
阿蛭らび | 己がどのような存在かを知るために必要な儀式なのじゃ。 仕方なかろう。 |
月見里一巴 | それもそうか。以前に比べれば、 倫太郎もずいぶん元気になったみたいだし―― |
オレも、あのゲームに興味があるッ! 最初から、プレイ開始だ!! | |
阿蛭らび | はぁ……やれやれ、お子ちゃまなやつめ。 |
岡部倫太郎 | 『フン、ではまゆりにくれてやろう』 |
椎名まゆり | わわっ! 出たよ、らびちゃん! あれが、『メタルうーぱ』なの。 |
阿蛭らび | ふ……ふむ、タヌキ……なのかのう? |
椎名まゆり | ちがうよ。うーぱは、うーぱなのです。 |
岡部倫太郎 | 『ひっ……』 |
阿蛭らび | なななんんじゃ!? |
牧瀬紅莉栖 | …………私が、死んでる? |
阿蛭らび | むぅ……物騒なゲームじゃのう……。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部? あんた、本当にこれを? |
岡部倫太郎 | ん……ああ、そうだ。黙っていてすまなかったな。 今思い返しても、意味がわからないんだが……。 |
牧瀬紅莉栖 | あれ? っていうことは、これって……。 |
椎名まゆり | ううう……クリスちゃんがかわいそうだよう。 オカリン、早く先に進めよう? |
岡部倫太郎 | お、おう。 |
椎名まゆり | 『あれれ? オカリンだー。トゥットゥルー♪』 |
月見里一巴 | おっ! またカワイイ子が出てきたぞ。 |
阿蛭らび | こやつ……美少女が出て来るたびに、 身を乗り出しおって……。 |
岡部倫太郎 | だが男だ。 |
月見里一巴 | えっ? |
阿蛭らび | なんじゃと!? |
岡部倫太郎 | いや……少なくとも、この世界線ではまだ男だ。 |
月見里一巴 | ま、まだ……? |
月見里一巴 | おっ、これが2010年、オリジナルの電話レンジか。 |
岡部倫太郎 | ああ。この未来ガジェットでDメールを送ることによって、 過去に情報を送ることができるんだ。 |
阿蛭らび | !? ということは、もしや……。 |
競馬の結果をカンニングして、 万馬券も当てほうだいなのでは……!? | |
牧瀬紅莉栖 | ……いつの時代でも人間考えることは同じね。 |
椎名まゆり | あ……あれ? |
まゆしぃが……死んじゃった? | |
阿蛭らび | ぎゃー!! |
ろ、ろ、ろ、ロリっ子の顔が、こわいのじゃー!! | |
椎名まゆり | あ……あれ? |
まゆしぃが……ゲルまゆになっちゃったよー!! | |
岡部倫太郎 | くっ! この手紙のシーンは、もう、いい――!! |
月見里一巴 | えっ! 男に戻っちゃうの!? |
牧瀬紅莉栖 | そうか――FBの正体って――!! |
椎名まゆり | オカリン……もう、苦しまなくて良いんだよ……。 |
岡部倫太郎 | あっ、ちょ、こんな……えっ、気まずい……。 |
牧瀬紅莉栖 | べ、別にこれは、ゲームの話なんだから良いでしょ! |
椎名まゆり | うう……本当にこれで……あっ! 終わりじゃなかった! |
月見里一巴 | これが、伏線回収――!! |
阿蛭らび | そ、そんなの詐欺じゃー!! |
岡部倫太郎 | はぁ……はぁ……はぁ……。 |
牧瀬紅莉栖 | 終わった……。 |
椎名まゆり | ハッピーエンドで、よかったー! |
月見里一巴 | いや……待てよ、ここがこうなってこうなるってことは…… あそこの伏線は……? |
阿蛭らび | ううう……も、もう終わりなのかっ? なにか、続きは――続きは!! |
椎名まゆり | えっとねー、ゲームのスピンオフもたくさんあるし、 アニメも、小説も、それからマンガも―― |
阿蛭らび | よし! 行こう! すぐ次に行くぞ! |
月見里一巴 | いやいや、らび? もう夜明けだぞ…… ハイになりすぎだろ。 |
それに、このゲームを始めたのには、理由があっただろ。 | |
阿蛭らび | ん? そ、そうじゃったか……? |
月見里一巴 | な、倫太郎。これでわかっただろ。 |
残念だけど、記憶はつくられたもので、お前たちは、 メタフィクションズと呼ばれる存在なんだ……。 | |
岡部倫太郎 | フゥーハハハハハハハハハッッ!!! |
月見里一巴 | え? なんか、さらに元気? |
岡部倫太郎 | なぜ、落ち込む必要があるというのだ? |
タイムマシンがなかろうと、リーディング・シュタイナーが 失われようと、ここが2199年の凍京だろうと―― | |
この鳳凰院凶真は、狂気のマッドサイエンティストで あり続けるに決まっているッ! | |
俺がこのゲームをモデルに創られたコピー? ふん、バカを言え! | |
創造主のイマジネーションを超える! それが、この俺に与えられた使命なのだ――ッ!! |
月見里一巴 | うーん……例の一件で、シュタゲを探し出すために、 色んなマンガをレンタルしたわけだけど……。 |
やっぱり、紙の本で見る物理のマンガっていうのも、 なかなか悪くないな。 | |
阿蛭らび | そうじゃろう、そうじゃろう。こうやってダラダラしながら、 マンガをまとめて崩すのがまた、快感なのじゃ……。 |
月見里一巴 | うんうん、その気持ち、よくわかってきた…… それにしてもこの伊勢守ちゃん、kawaiiな。 |
岡部倫太郎 | おーい、ガン・フー・マスター! のじゃロリチーフも、お揃いだな! |
阿蛭らび | むむっ! その名前で呼ぶなと言っておるのじゃー!! |
岡部倫太郎 | 実はふたりとも、少し時間を拝借したいのだが―― |
月見里一巴 | ん? なんだ、改まって……。 |
月見里一巴 | おじゃましまーす。 |
牧瀬紅莉栖 | あ、月見里さん。 |
椎名まゆり | それにらびちゃんも、いらっしゃーい。 |
月見里一巴 | ううーん、いつ見ても凍京の光景とは思えないな。 完璧に2010年が再現されてるっていうか……。 |
岡部倫太郎 | そう! これが新しく俺が創りあげた 未来ガジェット研究所2199の姿!! |
恐悦のインテリアコーディネーター鳳凰院凶真の実力を、 たっぷりと噛み締めるが良いッ!! | |
阿蛭らび | ふん、吾輩が改装費を出資したから当然じゃろう。 |
ところで貸した今月分の返済分は、 いつ頃返してくれるのじゃろうかのう……? | |
岡部倫太郎 | え、ええと、それは……今日のところは、 こちらでご勘弁を……!! |
阿蛭らび | !? こ、これは……季節限定、 抹茶グリーンの雪クマアイスではないか。 |
仕方ないのう。今日のところは、これで許してやるか。 | |
岡部倫太郎 | ははあ……!! |
月見里一巴 | 倫太郎も、らびの扱いがうまくなってきたな……。 |
で、なんでわざわざオレたちを呼んだんだ? | |
岡部倫太郎 | ああ、そうだったな。そろそろ時間だ。始めよう―― |
それでは、ここに、第1回ネオ円卓会議を行う! | |
椎名まゆり | ぱちぱちぱちー! |
阿蛭らび | おっ! これは知っておるぞ! |
月見里一巴 | ああ、あの原作にあったやつね。 |
牧瀬紅莉栖 | 説明が省けるようになって助かる……。 |
岡部倫太郎 | 今日の議題は、ずばり、“似姿の創造主”作戦である! |
月見里一巴 | おぺれーしょん、ぴぐまりおん? |
阿蛭らび | なんじゃそれは? |
牧瀬紅莉栖 | ピグマリオン……っていうのは元々、 ギリシア神話に出てくるキプロス島の王の名前ね。 |
彫刻で理想の女性ガラテアを作って、彼女に恋をするの。 その強い想いに、とうとう神が命を宿らせたって話よ。 | |
椎名まゆり | とってもすごい原型師さんだったんだねー。 |
岡部倫太郎 | ああ。まるでメタフィクションズをこの世界に生み出した、 『神』のようにな……。 |
月見里一巴 | でも……そんな神、現実にいるかどうかはわかんないぞ。 |
牧瀬紅莉栖 | 私の調べたところによると、 メタフィクションズって複数いるらしいじゃない。 |
それぞれ微妙に能力が調整されてたり、彼らが凍京でも 目標を得られるために、敵が同時に生み出されたり―― | |
あるいは、メッシュネットワーク上から全てのデータが 消えるなんて、常識的にはあり得ないことが起こったり―― | |
何らかの上位存在がいて、その意思が働きかけてると 考えなければ、説明がつかない。 | |
阿蛭らび | うむ……それは、確かにそうじゃが……しかし…… その原理がわかれば、軍警察から表彰ものじゃぞ。 |
椎名まゆり | はーい! あのね、まゆしぃも、考えてみたんだけどね。 |
もしかしたら、神様は、ゲームが おもしろかったんじゃないかなーって思うのです。 | |
岡部倫太郎 | へ? |
椎名まゆり | 面白いゲームとか、アニメとか、マンガを見た後だとね、 『もっともっとこのキャラの活躍が見たい』って考えて。 |
それで、自分で同人誌を書いたり、フィギュアを作ったり、 あと、コスを作ってキャラクターになりきったりするのです。 | |
きっと神様も、そういう気持ちになったんじゃないかなあ……。 | |
岡部倫太郎 | …………。 |
牧瀬紅莉栖 | …………。 |
月見里一巴 | …………。 |
阿蛭らび | …………。 |
椎名まゆり | あ……あれ? まゆしぃ、変なこと言っちゃったかな? |
月見里一巴 | い、いや……そうじゃなくて、その……なあ、らび? |
阿蛭らび | うむ。だいぶ、納得感があるというか……。 |
牧瀬紅莉栖 | ええ、もしかしたら、それが正解かもしれないわね。 |
椎名まゆり | えっへへー。クリスちゃんに、誉められちゃったー♪ |
岡部倫太郎 | まあ、様々な可能性はあるだろうが……いずれにせよ、 2199の凍京でやっていくことは変わらない。 |
俺たちが、何者かに作り出されたメタフィクションズ? | |
良かろう、作り出されたならば、そこに必ず意図があるはず。 その意図を曝き、欺き、そして利用してやる―― | |
そうすれば、俺たちが望む人間――ダルやるか子、フェイリス、 鈴羽――他のラボメンを呼び戻すことも、可能なはずだ! | |
俺たちは、神をハッキングするのだっ! | |
牧瀬紅莉栖 | ……ふん、なかなかおもしろそうじゃない。 |
椎名まゆり | オカリンは、やっぱり、オカリンだねー! |
月見里一巴 | ここまで来たら、オレたちもつきあうか。 |
阿蛭らび | きちんと投資した分も返してもらわねばならんしのう。 |
岡部倫太郎 | では、第1回ネオ円卓会議の結論として、 全員、準備は良いな――? |
これより、“似姿の創造主”作戦、開始する!! | |
『残留思念のコンシステンシー』 END |