何度 繰り返しても、正解が見つからない苦しさと悲しさ…… 僕にも少し、理解できるのですよ。みー。 |
時間は人の意識によって、長くなったり短くなったりするものだと聞きましたのです。 だとしたら、この世界の時間が無限に続くように感じるのは、僕の誰かに対する想いがそうさせているのでしょうか。 |
世界線……つまり、無数に存在する並行世界に、異なる因果関係を持った僕がいるということ。 でも何故か、それは真実なのだと、腑に落ちてしまうのですよ。みー。 |
一つ賢くなった気がするのですよ。 |
どんな難問でも どんとこいなのです。 |
面白そうな素材を見つけだしましょうなのですよ。 |
色んな発見があって楽しかったのですよ。にぱー☆ |
こういうペアルックは、 照れるのですよ…… |
岡部倫太郎 | さぁ、行くぞラボメンたちよ! 人類の夢と希望、そして英知の粋を極めし シャングリラは我らの目前だっ!! |
公由一穂 | わわっ……走ると危ないですよ、岡部さん! |
牧瀬紅莉栖 | ちょっ……岡部! 待ちなさいって! ったく、なんであんなにも元気フルパワーで ひとり盛り上がってるんだか……。 |
古手梨花 | ……みー、仕方がないのですよ。 「あの」お店のことを知っている男子は、 みんなあんな感じになってしまうのです。 |
古手羽入 | あぅあぅ〜、僕も盛り上がっているのです〜! みんなでエンジェルモート、楽しみなのですよ〜♪ |
古手梨花 | みー。羽入が楽しみなのは甘いものなので 岡部とは趣が違うのですよ。 |
北条沙都子 | ……はぁ、私は楽しみではありませんわ。 お昼ご飯なら、私が作ると申し上げましたのに。 |
漆原るか | ご、ごめんね沙都子ちゃん。 岡部さんがどうしても、「あの伝説のメイド喫茶、 エンジェルモートに行きたい!」って……。 |
岡部倫太郎 | それに、サトノオリハルコン…… お前の野菜炒めは特別な人のために振舞うべきだ! 残念ながら、我々が口にしていい食べ物ではなぁい! |
北条沙都子 | なぜ、野菜炒め一択ですの?! 私、他にも色々と作れますのよーっ! |
北条悟史 | あはは、大丈夫だよ。沙都子が お料理上手なのは、僕たちもよく知っているから。 それはまた今度にしよう。ね? |
北条沙都子 | にーにー……。 |
岡部倫太郎 | それでは行くぞ皆の衆! 天使の園へ! フゥーハハハ! |
漆原るか | 岡部さんがこんなに楽しみにしてるなんて…… そんなに素敵なお店なんですか? エンジェルモートって。 |
牧瀬紅莉栖 | 一穂ちゃんたちからは、ファミレスだって 聞いたけど……なぜか目を反らされたわね。 |
竜宮レナ | はぅ……エンジェルモートは素敵なお店だけど、 「伝説」ってどういう意味なのかな、かな? |
鳳谷菜央 | あんまり深く考えなくてもいいわよ、レナちゃん。 ……まぁあたしは、レナちゃんと一緒だったら どんなお店でも天国だけどね♪ |
北条沙都子 | 私にとってはむしろ地獄ですわ! この時間だと、エンジェルモートには 確実に「あの方」がいらっしゃいますもの! |
鳳谷菜央 | えっ、ダメなの? |
北条沙都子 | 当然ですわ! 私が行くとサービスだと言って 頼んでもいないカボチャやブロッコリーを どっさり出してくるんですのよ?! |
北条悟史 | あれは、沙都子に苦手なものを 克服してもらいたいって気遣いで……。 |
北条沙都子 | たまの外食くらい、好きなものを 食べさせてくださいまし〜! にーにーの裏切り者〜! ふわぁぁあんっっ! |
北条悟史 | ええっ? な、なんで怒るんだよ沙都子っ? |
公由一穂 | さ、悟史くんは沙都子ちゃんのことを 裏切ってないと思うけど……。 |
鳳谷菜央 | ……そういう意味じゃないわよ、一穂。 エンジェルモートに入った時、 出迎えてくれるのは誰になると思う? |
公由一穂 | 誰って、それはもちろん……あっ。 |
鳳谷菜央 | そういうこと……悟史さんが「い」ることで、 沙都子と「あの子」の関係に微妙な対立構図が 生まれるってわけよ。 |
赤坂美雪 | …………。 |
園崎魅音 | いらっしゃいませ、ご主人様。 エンジェルモートへようこそ♪ |
岡部倫太郎 | お……おおぉぉっ? なんと素晴らしい再現度! 人気メイド喫茶でも、ここまでの高クオリティな 再現を前にしてはさすがに白旗を揚げざるを得まい! |
くっくっく……! 今も連絡1つ寄越さないダルよ! お前の「エンジェルモートに行ってみたいお♪」の ドリームは、代わりに俺が叶えてやったぞ! | |
涙を飲んで悔しがるといい! フゥーハハハ! | |
園崎魅音 | は、はぁ……よくわかりませんが、どうも。 って、あれ? ひょっとして、あなたは……。 |
牧瀬紅莉栖 | ごめんなさい、変なやつがいきなり押しかけて。 大人数で来ちゃったけど、席空いてる? |
園崎魅音 | なんだ、誰かと思ったら牧瀬さんたちでしたか。 ちょうど片づけたボックス席が2つありますから、 どうぞこちらへ。 |
牧瀬紅莉栖 | ……この時代にもあったのね。可愛い服を着た ウエイトレスさんがご主人様って呼んでくれて、 給仕してくれる特殊なお店が……。 |
公由一穂 | いや、その……ここだけだと思います。 |
漆原るか | あ、ありがとうございます……。 その服、とっても可愛いですね。 |
園崎魅音 | えっ? あ、あははは……そんなふうにさらっと 褒められると、逆に照れちゃいますね〜。 |
ご新規10名様、入りまーす! | |
鳳谷菜央 | 魅音さん……意外ね。 あぁいうタイプは、男性に褒められると もっと驚いたり照れたりすると思ったけど。 |
公由一穂 | 魅音さんの中じゃ、漆原さんは 女の子扱いなんじゃないかな……? |
鳳谷菜央 | あぁ、それはあり得そうね……。 |
赤坂美雪 | …………。 |
園崎魅音 | 綿流しの準備とか色々手伝ってくれてますし、 岡部さんたちも良かったら好きなもの、 じゃんじゃん頼んじゃってくださいね〜。 |
今日は私がおごりますんで、遠慮は無用ですよ♪ | |
岡部倫太郎 | おぉ、いいのかっ? では、定番のお絵かき オムライスを頼む。語尾に「にゃん♪」を つけるのを忘れずにな。後でダルに自慢する。 |
あとは……もがっ!? | |
牧瀬紅莉栖 | あのね……恥をばらまくのはやめて。 私たちまで同類と思われちゃうじゃない。 |
漆原るか | あ、あははは……あ、ボクはこの、 ストロベリーサンダーボルトパフェをお願いします。 |
牧瀬紅莉栖 | うわっ……これ、すっごく大きくておいしそう。 私も同じのを頼んでいい? |
岡部倫太郎 | お前らも欲望むき出しではないかっ。 だいたい助手、お前たちも……ん? |
園崎詩音 | ちょっとお姉、なにを油売っているんですか。 もうすぐ修羅場タイム突入なんですから、 サボっていないで厨房の方も手伝って――。 |
北条悟史 | あっ、詩音。 |
園崎詩音 | あら、悟史くんたちじゃないですか〜! 今日はお茶ですか、お食事ですか? |
北条悟史 | あ、あははは……岡部さんたちに誘われて、 ちょっとお昼ご飯にね。お邪魔じゃなかった? |
園崎詩音 | 全然っ! 悟史くんのためだったら、 たとえウェイトレス全員が修羅場に突入しても、 気にせず時間を作っちゃいますよ〜♪ |
北条悟史 | そ、それはさすがに申し訳ないよ……。 僕のことは気にしないで、 仕事に戻ってくれていいからね。 |
園崎魅音 | 悟史の言う通りだよ、詩音。 だいたい、もうすぐ修羅場タイム突入だって 呼びに来たのはあんたの方じゃんか。 |
園崎詩音 | あ、すみません。今から休憩に入りますので、 あとのことはよろしくでーす☆ |
園崎魅音 | よろしくじゃないよ! 職場放棄なんてしたら、義郎おじさんに 自給を下げるようチクってやるからね! |
園崎詩音 | もう、そんな固いこと言わないでくださいよ。 ……だいたいお姉、そんなことを私に 言っちゃっても本当にいいんですか〜? |
園崎魅音 | な……なんだよ。どう考えても私の方が 正しいに決まっているでしょ? |
園崎詩音 | いえ、こういうことはトータルで考えて もらわないと。たとえば先週に行われた、 町会の会合のこととか……? |
園崎魅音 | んげっ? そ、それは……?! |
園崎詩音 | 確かお姉、部活メンバーとの約束があるからって 「誰か」に代役を頼んでいきましたよね〜。 あれ、結構疲れるんですよ……? |
園崎魅音 | そ、その分の貸しはちゃんと払ったじゃんか! 払った以上は貸し借りなしでしょうが?! |
園崎詩音 | まー、そうとも言えますね〜。 ですが、もしこのことが鬼婆や母さんの耳に 入ったら、どういうことになりますか……? |
園崎魅音 | あーもう、わかったよ! 30分だけ大目に見てやるから、終わったら ちゃんと戻ってこないと承知しないからね! |
園崎詩音 | どうも〜、優しい姉を持って私は幸せ者です〜♪ |
公由一穂 | た、大変な光景を見ちゃった気がする……。 |
古手梨花 | ……みー。姉妹間ヒエラルキーが 明確に現れていたのですよ。 |
古手羽入 | な、なんだか怖くなってきたのです……ぶるぶる。 |
園崎詩音 | ……というわけなので、悟史くん。 邪魔者も消えましたので、ゆっくりたっぷり しっぽりと「一緒に」楽しみましょうねっ。 |
北条悟史 | あ、あの……ごめん、詩音。 今日はみんなと一緒だから、その……。 |
園崎詩音 | 大丈夫ですよ。みんなだったら空気を読んで、 私たちのために時間とスペースを譲ってくれます。 ……ですよねっ? |
北条沙都子 | べー! 冗談ではありませんわ! なんで毎度毎度詩音さんのために、 私たちが気を遣わなければ――。 |
なっ?……ひ、ひぃぃいぃっ?! | |
園崎詩音 | 「わかって」くれますよね……さ・と・こ? |
北条沙都子 | も……もももも、もちろんですわ! さぁ、こちらのお席にどうぞっっ! |
北条悟史 | え……いいの、沙都子? |
北条沙都子 | こ、こここ、これくらいはお安い御用でしてよ! を……をーっほっほっほっ!! |
園崎詩音 | ありがとう、沙都子♪ あなたが賢明な妹で、私も嬉しいですっ♪ |
北条沙都子 | く……くぅぅっ……! |
公由一穂 | ……詩音さん、笑顔でお願いしてたけど 背後に恐ろしい影が見えた気がするよ……。 |
古手梨花 | 詩ぃに鎧袖一触で蹴散らされる沙都子、 かわいそかわいそなのですよ、にぱー☆ |
公由一穂 | えっと……『鎧袖一触』って、どういう意味? |
鳳谷菜央 | わかりやすく言えば、『瞬殺』ってことよ。 |
赤坂美雪 | …………。 |
北条沙都子 | ……最近の詩音さんの横暴には、目に余るものが ありますわ! 梨花も、そう思いませんこと?! |
古手梨花 | みー、確かにそう言えなくもないとも 言い切れないような気がしないのですよ。にぱー。 |
古手羽入 | あぅあぅ、どっちなのですかー? |
北条沙都子 | 今夜も今夜で、にーにーは詩音さんの家に 連れられて、2人きりでお食事っ! せっかくお鍋にしようと食材を買いこんだのに……! |
鳳谷菜央 | ……なるほど。それでうちにあたしたちと一緒に 鍋パーティーをしよう、って持ちかけてきたのね。 |
北条沙都子 | こちらであれば、岡部さんたちが ご宿泊されておりますから……いくらあっても 足りないと言うことはないと思いまして。 |
すみませんわね、食材処理に付き合わせて しまっているようで……。 | |
公由一穂 | そんなことないよ! 昼に続いて、夜もご馳走が食べられるなんて……! |
はふはふっ……ん〜、おいしっ♪ | |
岡部倫太郎 | うむ。やはり鍋は、大勢で囲んでこそ その人数に比例してうまさも増すものだからな。 |
ん?……おい助手、そこの鶏肉は次に食おうと 目をつけてたんだ。勝手に取るな。 | |
牧瀬紅莉栖 | まだ肉はたくさんあるじゃない。 ケチ臭いこと言ってないで、ここは譲りなさい。 『レディファースト』って言葉、知ってる? |
岡部倫太郎 | 冗談ではないっ! ならば俺は、『弱肉強食』という言葉を お前に提示してやろう。ふんっ……あ、あれ? |
漆原るか | 岡部さん、牧瀬さん。ご飯の時に喧嘩は よくないですよ……はい、追加のお野菜です。 |
岡部倫太郎 | ぬぉっ! いつの間にか 俺と助手の小皿に、野菜が山盛りだと!? |
牧瀬紅莉栖 | み、見えなかった……どういう動きだったの? |
漆原るか | 秘密です。お野菜もちゃんと食べないと、 2人とも身体によくないですよ? |
北条沙都子 | ちょっと、そこのお三方! おいしいお肉をご提供したんですから、 少しはお話に参加してくださいませ! |
漆原るか | ご、ごめんなさい……つい、お鍋の管理に夢中になって。 |
牧瀬紅莉栖 | けど、詩音さん……でいい? 結局のところ、沙都子ちゃんは彼女を どうしたいと考えてるの? |
北条沙都子 | 決まっておりましてよ! 私とにーにーが 仲良く過ごしている時間を邪魔しないように 少し自重してもらいたいのですわっ! |
詩音さんのお気持ちもわかりますが、 もう少し遠慮という言葉を意識して くださらないと納得がいきませんのよっ! | |
鳳谷菜央 | 言いたいことはわかるけど…… それって詩音さんも、沙都子に対して ほぼ同じことを思ってるんじゃないかしら。 |
詩音さんの立場から言えば、沙都子は 悟史さんと過ごす時間が多いんだから 少しくらい譲れ、って考えてるだろうし……。 | |
……うん。あんたの要求が通るとは とても思えないわ。 | |
古手羽入 | あ、あぅあぅ……悟史をめぐって、 沙都子と詩音の間に血が流れる未来図が 目に浮かんでくるのですよ……! |
古手梨花 | ちなみに流れるその血の量は、99%以上が 沙都子のものなのですよ。にぱー。 |
北条沙都子 | 縁起でもないことを言わないでくださいまし! 1対1でぶつかり合えば、私も……私だって……。 |
…………。 | |
ボコボコにされた自分の姿が想像できましたわ。 | |
公由一穂 | え、えっと……それじゃ、沙都子ちゃんが 得意なトラップで対抗するってのはどう? |
鳳谷菜央 | ……得策とは言えないわね。その場では勝利を 収めたとしても、それ以上の報復をされるだけよ。 |
北条沙都子 | っ……口惜しいですわ。 結論として私では、詩音さんに立ち向かうための 手段がないということですのね……。 |
公由一穂 | えっと……沙都子ちゃん。 悟史くんと詩音さんが仲良くしてるのを 見るのが、そんなに嫌なの……? |
北条沙都子 | ……そういうわけではありませんわ。 詩音さんも決して悪い人ではありませんし、 嫌いになんてなれませんわ。むしろ好きですもの。 |
ただ……私だけを置いてきぼりにして 2人だけで楽しそうにしているのは、見ていて 微笑ましいと同時に、寂しくもありまして……。 | |
古手羽入 | あぅあぅ……沙都子には、僕と梨花がいるのです。 寂しく感じさせたりなんかしないのですよ〜。 |
北条沙都子 | ……ありがとうございます、羽入さん。 そのお気持ち、とても嬉しいですわ。 |
赤坂美雪 | …………。 |
古手梨花 | ……美雪。 |
赤坂美雪 | ん、なに梨花ちゃん? |
古手梨花 | さっきから、ずっと黙ったままボクの顔を 見つめていますですが…… ボクに何か、話したいことでもあるのですか? |
赤坂美雪 | 話したいこと?……んー、そうだね。 |
ちょっと外行こうか、梨花ちゃん。 | |
古手梨花 | みー……? |
古手梨花 | みー。どうしたのですか、美雪。 |
赤坂美雪 | ちょっと、梨花ちゃんと話がしたくてさ。 沙都子たちのことをどう見て、 何を考えてるのかな……って。 |
古手梨花 | ……美雪? |
赤坂美雪 | 梨花ちゃんはさ、気づいてるんじゃない? 岡部さんたちが来た時点で、この世界は正常じゃない。 |
だから、今のこの瞬間は…… いつか覚める夢のようなものだって。 | |
古手梨花 | ……みー。美雪が何を言っているのか、 よくわからないのですよ。 |
赤坂美雪 | あははは、確かに梨花ちゃんとしては そう返すしかないよね〜。 ……ま、そういうことにしておこうか。 |
古手梨花 | …………。 |
赤坂美雪 | 前置きはここまで。本題に入るよ。 ……沙都子はさ、詩音のことをもっと 拒絶しようと思えばできるんじゃない? |
でも、沙都子はわざとそれをしないようにしてる。 だから詩音は引かないし、悟史くんも 今はとりあえずだけど……詩音を優先してる。 | |
悟史くんを巡って争ってるようで、 実は沙都子が一歩引いてるように見えるんだ。 少し譲ってあげようとしてる……みたいな? | |
赤坂美雪 | そして、同じことが梨花ちゃん…… キミにも言えるんだよ。 |
古手梨花 | ボクが……ですか? |
赤坂美雪 | 最近の梨花ちゃん、なんだか寂しそうだからさ。 沙都子を取られて物足りない気持ちを 押し隠してるような……そんな感じでね。 |
私も、それと似たような経験があるから…… わかるんだよ。 | |
まぁ、私の場合は親友の気を引いた相手が ウバザメとかだったから、 ヤキモチも何もなかったけど……。 | |
古手梨花 | ……。美雪が言っていることが、 仮に本当だとしましょう。 |
だとしたら、沙都子はずっと悟史とは 一緒にいられないのですか? | |
赤坂美雪 | いられないよ。 |
……この世界は、そう遠くないうちに終わる。 岡部さんの無線機に、ダルって人から 連絡が来たら……それが終わりの合図だ。 | |
岡部さんたちが去れば、この世界はもう終わりだよ。 ……さみしいけどね。 | |
古手梨花 | だったら、終わるまでボクは我慢するのですよ。 確かにちょっと寂しいですが、悟史と一緒にいて 幸せな沙都子を邪魔したくはないのです。 |
赤坂美雪 | ……。本当に、それしかないのかな? |
古手梨花 | ボクには……それしか思いつかないのです。 |
菜央が言っていたように、 詩音と沙都子が求めているものが同じで ボクが求めているものも同じなら……。 | |
……全員の希望は、叶わないのですよ。 | |
岡部倫太郎 | 果たしてそうだろうかッ!? |
赤坂美雪 | うぉっ? な、なんだ?! |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! 少女たちよ、話は全て聞かせてもらったぞ! |
牧瀬紅莉栖 | 全てじゃないでしょ。 「ボクが我慢すれば」ってあたりからじゃない。 |
古手梨花 | 岡部……紅莉栖? |
岡部倫太郎 | 途中から、よりも全て聞かせてもらった、の方が 語呂がいいだろうがクリスティーナよ! |
牧瀬紅莉栖 | だからティーナって付けるな! 止めたのに飛び出したりして…… 何か考えがあるんでしょうね? |
岡部倫太郎 | あるに決まっているだろう! ……まぁ、ただの折衷案ではあるがな。 |
赤坂美雪 | えっ……折衷案って? |
岡部倫太郎 | 科学は時に人間へ牙を剥くが、時には優しく 包み込んでくれることもある、という話だ。 |
そのために、古手梨花! お前には我が臨時助手として働いてもらうぞ! | |
古手梨花 | ……み、みー? |
岡部倫太郎 | 特別部活! 狂気のマッドサイエンティスト、 鳳凰院凶真と科学実験の時間だ! |
古手梨花 | はじまるのですよ。にぱー☆ |
漆原るか | 頑張ってください、岡部さん。 |
牧瀬紅莉栖 | 梨花ちゃん、頑張って! |
竜宮レナ | ね……ねぇねぇ、これから 何が始まるのかな? かなっ? |
赤坂美雪 | 楽しい楽しい科学実験だよ! ……ま、のんびり楽しく眺めててよ。 |
園崎魅音 | へー、面白そうじゃん! それで、私たちは何をすればいいの? |
古手梨花 | ……これから全員にA、B、Cとシールが 貼っている薬品の入った試験管を配るのですよ。 |
中身はそれぞれ違うので、 そのまま持っていてくださいなのです。 | |
古手羽入 | あぅあぅ、みんな中身が違うみたいなのです。 |
園崎詩音 | なんですか、この液体……? ちょっとしか入ってませんし、 匂いも何もありませんが。 |
北条悟史 | 僕のは白い粉だね……なんだろう。 |
北条沙都子 | 私のも粉ですが、にーにーのものとは ちょっと違うような……? |
古手梨花 | まず、詩音と悟史は試験管A、Bの中身を このビーカーに入れてよく混ぜるのですよ。 |
園崎詩音 | はいはい、どれどれ………えっ?! |
北条悟史 | Aの液体とBの粉を混ぜたら、 急に青くなった……?! |
古手梨花 | 驚くのは早いのですよ ……次は沙都子の試験管Cの中身を、 ビーカーに入れるのです。 |
北条沙都子 | なんだかちょっとドキドキしますわね……えっ? |
古手羽入 | あぅあぅ、Cの粉を入れたら ビーカーの中身が赤っぽくなったのですよー?! |
古手梨花 | 沙都子、中身をよく混ぜてくださいなのですよ。 |
北条沙都子 | え、えっと……ど、どうしてですのっ? 中身が膨らんでまいりましたわ?! |
竜宮レナ | こ、これってなんでかな……かなっ?! |
鳳谷菜央 | 色もちょっと変わったわね。 薄いピンク……いえ、これは紫? |
公由一穂 | ど、どうして……? |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! これが! 科学だっ! |
漆原るか | あの……どうしてこうなったんでしょうか? |
牧瀬紅莉栖 | まぁ、種明かしをするとね…… 悟史くんの試験管Bの中には、紫キャベツから 取れるアントシアニンと重曹が入ってたの。 |
園崎詩音 | じゃあ、私の持っていた試験管Aの中身も 何かの薬品だったんですか……? |
古手梨花 | いいえ、それは普通の水なのです。 |
園崎魅音 | 普通の水なのに、なんで色が変わったの?! |
牧瀬紅莉栖 | アントシアニンが水のアルカリ性に反応して、 青に変わったのよ。 |
北条沙都子 | では、私の試験管の中身は? |
古手梨花 | みー。それはレモンの成分を 粉にしたものなのですよ。 |
牧瀬紅莉栖 | アントシアニンがレモンの酸に触れて 強く反応した部分が赤色になって…… よく混ぜたことで中性になったってわけ。 |
漆原るか | あれ……これに似た色を、理科の朝顔を使った 実験で見たような……? |
牧瀬紅莉栖 | 朝顔で作るリトマス試験紙ね。 原理的には、それと同じよ。 |
北条悟史 | じゃあ、どうして急に膨らんだんですか? |
岡部倫太郎 | 重曹が酸に反応したのだ。この2つを混ぜると、 二酸化炭素が発生して派手な泡ができるのだよ。 |
北条沙都子 | か、科学……なんて奥深い! |
竜宮レナ | はぅぅ、すごーい! これかぁいいよぉ! おっ持ち帰りしたぃ〜っ! |
赤坂美雪 | かぁいいか、これっ? かぁいいか?! |
古手梨花 | やったのですよ、岡部。 みんなびっくりどっきりなのです。 |
岡部倫太郎 | お前もよく臨時助手を務めてくれたな。 ……だが、よく短期間でここまでの薬品を 揃えられたものだ。 |
牧瀬紅莉栖 | 入手は簡単なものばかりだけど、 数があったから揃えるのは大変だったんでしょう? |
古手梨花 | 魅ぃと詩ぃに手伝ってもらったのですよ。 |
園崎詩音 | この程度の薬品でしたら、 うちのツテを使えばすぐ揃いますからね。 |
園崎魅音 | ぜーんぶ安全なやつばかりだしね! |
北条沙都子 | あらあら、まるで危ない薬品も時間をかければ 手に入ると言いたげですわね。 |
園崎詩音 | えぇ、そうですよ。 |
北条沙都子 | ……えっ? |
園崎詩音 | そう、恐ろしい薬品も手に入りますよ…… たとえば、かぼちゃフレーク! |
北条沙都子 | ひぃぃいいっ! 劇薬ではありませんか! やめてくださいましー! |
赤坂美雪 | 劇薬……ではないよね、カボチャフレークは。 |
公由一穂 | あ、あはは……。 |
北条悟史 | 沙都子、なにも逃げなくても……。 詩音もそのくらいにしておいてあげて。 |
園崎詩音 | はーい♪ |
漆原るか | でも岡部さん、よくこんなこと思いつきましたね。 |
岡部倫太郎 | 俺たちの世界では、知育菓子などに 使われている技術だからな。 |
公由一穂 | 知育、菓子……? |
岡部倫太郎 | あぁ、平成初期は違う呼び方をされていたのか。 テーレッテレー! のやつ、と言えばわかるか? |
赤坂美雪 | あっ、あの魔女が出てくるCMの?! 子どもの時に食べたよ! |
鳳谷菜央 | あれって科学だったのね……意外ね。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部もそういうの、よく食べてたんだ? |
岡部倫太郎 | あぁ。まゆりと一緒に、よく作ったのだ。 |
(回想) | |
まゆり | 見て見て、オカリン! 一瞬でもこもこになったよ〜! 魔法みたい! すっごーい! |
AとBの粉を混ぜてこんなふうになるなら、 他の粉を混ぜたら、もっとすごいことに なるのかなー? | |
(回想ここまで) | |
岡部倫太郎 | ……まさか、こんなところで 役に立つとは思わなかったがな。 |
牧瀬紅莉栖 | まゆりに助けてもらったってことね。 戻ったら、感謝しないと。 |
園崎魅音 | ねぇねぇ、早く次の実験を始めようよ! |
古手羽入 | もぅ待ちきれないのですよー! |
牧瀬紅莉栖 | ええ、今行く。 |
園崎詩音 | ふふっ、次は何を作るんでしょうか? |
北条悟史 | うん……楽しみだね。 |
北条沙都子 | をーっほっほっほっ、科学万歳でしてよ〜! |
古手梨花 | ……岡部、ありがとうなのです。 |
岡部倫太郎 | ん? |
古手梨花 | おかげでボクも沙都子も悟史も詩音も、 みんなとても楽しいのです。 |
岡部倫太郎 | そうか……なら、よかった。 |
相手と2人だけで過ごしたい、という願いは これでは叶わないが……みんな一緒に、 同じ時を過ごす。 | |
……これも1つの願いの叶え方だとは思わないか? | |
古手梨花 | ……。全ての願いが叶わなくても、 全てを捨てる必要はないということですか? |
岡部倫太郎 | その通りだ、ベルンカステル。 |
古手梨花 | みー……だから、ボクはそんな名前ではないのですよ。 |
岡部倫太郎 | ……台所の流し台の下の、収納スペースの奥。 |
古手梨花 | えっ……?! |
岡部倫太郎 | 何故それを、といいたげな顔だな。 案ずるな、ばらすつもりは毛頭無い。 |
だが時には、もうすこし腹を割って 話し合ってもよいのではないかと思うぞ。 | |
古手梨花 | それは……人生の先輩としての アドバイスなのですか? |
岡部倫太郎 | それについてはノーだな。 お前の方が、ある意味先輩なのだからな。 |
古手梨花 | ……岡部の言ってることは、よくわからないのですよ。 |
牧瀬紅莉栖 | よくわからないからこそ、 科学者は真理を求めて探求するんでしょう? |
岡部倫太郎 | っと、なんだ突然……驚いたではないか。 |
牧瀬紅莉栖 | 話し込むのはあと。さ、実験に戻りましょう。 みんな次の実験をウズウズしながら待ってるわよ。 |
岡部倫太郎 | 待ちきれないか……くくく、 ならばその期待、応えてやろう! |
いくぞ、臨時助手! 実験の再開だ! | |
古手梨花 | はいなのですよっ、にぱー♪ |