Steins;Gate × ひぐらしのなく頃に命 台詞集


※名前部分は振り仮名が振られており、平仮名にも振られている。
ただし複数名 表記の際は振られない。

フロム・ザ・フューチャー


プロローグ
……例年よりも早い梅雨明けが宣言されて以来、
最近は朝から晩までじっとりと汗ばむくらいの
暑い日々が続いている。
ただ、この雛見沢において6月――特に月後半は
大切な期間だ。そのせいか村は普段よりも忙しく
騒がしく、なにより活気に満ちている様子だった。
そんな、ある日曜日の朝に――。


園崎魅音あっ、来た来たっ。
おーい、こっちこっちー。

公由一穂おはよう、魅音さーん!


鳳谷菜央レナちゃん、おはよう!


竜宮レナあははは、おはよう菜央ちゃん。
今日は綿流しのお手伝い、頑張ろうねっ。

鳳谷菜央うんっ!


相変わらず仲良しの菜央ちゃんとレナさんは、
気合十分とばかりに元気よく言葉を交わし合う。

今日は、雛見沢の村祭り――『綿流し』の
設営準備の日。私たちは魅音さんに頼まれて、
そのお手伝いをすることになっていた。
園崎魅音それじゃ、早速古出神社に向かおう。
そろそろ町会の人たちが作業に入る頃だからさ。

赤坂美雪おっけー。……って、詩音は?
あの子もここで待ち合わせる予定だったよね?

竜宮レナそれなんだけど……詩ぃちゃんは
沙都子ちゃんたちにお土産を持っていくから、
先に行くって連絡があったよ。
赤坂美雪お土産?……なんか言葉通りに受け取って
いいものかどうか、怪しい感じだねぇ。

園崎魅音なんでも詩音のやつ、この前葛西と一緒に
東京へ行ってきてさー。そこで妙な飲み物を
大量買いしてきたそうなんだよ。
公由一穂妙な飲み物……? あの、それって何?


園崎魅音さぁ? 今日みんなにも飲ませるから、
楽しみにしてろって話だったけど……
やけにテンション高めなのが気になるね。
赤坂美雪なんにせよ、私と菜央は『綿流し』参加は
初めてだからさ。お手柔らかに頼むよ〜。

鳳谷菜央お手柔らかに、って……
そんな乱暴なお祭りじゃないでしょ?

竜宮レナはぅ、乱暴なお祭りって……たとえば?


赤坂美雪えーっと、私もよく知らないけど……
担いだ御神輿をぶつけあったり、とか?

園崎魅音あっはっはっはっ!
それはそれで面白そうだけど、
綿流しはそんなド派手なお祭りじゃないよ。
公由一穂そ、そうだよね……あははは。


なんてことをわいわいと喋りながら
自転車を走らせていると、ほどなく目の前に
古出神社の石段へと向かう坂道が見えてきた。
竜宮レナそういえば一穂ちゃんは、綿流しのお祭りに
参加したことがあるのかな……かな?

公由一穂えっと……あるとは思うけど、
まだ小さかったからあんまり覚えてなくて……。

レナさんに答えながら自転車を参道のそばに止め、
私は神社へ向かおうと石段に足をかける。

――と、その時だった。


公由一穂……っ……?!


ふいに、奇妙な感覚に襲われた私は
足を踏み出した姿勢のまま、動作を止める。

公由一穂(今の……なに……?
目の前が、歪んだように感じたけど……)

竜宮レナ……はぅ、どうしたの?


公由一穂えっ、あ……あの……?


頭上からの声にはっ、と我に返って顔をあげると、
石段の中ほどで立ち止まったレナさんと魅音さんが
怪訝そうにこちらを見下ろしているのが見えた。
園崎魅音なになに、どしたの?
3人とも、急に立ち止まったりしてさ。

公由一穂えっ……?


横へ振り向くと、魅音さんの言葉通り
美雪ちゃんと菜央ちゃんもまた、私と同様に
石段の一番目で立ち止まっている。
目が合った2人は、それぞれ懐疑的な表情を
浮かべて戸惑っている様子だ。ということは……。

公由一穂(もしかして……
美雪ちゃんと菜央ちゃんも、感じたの……?)

竜宮レナはぅ……ひょっとして、忘れ物でも
思い出したのかな、かな?

公由一穂あ、ううん。そうじゃなくて……
さっき、何か感じなかった?

赤坂美雪あー、やっぱ一穂もか。
私も一瞬、何かと思って身構えちゃったよ。

園崎魅音へっ……身構えたって、何を感じたのさ?


鳳谷菜央えっと……うまく言えないけど、
突然視界が揺れたというか……。

園崎魅音揺れたって……地震?
うーん、私は何も感じなかったけどな。

竜宮レナレナも、特には……。


赤坂美雪いや、地震じゃなくて……
たとえば、TVの電源を切った直後に画面が
一瞬、ぐにゃって歪んだようになるでしょ?
あんな感じに、視界が歪んだように
なったんだけど……。

レナ・魅音……?


レナさんと魅音さんはよく理解できないと
言いたげな表情を浮かべ、首を傾げている。

鳳谷菜央……つまり、あたしたち3人だけみたいね。


公由一穂……っ……。


私たち3人だけが、変化を感じ取った。
……これって、何かの前触れだろうか。
それとも……?
園崎魅音……大丈夫?
まさか3人揃って、昨日はよく眠れなくて
寝ぼけてましたー、とか言わないでよね?
赤坂美雪んー……絶対違う、とは言い切れないかなぁ。
なんせ昨夜は遅くまで深夜番組を見て、
一穂なんか寝坊しそうになったくらいだし……。
公由一穂ちゃ、ちゃんと起きたよっ!
今日は寝起きからずっと、元気だったもん!

鳳谷菜央そうね。たまには朝もご飯がいいー、って
美雪とやり合うくらいに「元気」だったわ。
……おかげでやかましい朝食になったけど。
公由一穂ご、ごめんなさい……。


赤坂美雪まぁまぁ、和解したんだから言いっこなし。
それより、早く梨花ちゃんたちと合流しよう!
みんな、首を長ーくして待ってるって!
竜宮レナう、うん……。


レナさんはまだ不思議そうにしていたけれど、
私たちは元気アピールで適当にごまかしてから
改めて石段を登り始める。
ただ途中、お互いに目配せを交わして
「何かあった時のためにも慎重に行こう」と
無言で示し合わせていた……。
園崎魅音あ、そうそう。さすがに女の子ばっかりだと
力仕事がきついし、男子にも声をかけておいたよ。

赤坂美雪あ、そうなんだ。
いやー、前原くんってフットワークが軽いし
力持ちだから、こういう時は頼りになるよね〜。
まー、前原くんに声をかけたのは
別にやらせたいことがあるからかもだけどねー。

鳳谷菜央……別にやらせたいことって、なによ。


赤坂美雪そりゃ、準備ついでの部活に決まってるじゃん。
ついでに罰ゲームとして、前原くんには
恥ずかしい服を着せるとか、なんてのもいいね〜。
公由一穂ま、前原くんが負ける前提ってのは
さすがに甘く見すぎだと思うんだけど……。

なんて口を挟みながら、前原くんが
参加すること自体は私たちとしても
大歓迎……。
そう繋げようとした――次の瞬間だった。


竜宮レナはぅ……前原くんって、
誰のことかな……かな?

公由一穂えっ……?


……想定外の言葉に、私たちの足が止まる。


園崎魅音前原……?
あっ、ひょっとして美雪たちの友達のこと?

いやー、手伝ってくれるんだったら
1人でも多いほうが助かるし、
ぜひ参加してもらいたいけどねー。
公由一穂い、いやそうじゃなくて……むぐっ。


思わず重ねようとした言葉は、
背後から伸びてきた美雪ちゃんの手によって
口が塞がれたことで、強引に飲み込まされた。
赤坂美雪あははっ、じゃあそうしようかなー?
来てくれるかどうかわかんないけど〜。

公由一穂むー! むーっ!


鳳谷菜央……大人しくしなさい。
非常事態だってわかんないの?

公由一穂(ひ、非常事態……?!)


背伸びしながら耳打ちしてきた
菜央ちゃんのその言葉に、
私は思わず息をのんで固まった。
園崎魅音ん? なに、一穂?
何か私たちに言いたいことでもあったの?

鳳谷菜央ううん、別に。
お昼はご飯がいいー、なんて言い出したから
遠慮なさすぎってとっちめてあげてるだけよ。
園崎魅音あっはっはっはっ、心配いらないって!
あんたならそう言うと思って、今日のお昼は
パンとご飯両方を用意しているよ〜。
竜宮レナはぅ〜、もし足りなかったらレナが夕食を
ご馳走してあげるから、楽しみにしていてね♪

赤坂美雪おーっ、それは心強いねぇ。
んじゃ2人とも、私たちはあっちの水道で
手を洗ってくるから、先に行っててよ。
園崎魅音おっけー。
んじゃ、私は詩音たちを連れてくるね。

竜宮レナ行こっ、魅ぃちゃん。


そう言ってレナさんと魅音さんは、
笑いながら境内の奥へと進んでいく。

……あまりにも、自然な所作。
2人がわざと知らんぷりをして、私たちを
からかっているようにはとても見えない。
赤坂美雪はぁ……まいったな、これは。
……あ、ごめん一穂。急にキミの口を
塞いじゃったりしてさ。
公由一穂う、ううん……おかげで助かったよ。
でも、これって……?

赤坂美雪あの子たちの言ってる内容が急に変化する、
ってことは今まで何度もあったけど、まさか
前原くんの存在が突然消されるとはね……。
公由一穂ど……どうしよう。
前原くん、どうなっちゃったの……?!

赤坂美雪……。とりあえずは、変化した理由と
原因を突き止めるしかないね。

鳳谷菜央対応としては無難で、基本的なものね。
……ただ、突き止めた後はどうするのよ?

赤坂美雪そんなに焦らないの。理由と原因がわかったら、
次はどう解決するのか対応策を検討して――。

園崎魅音……おーいあんたたち、手はもう洗った?
詩音たちを連れてきたよ〜!

そう言って魅音さんたちとともに、
神社の奥からこちらへと向かって
駆けてくる複数の人影が見えた。
北条沙都子おはようございますですわ〜!


園崎詩音みんな遅いですよ。
待ちくたびれて、ひと眠りさせてもらおうかと
思っちゃいましたよ。
古手梨花みー。今日はよろしくなのですよ。


古手羽入あぅあぅ、一緒に頑張りましょうなのです〜!


やってきたのは、沙都子ちゃんと詩音さん。
梨花ちゃん、羽入ちゃん。そして――。

知らない少年やぁ、お疲れ様。
君たちもお手伝いに来てくれたんだね。

……明らかに、私たちの知らない男の子だった。


鳳谷菜央えっ……? あ、あの……?!


園崎魅音いやいや、残念だったねぇ。
詩音が居眠り決め込んでいたら、額か頬に
ラクガキでもしてやるところだったのに。
園崎詩音やめてくださいよ、お姉。
そんなことしたら今夜の沙都子の夕食が、
カボチャ尽しになっちゃうじゃないですか。
北条沙都子な、なんで私がとばっちりを受けるんですのー?!


公由一穂あ、あの……。


竜宮レナあははは……止めなくても
大丈夫なのかな、かな?

知らない少年うん。なんだかんだ言って、詩音は
沙都子のことを可愛がってくれているからね。

園崎魅音いやー、休日なのにあんたの手まで
借りることになって、なんか申し訳ないねぇ。
よろしく頼んだよ――「悟史」!
魅音さんが呼びかけた彼の名前を聞いて、
私たち3人は思わずあっ、と
声を上げかけてそれを必死に飲み込んだ。
鳳谷菜央えっ……?
悟史って、まさか……?!

公由一穂(詩音さんが探してたって言う、
沙都子ちゃんのお兄さん……?!)

竜宮レナとりあえず、朝のうちに終わらせなきゃ
いけないことがたくさんあるよね。早く始めないと
今日中に終わらないんじゃないかな、かな?
北条沙都子心配ご無用ですわ!
にーにーが作業を手伝ってくれるんですから、
まさに百人力、いえ千人力でしてよ〜っ♪
をーっほっほっほっ!


古手梨花みー。なぜか悟史本人ではなく、
妹の沙都子が自信満々なのですよ。

北条悟史あ、あははは……
とりあえず足を引っ張らないように、頑張るよ。

公由一穂…………。


沙都子ちゃんも、彼を兄だと認識している。
ということはやはり、詩音さんが探していた
北条悟史くんで間違いなさそうだ。
公由一穂(でも、お兄さんは去年の綿流しの日に
行方不明になってるはず……)

その疑問が、真っ先に頭の中に浮かんでくる。
だけど、それ以上に……
目の前に立っている彼の姿が……その……。
赤坂美雪え、えっと……キミ、悟史くん?
なんで、そんな格好をしてるの……?

北条悟史えっ、そんな格好……って?


赤坂美雪だ、だからぁ……!
いや、だって……にゃぅん……。

美雪ちゃんがひきつった顔で、
何かを言おうとして口ごもっている。
……気持ちはわかる。よくわかる。
でも、気になる! すっごく気になる!
「なんで悟史くんが、ここにいるか」という
当然の疑問以上にッ!
赤坂美雪つまり、キミは、なんで……!


どうして、巫女服なんて着てるのさ……?!




フロム・ザ・フューチャー 1話
世界線
?.??????
某日。
――秋葉原・未来ガジェット研究所。

岡部倫太郎フゥーハハハ!
ついに……ついに完成したぞ新たな発明が!
素晴らしい、実に素晴らしいっ!
牧瀬紅莉栖……何を真昼間から叫びまくってるのよ、岡部。
外階段からも声が聞こえてたわよ。

いい加減近所から警察か、
黄色い救急車を呼ばれても知らんぞ……
いやむしろ、私が呼ぶぞ?
岡部倫太郎おぉ、いいところに来た助手よ!


牧瀬紅莉栖助手じゃない。……で、何をしてたの?


岡部倫太郎実は最近、タイムマシンに代わる
新たな発明を思いついて、ダルに試作を
頼んでいたのだが……。
それが、ついに完成したのだ!
見るがいい、このニューマシンを!!

牧瀬紅莉栖ニューマシン……新たな発明?
どこに? どれが?

岡部倫太郎お前の顔についてる目玉はガラス玉かっ?
……えぇい、これだっ! これっ!

牧瀬紅莉栖これって……『電話レンジ(仮)』?
私も知ってるやつじゃない。
別に驚きもしないわよ。呆れるけど。
岡部倫太郎チッチッ……相変わらず浅はかなやつだ。
これは『電話レンジ(仮)』ではなぁい!

牧瀬紅莉栖っ……じゃあ、何なの?


岡部倫太郎タイムマシンは、素晴らしい発明だ……
しかしっ! 時間を巻き戻して、現実世界に
干渉するという行為には大きなリスクが伴う。
だからこそ、俺が選んだ
新たな可能性の道は……『仮想現実』!
この言葉、お前も聞き覚えがあろう!?
牧瀬紅莉栖『仮想現実』……つまり、VRのこと?


岡部倫太郎その通り! 助手ポイント+1だ、
ありがたく受け取るがいい!

牧瀬紅莉栖いや、いらんわ。
というより通算いくらで何の役に立つんだ?

岡部倫太郎そう! いわゆるVRの世界であれば、
たとえ大きな変化が起きたとしても
現実の世界線に影響を及ぼすことはない……。
であれば、電子空間――例えばゲームの世界に
この発明を用いて自我の情報を転送すれば、
VR以上のリアル体験ができるかも……いや、できる!
ゆえに! 目的を変更して強化改良された
これは、『電話レンジ改(仮)VR』と
呼ぶがいいッ!!
牧瀬紅莉栖……。どこからツッコめばいいのか
もはやわからないんだけど、なんで
そんなものを作ろうと考えたわけ?
岡部倫太郎これだっ!


牧瀬紅莉栖なにこれ……ラノベ?
『異世界転生・現実世界に疲れた僕が
勇者になって、快刀乱麻に大活躍』……?
おい……これは何だ?


岡部倫太郎何だ助手、知らんのか?
今巷ではやっている異世界転生モノ
……すなわち『なるぞ系』だ!
牧瀬紅莉栖『なるぞ系』って、投稿サイトの名称でしょ?
異世界転生はそのうちの1ジャンルだし、
それだけじゃ全く説明になってないんだけど。
岡部倫太郎……意外に詳しいな、助手よ。
そうか、お前も『なるぞ系』愛読者だったのか……。

牧瀬紅莉栖ししししとらんわ! ちょっと小耳に挟んだだけっ!


岡部倫太郎ほぅ、そうかそうか……んっふっふっ!


牧瀬紅莉栖なに、その変な笑い方は。
って、まさか……このラノベに
触発された、なんてことは……?
岡部倫太郎その通り! またポイントをやろう、助手!


牧瀬紅莉栖だから、いらないったら。
……というか、頭が痛くなってきた。

こうなったら、本格的に厨二病の治し方を
考えた方がいいわね。
ググったら出てくるのかしら……?
岡部倫太郎ググって治療法が出てくるなら、
厨二病などと言う言葉が存在するわけがない。
そんなこともわからんのか?
牧瀬紅莉栖……自分でわかってるんじゃない。
というかそんなアホ妄想に、よく橋田も
真面目に付き合ってあげたものね……。
岡部倫太郎フゥーハハハ! 当然だ!


ゲームの世界に入り込むという夢は
健全な男子であれば必ず見る夢、ある意味で
究極の至福だからな!
……まぁ今日はメイクイーン+ニャン2の
イベントデーであることを思い出した、とかで
テスト運転を後回しにして出かけてしまったが。
牧瀬紅莉栖……おい、開発者本人が実現する可能性を
全く信じてないようなんだが。

岡部倫太郎まゆりもだ! この世紀の大発明よりも
バイトを優先するとは、まったく嘆かわしい……。

せっかく3人分の機材を用意したというのに、
この世紀の大発明の価値がわからんとは!!

牧瀬紅莉栖いや、この上なく理解しての当然の判断でしょ。
バイトよりこっちを優先するとか、
その方が社会人として心配になるわよ。
ん……あれ?
ねぇ、誰かがドア越しに呼んでない?

岡部倫太郎ん、誰だ? 助手よ、扉を開けてやれ。
こっちは今、準備で手一杯だ。

牧瀬紅莉栖まったく。はいどうぞ……って。


漆原るかあっ、こんにちは。
牧瀬さんもいらっしゃってたんですね。
すみません、荷物で手が塞がってて……。
牧瀬紅莉栖漆原さんじゃない。
どうしたの、その大きな段ボールは。

漆原るかお野菜をたくさんいただいたので、
お裾分けに持ってきたんです。たまには
お野菜を食べるのもいいかと思って……。
牧瀬紅莉栖野菜……鍋パーティーとか?


漆原るかはい。前から皆さんのお食事には、
ちょっとお野菜が足りないんじゃないかと……。

岡部倫太郎おぉ、いいところに来たなルカ子!


漆原るかは、はいっ?
あの、何かやっておられたんですか?

岡部倫太郎違う。今から事を起こすのだ!
2人で実験を行うつもりだったが、
ルカ子が加わればちょうど3人!
早速始めるぞ! 準備しろ、助手!


牧瀬紅莉栖助手って言うな……えっ?
私は実験に参加するともしないとも、
一言も言ってないんだけど!?
岡部倫太郎いいから、このヘルメットを付けろ!
さぁ、準備が整い次第電源を入れるぞ……。

牧瀬紅莉栖まてまてまてまて。
そもそも何のゲームなのか、説明しろ。

漆原るか実験……? ゲーム、ですか……?


牧瀬紅莉栖それが、岡部がVR機材を作ったから
ゲームの世界に行くぞ、とか言い出して……。

漆原るかわぁ、すごいですね!
どんなゲームの世界に行けるんですか?

岡部倫太郎ふっ……よくぞ聞いてくれた!
今回飛び込む世界は、現実に起きた事件をもとにして
シナリオが描かれたと評判になったノベルゲーム……。
この、『ひぐらしのなく頃に』だッッ!


漆原るかあっ、そのゲーム聞いたことがあります。
すっごく怖いゲームなんですよね?

牧瀬紅莉栖えっ、ホラー系?
ロケラン撃ちまくってゾンビ倒しまくるとか?

漆原るかいえ、そういうゲームじゃなくて……。
確か田舎で起きた連続殺人失踪事件を
解決するとか、しないとか……?
岡部倫太郎ふっ……よく知っているなルカ子よ。
しかし狂気に彩られた事件などは、
このゲームが持つ魅力の一端でしかない。
その裏に隠された真実こそが……!
おおっと、ここからはネタバレになってしまうな。
前置きはこの辺りにしておくとしよう。
牧瀬紅莉栖つまり、これって推理ゲームなの?


岡部倫太郎厳密にはそれも違う、と俺は思っているが
まぁ、その認識で間違いでもないな。

牧瀬紅莉栖……つまりタネを知っている
推理ゲームの世界で、探偵無双しようってこと?

岡部倫太郎ぐっ!?……そ、それは断じて違うぞ!


他のジャンル……例えばアクションRPGの世界で
いきなりモンスターに襲われたりしたらどうする?
……ルカ子、回答!
漆原るかは、はいっ! えっと……
「妖刀・五月雨」とか武器があればいいですけど、
何も無ければ戦うのは難しそうですね。
岡部倫太郎その通りだ、ルカ子!


だが、平和・ほのぼの・牧歌的なゆるふわゲームは
この狂気のマッドサイエンティスト、
鳳凰院凶真の趣味ではなぁい!
つまりこのジャンルを選択したのは
シュタインズゲート……ひいては、
合理的なリスクヘッジの果ての結果だと言うことだ!
牧瀬紅莉栖つまり、岡部は既にゲームをプレイして
内容も犯人を知ってるから、仮に追い詰められても
どうにかなるだろうって寸法ね。
岡部倫太郎ぐっっ!?


牧瀬紅莉栖私は犯人知らないから、あとで教えなさいよね。
……って、なに? これ、テレカ?
絵柄違いで2枚あるけど……。
岡部倫太郎最近発売されたのは、
昔のゲームのリニューアル版なのだ。

そして、限定版特典の1つが、初代発売時に
特典として付いてきたテレカの復刻版というわけだ。

その梨花と沙都子の2枚組テレカは、
一時期ネットオークションで
何万円と言う値が付いたらしいぞ。
漆原るかテレカって、テレホンカードのことですよね?
ボク、久しぶりに見ました……。

牧瀬紅莉栖このスマホのご時世に、テレカって……。
電話料金の支払いにしか使えないんだけど。

岡部倫太郎ふっふっ、そうかそうか……お前には
古き良きテレカのよさがわからないか。

手のひらに収まる1枚のカード……
しかし、それを公衆電話に入れると
異なる場所にいる人間と繋がることができる……。
そのノスタルジックなロマンスとカタルシスを
味わえるのは、もはや限られた層……いや、
選ばれし者のみという時代だからな。
牧瀬紅莉栖……。公衆電話ならわざわざテレカじゃなくて、
普通にお金を入れて通話、でいいじゃない。

岡部倫太郎ダメだ。硬貨では拝金主義のニオイがする!


こんな小さなカードにも関わらず、
どこかの誰かと繋がることが
出来る力が秘められている……。
テレカの魅力は、その無限の可能性にあるのだ!


漆原るかな、なるほど……!


牧瀬紅莉栖じゃあ、このテレカ使うの?


岡部倫太郎使わん。と言うか使えん。
今時どこに公衆電話があるんだ?
落ち着いて常識を考えろ、助手よ。
牧瀬紅莉栖あんたが常識を説くな!
と言うか、テレカと公衆電話の魅力を語った口で
こっちに価値を尋ねてくるな!
と言うか、テレカだってお金で買うものでしょ。
拝金主義って……。

漆原るかあのー、これってどうすればいいんですか?
このヘルメット? を、被ればいいんですか?

牧瀬紅莉栖いいのよ、漆原さん。
こんなどうでもいいことに付き合わなくっても。

漆原るかい、いえ……前にテレビでVRの話を見て、
面白そうだなって思ってたので……。
もしよかったら、体験させてもらいたいです!
岡部倫太郎さすがだな、ルカ子。
では、助手は放っておいて俺たち2人で
遊ぶとしよう。
牧瀬紅莉栖ま、待ちなさい! わかった、わかったわよ!
私もやればいいんでしょ、やれば!

岡部倫太郎ふっ、お前も本当は遊びたいなら
素直にそう言えばいいものを……。

牧瀬紅莉栖違うっ!
漆原さんにもしものことがあった時、
あんたに任せるわけにはいかないでしょ!?
……で、このヘルメットを
被った後はどうすればいいの?

岡部倫太郎被った後は、座ってじっとしていればいい。
あとは、俺が設定が整えてこのスマホに入れた
専用アプリを立ち上げれば、ゲームが起動する。
ほら、早く座った座った!


漆原るかこ、こんな感じでいいんでしょうか?
……なんだかドキドキしちゃいます。
牧瀬さんは、VRってやったことありますか?
牧瀬紅莉栖あるけど……プロが作ったものでも
可能性は感じるものの、まだまだこれからが
成長期の分野、って感じだったわね。
まして、今回作ったのは岡部たちなんだし……
あまり期待しすぎないぐらいで
ちょうど良いんじゃないかしら?
岡部倫太郎おいそこ! ヘルメットを被った後は静かに!


漆原るかご、ごめんなさいっ!


牧瀬紅莉栖被った後は黙ってないといけないなら、
最初に言いなさいよ。

岡部倫太郎くっ、一言多いやつめ。今に見ていろ……!


よし、ヘルメットセット……完了。
スイッチ、オーン!!

(……ん、なんだこの景色?)


(ローディング時は、黒背景でラボのロゴが
右下で回転するように設定したはず……)

(なぜ、無数のカケラのようなものが、
光りながら回転しているのだ?
こんなものを組み込んだ覚えは……)
謎の声……っ……め。


岡部倫太郎ん……? 誰だ?


謎の声……ダメ! こっち来ちゃ、ダメッ……!!


岡部倫太郎……は?


※世界線『変動率』が抜けているのは原文ママ。
※「俺が設定整えて〜」は原文ママ。

2話
牧瀬紅莉栖ん……ここは、どこ……? 森……?


えっ、なんぞこれ。森……森っ?
私たち、いったいどうなったの!?

漆原るかす、すごい……!
ボクたち、本当にゲームの中に
入っちゃったんですか!?
牧瀬紅莉栖ちょ、ちょっと岡部!
これ、いったいどうなって……!

岡部倫太郎……。成功だ。


牧瀬紅莉栖は……?


岡部倫太郎……ふはははは、成功だッ!


青少年の憧れ、そして夢っ!
それを俺は……いや! 俺たちはついに
現実のものとしたのだぁぁっっ!!
牧瀬紅莉栖……。天才となんとかは紙一重って言うけど、
本当に実現させたのは褒めるべきかもね。

で……ここからは、どうするの?
どうすればゲームクリアで、脱出になるの?

岡部倫太郎――――。


牧瀬紅莉栖おい……岡部……岡部?


まさか、脱出方法を考えてなかった……
なんて、言わないわよ、ね?

岡部倫太郎……――ってなかった。


牧瀬紅莉栖……えっ?


岡部倫太郎……――ってなかったから。


牧瀬紅莉栖……ワンモア。


岡部倫太郎その……本当に成功するとは思ってなかったのだ!
この俺が一番驚いて……いや、正直に言おう!!

俺が作ったのは、ゲーム内の背景画像同士の
隙間に、ネット上に存在する様々な現実の写真を
参考にした存在しない景色を脳内補完させ……。
人間のアモーダル補完を応用・活用して
存在しないはずの二次元の景色を
三次元的に構築するシステムのはずだった。
だが……これはどうだ? 視界だけではない。
土の地面を踏みしめている感覚がある。
この肌に感じる暑さは何だ? 草の匂いは何だ?
視界を作り出すためのヘッドセットを
付けただけで、なぜこのような感覚が
存在しているんだ!?
正直怖いんだが! なんだコレ!?


牧瀬紅莉栖…………。


漆原るか…………。


牧瀬紅莉栖は、…………はぁああああっ!?


公由一穂よい、しょっ……と。


指定された荷物を運び終えて、息をつく。


園崎魅音お疲れ様〜。
いい感じに作業も進んでいるし、
そろそろ休憩にしよっか。
竜宮レナ集会所の冷蔵庫から、飲み物持ってきたよっ。


赤坂美雪ありがと、レナ。
じゃあ、ちょっと休憩させてもらおうかな。

鳳谷菜央……そうね。


肩からクーラーボックスを下げた
レナさんと魅音さんに促されて、
私たちは本殿の前に腰を下ろす。
柔らかい芝生の上で一息ついたものの……
どうにも気持ちが休まらない。

美雪ちゃんと菜央ちゃんも私と同じらしく
いつもの軽口もなく黙って汗を拭いたり、
ぼんやりと遠くを眺めたりしていた。
竜宮レナ一穂ちゃんたち……大丈夫?
疲れたのかな、かな?

公由一穂う、ううん。そうでもないよ……。


赤坂美雪あはは、あー……慣れないことしたから、
ちょぉっと気疲れしたのかもね。

鳳谷菜央しっかりしなさいよ。
肉体労働で下手に気を抜いたりしたら、
事故に繋がりかねないんだから。
竜宮レナそうだね。怪我しちゃったら、せっかくの
綿流しのお祭りも楽しめなくなっちゃうもん。

園崎魅音手伝ってくれるのはありがたいけど、
無理しないでね。
なんだったら、長めに休みを取ってくれていいよ。
公由一穂う、うん……そうさせてもらうね。


園崎魅音うんうん。
ほらっ、冷えた缶ジュースを持ってきたから
どんどん飲んでちょうだい。
公由一穂あ、ありがとう……。


竜宮レナじゃあレナたち、
他のみんなにもジュースを配ってくるね。

ぎこちなく笑いながらジュース缶を受け取り、
レナさんと魅音さんを見送る。

もちろん、私たちは疲れたわけじゃない。
この程度で疲弊するほど、弱くもないつもりだ。
ただ……。
北条沙都子にーにー、これどこに運びますの?


北条悟史それは実行委員のテントのところだよ。
……でも大丈夫かい、沙都子。
そろそろ休んだ方がいいんじゃないか?
北条沙都子平気ですわ。にーにーが働いているのに、
私だけのんびりしているわけにはいきませんもの。

古手梨花……みー。
沙都子、汗でびっしょりなのですよ。

園崎詩音無理して沙都子が倒れたら、かえって
悟史くんが心配しますよ。
張り切りすぎず、自分のペースを守りなさい。
古手羽入あ、あぅあぅ……。
沙都子は疲れているようなので、休んだほうが
いいと思うのですよ〜。
北条悟史……手伝ってくれるのは嬉しいけど、
みんなの言う通りだよ。
ほら沙都子、汗を拭いて水分補給をしないと。
園崎詩音悟史くんの方も、汗びっしょりじゃないですか。
拭いてあげますから、じっとしていてください。

北条悟史い、いいよ。僕は大丈夫だから……。


園崎魅音いくら神社でバイトしているからって、
あんたが休まないと沙都子も頑張っちゃうでしょ。
少しは休みなって。
竜宮レナはぅ……お祭りで倒れちゃったら大変だよ。


北条悟史……むぅ。わ、わかったよ。


少し離れた場所で、見慣れた人たちが
楽しそうに喋っている。でも……。

赤坂美雪……やっぱりというか、落ち着かないね。


公由一穂そう、だね……。


『前原圭一』が消えて、『北条悟史』が
存在しているこの状況を……私たちはすんなりと
受け入れることができない。
公由一穂ねぇ……これってどういうことなのかな?
前原くんが消えて、悟史くんがいるって……。

赤坂美雪よくわかんないけど……
ひょっとすると何かがきっかけになって、
この「世界」が変わっちゃった、とか……?
鳳谷菜央そう考えるほうが自然でしょうね。


赤坂美雪でも、今までの「あれっ、みんなが今までと
言ってることが違うな」……って時も、
あの目の前が歪むような感覚はなかったよね?
あれ、何だったのかな……?


鳳谷菜央今までと今回の世界の変化では、
根本的に何かが違うってことかもしれないわね。

赤坂美雪根本的に、ね。根本的と言えば、
その……「あれ」はどうすればいいんだろ?

鳳谷菜央「あれ」って?


赤坂美雪……言わせないでよ。


鳳谷菜央言いなさいよ。


赤坂美雪あーもう、だから悟史くんの巫女服だよっ!


公由一穂あ、あぁ……。


美雪ちゃんの控えめな叫び声に、
私たちは彼の服装を指摘した時の
部活メンバーの反応を思い出していた。
(回想)
園崎魅音えっ、悟史の巫女服?
バイトの時はいつも着ているけど、
誰かの趣味だって聞いたような……誰だっけ?
竜宮レナでもでも、とっても似合ってるよねっ。


北条沙都子にーにーの巫女服ですの?
確かに、若干動きづらそうではありますわね。

古手羽入でも、特に動きづらいと言っていたことは
なかったような気がしますが……。

古手梨花……みー。悟史の巫女服に
何か問題でもありますですか?

(回想ここまで)
赤坂美雪……とかなんとか、みんなふっつーに
受け入れられてたけどさ、おかしい。
すごいおかしい。ものすごっっくおかしい。
鳳谷菜央そう? レナちゃんの言うとおり
似合ってるし、服装は別に構わないと思うけど。

赤坂美雪似合ってる、ですませていいのかなぁ……。


鳳谷菜央それに、元々悟史さんは巫女服を
着てる人だったかもしれないじゃない。

公由一穂あ、あのね……私、子どもの頃の記憶って
ぼんやりしてるけど、巫女服着た男の人がいたら
絶対、間違いなく、覚えてると思うんだよ。
赤坂美雪おぅ、一穂がそこまで断言するとは……。


鳳谷菜央なんにしても、変化の原因を探らないと。
ここの作業が終わったら、少し動きましょう。

赤坂美雪……だね。元に戻す戻さないはともかく、
この状況を放置してると
こっちの頭がおかしくなりそうだし……。
公由一穂そ、そうだね……。


頷き合いながら、私たちはふと
部活メンバーの方を見やる。

彼らもようやく休憩に入ったのか、
地面に腰を下ろして魅音さんから
ジュースを受け取っていた。
園崎詩音悟史くん。今日のお弁当には
ブロッコリーたくさん入れてきましたから、
ちゃんと全部食べてくださいね。
北条悟史ちゃ、ちゃんと全部食べるよ……むぅ。


北条沙都子とかなんとか言って、残すつもりでは
ありませんわよね?

北条悟史そ、そんなことしないよ。
せっかく詩音が作ってくれたのに。

園崎詩音じゃあちゃんと食べてくださいね。
あ、私があーん♪ してあげましょうか?

北条悟史じ、自分でちゃんと食べるから……っ!


公由一穂沙都子ちゃんも詩音さんも、幸せそうだね……。


赤坂美雪そうだね……とりあえず、
休んでばっかりだと魅音たちに申し訳ないし、
体裁だけでも整えるとしよっか。
鳳谷菜央えぇ……。今回に関しては、
レナちゃんたちに力を借りるわけには
いかないでしょうしね。
赤坂美雪……しっかし、何がどうしてこうなったんだか。
はぁ、ジュースでも飲んで頭を冷やすかな。

そうぼやきながら、美雪ちゃんは首元に当て、
菜央ちゃんは手の中で持て遊んでいた
ジュース缶のフタを開けて、口元に運び――。
赤坂美雪ぶっ……ふっ?!
な、なにこれっ? すっごいマズい……!

鳳谷菜央なにこれ、薬みたいな味……っ?
あ、あたしこれ無理ッ!

2人は口に含んだジュースを噴き出し、
ゲホゲホとむせ込みはじめた。

公由一穂だ……大丈夫、2人ともっ?


赤坂美雪な、なんとか……
はぁ、一穂が平気な顔で飲んでたから
油断したよ……。
鳳谷菜央っていうか、あんた、これ平気なの?


公由一穂う、うん。普通においしいと思うよ?


赤坂美雪お、おぅ……ブラックコーヒーを
普通に飲める美雪ちゃんでも、
これはちょっとキツいんだけど……。
園崎魅音おーい、3人もこっちで休憩を……
って、どしたの?
美雪と菜央、百面相してるけど。
鳳谷菜央み、魅音さん、この……ペッパー?
ってジュース、なんなの?

園崎魅音あ、それ? 東京で売っている
外国のジュース、『ドクペ』だよ。

さっき話していた、詩音の東京土産だよ。
あの子、先に神社に行ったのは
これを冷蔵庫で冷やすためだったんだって。
鳳谷菜央……魅音さん、詩音さんと喧嘩でもしたの?


園崎魅音えっ、なんで?


赤坂美雪いや、だってこれ……。


竜宮レナはぅ……魅ぃちゃん。
せっかくくれたこのジュースだけど、
ちょっと飲みづらいかな……かな。
古手梨花……みー。なんだか風邪薬の
シロップみたいな味がするのですよ。

古手羽入……あぅあぅ?
僕はそんなに変な味ではないと思うのですが。

公由一穂うん、私も結構好きなんだけど……。


園崎魅音だよね、だよね!
私も結構おいしいと思うんだけどな〜。

園崎詩音お姉……舌大丈夫ですか?
これをおいしいとか、味音痴にもほどがありますよ。

園崎魅音……おい、買ってきたのはあんただろ。
自分が飲めないジュースって、どういうことだよ?

北条悟史うーん……でも、僕は嫌いじゃないというか
結構おいしいと思うよ。クセになる味というか。

園崎詩音ですよね、ですよねっ!
この薬品じゃない、ハーブっぽい味が
体に良さそうでいいですよね〜。
園崎魅音ちょっと詩音!
さっきと言ってること全然違うじゃん!

園崎詩音何言っているんですか。
自分がおいしいと思えないジュースなんて
わざわざ買ってくるわけがないでしょう?
園崎魅音くっ……!
あぁ言えばこう言う……!

赤坂美雪手のひらの回転が速い……
まるで誰かさんを見ているような……ちらり。

鳳谷菜央……なんであたしを見るのよ。


赤坂美雪いいえ、別に。


北条沙都子…………。


沙都子ちゃんは半々……
どころか、やや否寄りの意見に怖じ気づいたのか、
未開封の缶を片手に固まっている。
古手梨花沙都子……無理に飲まなくても良いのですよ。


北条沙都子い、いえ……せっかくいただいたんですもの。
いただきますわ……っ!

沙都子ちゃんは意を決したように
ジュースの缶を開け、ぐいっと一気に
喉へと流し込んだ。
北条沙都子……っ、……ぷはっ!


と、都会はジュースのお味も最先端ですのね……?


そう感想を述べた、沙都子ちゃんの笑顔は……
とても引きつっていた。

北条悟史無理して飲まなくてもいいよ。
残った分は、僕が飲むから……ね?

北条沙都子ご、ごめんなさいにーにー……。


落ち込む沙都子ちゃんの頭を、
優しく撫でる悟史さん。
その仕草に……お兄ちゃんを思い出す。
公由一穂(お兄ちゃん……)


失踪したはずの悟史くんがここにいるとするなら、
もしかしてお兄ちゃんもいたりするのだろうか?

公由一穂(でも、前原くんはどうなったのかな。
まさか、悟史くんの代わりに前原くんが失踪……?)

恐ろしい想像に、背筋に寒気が走った瞬間――。


竜宮レナあれ……?


古手羽入あぅ? レナ、どうしましたか?


竜宮レナあっちから話し声が聞こえてくるけど……
誰かいるのかな、かな?

園崎魅音……高台の方?
うーん、今日はあっちで作業する予定は
何もなかったはずなんだけどねー。
赤坂美雪気になるし、ちょっと見に行ってみようか。


※「持て遊んでいた」は原文ママ。

3話
雛見沢を見下ろす高台に近づくと
声はどんどん大きく、はっきりと聞こえてきた。

そして、私たちが見たのは……。


牧瀬紅莉栖バカなの!? 死ぬの!?
本気で脳みそポン酢につけ込まれたいのっ!?

私だけならともかく、漆原さんまで
こんな事態に巻き込んでおいて、
どう責任を取るつもりなのよッッ!?
岡部倫太郎お、落ち着くのだクリスティーナよ!
落ち着いて素数を数えつつ、
俺の襟首から手を放すべきだ!
……男の人が女の人に襟首をつかまれ、
前後左右縦横無尽に揺さぶられる姿だった。

岡部倫太郎ここで仲間割れをしたところで、
何も解決にはつながらな――うおおっっ!?

牧瀬紅莉栖ティーナって付けるな!
と言うか、その原因を作った張本人が
居直ってるんじゃないっ!!
漆原るかま……待ってください、牧瀬さん!
これ以上揺さぶったら、
岡部さんが死んじゃいます!
おろおろしていたもう1人の女の人が、
意を決した顔で女の人の腕にすがりつく。

牧瀬紅莉栖大丈夫、これはVR。ここで岡部をいくら
揺さぶろうがひっぱたこうが頭部切開しようが
現実の肉体への影響はほぼ皆無……。
そうよね、岡部!? そうって言って!
違うって言ったら今ここで頭部切開するわよ!?

岡部倫太郎まままま待て助手そうだと言いたいが
揺さぶられすぎて頭が若干ふらついてきた
というか結構酔ってきたっ、うっぷ!
牧瀬紅莉栖岡部!!


岡部倫太郎そ、そうだここで何かが起きても
現実の肉体への影響は薄い、はずだ!
そして落ち着いてよく考えてみろ助手よ!
……の世界に入り込むというのが
本当に実現したとなれば、タイムマシンに
勝るとも劣らない世紀の大発明だ!
しかも現実には何の悪い影響も及ぼさない!
素晴らしいとは思わないか!?

この状況を前向きにとらえて、
この現象を分析して研究しようでは
ないか……うわぁっ!?
牧瀬紅莉栖前向きにとらえるよりも! 先に!
元の世界に戻る手段くらいちゃんと
用意しておけぇぇっっ!!
片腕を掴まれたまま、女の人は
もう片方の腕で再び男の人の襟首を掴んで
再び前後左右に振り回し始めた。
凄まじい勢いに、私たちは声をかける
タイミングも見失ってただ呆然と
そのやりとりを見守るしかできない。
北条沙都子……あれ、なんですの?


古手羽入あぅ……あの髪の長い女の子、
すっごく怒っているのですよ……。

園崎魅音痴話喧嘩……かな?


園崎詩音……たぶん、そうみたいですね。


赤坂美雪えーっと……止める? ほっとく?


鳳谷菜央……見なかったことにしましょう。
色恋沙汰の面倒はごめんだわ。

竜宮レナそ、そうだね。当事者以外が
首を突っ込んで、余計に話を
ややこしくしちゃう方がよくないし……。
公由一穂い、いいのっ?!
あの人、首ガンガン揺さぶられてるよっ?!

古手梨花みー……あのままでは
首がもげてしまいそうなのです。

公由一穂も、もげた首がすぽーんって
こっちに飛んできたらどうしよう……。

北条沙都子か、一穂さん……!
嫌すぎる想像をさせないでくださいましっ!

岡部倫太郎……お、おぉっ!
そこの現地少女たちよ、いいところに!

赤坂美雪おぅ、見つかった。


岡部倫太郎ちょ、ちょっと話を聞いて……
いや、その前に助けてくれぇぇ!!

園崎詩音えっと……呼ばれましたけど、どうします?


鳳谷菜央……。呼ばれたからには、行くしかなさそうね。


公由一穂ど、どうやって止めればいいのかな……?


最終的に、私たちはなんとか2人を止めた。
というか、物理的に2人を引き剥がした。

牧瀬紅莉栖はぁ、はぁ……。


公由一穂あの、えっと……だ、大丈夫ですか?


牧瀬紅莉栖あ、ありがとう……ごめんなさい。
ちょっと興奮しちゃって、
恥ずかしいところを見せちゃったわね。
漆原るかごめんなさい、ボクだけじゃ止められなくて……。


園崎魅音いやぁ、あれを止めるのは1人じゃ無理だって。


岡部倫太郎……いや、助かった。礼を言う。
だが……。

男の人が、ちらちらと巫女服姿の
悟史くんの顔を見ている。そして、さっきから
何か言いたそうな表情のようだけど……。
北条悟史あの……僕の顔に、何か付いていますか?


岡部倫太郎いや、そういうわけでは……。


園崎魅音この辺りじゃ見ない顔ですが、
どこから来たんですか?

牧瀬紅莉栖え、えっと……
ちょっと岡部、どうするのよこの状況!

まさか、ここが……の世界だなんて
言っても、信じてもらえるわけもないし……。

ロングヘアーの女性が口ごもる。
……肝心な部分が聞こえなかったけれど、
なんて言ったのだろうか。
岡部倫太郎ここは、俺に任せろ。
2人を連れて来た責任は取るつもりだ。

漆原るか岡部さん……!


ショートカットの女性は男の人を
キラキラした目で見上げているけれど……
ロングヘアーの女性は不安げな様子だ。
牧瀬紅莉栖嫌な予感がする。ちょっ、岡部――。


岡部倫太郎聞いて驚くな! 否、むしろ驚け!
俺は狂気のマッドサイエンティスト、
鳳凰院凶真!
こっちは我が『未来ガジェット研究所』の
ラボメン、牧瀬紅莉栖と漆原るか!

そして何より驚くべきは……
俺たちは、異世界からやってきたのだ!

牧瀬紅莉栖ば……バカっ!!
そんな言い方をしたら、私たちまで
頭のおかしいやつみたいに思われて――。
赤坂美雪――あ、そうなんだ。


岡部倫太郎へっ?


園崎詩音あら、ではお客さんということですね。


北条沙都子をっほっほっほっ、雛見沢にようこそですわ〜。


古手羽入あぅあぅ、ゆっくりしていってほしいのですよ。


竜宮レナ鳳凰院さんと牧瀬さんと漆原さん、ですよね。
よろしくお願いします。

園崎魅音あれ……でも鳳凰院さんって、
さっき牧瀬さんに岡部って呼ばれてなかった?

牧瀬紅莉栖えっと、コイツの本当の名前は
岡部倫太郎……なんだけど……。

園崎詩音へー、あ、もしかして鳳凰院って
もしかしてペンネームですか?

北条悟史えっ。じゃあ作家さんなんですか?


岡部倫太郎い、いや。俺は……。


園崎魅音あ、じゃあラジオのハガキ職人とか?
面白い投稿する常連さんとかって名前が出ると
「おっ!」て期待しちゃいますよね〜。
漆原るかあ、あの……別に嘘を言ったりとか、
騙したりするつもりはないんですけど……。
ほ、本当に……信じてくれるんですか?
園崎詩音まぁ信じるも何も、
つい最近似たようなことが
ありましたからねー。
牧瀬紅莉栖に、似たようなことって……?


岡部倫太郎くっ!


岡部さんは唸り声をあげて、
懐から薄い板のようなものを取り出す。

なんだろう……
ポケベルより薄いけど、無線機?

岡部倫太郎……俺だ。機関の妨害工作を受けている。
俺は今どこにいるんだ? 知っているモノと
知らないモノとあるはずのないものが入り交じっている。
一体、この世界は何なのだ!?
誰が連れてきたっ? 至急情報の提供を求む!

牧瀬紅莉栖あんたが連れてきた世界でしょうがっ!


竜宮レナあの……こんなところで話し込むのも
落ち着かないと思いますし、
あっちの広い場所に行きませんか?
岡部倫太郎……えっ?


園崎魅音あっちなら飲み物もありますから、
一息入れながら話しましょうよ。

北条沙都子それにしても、来るのが
もうちょっと遅かったら綿流しに
参加できましたのに……残念ですわね。
古手羽入あぅあぅ、それなら綿流しまで
滞在してもらえばいいと思うのですよ〜!

岡部倫太郎わ、綿流しって……お、おい。


鳳谷菜央黙って付いてきたほうが良いわ。
大丈夫、危害は加えないから。

岡部倫太郎…………。


菜央ちゃんが小声で彼らに告げると、
彼らは先に歩き出したレナさんたちの後を
大人しく付いてこようとして……。
漆原るかあれ……?


牧瀬紅莉栖どうしたの、漆原さん。


漆原るかあ、いえ。あの男の子の姿が、
一瞬、変な感じに揺れた……ような?

※詩音が「もしかして」と繰り返しているのは原文ママ。
※「あるはずのないもの」だけ平仮名だが、原文ママ。

4話
人目のつかない祭具殿のところに移動して
腰を下ろすと、私たちよりも少し年上……と
思しき3人は、ここに来た経緯を話し始めた。
……といっても、彼らにも状況は
よくわかっていないようで、ゲームを媒介にした
特殊な『転送機』に自分たちを繋げて……。
竜宮レナはぅ……気がついたら、
ここにいたってことですか?

岡部倫太郎あ……あぁ、そうだ。


鳳谷菜央ゲームって、ジャンルは何? どんなゲーム?


ゲームが好きな菜央ちゃんが食いつくと、
岡部さんは視線を彷徨わせる。

岡部倫太郎そ、それは……シューティングだ。


公由一穂(……嘘だ)


私にもそれだけは、直感的にわかった。
菜央ちゃんの顔を見る限り、
おそらく彼女も気づいただろう。
でも……口にした瞬間の岡部さんが
なんだか苦しそうにしていたので……
私たちもそれ以上聞こうとは思わなかった。
公由一穂(……きっと、何か事情があるんだろう。
私たちも、立場はそれほど変わらないから……)

岡部倫太郎……あと、すまない。今は西暦何年何月だ?


北条悟史西暦? えっと、今は昭和58年だから……。


岡部倫太郎昭和58年……6月か?


北条悟史え、あ、はい。そうですけど……。


岡部倫太郎そうか……。


岡部さんはそれだけ聞くと、
難しい顔で黙り込んでしまう。

なんだか一気に空気が重くなった気がして、
落ち着かない気分になった。

古手梨花……みー。何か、飲みますですか?


岡部倫太郎えっ?


古手梨花……何に悩んでいるのかボクは知りませんが、
気分転換になりますですよ。

梨花ちゃんはそう言うと駆け出し、
少し離れた場所に置いてあったクーラーボックスを
えっちらおっちらと運んできた。
岡部倫太郎あ、あぁ……すまない……。


牧瀬紅莉栖ありがとう、喉が乾いてたから助かるわ。


漆原るかすみません、ご迷惑をおかけします……。


古手梨花気にしないでいいのですよ……あっ。


そしてクーラーボックスを開けると、
中にはみんなに不評だった赤い缶のジュースが
ぎっしりと詰まっている。
園崎詩音あ、そっちのクーラーボックスは……。


さらに不快な気分にさせてはまずい、と思って
詩音さんが止めようとしたが、こちらの意に反して
岡部さんはそれを見るや、目を輝かせて叫んだ。
岡部倫太郎こっ、この赤い缶……もしや、ドクペか!?


北条沙都子えっ……このジュース、ご存知なんですの?


岡部倫太郎無論だ! ふふ、まさかこんなところで
お目にかかれるとはな……!

園崎魅音あー、好きならどうぞ。
たくさんあるんで、じゃんじゃん飲んじゃってよ。

岡部倫太郎感謝する!


岡部さんは嬉々として缶を手にするや、
ジュースのプルタブを立てる。

岡部倫太郎……ん? なんだこの缶。
プルタブのフタが取れたぞ?

いや、しかしこの漂ってくる芳醇な香りは
間違い無く……ッ!

岡部さんはフタが取れてしまったことに
若干困惑している様子だったが、
意を決したように缶を傾けてあおり飲む。
喉を鳴らして飲むたび、彼の表情には
生気が蘇り……恍惚とした笑みすら浮かべて
中のジュースを一気に飲み干していった。
岡部倫太郎くぅ……っ、うまい!
さすが、選ばれし者の知的飲料の味は
時代や世界を越えても変わらんな……!
牧瀬紅莉栖い、いただきます……あ、本当。
私たちの知ってるドクペと同じ味ね。

古手羽入あぅ……違う世界にも、
このジュースがあるのですか?

鳳谷菜央別の世界ではポピュラーなのね……。
何事も、先入観で決めてはいけないんだと
勉強になったわ。
漆原るかそ、その認識はちょっと間違ってるような……。


赤坂美雪あー、話を元に戻していい?


岡部倫太郎なんだ、サイドテール。


赤坂美雪それ、私のこと?
いや……まぁ、いいけどさ。

さっきの説明を聞く限り、岡部さんたちは
そのスマホ……って無線通信機で
世界を越えてやってきたんだよね?
岡部倫太郎いや、このスマホはあくまで
パソコンに接続している端末で……
いや、まぁいい。それがどうした?
赤坂美雪もし、そのスマホが元の世界に
繋がったままだったら……脱出方法も
見つかるんじゃないかな、ってさ。
牧瀬紅莉栖いや……いくらなんでも、
この昭和の時……世界で
スマホが使えるわけがないと思うけど。
鳳谷菜央でも、あなたたちはこの「世界」に
自分の意識を電波のように
飛ばしてきたって言ってたでしょ?
竜宮レナだとしたら、今この瞬間も
回線が繋がっててもおかしくないんじゃ
ないかな……かな?
岡部倫太郎む、むむっ……確かに。


漆原るかでも、さっきからスマホって『圏外』に
なってるんですよね……?

岡部倫太郎いや、この表示もまた、
俺たちの生み出した『仮想現実』の
一部かもしれないわけだし……。
……ダメで元々。やってみるか。


そう言って岡部さんは、無線機に指を当てる。
……ボタンもないのに、その画面はすいすいと
表示を切り替え続けていた。
公由一穂(どういう仕組みなんだろう……?)


なんだか、手をかざすだけで
ページがめくれる魔法の本みたいだ。

公由一穂(こんなすごい機械が存在するなんて……
この人たちはどんな世界から来たのかな?)

そして私たちが見守る中、岡部さんは
耳にスマホを押し当て……。

岡部倫太郎コール音……? つ、繋がったっ!?


牧瀬紅莉栖えっ!? ちょっ、スピーカーにしてっ!


岡部さんが耳元から無線機を離して
画面をなでると、機械の向こうから
男の人の声が聞こえてきた。
ダル『どしたん、オカリン。
もうすぐフェイリスたんのショーが
始まるから、早く切りたいんだけど――』
岡部倫太郎ダル、教えてくれ!
お前が作った『電話レンジ改(仮)VR』だが、
元の世界に戻る方法はあるのかっ!?」
ダル『ん〜、あのVRもどき……?
うーん、徹夜明けのハイテンションで
組み上げたものだから、よく覚えてないお』
『……というか岡部氏、
異世界転生に成功したん?
マジで? 寝ぼけてない?』
岡部倫太郎いいから、さっさと教えてくれ!
俺の後ろでクリスティーナが
爆発寸前でブチギレてる! 早くしてくれ!
その言葉の通り、岡部さんの悲鳴を聞きながら、
牧瀬さんが「にっこり」と背後で微笑んでいる。

……怖い。すっごく怖い。


赤坂美雪うわぁ、本気で怒った時の
うちの母さんみたいな威圧感……!

園崎魅音えっ、マジで?
うちのお母さんも怒るとこんな感じなんだけど。

ダル『はいはい、いつものそういうアレってわけね。
んと……操作用アプリを起動したら、
右上に設定のアイコンが見える? 歯車のやつ』
『それをタップしたら強制停止のボタンが
出てくるから、それを押せば元に戻れるはずだお』

岡部倫太郎アプリを起動して……こ、これだな!


……って何も起こらんぞ!
いや、エラーウィンドウは出てきたが……!

ダル『あー、ひょっとしたらバグが残ってたのかも。
ショーが終わったら直すから、
それまで待ってて。んじゃ――』
岡部倫太郎あ、おいっ!
ショーよりも俺たちのことを心配しろっ!!

……切れた。


牧瀬紅莉栖あ、あの馬鹿……! 帰ったら開頭して
海馬に電極ぶっ刺してやるから!

岡部の次に!


岡部倫太郎ちょ、ちょっとまて助手!
過激すぎる発言は、一般大衆のあらぬ誤解を
生むだけだぞっ!!
竜宮レナえ、えっと……そのエラーが
なんなのかよくわからないですけど……。

要するに、あとで無線の向こう側の人が
何かしてくれたら、帰れるってことですか?

岡部倫太郎ま……まぁ、そういうことだな。


牧瀬紅莉栖ったく……仕方ない。橋田がバグを修正して
くれるまで、当分は待つしかなさそうね。

漆原るかで、でもじゃあ元に戻れる目処は
立ったんですよね?
……よかった、安心しました。
安堵の空気が周囲に満ちる中、
私のポケットから電子音が響く。

公由一穂あれ?


ポケベルを取り出して画面を確認する。


公由一穂(9から始まる番号……田村媛さま?)


ごめんなさい。ちょっと電話してくるね。
集会場の電話……。

鳳谷菜央集会場は人がいるでしょ。
……長電話したら、「迷惑」よ。

公由一穂えっ、あ……そ、そうだよね!


(忘れてた……今は綿流しの準備で、
色んな人が集会場に出入りしてるもんね)

(そんな中で、田村媛さまの電話を
聞かれたら怪しまれちゃう……)

赤坂美雪じゃあ、電話ボックスを探しに行くか。
どのあたりにあるかな……えっと……。

古手梨花みー。それなら、近くにできたばかりの
電話ボックスを使うといいのですよ。

石階段を降りて、美雪たちの家の反対方向に
ちょっと歩けば、見つかるのです。

古手羽入あぅあぅ!
新品ピカピカの公衆電話なのですよ〜!

赤坂美雪へぇ、そんなのあったんだ……
知らなかったなぁ。

園崎魅音じゃあ、私たちもそろそろ作業に戻ろうか。


竜宮レナそうだね。レナたちは先に進めているから、
一穂ちゃんたちは電話が終わったら戻ってきてね。

あと……岡部さんたちは、この後どうしますか?


岡部倫太郎む……そうだな、俺たちは……。


赤坂美雪おにーさんたちも、
よかったら私たちと電話ボックス来ない?

面白いもの、見れるかもよ。


牧瀬紅莉栖面白いもの……?


公由一穂美雪ちゃん?


私が問いかけると、美雪ちゃんはこちらを見て
「にひっ」と笑う。

……でも私には、
目が全く笑っているようには見えなかった。

みんなと別れて、岡部さんたちと一緒に
神社の階段を降りた私たちは、
少し急ぎ足で村へと向かう道を歩き始めた。
岡部倫太郎……どういうつもりだ。
俺たちを連れ出して、何を企んでる?

赤坂美雪あ、気づいてたんだね。
まぁ、そう固くならないでよ……
ちょっと話がしたいだけだからさ。
漆原るかあ、あの……話って、なんですか?


赤坂美雪……。現状を理解したい気持ちは
よくわかるけどさ、あんまり深く突っ込んで
調べようとすると、危険だって注意をね。
牧瀬紅莉栖どういうこと……?
あなたたち、何か知ってるの?

鳳谷菜央あたしたちも、あなたたちと
一緒……ではないわね、厳密には。
でも、似たようなものよ。
赤坂美雪おにーさんは、何か知ってる感じだったよね。
この世界のこと、どこまで知ってるの?

岡部倫太郎……。ここが昭和58年6月の雛見沢村だと
いうことは知っている……
それと、さっき神社で出会った6人のことも。
赤坂美雪じゃあ、あの6人のフルネーム言える?


岡部倫太郎竜宮レナ。園崎魅音。園崎詩音。
北条沙都子。古出梨花。……北条悟史。

だが俺は、お前たち3人のことは知らない。
いや、そこのサイドテール。

さっき美雪と呼ばれていたが……
お前、もしかして赤坂美雪か?

赤坂美雪おぅ、よく知ってるね。
そうだよ、私は赤坂美雪。

岡部倫太郎……だとしたら、おかしい。
昭和58年の赤坂美雪は5歳児のはず。

なのに、お前はどう見ても
中学生くらいじゃないか。

赤坂美雪…………。


岡部倫太郎……お前たちは、いったい誰なんだ?


鳳谷菜央言ったでしょう?
あたしたちは、あなたたち3人と
似たようなもの。
別の「世界」から来てしまった、
この「世界」には本来いないはずの人間。

牧瀬紅莉栖……。今の状況がよくわからないから、
憶測で話すわね。

普通、この世界に存在しない人間がいたら
拒絶反応みたいなものが起きるんじゃない?

岡部倫太郎白血球が体内に入り込んだ細菌を
攻撃するみたいに……か?

牧瀬紅莉栖えぇ。私は免疫学も風俗学も専門じゃないけど
別の世界から来た、なんて主張が
普通に受け入れられるっておかしいわよ。
公由一穂……この世界は、いないはずの存在を
受け入れるようになっているんです。
私たちも、どうしてかはわからないですけど……。
漆原るかあなたたち3人も、別の世界から来たって
言ってましたね。……だとしたら、
元の世界に戻る方法はあるんですか?
公由一穂それは、その……ごめんなさい。
私たちが戻る方法は、わからないんです。

岡部・紅莉栖・るか…………。


背後で3人が言葉を失ったのと同時に、
自分たちも同じ状況になったのでは、と
心配させてしまったことに気づく。
それを感じた私は、慌てて取り繕うべく
言葉を繋いでいった。

公由一穂で……でも仲間、というか味方はいます!
その人から……いえ、人ではないかも
しれませんが今、連絡があったんです。
だから、この人に相談すれば、
待つよりも早く、あなたたち3人を元の世界に
返してあげられるかもしれないんです……!
そう言って私は、取り出したポケベルを見せる。
そこには田村媛さまからの連絡であることを示す
9から始まる番号が並んでいた。
岡部倫太郎……それは、ポケベルか?
見せてもらってもいいか。

公由一穂えっ、あっはい。どうぞ……。


岡部倫太郎ありがとう……ん?
なんだ、これは。

牧瀬紅莉栖どうしたの、岡部。


岡部倫太郎いや、このポケベルだが……
俺の知っているポケベルとはなんだか
形状というか、機種が……?
鳳谷菜央はいはい、その話はちょっと中断して。
今最優先することは、外部にいる
あたしたちの味方と連絡を取ることでしょ?
パンパンと両手を叩いた菜央ちゃんが、
道の向こう側をくいっと指差す。

それを受けて岡部さんも、「お、おう」と
気圧されたようにこくこくと頷いた。

鳳谷菜央ほら。電話ボックス、見えてきたわよ。


岡部倫太郎……。この小動物、
若干クリスティーナに似てる気がするぞ。

牧瀬紅莉栖ティーナって付けるな!


鳳谷菜央あら……? あたしが大きくなったら、
こちらの美人で綺麗なお姉さんみたいに
成長するって褒めてくれてるの?
だとしたら、とっても光栄だわ。
ありがとう♪

岡部倫太郎びっ……だっ、誰がそんなことを言った!?


牧瀬紅莉栖びっ、美人で綺麗って……!


鳳谷菜央え? だって、本当のことだもの。


菜央ちゃんはさらっと言ってのけるが、
岡部さんと牧瀬さんは真っ赤だ。

岡部倫太郎くっ……! シスターブラウンと似たような
年頃だというのに、こっちの小動物は
何故こうもこまっしゃくれてるんだ!?
鳳谷菜央こまっしゃくれてる、なんてセンスがないわね。
せめて「おしゃま」って言ってほしいわ。

漆原るかお、おしゃま……?


公由一穂あ、あはは……。


赤坂美雪はーい、お喋りはココで終わり。
電話ボックス、到着だよー!

目の前にそびえ立つ電話ボックスは、
梨花ちゃんの言っていた通り、
新品のピカピカだった。
赤坂美雪おぅ……こんな場所に
新しい電話ボックスなんてあったっけ?

鳳谷菜央なかった、と思うわ。
少なくとも、知ってる「世界」では。

牧瀬紅莉栖知ってる世界……って?


赤坂美雪あとで説明させてもらうよ。
先にこっちを済ませちゃうから……一穂。

公由一穂う、うん。


狭い電話ボックスの中に大人数は入れないので、
扉を開け放ちみんなが見守る中、
やや緊張しながら真新しい電話機の受話器を取る。
ポケベルに表示されていた番号を打ち込むと、
間もなく電話は繋がった。

公由一穂も、もしもし? 田村媛様ですか?


田村媛命『――今度は何をやらかした也やッ?!』


公由一穂わっ?!


突然の大声に、反射的に耳を受話器から離してしまう。


公由一穂やらかしたって……えっ?
なに、なんのことですか?!

田村媛命『そちらに、面妖な異物が侵入したのを捕捉した也や。
疾く疾く排除せねば、その「世界」は崩壊する哉!』

みんなええっ?!


岡部倫太郎……田村媛命なる存在の話をまとめると、
この「世界」に本来いないはずの「異物」が
紛れ込んだせいで、『因果律』が損傷……。
牧瀬紅莉栖『因果律』が断絶する寸前って……。


漆原るかそ、それって、断絶したらこの「世界」は
どうなっちゃうんですか

田村媛命『具体的にどうなるかはわからない哉。
端的に言えばこの世界は滅びる、と
申すが当たらずといえども遠からず也や』
赤坂美雪「異物」って……ひょっとして
ここにいる3人のこと?

岡部倫太郎おい! どこのお姫様か神様は知らんが、
この天才鳳凰院凶真とラボメンの
仲間たちを汚物呼ばわりするんじゃない!
牧瀬紅莉栖「汚物」じゃなくて、「異物」だ!
意味と印象が全然違うっ!!

田村媛命『共にいる者也や? それが男2人と女1人なら、
こちらでも補足している哉……』

赤坂美雪いや、違うよ。男性1人と女性2人だって。
補足のアンテナ、ボケてるんじゃない?

岡部倫太郎いや、正しい。ルカ子は男だ。


赤坂美雪は……え、えぇっ?!


漆原るかす、すみません……。


岡部さんの指さす先には、
漆原さん……漆原さん?!

赤坂美雪う、嘘でしょ……?
こんなに可愛いのにッ? マジで?!

岡部倫太郎だが男だ。


その瞬間、菜央ちゃんの目が光った。


鳳谷菜央……へぇ。スタイルもいいし、
男物も女物も両方似合いそうね。

公由一穂(菜央ちゃんが、獲物を見つけた目をしてる?!)


田村媛命『だから聞け、痴れ者が。……その者どもが
人の姿をかたどっているのならば、むしろ逆也や』

公由一穂逆……って、どういう言うことですか?


田村媛命『「異物」が入り込んだことで「世界」に歪みが生じ、
3人はその隙間から入り込んだと考えるべき哉』

赤坂美雪つまり、穴を開けたのがこの3人じゃなくて……
「異物」が入り込むために開けた穴から
この3人は落っこちてきちゃったってこと?
田村媛命『左様。ゆえにその異物を排除すれば、
「世界」は元の姿を取り戻す也や』

『そこにいる3名も、元の「世界」に
帰還が叶う哉』

公由一穂じゃあ……その「異物」を倒せばいいんですね?


岡部倫太郎おい……どういうことだ?
「異物」が何なのか、察しが付いているのか?

赤坂美雪あー、なんて説明したらいいか困るんだけど……
この世界にはね、「バケモノ」がいるんだよ。

公由一穂……っ……!


赤坂美雪私たちはそれを、『ツクヤミ』って呼んでる。
……で、そいつらはこの『ロールカード』が
変化した武器で倒せるんだ。
そう言って美雪ちゃんは、ポケットから
取り出した『ロールカード』を見せる。
すると岡部さんは、驚愕した顔で目を見開いた。
岡部倫太郎……『ツクヤミ』? 『ロールカード』だと!?


漆原るかお、岡部さん……っ?


岡部倫太郎くそっ、この世界はどうなってるんだ?!
バケモノとか「カード」とか、そんなものは
『ひぐらし』には存在しなかったぞ!?
牧瀬紅莉栖ちょ、ちょっと岡部。落ち着きなさい……!


岡部倫太郎この状況で落ち着いていられるか!
いったい誰が、世界観ぶち壊しの別ルールを
このゲーム内に持ち込んだのだ!?
赤坂美雪あー……言ってることはよくわからないけど、
気持ちはわかるよ、うんうん。
こんなこと急に言われても、困るよね。
けどさ、話はわかりやすくなったと思わない?
この『ロールカード』で入り込んできた
「異物」を倒せば、元の世界に……。
と、美雪ちゃんの説明を遮るようにして、
電話口から田村媛さまのため息が聞こえてきた。

田村媛命『……今度ばかりは、その≪札≫では困難也や』


公由一穂えっ? ど、どうしてですか?!


田村媛命『例の「異物」とその≪札≫は相性が悪い哉。
効果的に致命傷を与えるならば、
「異物」と同じ世界のモノが必要となる也や』
公由一穂「異物」と同じ世界の「モノ」があれば
いいんですか……?

田村媛命『左様。だが、在るだけでは無用の長物。
力が無ければ効果も発揮は不可能哉』

『この回線を通じて、吾輩の力を
与えられればよいのだが……何かある也や?』

公由一穂な、何かって言われても……。
あのっ、岡部さん! なにか持ってませんか?!
持ち物で、公衆電話に繋げられるようなもの!
岡部倫太郎……スマホはどうだ?
モジュラージャックなど、端末を
繋げられるような穴があれば……。
牧瀬紅莉栖……見なさい、このいかにも
昭和な公衆電話のシンプルボディを。
そんな穴あるわけないでしょ。
漆原るかすみません、僕の持ち物なんて
ハンカチぐらいで、他には……あれ?

ポケットを手で探っていた漆原さんが、
驚愕に目を見開きながら手を取り出した。

漆原るかなんでしょうか、この「カード」……。
さっき見せていただいた、
『ロールカード』に似てますけど……?
岡部倫太郎なに? ま、待て……っ、
俺のポケットにも入ってたぞ!?
『ロールカード』!
赤坂美雪あ……あるんだ。
よかった、それがあるなら
『ツクヤミ』対策はなんとかなりそうだね。
岡部倫太郎まてまて、そもそも
『ロールカード』とは何なのだ!?
おい助手よ、お前もなんとか言って……助手?
牧瀬紅莉栖公衆電話に繋げる……
電話回線にアクセスできる代物……?

岡部さんの声が聞こえていないのか、
牧瀬さんは呟きながらポケットに手を入れた。

そこから取り出したのは、3枚の「カード」。
1枚は他の2人と同じ、『ロールカード』だ。
だけど、残りの2枚は……。
牧瀬紅莉栖こっちの「カード」はともかく、
このテレカ……使えない?

赤坂美雪えっ、そのテレカは……。


鳳谷菜央そのテレカに書かれてるのって……
梨花と沙都子よね?

公由一穂(どうして梨花ちゃんと沙都子ちゃんが
テレカに……ううん、どうしてこんなものを
この人たちが持ってるの?)
岡部倫太郎……っ……。


私たちが3人を見つめると、
岡部さんがすぐにふいっ、と視線を逸らす。
……やっぱりこの人、何かを知っているんだ。
でも、言いたくない……ううん、言えない?


公由一穂(悪い人ではない、とは思うけど……)


赤坂美雪なんでもいい、試してみよう。
……これ、貸してもらっていいですか。

牧瀬紅莉栖いいわよね、岡部。


岡部倫太郎……あ、あぁ。


沙都子ちゃんと梨花ちゃんの絵が
それぞれ書かれた2枚のテレカを受け取り、
美雪ちゃんは公衆電話に差し込む。
田村媛命『ん、これは……?』


赤坂美雪田村媛、このテレカはどうかな。
これ……使えない?

田村媛命『……おぉ、重畳也や。
では、この≪てれか≫とやらに力を転送する哉』

岡部倫太郎転送とは、どうやって……うおっ!?


岡部さんの声を遮るように、
バチン! と大きな音を立てて
公衆電話が大きく揺れた。
そして、カードの排出口から
2枚のカードが吐き出されてきたけど、
それはテレカではなく――。
牧瀬紅莉栖テレカが、『ロールカード』に変わった……?


公由一穂つまり「異物」を探し出して
この「カード」を使って倒せばいいってこと?

漆原るかで、でも……誰が倒すんですか?
もしかしてボクたちが……?

田村媛命『使い方は、≪札≫と同じ也や。
おそらく使い手は、≪札≫自身が選ぶ哉』

岡部倫太郎……おい。俺たちに魔性退治など
できるように見えるか?

鳳谷菜央できるか、できないかじゃなくて……
やらなきゃ元の世界に戻れないのよ。
だったら、選ぶ道は1つしかないでしょ?
岡部倫太郎くっ……!
生意気だぞミニクリスティーナ!

牧瀬紅莉栖だからティーナって付けるな!
……あれ、でも「クリスティーナ」って
呼ばれてるのはこの子だから……。
この場合、私が怒るのは筋違い……?


田村媛命『……そろそろ時間也や。切断する哉』


公由一穂あっ、はい! ありがとうございますっ!


次の瞬間、通話が途切れる。
後に残されたのは私たち6人と、
テレカが姿を変えた2枚の『ロールカード』。
公由一穂…………。


静まり返った空気の中……
美雪ちゃんがぽりぽり、と頬をかく。
そして3人に向き直っていった。
赤坂美雪えーっと……まぁ、急に戦えとか言われて
不安なのはよくわかるけどさ。

戦闘の方は、私たちもサポートするから、
一緒に頑張ろうよ。ねっ!

公由一穂も、元の世界に戻れるように
精一杯お手伝いします!

牧瀬紅莉栖あ、ありがとう……でも、その「異物」って
どうやって探せばいいのかしら。

鳳谷菜央……1つ、心当たりがあるわ。
もしかしたらの話だけど、確認しておきたいわね。

公由一穂あ……それって、神社の階段の……?


岡部倫太郎神社の階段……それはどういうことだ?


公由一穂えっと、ですから――あっ……?


北条沙都子あの、皆さん……
そこで何のお話をしておられましたの?

聞こえるはずのない声が聞こえてきて、
私たちは慌てて背後を振り返る。

公由一穂な、なんでここに……。


古手梨花……みー。戻ってくるのが遅いので、
様子を見にきたのですよ。

北条沙都子「異物」がなんとか、この「世界」が壊れるとか
物騒な言葉が聞こえてきましたけど……。
どういうことなんですの?!
そこにいたのは、梨花ちゃんと沙都子ちゃんと……。


北条悟史何か困っているなら、相談してくれないかな?


公由一穂……悟史、くん?


※『方法はあるのかっ!?」』と末尾に鍵括弧が付いているが、原文ママ。
ダルの突然の「岡部氏」呼びは原文ママ。マジか。
※るかの「どうなっちゃうんですか」の末尾に「。」も「?」も無いが、原文ママ。
※「お姫様か神様知らんが」は原文ママ。神様かor神様かは
※「補足している哉」「補足のアンテナ」は原文ママ。捕捉。
※「どういう言うことですか?」は原文ママ。
※「の持ち物」が片仮名ではなく漢字だが原文ママ。

5話
……沙都子と梨花ちゃん、そして悟史くんに
今の話を聞かれてしまった以上、
もう何を言ってもごまかしきれない。
だから、私……いや、菜央ちゃんと美雪ちゃんが
私たちにとって知られてはまずいことを上手に
省きながら3人に説明をしてくれた。
古手梨花みー……つまり、その「異物」がこの「世界」に
来たことで、本来あったはずの「世界」が変わった、
ということなのですか?
公由一穂……うん。


北条沙都子そして……本来の「世界」ですと、にーにーは
行方不明になっていて……代わりに前原さん、
という方が存在しておられるんですのね……?
公由一穂うん……あと、私たちの「協力者」の話だと、
このままじゃこの「世界」は長くないらしいんだ。
だから……その……。
古手梨花……なんとかならないのですか?
世界を元に戻した後も、せめて悟史だけは
残るように……っ!
鳳谷菜央……ごめんなさい。


古手梨花……っ……!


北条沙都子…………。


梨花ちゃんは大きく目を見開いて、声を失い……
その横で沙都子ちゃんは黙ったまま、顔を伏せる。

この「世界」を、元に戻す……
それは、ここにいる悟史くんとの別れを
示しているに等しい。
……納得なんか、できるわけがない。
もし、私が沙都子ちゃんと同じ立場にあったら
泣き叫びながら、全力で抗っていたことだろう。
公由一穂っ……!


残酷な事実に唇をかみしめたまま、
私たちはそれ以上の言葉が出せずに立ち尽くす。
そしてしばらく、沈黙が流れたところで――。
岡部倫太郎……すまない。


牧瀬紅莉栖岡部……?


絞り出すような謝罪の言葉に、
牧瀬さんがはっ、と息をのんで
岡部さんに顔を向ける。
彼は、なぜか手を握りしめたまま
苦渋の形相を浮かべ……
声を絞り出すように私たちに告げていった。
岡部倫太郎変動してしまった世界線を元に戻すには、
全ての変化を消し去り……
なにもかも無かったことにするしかないのだ。
以前のお前たちの世界線、関係が
実際のところどうなっていたのか、
俺にはわからない……だが……。
もし「異物」の存在しない世界線が、
悟史の失踪という事実に収束するのだとしたら……
そこから逃れる手立ては……無い。思いつかない。
……すまない。本当に……すまない……っ。


北条沙都子……どうして、岡部さんが謝りますの?
あなたは何も悪いことをしていないのに、
謝る必要なんてありませんことよ。
岡部倫太郎……ある。俺たち……いや、俺は
君に大切な人を見捨ててくれと言ってるんだ。

それを命じたり頼んだりする権利や資格が、
俺にはないというのに……なのに……っ。

北条沙都子……。でも、この世界がこのままだと
梨花や、部活メンバーの皆さんも死んで……
いえ、世界全体が消えてしまうんですよね。
だったら、そっちの方が正しいとは
とても思えませんわ。
……お気になさらなくてもよろしくてよ。
岡部倫太郎正しい、正しくないの話をしているのではない。
これは感情の問題だ!
どちらを選ぶことに、耐えられるかどうかの……!
北条沙都子……だとしたら、なおさらですわ。
私ひとりが感情的に反対したところで、
何も解決はいたしませんことよ。
それに……正直なことを申し上げますと
私、巫女服姿のにーにーを見るたびにずっと……。

「……あれっ? にーにーって以前から
巫女服を着ていらっしゃいましたっけ?」って、
若干の違和感がありましたもの。
赤坂美雪あ……やっぱ、変だとは思ってはいたんだね。


公由一穂美雪ちゃん、しっ!


北条沙都子ですので……平気ですわ。
間違った世界を、元に戻すだけですもの。

きっと、大丈夫……私は、なにも……っ!


沙都子ちゃんは気丈に笑顔を浮かべようと
していたけれど……でも、全然できていなかった。

かたくなな笑顔は、徐々に崩れて……
その頬を、涙が静かにつたい落ちていく。

漆原るか沙都子ちゃん……。


そんな彼女に漆原さんが歩み寄り、
膝を折って向かい合う。
そして、そっと涙を指で拭っていった。
漆原るかごめんね。
今のボクは、何の力にもなれない……
本当に、ごめんなさい……!
北条沙都子っ、ど……どうして、貴女まで謝りますの?!
だ、大丈夫ですわ! 本当に……本当に……。

……っ、うぅっ……!


ぽろぽろと涙を流す沙都子ちゃんを前に、
漆原さんの目にも涙がにじんでくる。

そんな2人を見た牧瀬さんは、
軽く息をついてから顔を上げ……
小さく、でも強い意志を込めた声で言った。
牧瀬紅莉栖……他の方法を、探しましょう。


岡部倫太郎クリス、ティーナ……?


牧瀬紅莉栖どれだけ猶予が残っているかわからないけど、
これが最善の方法なんてとても思えない。
……限界まで可能性を探すのが科学者でしょ。
もう、ここがVRでもそうでもなくても、
どっちでもいい! このまま彼らを
見捨てるなんてこと、できるわけが……ッ!
北条悟史いえ……このまま、行きましょう。


古手梨花……悟史?


それまでずっと、黙って状況を見守っていた
悟史くんの力強い声が……その場に、響く。

そして彼は、絶句する私たちに
優しげな笑みを向けながら、ゆっくりと
皆を諭すように言葉を繋いでいった。
北条悟史今の状況を放置していると、
この「世界」が崩壊する……。

正直、どういうことなのかは
まだ理解できたわけじゃないけど……
このままだとみんな、死んじゃうんだよね?
赤坂美雪……。結果的には、そうなると思うよ。


北条悟史だったら、やるべきことはひとつだ。
……「世界」を、元に戻そう。

牧瀬紅莉栖っ……で、でもいいの?
元に戻すってことは、あなたは……!

北条悟史それが、一番確実だっていうなら……
やるしかないと思うんです。

北条沙都子っ……に、にーにー……!


北条悟史……大丈夫だよ、沙都子。


涙目で見上げる沙都子ちゃんに
微笑みかけてから、悟史くんは
私たちへと向き直る。そして、
北条悟史……一穂ちゃんたちは知っているんだよね。
本来の「世界」の僕は……
昭和58年6月に死んでいたのかな?
公由一穂それは、……っ……。


赤坂美雪生死について私たちが言えるのは、
わからない……だね。
行方不明で、生死についても証拠がないんだよ。
北条悟史だったら、生きている可能性は
あるってことだよね。……うん、よかった。
それを聞いてほっとした。
どうやら元の「世界」にも、
まだ希望がありそうです。だから……大丈夫。
ありがとうございます、牧瀬さん。
牧瀬紅莉栖……悟史くん。


北条沙都子にーにー……。


北条悟史大丈夫だよ、沙都子。
僕は消えないし……消されたりしない。

いったん「世界」からいなくなったとしても、
僕は絶対に沙都子のところに戻ってみせる。

……だからそれまで、
少しだけ待っていてくれないかな?

北条沙都子……っ……!


悟史くんの静かな呼びかけに、沙都子ちゃんは
目元に残っていた涙を拭い去る。
……そして、いつもの笑顔を浮かべてみせていった。
北条沙都子え……えぇ……っ。
にーにーが戻ってくる時のためにも、
元の「世界」を取り戻してみせますわ!
――と、その時だった。
まるで沙都子ちゃんの決意に
呼応するように、突然……!
赤坂美雪えっ……な、なにっ……?!


振り返ると、美雪ちゃんの手の中にあった
『ロールカード』が光を放っているのが見える。

そして、宙を舞った「カード」は
沙都子ちゃんと梨花ちゃんの前でぴたりと
停止すると、くるくるとその身を回転させた。
まるでそう、自分を手に取れと主張するように……!


北条沙都子な、なんですの?


古手梨花これは……。


赤坂美雪「カード」が選んだ、ってことじゃないかな。
沙都子ちゃんと、梨花ちゃんをさ。

北条沙都子……だとしたら、やるしかありませんわね。
梨花。

古手梨花はい……ボクたちで、やるのですよ。


梨花ちゃんと沙都子ちゃんが、
それぞれ「カード」に手を伸ばす。

小さな手に握られた瞬間、
2枚の「カード」は誇らしげに
輝きを増したようにも目に映っていた……。
赤坂美雪……あ、ここだよ。この辺りだ。


石段の一番下で、美雪ちゃんが声をあげる。
そして私たちに頷くと、説明を続けていった。

赤坂美雪この石段に足をかけたところで、
目の前の景色がぐにゃっ、って曲がったんだよ。
空間が歪むみたいな感じでね。
北条悟史……だとしたら、この付近に
話にあった「異物」がいるのかもしれないね。

古手梨花みー、探してみるのですよ。


周囲に気を配りながら、
一歩一歩階段を登り始める。

先頭を歩く梨花ちゃんたちの背中を
背後から追っていると、岡部さんが
難しい顔で私たちにそっと尋ねてきた。
岡部倫太郎すまん。聞いておきたいのだが、
目の前が歪んだとはどういうことだ……?

赤坂美雪どういうことって、文字通りだけど……
なにか気になることでも?

岡部倫太郎……まさかお前たちも、
『リーディング・シュタイナー』を持っているのか?

公由一穂りー……? え、えっと……?


鳳谷菜央たぶん、あたしたち3人はこの「世界」に
本来はいないはずの人間だから……
世界の変化を受けなかったんじゃないかしら。
だから、その……あなたが言ってる
リーディングってやつとは違う気がするわ。

岡部倫太郎……そうか。
この場合よかった、と言うべきかは
迷うところだがな。
鳳谷菜央あなたも……いろいろあったみたいね。


岡部倫太郎……。あぁ。


鳳谷菜央大事な人を、失ったり……とか?


岡部倫太郎…………。


鳳谷菜央そう……でもその顔を見る限り、
今は大丈夫そうね。

岡部倫太郎ん……? おい、待て。
何を根拠にそんなことを言ってのける?

鳳谷菜央根拠……? ただの勘、センスよ。


岡部倫太郎あのな……
仮にもミニクリスティーナの名を冠するならば、
もっと科学的に説明してみせろ。
牧瀬紅莉栖岡部が勝手に、「ミニクリスティーナ」って
呼び始めたんじゃない。

公由一穂科学……そういえば、
『未来ガジェット研究所』のラボメンって
話でしたけど、何の研究をしてるんですか?
岡部倫太郎ん、聞きたいか? 知りたいか?
それはだな、世界の支配構造を作りかえるという
我が野望を実現するための研究に……。
漆原るかえっと……確か役に立つ道具や、
楽しいおもちゃを開発してるんですよね?

岡部倫太郎なっ?!


牧瀬紅莉栖……まぁ、だいたいそんな感じよね。
正直私の目からすれば、ただのガラクタ作りとしか
見えないんだけど。
岡部倫太郎く、クリスティーナよ!
お前までそんなことを言い出すとは……ッ!

赤坂美雪へぇ、面白そう。
私もそのラボ、入ってみたいな〜!
どうやったら参加できるの?
岡部倫太郎フゥーハハハ!……残念ながら、入りたい、
はいそうですかと迎えるわけにはいかないのだ。

牧瀬紅莉栖……別に入れてあげればいいじゃない。
ただでさえ枠は余りまくってるんだから。

赤坂美雪そうなの?


岡部倫太郎くっ……ならば致し方ない。折衷案だ。


ここに、「未来ガジェット研究所」の
雛見沢分室を設立することを宣言しよう!

公由一穂雛見沢……分室?


岡部倫太郎そうだ。お前たちチルドレンに、本部所属は
まだ早いが……分室のメンバーとしてならば
認めてやらないこともない。どうだ?
赤坂美雪やったー!
じゃあ私と一穂と菜央、加入しまーす!

鳳谷菜央ちょ……ちょっと、勝手に決めないでよ。


公由一穂でも、なんだか楽しそう……。
研究所って何するのかな?
やっぱり薬品を混ぜたり……とか?
牧瀬紅莉栖岡部のラボで薬品は使わないけど……
あなた、もしかしてビーカーで
コーヒーを飲むのとかに憧れるタイプ?
公由一穂あっ……そ、それやってみたいです!


漆原るかいいですね。
それはボクも試してみたいです。

牧瀬紅莉栖ふふ……その気持ち、わかるわ。
ただ、やるなら新品のビーカーでね。

ビーカーの洗浄が甘かったら、
薬品によっては人体に悪影響を
及ぼす可能性もあるんだから。
古手梨花……みー。
何の話をしているのですか?

赤坂美雪楽しい話だよっ。
あ、そうだ。梨花ちゃんと沙都子も入ろうよ、
『未来ガジェット研究所・雛見沢分室』に!
北条沙都子あらあら……よくわかりませんが、
なんだか面白そうですわね。
部活との兼任も可能ですの?
赤坂美雪もっちろん! メンバー大募集中だよ!


岡部倫太郎お、おい。勝手に話を広げては……!


北条悟史あはは、楽しそうだね。
なら、僕も入らせてもらおうかな。

古手梨花……みー、ということは岡部が
ボスなのですか?

よろしくなのですよ、ボス。にぱー☆


岡部倫太郎ぼ、ボス……?
ボス、ボスか……ふ、ふふっ。

牧瀬紅莉栖はぁ、ニヤニヤしちゃって……。


岡部倫太郎に、ニヤニヤなどしてない!


北条沙都子ボス! 私、トラップ研究でしたら
誰にも負けない自負がありますわ!

鳳谷菜央私は、服のデザインや制作の研究かしら?
布モノだったら、ある程度は手伝えるわよ。

漆原るかあっ……君も、お洋服を作るの?
まゆりちゃんと仲良くなれそうだね。

鳳谷菜央その人も手芸とかが好きなの?
だったら、ぜひ会ってみたいわ。

公由一穂えっと、え、えっと……
しっ、白いお米が好きです!

古手梨花……一穂。好きなものを挙げる場面では
ないのですよ。

牧瀬紅莉栖そんなことない。
お米が好きなら、炊飯器の研究とかどう?

公由一穂そ、そんな素敵な研究があるんですか?!


牧瀬紅莉栖どんなことも、果ての果てまで
追及すれば、立派な研究だもの。

公由一穂はぁ……研究者って、かっこいいですね……!


牧瀬紅莉栖えぇ、そう。研究者ってかっこいいのよ。


北条悟史いいなぁ、僕は何を研究しようかな。
……あははっ、想像するだけでも楽しいね。

赤坂美雪えーっと、となるとレナと魅音と詩音、
羽入と前原くんもメンバーに入るだろうし……
雛見沢分室は総勢11名になると思われます、ボス!
岡部倫太郎本部より多いではないか!?


それより、ボスの意向を無視して勝手に
メンバーを取り込んだり色々決めるんじゃない!
……まったく、徹甲弾の娘は鉄砲玉なのか?
赤坂美雪えっ、なに? 徹甲弾って?


岡部倫太郎あ、いや。こっちの話だ。


牧瀬紅莉栖はいはい。
年下の女の子たちにボスなんて呼ばれて、
浮かれてるんじゃない。
岡部倫太郎う……浮かれてなどいない!
そして俺はロリコンでもない! ダルとは違う!

赤坂美雪んー、それで研究所に入ったら
何をくれるんですかボス?

岡部倫太郎なっ! そんな金品を要求する
即物的な姿勢で、ラボメンの資格は――。

北条沙都子あっ……いましたわ!
あのヤブの向こう側に、影が見えましてよっ!

周囲の気配がにわかに騒がしくなり、
楽しかった空気が一変して張り詰めたものになる。

……みんな、わかっていた。
敵が見つかったら、
この時間が終わってしまうことを。
だから、今を少しだけ長引かせるために、
楽しい会話を続けたかったのだけど……。

思った以上に、終わりの時間は
早く来てしまった……!

ツクヤミギ……?


ギィイイイイ!!!


ギィイイイイ!!!


階段の脇から、ひょこひょこと次々に
小さな影が出現する。そして――。

北条悟史あの小さいのに囲まれている、
ひときわ大きいやつ……あれじゃないかな?

古手梨花みー、ボクもあれだと思うのですよ……!


赤坂美雪もしただの『ツクヤミ』だとしても、
あのサイズを野放しにするのは危険だね。

公由一穂周りの小物は、私たちで引き受けるよ。
……危ないですから、岡部さんたちは
どこかに隠れててください。
岡部倫太郎いや……立ち会わせてもらう。
それが、この状況にいるだけの
俺が守るべき、せめてもの矜持だ。
クリスティーナ、ルカ子よ。
お前たちはこの場を離れて……。

牧瀬紅莉栖だが断る。……科学者として、
経過と結末に立ち会うのは当然よ。
私も見届ける。
漆原るか……ボクも、ここにいます。
いさせてください。

鳳谷菜央だったら、自分の『ロールカード』を使って。
戦えとは言わないから、せめて自分の身は
自分で守ってちょうだい。
牧瀬紅莉栖わかった……って言いたいけど、
大丈夫かしら?

赤坂美雪大丈夫。私たちでもなんとかできたんだしさ。


北条悟史……2人とも、準備はいい?


北条沙都子えぇ、行きますわよ……梨花!


古手梨花はいなのです!


2人が新たな『ロールカード』をかざすと、
あふれた光がその身体を飲み込んでいく。

そして光が収まった後、そこにいたのは――。


岡部倫太郎あ、あれは……!?


牧瀬紅莉栖私たちと、同じ服装……?


赤坂美雪私たちの攻撃は、あいつの致命傷には
ならない――頼んだよ梨花、沙都子っ!

古手梨花みー、お任せなのです!


北条沙都子本来の世界……
にーにーが帰ってくるための「世界」を、
絶対に取り戻してやりますわっ!
※沙都子が るかを貴女呼びしているが、
原文ママ。さっきまで居合わせていなかったのだから仕方ない。

エピローグ
古手梨花沙都子!


北条沙都子いきますわよ、梨花!
はぁああっ!!!

2人の息の合ったコンビネーション技が
炸裂すると同時に、巨大な『ツクヤミ』――
いや、「異物」の姿が地に倒れ伏す。
その姿と輪郭は、徐々に薄れて……
やがて、跡形もなく消えていった。

岡部倫太郎これは、倒した……のか?


古手梨花……みー、やりましたのです。
岡部たちが手伝ってくれたおかげなのですよ。

公由一穂だよね……取り巻きの数も多かったし、
岡部さんたちがいなかったら厳しかったかもね。

牧瀬紅莉栖……本当に、やればなんとかなるものなのね。


漆原るかでも、皆さんが無事で本当によかったです。


岡部さんと、牧瀬さんと、漆原さん。
そして私たち3人と悟史くんがいたおかげで
周囲の敵は簡単に排除することができた。
梨花ちゃんと沙都子ちゃんも、
さほど大きなダメージを受けたようには
見えない。だけど……。
北条沙都子っ、にーにー……? ど、どうしたんですの?!
身体が、光っていますわよ……?!

北条悟史……。どうやら、ここでお別れみたいだね。


北条沙都子に、にーにー……。


北条悟史元気でね、沙都子――。


北条沙都子にーにー……ッ!!


沙都子ちゃんは、名前を呼びながら
一歩悟史くんへと踏み出そうとして……
ぐっ、と唇を噛みしめながら足を止める。
そして、泣き笑いの顔で懸命に
嗚咽をこらえつつも、強い決意を
瞳に込めて……言葉を繋いでいった。
北条沙都子……大丈夫ですわ。約束しましたもの。
私、にーにーが帰って来るまで頑張りますわ。

北条悟史うん……
沙都子は頑張れる子だって、信じているよ。

古手梨花……悟史。


あなたが戻るまで、沙都子のことは
ボクが絶対に守るのですよ。

北条悟史うん、梨花ちゃんのことも信じているよ。
……沙都子のこと、よろしくね。

そう言いながら、悟史くんは微笑んで……
やがて幻であったかのように跡形もなく
消え去った。
北条沙都子っ、く……っ……!


沙都子ちゃんは伸ばしかけた手をそっと引き、
噛み殺しきれなかった嗚咽をこぼす。

そんな彼女に、岡部さんはそれまでとは
違う……とても優しい、穏やかな口調で
語りかけていった。
岡部倫太郎……大丈夫だ、北条沙都子よ。


たとえ絶望的な状況にあったとしても、
心さえ折れなければ未来は必ず変えられる。
死んでいないなら、なおさらだ。
北条沙都子岡部さん……
お気持ちはありがたいのですが、
その根拠はありますの?
岡部倫太郎根拠は……ある!


なぜならば、俺たちがここに来た事実こそが、
「世界」を変えられるという何よりの証拠――。

――そう、シュタインズゲートの選択なのだからな!


古手梨花岡部……。


岡部倫太郎鳳凰院凶真と呼べ、雛見沢の巫女よ。
……俺は、お前の偉業を知っている。
お前が何を思い、何を成し遂げるかを知っている。
お前たちならば、困難を乗り越えられると
信じて……いや、知っている。だから、諦めるな。

古手梨花……みー。岡部はボクたちのことを、
どうして知っているのですか?

岡部倫太郎説明は難しい……だが、知っているのだ。
一方的に、ではあるがな。

古手梨花だったらボクたちのことも、
ちゃんと名前で呼んでもらいたいのですよ。

岡部倫太郎ふむ……名前、か。


では、あえてこう呼ぼう。
――諦めずに頑張れ、フレデリカよ。

古手梨花えっ……?!


岡部倫太郎フゥーハハハ!
俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真!
真の名前を読み取る程度、造作も無いわ!
北条沙都子フレ……なんですの?


梨花は梨花、古手梨花ですわ。
フレデリカなんて、外国の方のような
名前ではありませんのよ。
岡部倫太郎細かいことを言うな!
ならばお前は、さと……さと……えっと、
サトノオリハルコンとでも呼んでやろう!
北条沙都子なんですのその競走馬みたいな名前は!
ニンジンぶら下げられてパカパカなんて
ごめんでしてよーっ?!
岡部倫太郎ち、違う! オリハルコンは最も硬い宝石だ!
固く堅牢なその姿を見た俺が、忍耐強いお前を
称えるために用いただけで……!
牧瀬紅莉栖……オリハルコンって、架空の石の名前でしょ?


北条沙都子架空とはどういうことですの、岡部さん?!
私はフィクションの存在ではありませんのよー!

岡部倫太郎よ、余計なことを言うなクリスティーナよ!
ややこしくなったではないか!

牧瀬紅莉栖あんたが言い出したんでしょ!


公由一穂あ、あははは……。


にぎやかなやり取りを苦笑いしながら
見ていたせいで、視界に入り込んできた
異変に気付くのに一瞬、遅れてしまう。
そう……悟史くんに続いて、当然のことながら
岡部さんたちも――。

公由一穂お……岡部さん?! かっ、身体が……っ!


岡部倫太郎ん?……なっ?!


漆原るかあ、ボクたちも悟史くんみたいに、光って……?


牧瀬紅莉栖どうやら、私たちもこれでお別れのようね。


古手梨花……岡部たちも、消えてしまうのですか?


岡部倫太郎いや、消えるのではない。
元の「世界」に戻るのだ……と、思う。

古手梨花……それならいいのです。
岡部まで消えてしまったら、寂しいのですよ。

漆原るか……色々と、ありがとうございました。


公由一穂いっ、いえ!
こちらこそお世話になりまして……!

岡部倫太郎……。そっちのお前たちは、
これからどうするのだ?

赤坂美雪おぅ、心配してくれてありがと。
こっちは……まぁ、こっちで頑張るよ。

この世界は、岡部さんの言う通り
色々ぶっ壊れてるけど……
それだけ、って訳でもないからさ。
鳳谷菜央……岡部さん。


失いたくない人が側にいるなら、
大切にしてあげてね。
……あたしも、可能な限りそうするから。
岡部倫太郎……言われなくても、わかっている。
ミニクリスティーナも、元気でな。

その言葉を最後に、3人の身体を包む光は
いっそう強くなり……
やがて、姿が見えなくなった。
――と、同時に……。


公由一穂……えっ……?!


(また、あの目の前が歪むような感覚……?!)


再び襲ってきた奇妙な感覚が収まった時、
そこにいたのは私と美雪ちゃん、菜央ちゃん。

そして……。


公由一穂梨花ちゃん、沙都子ちゃん……。


彼女たち2人だけだった。


北条沙都子あら……お3方ともこんなところにいましたのね。


古手梨花……みー、探したのですよ。
急にいなくなったので、圭一たちが
心配してたのです。
公由一穂前原くんが……?


(ここで悟史くんじゃなくて、
前原くんの名前が出たってことは……)

お……岡部さんたちは?


古手梨花みー……おか、べ?


北条沙都子私は存じ上げませんわね……
どなたのことですの?

おそるおそる尋ねると、
2人は顔を見合わせ首を傾げる。
……その反応が、何よりの証拠だった。
公由一穂本当に、戻ってきたんだ……。


鳳谷菜央彼らの言葉で表現するなら、
世界線が変わったのね……。

北条沙都子……?
菜央さんたちが何を言っているのか、
よくわかりませんわ。
赤坂美雪ううん、こっちの話。
さ、綿流しの準備に戻ろっか!

そう言って美雪ちゃんは、梨花ちゃんと
沙都子ちゃんの肩を抱えると……
明るい笑顔で元気よく境内の方へ足を向けた。
鳳谷菜央戻るわよ、一穂。


公由一穂……うん。


私は頷き、みんなの後を追いかける。


公由一穂(岡部さんたち、無事に戻ることが
できたのかな……)

(何があったのかは知らないけど、
岡部さんも、戦って戦って……
最良の現実を手に入れたんだろうか)
(私たちも、手に入れられたら……いいな。
あの人達みたいに、最良の未来を――)

岡部倫太郎う、ぁ……?


ダルおー、やっと起きたねオカリン。


岡部倫太郎ダル……?


ダルメイクイーン+ニャン2から戻ってきたら、
オカリンも牧瀬氏もるか氏もヘルメッツ被ったまま
ぐーすか寝てたから、びっくりしたお。
岡部倫太郎ダル……お前、そのPCで何をしてるんだ?


ダルなにって、例のVRプログラムが
妙なエラーを起こしてたから、
原因突き止めて修復したところ。
岡部倫太郎……そうか。


(ダルがプログラムを修復したから、
目が覚めたのか……?)

(だとしたら、雛見沢の世界線変動と
俺たちの覚醒は無関係だったのか……?)

(いや、そもそもあれは
世界線の変動と呼ぶべきなのか……?)

(では、「異物」と呼ばれていた
「バケモノ」は何だったんだ?)

(別の「世界」から来たと言っていたが、
現実にあんな「バケモノ」は……いや)

(あの「バケモノ」は、何かの象徴か?
そして……もしも、もしもだ。それが事実で
あったならば、あの「世界」の真の姿は……!?)
漆原るかう……あれっ、ここってラボですか?


牧瀬紅莉栖……そうみたいね。


ダルぐっもーにん、牧瀬氏。るか氏。


岡部倫太郎お前たちも目が覚めたか。


牧瀬紅莉栖なんだか、不思議な夢を見てたような
気がする……。

漆原るか……さっきまでの世界は、
いったいなんだったんでしょうね。

岡部倫太郎お前たちも覚えているのか?


牧瀬紅莉栖……えぇ。


岡部倫太郎ゲームの中の世界……
にしてはリアルすぎたな。

漆原るかボクも、まだあの世界の匂いとか
戦った時の感覚とか、残ってる気がします。

牧瀬紅莉栖私もよ……あれっ?


岡部倫太郎どうした?


牧瀬紅莉栖ポケットに入れてたはずのテレカがないの。
ヘッドセットを付ける前に、
確かにポケットに入れたはずなのに……。
それと、例の『ロールカード』ってやつもない。


漆原るかあっ、ボクも見当たらないです。
ちゃんと持ってたと思うんですけど……。

岡部倫太郎……俺の「カード」もないな。もしかすると、
あれもタイムリープの一種だったのかも
しれんが、だとしたら不可解なのは……ん?
ゲームディスク用のトレイが空いている……?
おい、ダル。ここに……『電話レンジ改(仮)VR』に
セットしていた『ひぐらし』のゲームはどこにやった?
ダルん? ひぐらし……って、なに?
夏に鳴く蝉のアレ?

岡部倫太郎なにって、ゲームの……おい。
ここに置いてたパッケージはどこにやった?

ダル『ひぐらし』、のゲーム……?
なにそれ、聞いたことないけど。
ジャンルは? ギャルゲー?
岡部倫太郎…………。


……いや、いい。なんでもない。


(あのゲームは、実話を元に作られたゲームだ。
だとしたら、実際に起きた事件がそもそも
存在しなくなったことで、ゲームも消滅した……?)
(俺たちが雛見沢に向かったことで、
世界線が変わったのか……?)

…………。


(いや、リーディング・シュタイナーが
発動した感覚はなかったはずだ)

(だとしたら、あの少女たちが変えたのか?
自らの力と意思で、世界線を……未来を変えたのか?)

(ゲームという仮想の電子データを媒介にして、
現実の世界線に干渉したことで彼女たちが気づき、
過去を改変したのであれば……あるいは……)
ふっ、ふ……フゥーハハハ!!


(いや、できる。否、出来たのだ!
なぜなら、あの少女たちは……!)

どのように世界を変えたのか、
報告を楽しみにしているぞ……!
また会おう、異世界分室のラボメンたちよ!
※「ヘルメッツ」は原文ママ。
※「競走馬みたいな名前」とあることから、元ネタはサトノダイヤモンドか。
なおサトノダイヤモンドは2013年生まれであるため、本来 劇中の登場人物には知り得ない存在なのは ご愛敬。