……例年よりも早い梅雨明けが宣言されて以来、 最近は朝から晩までじっとりと汗ばむくらいの 暑い日々が続いている。 | |
ただ、この雛見沢において6月――特に月後半は 大切な期間だ。そのせいか村は普段よりも忙しく 騒がしく、なにより活気に満ちている様子だった。 | |
そんな、ある日曜日の朝に――。 | |
園崎魅音 | あっ、来た来たっ。 おーい、こっちこっちー。 |
公由一穂 | おはよう、魅音さーん! |
鳳谷菜央 | レナちゃん、おはよう! |
竜宮レナ | あははは、おはよう菜央ちゃん。 今日は綿流しのお手伝い、頑張ろうねっ。 |
鳳谷菜央 | うんっ! |
相変わらず仲良しの菜央ちゃんとレナさんは、 気合十分とばかりに元気よく言葉を交わし合う。 | |
今日は、雛見沢の村祭り――『綿流し』の 設営準備の日。私たちは魅音さんに頼まれて、 そのお手伝いをすることになっていた。 | |
園崎魅音 | それじゃ、早速古出神社に向かおう。 そろそろ町会の人たちが作業に入る頃だからさ。 |
赤坂美雪 | おっけー。……って、詩音は? あの子もここで待ち合わせる予定だったよね? |
竜宮レナ | それなんだけど……詩ぃちゃんは 沙都子ちゃんたちにお土産を持っていくから、 先に行くって連絡があったよ。 |
赤坂美雪 | お土産?……なんか言葉通りに受け取って いいものかどうか、怪しい感じだねぇ。 |
園崎魅音 | なんでも詩音のやつ、この前葛西と一緒に 東京へ行ってきてさー。そこで妙な飲み物を 大量買いしてきたそうなんだよ。 |
公由一穂 | 妙な飲み物……? あの、それって何? |
園崎魅音 | さぁ? 今日みんなにも飲ませるから、 楽しみにしてろって話だったけど…… やけにテンション高めなのが気になるね。 |
赤坂美雪 | なんにせよ、私と菜央は『綿流し』参加は 初めてだからさ。お手柔らかに頼むよ〜。 |
鳳谷菜央 | お手柔らかに、って…… そんな乱暴なお祭りじゃないでしょ? |
竜宮レナ | はぅ、乱暴なお祭りって……たとえば? |
赤坂美雪 | えーっと、私もよく知らないけど…… 担いだ御神輿をぶつけあったり、とか? |
園崎魅音 | あっはっはっはっ! それはそれで面白そうだけど、 綿流しはそんなド派手なお祭りじゃないよ。 |
公由一穂 | そ、そうだよね……あははは。 |
なんてことをわいわいと喋りながら 自転車を走らせていると、ほどなく目の前に 古出神社の石段へと向かう坂道が見えてきた。 | |
竜宮レナ | そういえば一穂ちゃんは、綿流しのお祭りに 参加したことがあるのかな……かな? |
公由一穂 | えっと……あるとは思うけど、 まだ小さかったからあんまり覚えてなくて……。 |
レナさんに答えながら自転車を参道のそばに止め、 私は神社へ向かおうと石段に足をかける。 | |
――と、その時だった。 | |
公由一穂 | ……っ……?! |
ふいに、奇妙な感覚に襲われた私は 足を踏み出した姿勢のまま、動作を止める。 | |
公由一穂 | (今の……なに……? 目の前が、歪んだように感じたけど……) |
竜宮レナ | ……はぅ、どうしたの? |
公由一穂 | えっ、あ……あの……? |
頭上からの声にはっ、と我に返って顔をあげると、 石段の中ほどで立ち止まったレナさんと魅音さんが 怪訝そうにこちらを見下ろしているのが見えた。 | |
園崎魅音 | なになに、どしたの? 3人とも、急に立ち止まったりしてさ。 |
公由一穂 | えっ……? |
横へ振り向くと、魅音さんの言葉通り 美雪ちゃんと菜央ちゃんもまた、私と同様に 石段の一番目で立ち止まっている。 | |
目が合った2人は、それぞれ懐疑的な表情を 浮かべて戸惑っている様子だ。ということは……。 | |
公由一穂 | (もしかして…… 美雪ちゃんと菜央ちゃんも、感じたの……?) |
竜宮レナ | はぅ……ひょっとして、忘れ物でも 思い出したのかな、かな? |
公由一穂 | あ、ううん。そうじゃなくて…… さっき、何か感じなかった? |
赤坂美雪 | あー、やっぱ一穂もか。 私も一瞬、何かと思って身構えちゃったよ。 |
園崎魅音 | へっ……身構えたって、何を感じたのさ? |
鳳谷菜央 | えっと……うまく言えないけど、 突然視界が揺れたというか……。 |
園崎魅音 | 揺れたって……地震? うーん、私は何も感じなかったけどな。 |
竜宮レナ | レナも、特には……。 |
赤坂美雪 | いや、地震じゃなくて…… たとえば、TVの電源を切った直後に画面が 一瞬、ぐにゃって歪んだようになるでしょ? |
あんな感じに、視界が歪んだように なったんだけど……。 | |
レナ・魅音 | ……? |
レナさんと魅音さんはよく理解できないと 言いたげな表情を浮かべ、首を傾げている。 | |
鳳谷菜央 | ……つまり、あたしたち3人だけみたいね。 |
公由一穂 | ……っ……。 |
私たち3人だけが、変化を感じ取った。 ……これって、何かの前触れだろうか。 それとも……? | |
園崎魅音 | ……大丈夫? まさか3人揃って、昨日はよく眠れなくて 寝ぼけてましたー、とか言わないでよね? |
赤坂美雪 | んー……絶対違う、とは言い切れないかなぁ。 なんせ昨夜は遅くまで深夜番組を見て、 一穂なんか寝坊しそうになったくらいだし……。 |
公由一穂 | ちゃ、ちゃんと起きたよっ! 今日は寝起きからずっと、元気だったもん! |
鳳谷菜央 | そうね。たまには朝もご飯がいいー、って 美雪とやり合うくらいに「元気」だったわ。 ……おかげでやかましい朝食になったけど。 |
公由一穂 | ご、ごめんなさい……。 |
赤坂美雪 | まぁまぁ、和解したんだから言いっこなし。 それより、早く梨花ちゃんたちと合流しよう! みんな、首を長ーくして待ってるって! |
竜宮レナ | う、うん……。 |
レナさんはまだ不思議そうにしていたけれど、 私たちは元気アピールで適当にごまかしてから 改めて石段を登り始める。 | |
ただ途中、お互いに目配せを交わして 「何かあった時のためにも慎重に行こう」と 無言で示し合わせていた……。 | |
園崎魅音 | あ、そうそう。さすがに女の子ばっかりだと 力仕事がきついし、男子にも声をかけておいたよ。 |
赤坂美雪 | あ、そうなんだ。 いやー、前原くんってフットワークが軽いし 力持ちだから、こういう時は頼りになるよね〜。 |
まー、前原くんに声をかけたのは 別にやらせたいことがあるからかもだけどねー。 | |
鳳谷菜央 | ……別にやらせたいことって、なによ。 |
赤坂美雪 | そりゃ、準備ついでの部活に決まってるじゃん。 ついでに罰ゲームとして、前原くんには 恥ずかしい服を着せるとか、なんてのもいいね〜。 |
公由一穂 | ま、前原くんが負ける前提ってのは さすがに甘く見すぎだと思うんだけど……。 |
なんて口を挟みながら、前原くんが 参加すること自体は私たちとしても 大歓迎……。 | |
そう繋げようとした――次の瞬間だった。 | |
竜宮レナ | はぅ……前原くんって、 誰のことかな……かな? |
公由一穂 | えっ……? |
……想定外の言葉に、私たちの足が止まる。 | |
園崎魅音 | 前原……? あっ、ひょっとして美雪たちの友達のこと? |
いやー、手伝ってくれるんだったら 1人でも多いほうが助かるし、 ぜひ参加してもらいたいけどねー。 | |
公由一穂 | い、いやそうじゃなくて……むぐっ。 |
思わず重ねようとした言葉は、 背後から伸びてきた美雪ちゃんの手によって 口が塞がれたことで、強引に飲み込まされた。 | |
赤坂美雪 | あははっ、じゃあそうしようかなー? 来てくれるかどうかわかんないけど〜。 |
公由一穂 | むー! むーっ! |
鳳谷菜央 | ……大人しくしなさい。 非常事態だってわかんないの? |
公由一穂 | (ひ、非常事態……?!) |
背伸びしながら耳打ちしてきた 菜央ちゃんのその言葉に、 私は思わず息をのんで固まった。 | |
園崎魅音 | ん? なに、一穂? 何か私たちに言いたいことでもあったの? |
鳳谷菜央 | ううん、別に。 お昼はご飯がいいー、なんて言い出したから 遠慮なさすぎってとっちめてあげてるだけよ。 |
園崎魅音 | あっはっはっはっ、心配いらないって! あんたならそう言うと思って、今日のお昼は パンとご飯両方を用意しているよ〜。 |
竜宮レナ | はぅ〜、もし足りなかったらレナが夕食を ご馳走してあげるから、楽しみにしていてね♪ |
赤坂美雪 | おーっ、それは心強いねぇ。 んじゃ2人とも、私たちはあっちの水道で 手を洗ってくるから、先に行っててよ。 |
園崎魅音 | おっけー。 んじゃ、私は詩音たちを連れてくるね。 |
竜宮レナ | 行こっ、魅ぃちゃん。 |
そう言ってレナさんと魅音さんは、 笑いながら境内の奥へと進んでいく。 | |
……あまりにも、自然な所作。 2人がわざと知らんぷりをして、私たちを からかっているようにはとても見えない。 | |
赤坂美雪 | はぁ……まいったな、これは。 ……あ、ごめん一穂。急にキミの口を 塞いじゃったりしてさ。 |
公由一穂 | う、ううん……おかげで助かったよ。 でも、これって……? |
赤坂美雪 | あの子たちの言ってる内容が急に変化する、 ってことは今まで何度もあったけど、まさか 前原くんの存在が突然消されるとはね……。 |
公由一穂 | ど……どうしよう。 前原くん、どうなっちゃったの……?! |
赤坂美雪 | ……。とりあえずは、変化した理由と 原因を突き止めるしかないね。 |
鳳谷菜央 | 対応としては無難で、基本的なものね。 ……ただ、突き止めた後はどうするのよ? |
赤坂美雪 | そんなに焦らないの。理由と原因がわかったら、 次はどう解決するのか対応策を検討して――。 |
園崎魅音 | ……おーいあんたたち、手はもう洗った? 詩音たちを連れてきたよ〜! |
そう言って魅音さんたちとともに、 神社の奥からこちらへと向かって 駆けてくる複数の人影が見えた。 | |
北条沙都子 | おはようございますですわ〜! |
園崎詩音 | みんな遅いですよ。 待ちくたびれて、ひと眠りさせてもらおうかと 思っちゃいましたよ。 |
古手梨花 | みー。今日はよろしくなのですよ。 |
古手羽入 | あぅあぅ、一緒に頑張りましょうなのです〜! |
やってきたのは、沙都子ちゃんと詩音さん。 梨花ちゃん、羽入ちゃん。そして――。 | |
知らない少年 | やぁ、お疲れ様。 君たちもお手伝いに来てくれたんだね。 |
……明らかに、私たちの知らない男の子だった。 | |
鳳谷菜央 | えっ……? あ、あの……?! |
園崎魅音 | いやいや、残念だったねぇ。 詩音が居眠り決め込んでいたら、額か頬に ラクガキでもしてやるところだったのに。 |
園崎詩音 | やめてくださいよ、お姉。 そんなことしたら今夜の沙都子の夕食が、 カボチャ尽しになっちゃうじゃないですか。 |
北条沙都子 | な、なんで私がとばっちりを受けるんですのー?! |
公由一穂 | あ、あの……。 |
竜宮レナ | あははは……止めなくても 大丈夫なのかな、かな? |
知らない少年 | うん。なんだかんだ言って、詩音は 沙都子のことを可愛がってくれているからね。 |
園崎魅音 | いやー、休日なのにあんたの手まで 借りることになって、なんか申し訳ないねぇ。 よろしく頼んだよ――「悟史」! |
魅音さんが呼びかけた彼の名前を聞いて、 私たち3人は思わずあっ、と 声を上げかけてそれを必死に飲み込んだ。 | |
鳳谷菜央 | えっ……? 悟史って、まさか……?! |
公由一穂 | (詩音さんが探してたって言う、 沙都子ちゃんのお兄さん……?!) |
竜宮レナ | とりあえず、朝のうちに終わらせなきゃ いけないことがたくさんあるよね。早く始めないと 今日中に終わらないんじゃないかな、かな? |
北条沙都子 | 心配ご無用ですわ! にーにーが作業を手伝ってくれるんですから、 まさに百人力、いえ千人力でしてよ〜っ♪ |
をーっほっほっほっ! | |
古手梨花 | みー。なぜか悟史本人ではなく、 妹の沙都子が自信満々なのですよ。 |
北条悟史 | あ、あははは…… とりあえず足を引っ張らないように、頑張るよ。 |
公由一穂 | …………。 |
沙都子ちゃんも、彼を兄だと認識している。 ということはやはり、詩音さんが探していた 北条悟史くんで間違いなさそうだ。 | |
公由一穂 | (でも、お兄さんは去年の綿流しの日に 行方不明になってるはず……) |
その疑問が、真っ先に頭の中に浮かんでくる。 だけど、それ以上に…… 目の前に立っている彼の姿が……その……。 | |
赤坂美雪 | え、えっと……キミ、悟史くん? なんで、そんな格好をしてるの……? |
北条悟史 | えっ、そんな格好……って? |
赤坂美雪 | だ、だからぁ……! いや、だって……にゃぅん……。 |
美雪ちゃんがひきつった顔で、 何かを言おうとして口ごもっている。 ……気持ちはわかる。よくわかる。 | |
でも、気になる! すっごく気になる! 「なんで悟史くんが、ここにいるか」という 当然の疑問以上にッ! | |
赤坂美雪 | つまり、キミは、なんで……! |
どうして、巫女服なんて着てるのさ……?! |
?.?????? | |
某日。 ――秋葉原・未来ガジェット研究所。 | |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! ついに……ついに完成したぞ新たな発明が! 素晴らしい、実に素晴らしいっ! |
牧瀬紅莉栖 | ……何を真昼間から叫びまくってるのよ、岡部。 外階段からも声が聞こえてたわよ。 |
いい加減近所から警察か、 黄色い救急車を呼ばれても知らんぞ…… いやむしろ、私が呼ぶぞ? | |
岡部倫太郎 | おぉ、いいところに来た助手よ! |
牧瀬紅莉栖 | 助手じゃない。……で、何をしてたの? |
岡部倫太郎 | 実は最近、タイムマシンに代わる 新たな発明を思いついて、ダルに試作を 頼んでいたのだが……。 |
それが、ついに完成したのだ! 見るがいい、このニューマシンを!! | |
牧瀬紅莉栖 | ニューマシン……新たな発明? どこに? どれが? |
岡部倫太郎 | お前の顔についてる目玉はガラス玉かっ? ……えぇい、これだっ! これっ! |
牧瀬紅莉栖 | これって……『電話レンジ(仮)』? 私も知ってるやつじゃない。 別に驚きもしないわよ。呆れるけど。 |
岡部倫太郎 | チッチッ……相変わらず浅はかなやつだ。 これは『電話レンジ(仮)』ではなぁい! |
牧瀬紅莉栖 | っ……じゃあ、何なの? |
岡部倫太郎 | タイムマシンは、素晴らしい発明だ…… しかしっ! 時間を巻き戻して、現実世界に 干渉するという行為には大きなリスクが伴う。 |
だからこそ、俺が選んだ 新たな可能性の道は……『仮想現実』! この言葉、お前も聞き覚えがあろう!? | |
牧瀬紅莉栖 | 『仮想現実』……つまり、VRのこと? |
岡部倫太郎 | その通り! 助手ポイント+1だ、 ありがたく受け取るがいい! |
牧瀬紅莉栖 | いや、いらんわ。 というより通算いくらで何の役に立つんだ? |
岡部倫太郎 | そう! いわゆるVRの世界であれば、 たとえ大きな変化が起きたとしても 現実の世界線に影響を及ぼすことはない……。 |
であれば、電子空間――例えばゲームの世界に この発明を用いて自我の情報を転送すれば、 VR以上のリアル体験ができるかも……いや、できる! | |
ゆえに! 目的を変更して強化改良された これは、『電話レンジ改(仮)VR』と 呼ぶがいいッ!! | |
牧瀬紅莉栖 | ……。どこからツッコめばいいのか もはやわからないんだけど、なんで そんなものを作ろうと考えたわけ? |
岡部倫太郎 | これだっ! |
牧瀬紅莉栖 | なにこれ……ラノベ? 『異世界転生・現実世界に疲れた僕が 勇者になって、快刀乱麻に大活躍』……? |
おい……これは何だ? | |
岡部倫太郎 | 何だ助手、知らんのか? 今巷ではやっている異世界転生モノ ……すなわち『なるぞ系』だ! |
牧瀬紅莉栖 | 『なるぞ系』って、投稿サイトの名称でしょ? 異世界転生はそのうちの1ジャンルだし、 それだけじゃ全く説明になってないんだけど。 |
岡部倫太郎 | ……意外に詳しいな、助手よ。 そうか、お前も『なるぞ系』愛読者だったのか……。 |
牧瀬紅莉栖 | ししししとらんわ! ちょっと小耳に挟んだだけっ! |
岡部倫太郎 | ほぅ、そうかそうか……んっふっふっ! |
牧瀬紅莉栖 | なに、その変な笑い方は。 って、まさか……このラノベに 触発された、なんてことは……? |
岡部倫太郎 | その通り! またポイントをやろう、助手! |
牧瀬紅莉栖 | だから、いらないったら。 ……というか、頭が痛くなってきた。 |
こうなったら、本格的に厨二病の治し方を 考えた方がいいわね。 ググったら出てくるのかしら……? | |
岡部倫太郎 | ググって治療法が出てくるなら、 厨二病などと言う言葉が存在するわけがない。 そんなこともわからんのか? |
牧瀬紅莉栖 | ……自分でわかってるんじゃない。 というかそんなアホ妄想に、よく橋田も 真面目に付き合ってあげたものね……。 |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! 当然だ! |
ゲームの世界に入り込むという夢は 健全な男子であれば必ず見る夢、ある意味で 究極の至福だからな! | |
……まぁ今日はメイクイーン+ニャン2の イベントデーであることを思い出した、とかで テスト運転を後回しにして出かけてしまったが。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……おい、開発者本人が実現する可能性を 全く信じてないようなんだが。 |
岡部倫太郎 | まゆりもだ! この世紀の大発明よりも バイトを優先するとは、まったく嘆かわしい……。 |
せっかく3人分の機材を用意したというのに、 この世紀の大発明の価値がわからんとは!! | |
牧瀬紅莉栖 | いや、この上なく理解しての当然の判断でしょ。 バイトよりこっちを優先するとか、 その方が社会人として心配になるわよ。 |
ん……あれ? ねぇ、誰かがドア越しに呼んでない? | |
岡部倫太郎 | ん、誰だ? 助手よ、扉を開けてやれ。 こっちは今、準備で手一杯だ。 |
牧瀬紅莉栖 | まったく。はいどうぞ……って。 |
漆原るか | あっ、こんにちは。 牧瀬さんもいらっしゃってたんですね。 すみません、荷物で手が塞がってて……。 |
牧瀬紅莉栖 | 漆原さんじゃない。 どうしたの、その大きな段ボールは。 |
漆原るか | お野菜をたくさんいただいたので、 お裾分けに持ってきたんです。たまには お野菜を食べるのもいいかと思って……。 |
牧瀬紅莉栖 | 野菜……鍋パーティーとか? |
漆原るか | はい。前から皆さんのお食事には、 ちょっとお野菜が足りないんじゃないかと……。 |
岡部倫太郎 | おぉ、いいところに来たなルカ子! |
漆原るか | は、はいっ? あの、何かやっておられたんですか? |
岡部倫太郎 | 違う。今から事を起こすのだ! 2人で実験を行うつもりだったが、 ルカ子が加わればちょうど3人! |
早速始めるぞ! 準備しろ、助手! | |
牧瀬紅莉栖 | 助手って言うな……えっ? 私は実験に参加するともしないとも、 一言も言ってないんだけど!? |
岡部倫太郎 | いいから、このヘルメットを付けろ! さぁ、準備が整い次第電源を入れるぞ……。 |
牧瀬紅莉栖 | まてまてまてまて。 そもそも何のゲームなのか、説明しろ。 |
漆原るか | 実験……? ゲーム、ですか……? |
牧瀬紅莉栖 | それが、岡部がVR機材を作ったから ゲームの世界に行くぞ、とか言い出して……。 |
漆原るか | わぁ、すごいですね! どんなゲームの世界に行けるんですか? |
岡部倫太郎 | ふっ……よくぞ聞いてくれた! 今回飛び込む世界は、現実に起きた事件をもとにして シナリオが描かれたと評判になったノベルゲーム……。 |
この、『ひぐらしのなく頃に』だッッ! | |
漆原るか | あっ、そのゲーム聞いたことがあります。 すっごく怖いゲームなんですよね? |
牧瀬紅莉栖 | えっ、ホラー系? ロケラン撃ちまくってゾンビ倒しまくるとか? |
漆原るか | いえ、そういうゲームじゃなくて……。 確か田舎で起きた連続殺人失踪事件を 解決するとか、しないとか……? |
岡部倫太郎 | ふっ……よく知っているなルカ子よ。 しかし狂気に彩られた事件などは、 このゲームが持つ魅力の一端でしかない。 |
その裏に隠された真実こそが……! おおっと、ここからはネタバレになってしまうな。 前置きはこの辺りにしておくとしよう。 | |
牧瀬紅莉栖 | つまり、これって推理ゲームなの? |
岡部倫太郎 | 厳密にはそれも違う、と俺は思っているが まぁ、その認識で間違いでもないな。 |
牧瀬紅莉栖 | ……つまりタネを知っている 推理ゲームの世界で、探偵無双しようってこと? |
岡部倫太郎 | ぐっ!?……そ、それは断じて違うぞ! |
他のジャンル……例えばアクションRPGの世界で いきなりモンスターに襲われたりしたらどうする? ……ルカ子、回答! | |
漆原るか | は、はいっ! えっと…… 「妖刀・五月雨」とか武器があればいいですけど、 何も無ければ戦うのは難しそうですね。 |
岡部倫太郎 | その通りだ、ルカ子! |
だが、平和・ほのぼの・牧歌的なゆるふわゲームは この狂気のマッドサイエンティスト、 鳳凰院凶真の趣味ではなぁい! | |
つまりこのジャンルを選択したのは シュタインズゲート……ひいては、 合理的なリスクヘッジの果ての結果だと言うことだ! | |
牧瀬紅莉栖 | つまり、岡部は既にゲームをプレイして 内容も犯人を知ってるから、仮に追い詰められても どうにかなるだろうって寸法ね。 |
岡部倫太郎 | ぐっっ!? |
牧瀬紅莉栖 | 私は犯人知らないから、あとで教えなさいよね。 ……って、なに? これ、テレカ? 絵柄違いで2枚あるけど……。 |
岡部倫太郎 | 最近発売されたのは、 昔のゲームのリニューアル版なのだ。 |
そして、限定版特典の1つが、初代発売時に 特典として付いてきたテレカの復刻版というわけだ。 | |
その梨花と沙都子の2枚組テレカは、 一時期ネットオークションで 何万円と言う値が付いたらしいぞ。 | |
漆原るか | テレカって、テレホンカードのことですよね? ボク、久しぶりに見ました……。 |
牧瀬紅莉栖 | このスマホのご時世に、テレカって……。 電話料金の支払いにしか使えないんだけど。 |
岡部倫太郎 | ふっふっ、そうかそうか……お前には 古き良きテレカのよさがわからないか。 |
手のひらに収まる1枚のカード…… しかし、それを公衆電話に入れると 異なる場所にいる人間と繋がることができる……。 | |
そのノスタルジックなロマンスとカタルシスを 味わえるのは、もはや限られた層……いや、 選ばれし者のみという時代だからな。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……。公衆電話ならわざわざテレカじゃなくて、 普通にお金を入れて通話、でいいじゃない。 |
岡部倫太郎 | ダメだ。硬貨では拝金主義のニオイがする! |
こんな小さなカードにも関わらず、 どこかの誰かと繋がることが 出来る力が秘められている……。 | |
テレカの魅力は、その無限の可能性にあるのだ! | |
漆原るか | な、なるほど……! |
牧瀬紅莉栖 | じゃあ、このテレカ使うの? |
岡部倫太郎 | 使わん。と言うか使えん。 今時どこに公衆電話があるんだ? 落ち着いて常識を考えろ、助手よ。 |
牧瀬紅莉栖 | あんたが常識を説くな! と言うか、テレカと公衆電話の魅力を語った口で こっちに価値を尋ねてくるな! |
と言うか、テレカだってお金で買うものでしょ。 拝金主義って……。 | |
漆原るか | あのー、これってどうすればいいんですか? このヘルメット? を、被ればいいんですか? |
牧瀬紅莉栖 | いいのよ、漆原さん。 こんなどうでもいいことに付き合わなくっても。 |
漆原るか | い、いえ……前にテレビでVRの話を見て、 面白そうだなって思ってたので……。 もしよかったら、体験させてもらいたいです! |
岡部倫太郎 | さすがだな、ルカ子。 では、助手は放っておいて俺たち2人で 遊ぶとしよう。 |
牧瀬紅莉栖 | ま、待ちなさい! わかった、わかったわよ! 私もやればいいんでしょ、やれば! |
岡部倫太郎 | ふっ、お前も本当は遊びたいなら 素直にそう言えばいいものを……。 |
牧瀬紅莉栖 | 違うっ! 漆原さんにもしものことがあった時、 あんたに任せるわけにはいかないでしょ!? |
……で、このヘルメットを 被った後はどうすればいいの? | |
岡部倫太郎 | 被った後は、座ってじっとしていればいい。 あとは、俺が設定が整えてこのスマホに入れた 専用アプリを立ち上げれば、ゲームが起動する。 |
ほら、早く座った座った! | |
漆原るか | こ、こんな感じでいいんでしょうか? ……なんだかドキドキしちゃいます。 牧瀬さんは、VRってやったことありますか? |
牧瀬紅莉栖 | あるけど……プロが作ったものでも 可能性は感じるものの、まだまだこれからが 成長期の分野、って感じだったわね。 |
まして、今回作ったのは岡部たちなんだし…… あまり期待しすぎないぐらいで ちょうど良いんじゃないかしら? | |
岡部倫太郎 | おいそこ! ヘルメットを被った後は静かに! |
漆原るか | ご、ごめんなさいっ! |
牧瀬紅莉栖 | 被った後は黙ってないといけないなら、 最初に言いなさいよ。 |
岡部倫太郎 | くっ、一言多いやつめ。今に見ていろ……! |
よし、ヘルメットセット……完了。 スイッチ、オーン!! | |
(……ん、なんだこの景色?) | |
(ローディング時は、黒背景でラボのロゴが 右下で回転するように設定したはず……) | |
(なぜ、無数のカケラのようなものが、 光りながら回転しているのだ? こんなものを組み込んだ覚えは……) | |
謎の声 | ……っ……め。 |
岡部倫太郎 | ん……? 誰だ? |
謎の声 | ……ダメ! こっち来ちゃ、ダメッ……!! |
岡部倫太郎 | ……は? |
牧瀬紅莉栖 | ん……ここは、どこ……? 森……? |
えっ、なんぞこれ。森……森っ? 私たち、いったいどうなったの!? | |
漆原るか | す、すごい……! ボクたち、本当にゲームの中に 入っちゃったんですか!? |
牧瀬紅莉栖 | ちょ、ちょっと岡部! これ、いったいどうなって……! |
岡部倫太郎 | ……。成功だ。 |
牧瀬紅莉栖 | は……? |
岡部倫太郎 | ……ふはははは、成功だッ! |
青少年の憧れ、そして夢っ! それを俺は……いや! 俺たちはついに 現実のものとしたのだぁぁっっ!! | |
牧瀬紅莉栖 | ……。天才となんとかは紙一重って言うけど、 本当に実現させたのは褒めるべきかもね。 |
で……ここからは、どうするの? どうすればゲームクリアで、脱出になるの? | |
岡部倫太郎 | ――――。 |
牧瀬紅莉栖 | おい……岡部……岡部? |
まさか、脱出方法を考えてなかった…… なんて、言わないわよ、ね? | |
岡部倫太郎 | ……――ってなかった。 |
牧瀬紅莉栖 | ……えっ? |
岡部倫太郎 | ……――ってなかったから。 |
牧瀬紅莉栖 | ……ワンモア。 |
岡部倫太郎 | その……本当に成功するとは思ってなかったのだ! この俺が一番驚いて……いや、正直に言おう!! |
俺が作ったのは、ゲーム内の背景画像同士の 隙間に、ネット上に存在する様々な現実の写真を 参考にした存在しない景色を脳内補完させ……。 | |
人間のアモーダル補完を応用・活用して 存在しないはずの二次元の景色を 三次元的に構築するシステムのはずだった。 | |
だが……これはどうだ? 視界だけではない。 土の地面を踏みしめている感覚がある。 この肌に感じる暑さは何だ? 草の匂いは何だ? | |
視界を作り出すためのヘッドセットを 付けただけで、なぜこのような感覚が 存在しているんだ!? | |
正直怖いんだが! なんだコレ!? | |
牧瀬紅莉栖 | …………。 |
漆原るか | …………。 |
牧瀬紅莉栖 | は、…………はぁああああっ!? |
公由一穂 | よい、しょっ……と。 |
指定された荷物を運び終えて、息をつく。 | |
園崎魅音 | お疲れ様〜。 いい感じに作業も進んでいるし、 そろそろ休憩にしよっか。 |
竜宮レナ | 集会所の冷蔵庫から、飲み物持ってきたよっ。 |
赤坂美雪 | ありがと、レナ。 じゃあ、ちょっと休憩させてもらおうかな。 |
鳳谷菜央 | ……そうね。 |
肩からクーラーボックスを下げた レナさんと魅音さんに促されて、 私たちは本殿の前に腰を下ろす。 | |
柔らかい芝生の上で一息ついたものの…… どうにも気持ちが休まらない。 | |
美雪ちゃんと菜央ちゃんも私と同じらしく いつもの軽口もなく黙って汗を拭いたり、 ぼんやりと遠くを眺めたりしていた。 | |
竜宮レナ | 一穂ちゃんたち……大丈夫? 疲れたのかな、かな? |
公由一穂 | う、ううん。そうでもないよ……。 |
赤坂美雪 | あはは、あー……慣れないことしたから、 ちょぉっと気疲れしたのかもね。 |
鳳谷菜央 | しっかりしなさいよ。 肉体労働で下手に気を抜いたりしたら、 事故に繋がりかねないんだから。 |
竜宮レナ | そうだね。怪我しちゃったら、せっかくの 綿流しのお祭りも楽しめなくなっちゃうもん。 |
園崎魅音 | 手伝ってくれるのはありがたいけど、 無理しないでね。 なんだったら、長めに休みを取ってくれていいよ。 |
公由一穂 | う、うん……そうさせてもらうね。 |
園崎魅音 | うんうん。 ほらっ、冷えた缶ジュースを持ってきたから どんどん飲んでちょうだい。 |
公由一穂 | あ、ありがとう……。 |
竜宮レナ | じゃあレナたち、 他のみんなにもジュースを配ってくるね。 |
ぎこちなく笑いながらジュース缶を受け取り、 レナさんと魅音さんを見送る。 | |
もちろん、私たちは疲れたわけじゃない。 この程度で疲弊するほど、弱くもないつもりだ。 ただ……。 | |
北条沙都子 | にーにー、これどこに運びますの? |
北条悟史 | それは実行委員のテントのところだよ。 ……でも大丈夫かい、沙都子。 そろそろ休んだ方がいいんじゃないか? |
北条沙都子 | 平気ですわ。にーにーが働いているのに、 私だけのんびりしているわけにはいきませんもの。 |
古手梨花 | ……みー。 沙都子、汗でびっしょりなのですよ。 |
園崎詩音 | 無理して沙都子が倒れたら、かえって 悟史くんが心配しますよ。 張り切りすぎず、自分のペースを守りなさい。 |
古手羽入 | あ、あぅあぅ……。 沙都子は疲れているようなので、休んだほうが いいと思うのですよ〜。 |
北条悟史 | ……手伝ってくれるのは嬉しいけど、 みんなの言う通りだよ。 ほら沙都子、汗を拭いて水分補給をしないと。 |
園崎詩音 | 悟史くんの方も、汗びっしょりじゃないですか。 拭いてあげますから、じっとしていてください。 |
北条悟史 | い、いいよ。僕は大丈夫だから……。 |
園崎魅音 | いくら神社でバイトしているからって、 あんたが休まないと沙都子も頑張っちゃうでしょ。 少しは休みなって。 |
竜宮レナ | はぅ……お祭りで倒れちゃったら大変だよ。 |
北条悟史 | ……むぅ。わ、わかったよ。 |
少し離れた場所で、見慣れた人たちが 楽しそうに喋っている。でも……。 | |
赤坂美雪 | ……やっぱりというか、落ち着かないね。 |
公由一穂 | そう、だね……。 |
『前原圭一』が消えて、『北条悟史』が 存在しているこの状況を……私たちはすんなりと 受け入れることができない。 | |
公由一穂 | ねぇ……これってどういうことなのかな? 前原くんが消えて、悟史くんがいるって……。 |
赤坂美雪 | よくわかんないけど…… ひょっとすると何かがきっかけになって、 この「世界」が変わっちゃった、とか……? |
鳳谷菜央 | そう考えるほうが自然でしょうね。 |
赤坂美雪 | でも、今までの「あれっ、みんなが今までと 言ってることが違うな」……って時も、 あの目の前が歪むような感覚はなかったよね? |
あれ、何だったのかな……? | |
鳳谷菜央 | 今までと今回の世界の変化では、 根本的に何かが違うってことかもしれないわね。 |
赤坂美雪 | 根本的に、ね。根本的と言えば、 その……「あれ」はどうすればいいんだろ? |
鳳谷菜央 | 「あれ」って? |
赤坂美雪 | ……言わせないでよ。 |
鳳谷菜央 | 言いなさいよ。 |
赤坂美雪 | あーもう、だから悟史くんの巫女服だよっ! |
公由一穂 | あ、あぁ……。 |
美雪ちゃんの控えめな叫び声に、 私たちは彼の服装を指摘した時の 部活メンバーの反応を思い出していた。 | |
(回想) | |
園崎魅音 | えっ、悟史の巫女服? バイトの時はいつも着ているけど、 誰かの趣味だって聞いたような……誰だっけ? |
竜宮レナ | でもでも、とっても似合ってるよねっ。 |
北条沙都子 | にーにーの巫女服ですの? 確かに、若干動きづらそうではありますわね。 |
古手羽入 | でも、特に動きづらいと言っていたことは なかったような気がしますが……。 |
古手梨花 | ……みー。悟史の巫女服に 何か問題でもありますですか? |
(回想ここまで) | |
赤坂美雪 | ……とかなんとか、みんなふっつーに 受け入れられてたけどさ、おかしい。 すごいおかしい。ものすごっっくおかしい。 |
鳳谷菜央 | そう? レナちゃんの言うとおり 似合ってるし、服装は別に構わないと思うけど。 |
赤坂美雪 | 似合ってる、ですませていいのかなぁ……。 |
鳳谷菜央 | それに、元々悟史さんは巫女服を 着てる人だったかもしれないじゃない。 |
公由一穂 | あ、あのね……私、子どもの頃の記憶って ぼんやりしてるけど、巫女服着た男の人がいたら 絶対、間違いなく、覚えてると思うんだよ。 |
赤坂美雪 | おぅ、一穂がそこまで断言するとは……。 |
鳳谷菜央 | なんにしても、変化の原因を探らないと。 ここの作業が終わったら、少し動きましょう。 |
赤坂美雪 | ……だね。元に戻す戻さないはともかく、 この状況を放置してると こっちの頭がおかしくなりそうだし……。 |
公由一穂 | そ、そうだね……。 |
頷き合いながら、私たちはふと 部活メンバーの方を見やる。 | |
彼らもようやく休憩に入ったのか、 地面に腰を下ろして魅音さんから ジュースを受け取っていた。 | |
園崎詩音 | 悟史くん。今日のお弁当には ブロッコリーたくさん入れてきましたから、 ちゃんと全部食べてくださいね。 |
北条悟史 | ちゃ、ちゃんと全部食べるよ……むぅ。 |
北条沙都子 | とかなんとか言って、残すつもりでは ありませんわよね? |
北条悟史 | そ、そんなことしないよ。 せっかく詩音が作ってくれたのに。 |
園崎詩音 | じゃあちゃんと食べてくださいね。 あ、私があーん♪ してあげましょうか? |
北条悟史 | じ、自分でちゃんと食べるから……っ! |
公由一穂 | 沙都子ちゃんも詩音さんも、幸せそうだね……。 |
赤坂美雪 | そうだね……とりあえず、 休んでばっかりだと魅音たちに申し訳ないし、 体裁だけでも整えるとしよっか。 |
鳳谷菜央 | えぇ……。今回に関しては、 レナちゃんたちに力を借りるわけには いかないでしょうしね。 |
赤坂美雪 | ……しっかし、何がどうしてこうなったんだか。 はぁ、ジュースでも飲んで頭を冷やすかな。 |
そうぼやきながら、美雪ちゃんは首元に当て、 菜央ちゃんは手の中で持て遊んでいた ジュース缶のフタを開けて、口元に運び――。 | |
赤坂美雪 | ぶっ……ふっ?! な、なにこれっ? すっごいマズい……! |
鳳谷菜央 | なにこれ、薬みたいな味……っ? あ、あたしこれ無理ッ! |
2人は口に含んだジュースを噴き出し、 ゲホゲホとむせ込みはじめた。 | |
公由一穂 | だ……大丈夫、2人ともっ? |
赤坂美雪 | な、なんとか…… はぁ、一穂が平気な顔で飲んでたから 油断したよ……。 |
鳳谷菜央 | っていうか、あんた、これ平気なの? |
公由一穂 | う、うん。普通においしいと思うよ? |
赤坂美雪 | お、おぅ……ブラックコーヒーを 普通に飲める美雪ちゃんでも、 これはちょっとキツいんだけど……。 |
園崎魅音 | おーい、3人もこっちで休憩を…… って、どしたの? 美雪と菜央、百面相してるけど。 |
鳳谷菜央 | み、魅音さん、この……ペッパー? ってジュース、なんなの? |
園崎魅音 | あ、それ? 東京で売っている 外国のジュース、『ドクペ』だよ。 |
さっき話していた、詩音の東京土産だよ。 あの子、先に神社に行ったのは これを冷蔵庫で冷やすためだったんだって。 | |
鳳谷菜央 | ……魅音さん、詩音さんと喧嘩でもしたの? |
園崎魅音 | えっ、なんで? |
赤坂美雪 | いや、だってこれ……。 |
竜宮レナ | はぅ……魅ぃちゃん。 せっかくくれたこのジュースだけど、 ちょっと飲みづらいかな……かな。 |
古手梨花 | ……みー。なんだか風邪薬の シロップみたいな味がするのですよ。 |
古手羽入 | ……あぅあぅ? 僕はそんなに変な味ではないと思うのですが。 |
公由一穂 | うん、私も結構好きなんだけど……。 |
園崎魅音 | だよね、だよね! 私も結構おいしいと思うんだけどな〜。 |
園崎詩音 | お姉……舌大丈夫ですか? これをおいしいとか、味音痴にもほどがありますよ。 |
園崎魅音 | ……おい、買ってきたのはあんただろ。 自分が飲めないジュースって、どういうことだよ? |
北条悟史 | うーん……でも、僕は嫌いじゃないというか 結構おいしいと思うよ。クセになる味というか。 |
園崎詩音 | ですよね、ですよねっ! この薬品じゃない、ハーブっぽい味が 体に良さそうでいいですよね〜。 |
園崎魅音 | ちょっと詩音! さっきと言ってること全然違うじゃん! |
園崎詩音 | 何言っているんですか。 自分がおいしいと思えないジュースなんて わざわざ買ってくるわけがないでしょう? |
園崎魅音 | くっ……! あぁ言えばこう言う……! |
赤坂美雪 | 手のひらの回転が速い…… まるで誰かさんを見ているような……ちらり。 |
鳳谷菜央 | ……なんであたしを見るのよ。 |
赤坂美雪 | いいえ、別に。 |
北条沙都子 | …………。 |
沙都子ちゃんは半々…… どころか、やや否寄りの意見に怖じ気づいたのか、 未開封の缶を片手に固まっている。 | |
古手梨花 | 沙都子……無理に飲まなくても良いのですよ。 |
北条沙都子 | い、いえ……せっかくいただいたんですもの。 いただきますわ……っ! |
沙都子ちゃんは意を決したように ジュースの缶を開け、ぐいっと一気に 喉へと流し込んだ。 | |
北条沙都子 | ……っ、……ぷはっ! |
と、都会はジュースのお味も最先端ですのね……? | |
そう感想を述べた、沙都子ちゃんの笑顔は…… とても引きつっていた。 | |
北条悟史 | 無理して飲まなくてもいいよ。 残った分は、僕が飲むから……ね? |
北条沙都子 | ご、ごめんなさいにーにー……。 |
落ち込む沙都子ちゃんの頭を、 優しく撫でる悟史さん。 その仕草に……お兄ちゃんを思い出す。 | |
公由一穂 | (お兄ちゃん……) |
失踪したはずの悟史くんがここにいるとするなら、 もしかしてお兄ちゃんもいたりするのだろうか? | |
公由一穂 | (でも、前原くんはどうなったのかな。 まさか、悟史くんの代わりに前原くんが失踪……?) |
恐ろしい想像に、背筋に寒気が走った瞬間――。 | |
竜宮レナ | あれ……? |
古手羽入 | あぅ? レナ、どうしましたか? |
竜宮レナ | あっちから話し声が聞こえてくるけど…… 誰かいるのかな、かな? |
園崎魅音 | ……高台の方? うーん、今日はあっちで作業する予定は 何もなかったはずなんだけどねー。 |
赤坂美雪 | 気になるし、ちょっと見に行ってみようか。 |
雛見沢を見下ろす高台に近づくと 声はどんどん大きく、はっきりと聞こえてきた。 | |
そして、私たちが見たのは……。 | |
牧瀬紅莉栖 | バカなの!? 死ぬの!? 本気で脳みそポン酢につけ込まれたいのっ!? |
私だけならともかく、漆原さんまで こんな事態に巻き込んでおいて、 どう責任を取るつもりなのよッッ!? | |
岡部倫太郎 | お、落ち着くのだクリスティーナよ! 落ち着いて素数を数えつつ、 俺の襟首から手を放すべきだ! |
……男の人が女の人に襟首をつかまれ、 前後左右縦横無尽に揺さぶられる姿だった。 | |
岡部倫太郎 | ここで仲間割れをしたところで、 何も解決にはつながらな――うおおっっ!? |
牧瀬紅莉栖 | ティーナって付けるな! と言うか、その原因を作った張本人が 居直ってるんじゃないっ!! |
漆原るか | ま……待ってください、牧瀬さん! これ以上揺さぶったら、 岡部さんが死んじゃいます! |
おろおろしていたもう1人の女の人が、 意を決した顔で女の人の腕にすがりつく。 | |
牧瀬紅莉栖 | 大丈夫、これはVR。ここで岡部をいくら 揺さぶろうがひっぱたこうが頭部切開しようが 現実の肉体への影響はほぼ皆無……。 |
そうよね、岡部!? そうって言って! 違うって言ったら今ここで頭部切開するわよ!? | |
岡部倫太郎 | まままま待て助手そうだと言いたいが 揺さぶられすぎて頭が若干ふらついてきた というか結構酔ってきたっ、うっぷ! |
牧瀬紅莉栖 | 岡部!! |
岡部倫太郎 | そ、そうだここで何かが起きても 現実の肉体への影響は薄い、はずだ! そして落ち着いてよく考えてみろ助手よ! |
……の世界に入り込むというのが 本当に実現したとなれば、タイムマシンに 勝るとも劣らない世紀の大発明だ! | |
しかも現実には何の悪い影響も及ぼさない! 素晴らしいとは思わないか!? | |
この状況を前向きにとらえて、 この現象を分析して研究しようでは ないか……うわぁっ!? | |
牧瀬紅莉栖 | 前向きにとらえるよりも! 先に! 元の世界に戻る手段くらいちゃんと 用意しておけぇぇっっ!! |
片腕を掴まれたまま、女の人は もう片方の腕で再び男の人の襟首を掴んで 再び前後左右に振り回し始めた。 | |
凄まじい勢いに、私たちは声をかける タイミングも見失ってただ呆然と そのやりとりを見守るしかできない。 | |
北条沙都子 | ……あれ、なんですの? |
古手羽入 | あぅ……あの髪の長い女の子、 すっごく怒っているのですよ……。 |
園崎魅音 | 痴話喧嘩……かな? |
園崎詩音 | ……たぶん、そうみたいですね。 |
赤坂美雪 | えーっと……止める? ほっとく? |
鳳谷菜央 | ……見なかったことにしましょう。 色恋沙汰の面倒はごめんだわ。 |
竜宮レナ | そ、そうだね。当事者以外が 首を突っ込んで、余計に話を ややこしくしちゃう方がよくないし……。 |
公由一穂 | い、いいのっ?! あの人、首ガンガン揺さぶられてるよっ?! |
古手梨花 | みー……あのままでは 首がもげてしまいそうなのです。 |
公由一穂 | も、もげた首がすぽーんって こっちに飛んできたらどうしよう……。 |
北条沙都子 | か、一穂さん……! 嫌すぎる想像をさせないでくださいましっ! |
岡部倫太郎 | ……お、おぉっ! そこの現地少女たちよ、いいところに! |
赤坂美雪 | おぅ、見つかった。 |
岡部倫太郎 | ちょ、ちょっと話を聞いて…… いや、その前に助けてくれぇぇ!! |
園崎詩音 | えっと……呼ばれましたけど、どうします? |
鳳谷菜央 | ……。呼ばれたからには、行くしかなさそうね。 |
公由一穂 | ど、どうやって止めればいいのかな……? |
最終的に、私たちはなんとか2人を止めた。 というか、物理的に2人を引き剥がした。 | |
牧瀬紅莉栖 | はぁ、はぁ……。 |
公由一穂 | あの、えっと……だ、大丈夫ですか? |
牧瀬紅莉栖 | あ、ありがとう……ごめんなさい。 ちょっと興奮しちゃって、 恥ずかしいところを見せちゃったわね。 |
漆原るか | ごめんなさい、ボクだけじゃ止められなくて……。 |
園崎魅音 | いやぁ、あれを止めるのは1人じゃ無理だって。 |
岡部倫太郎 | ……いや、助かった。礼を言う。 だが……。 |
男の人が、ちらちらと巫女服姿の 悟史くんの顔を見ている。そして、さっきから 何か言いたそうな表情のようだけど……。 | |
北条悟史 | あの……僕の顔に、何か付いていますか? |
岡部倫太郎 | いや、そういうわけでは……。 |
園崎魅音 | この辺りじゃ見ない顔ですが、 どこから来たんですか? |
牧瀬紅莉栖 | え、えっと…… ちょっと岡部、どうするのよこの状況! |
まさか、ここが……の世界だなんて 言っても、信じてもらえるわけもないし……。 | |
ロングヘアーの女性が口ごもる。 ……肝心な部分が聞こえなかったけれど、 なんて言ったのだろうか。 | |
岡部倫太郎 | ここは、俺に任せろ。 2人を連れて来た責任は取るつもりだ。 |
漆原るか | 岡部さん……! |
ショートカットの女性は男の人を キラキラした目で見上げているけれど…… ロングヘアーの女性は不安げな様子だ。 | |
牧瀬紅莉栖 | 嫌な予感がする。ちょっ、岡部――。 |
岡部倫太郎 | 聞いて驚くな! 否、むしろ驚け! 俺は狂気のマッドサイエンティスト、 鳳凰院凶真! |
こっちは我が『未来ガジェット研究所』の ラボメン、牧瀬紅莉栖と漆原るか! | |
そして何より驚くべきは…… 俺たちは、異世界からやってきたのだ! | |
牧瀬紅莉栖 | ば……バカっ!! そんな言い方をしたら、私たちまで 頭のおかしいやつみたいに思われて――。 |
赤坂美雪 | ――あ、そうなんだ。 |
岡部倫太郎 | へっ? |
園崎詩音 | あら、ではお客さんということですね。 |
北条沙都子 | をっほっほっほっ、雛見沢にようこそですわ〜。 |
古手羽入 | あぅあぅ、ゆっくりしていってほしいのですよ。 |
竜宮レナ | 鳳凰院さんと牧瀬さんと漆原さん、ですよね。 よろしくお願いします。 |
園崎魅音 | あれ……でも鳳凰院さんって、 さっき牧瀬さんに岡部って呼ばれてなかった? |
牧瀬紅莉栖 | えっと、コイツの本当の名前は 岡部倫太郎……なんだけど……。 |
園崎詩音 | へー、あ、もしかして鳳凰院って もしかしてペンネームですか? |
北条悟史 | えっ。じゃあ作家さんなんですか? |
岡部倫太郎 | い、いや。俺は……。 |
園崎魅音 | あ、じゃあラジオのハガキ職人とか? 面白い投稿する常連さんとかって名前が出ると 「おっ!」て期待しちゃいますよね〜。 |
漆原るか | あ、あの……別に嘘を言ったりとか、 騙したりするつもりはないんですけど……。 ほ、本当に……信じてくれるんですか? |
園崎詩音 | まぁ信じるも何も、 つい最近似たようなことが ありましたからねー。 |
牧瀬紅莉栖 | に、似たようなことって……? |
岡部倫太郎 | くっ! |
岡部さんは唸り声をあげて、 懐から薄い板のようなものを取り出す。 | |
なんだろう…… ポケベルより薄いけど、無線機? | |
岡部倫太郎 | ……俺だ。機関の妨害工作を受けている。 俺は今どこにいるんだ? 知っているモノと 知らないモノとあるはずのないものが入り交じっている。 |
一体、この世界は何なのだ!? 誰が連れてきたっ? 至急情報の提供を求む! | |
牧瀬紅莉栖 | あんたが連れてきた世界でしょうがっ! |
竜宮レナ | あの……こんなところで話し込むのも 落ち着かないと思いますし、 あっちの広い場所に行きませんか? |
岡部倫太郎 | ……えっ? |
園崎魅音 | あっちなら飲み物もありますから、 一息入れながら話しましょうよ。 |
北条沙都子 | それにしても、来るのが もうちょっと遅かったら綿流しに 参加できましたのに……残念ですわね。 |
古手羽入 | あぅあぅ、それなら綿流しまで 滞在してもらえばいいと思うのですよ〜! |
岡部倫太郎 | わ、綿流しって……お、おい。 |
鳳谷菜央 | 黙って付いてきたほうが良いわ。 大丈夫、危害は加えないから。 |
岡部倫太郎 | …………。 |
菜央ちゃんが小声で彼らに告げると、 彼らは先に歩き出したレナさんたちの後を 大人しく付いてこようとして……。 | |
漆原るか | あれ……? |
牧瀬紅莉栖 | どうしたの、漆原さん。 |
漆原るか | あ、いえ。あの男の子の姿が、 一瞬、変な感じに揺れた……ような? |
人目のつかない祭具殿のところに移動して 腰を下ろすと、私たちよりも少し年上……と 思しき3人は、ここに来た経緯を話し始めた。 | |
……といっても、彼らにも状況は よくわかっていないようで、ゲームを媒介にした 特殊な『転送機』に自分たちを繋げて……。 | |
竜宮レナ | はぅ……気がついたら、 ここにいたってことですか? |
岡部倫太郎 | あ……あぁ、そうだ。 |
鳳谷菜央 | ゲームって、ジャンルは何? どんなゲーム? |
ゲームが好きな菜央ちゃんが食いつくと、 岡部さんは視線を彷徨わせる。 | |
岡部倫太郎 | そ、それは……シューティングだ。 |
公由一穂 | (……嘘だ) |
私にもそれだけは、直感的にわかった。 菜央ちゃんの顔を見る限り、 おそらく彼女も気づいただろう。 | |
でも……口にした瞬間の岡部さんが なんだか苦しそうにしていたので…… 私たちもそれ以上聞こうとは思わなかった。 | |
公由一穂 | (……きっと、何か事情があるんだろう。 私たちも、立場はそれほど変わらないから……) |
岡部倫太郎 | ……あと、すまない。今は西暦何年何月だ? |
北条悟史 | 西暦? えっと、今は昭和58年だから……。 |
岡部倫太郎 | 昭和58年……6月か? |
北条悟史 | え、あ、はい。そうですけど……。 |
岡部倫太郎 | そうか……。 |
岡部さんはそれだけ聞くと、 難しい顔で黙り込んでしまう。 | |
なんだか一気に空気が重くなった気がして、 落ち着かない気分になった。 | |
古手梨花 | ……みー。何か、飲みますですか? |
岡部倫太郎 | えっ? |
古手梨花 | ……何に悩んでいるのかボクは知りませんが、 気分転換になりますですよ。 |
梨花ちゃんはそう言うと駆け出し、 少し離れた場所に置いてあったクーラーボックスを えっちらおっちらと運んできた。 | |
岡部倫太郎 | あ、あぁ……すまない……。 |
牧瀬紅莉栖 | ありがとう、喉が乾いてたから助かるわ。 |
漆原るか | すみません、ご迷惑をおかけします……。 |
古手梨花 | 気にしないでいいのですよ……あっ。 |
そしてクーラーボックスを開けると、 中にはみんなに不評だった赤い缶のジュースが ぎっしりと詰まっている。 | |
園崎詩音 | あ、そっちのクーラーボックスは……。 |
さらに不快な気分にさせてはまずい、と思って 詩音さんが止めようとしたが、こちらの意に反して 岡部さんはそれを見るや、目を輝かせて叫んだ。 | |
岡部倫太郎 | こっ、この赤い缶……もしや、ドクペか!? |
北条沙都子 | えっ……このジュース、ご存知なんですの? |
岡部倫太郎 | 無論だ! ふふ、まさかこんなところで お目にかかれるとはな……! |
園崎魅音 | あー、好きならどうぞ。 たくさんあるんで、じゃんじゃん飲んじゃってよ。 |
岡部倫太郎 | 感謝する! |
岡部さんは嬉々として缶を手にするや、 ジュースのプルタブを立てる。 | |
岡部倫太郎 | ……ん? なんだこの缶。 プルタブのフタが取れたぞ? |
いや、しかしこの漂ってくる芳醇な香りは 間違い無く……ッ! | |
岡部さんはフタが取れてしまったことに 若干困惑している様子だったが、 意を決したように缶を傾けてあおり飲む。 | |
喉を鳴らして飲むたび、彼の表情には 生気が蘇り……恍惚とした笑みすら浮かべて 中のジュースを一気に飲み干していった。 | |
岡部倫太郎 | くぅ……っ、うまい! さすが、選ばれし者の知的飲料の味は 時代や世界を越えても変わらんな……! |
牧瀬紅莉栖 | い、いただきます……あ、本当。 私たちの知ってるドクペと同じ味ね。 |
古手羽入 | あぅ……違う世界にも、 このジュースがあるのですか? |
鳳谷菜央 | 別の世界ではポピュラーなのね……。 何事も、先入観で決めてはいけないんだと 勉強になったわ。 |
漆原るか | そ、その認識はちょっと間違ってるような……。 |
赤坂美雪 | あー、話を元に戻していい? |
岡部倫太郎 | なんだ、サイドテール。 |
赤坂美雪 | それ、私のこと? いや……まぁ、いいけどさ。 |
さっきの説明を聞く限り、岡部さんたちは そのスマホ……って無線通信機で 世界を越えてやってきたんだよね? | |
岡部倫太郎 | いや、このスマホはあくまで パソコンに接続している端末で…… いや、まぁいい。それがどうした? |
赤坂美雪 | もし、そのスマホが元の世界に 繋がったままだったら……脱出方法も 見つかるんじゃないかな、ってさ。 |
牧瀬紅莉栖 | いや……いくらなんでも、 この昭和の時……世界で スマホが使えるわけがないと思うけど。 |
鳳谷菜央 | でも、あなたたちはこの「世界」に 自分の意識を電波のように 飛ばしてきたって言ってたでしょ? |
竜宮レナ | だとしたら、今この瞬間も 回線が繋がっててもおかしくないんじゃ ないかな……かな? |
岡部倫太郎 | む、むむっ……確かに。 |
漆原るか | でも、さっきからスマホって『圏外』に なってるんですよね……? |
岡部倫太郎 | いや、この表示もまた、 俺たちの生み出した『仮想現実』の 一部かもしれないわけだし……。 |
……ダメで元々。やってみるか。 | |
そう言って岡部さんは、無線機に指を当てる。 ……ボタンもないのに、その画面はすいすいと 表示を切り替え続けていた。 | |
公由一穂 | (どういう仕組みなんだろう……?) |
なんだか、手をかざすだけで ページがめくれる魔法の本みたいだ。 | |
公由一穂 | (こんなすごい機械が存在するなんて…… この人たちはどんな世界から来たのかな?) |
そして私たちが見守る中、岡部さんは 耳にスマホを押し当て……。 | |
岡部倫太郎 | コール音……? つ、繋がったっ!? |
牧瀬紅莉栖 | えっ!? ちょっ、スピーカーにしてっ! |
岡部さんが耳元から無線機を離して 画面をなでると、機械の向こうから 男の人の声が聞こえてきた。 | |
ダル | 『どしたん、オカリン。 もうすぐフェイリスたんのショーが 始まるから、早く切りたいんだけど――』 |
岡部倫太郎 | ダル、教えてくれ! お前が作った『電話レンジ改(仮)VR』だが、 元の世界に戻る方法はあるのかっ!?」 |
ダル | 『ん〜、あのVRもどき……? うーん、徹夜明けのハイテンションで 組み上げたものだから、よく覚えてないお』 |
『……というか岡部氏、 異世界転生に成功したん? マジで? 寝ぼけてない?』 | |
岡部倫太郎 | いいから、さっさと教えてくれ! 俺の後ろでクリスティーナが 爆発寸前でブチギレてる! 早くしてくれ! |
その言葉の通り、岡部さんの悲鳴を聞きながら、 牧瀬さんが「にっこり」と背後で微笑んでいる。 | |
……怖い。すっごく怖い。 | |
赤坂美雪 | うわぁ、本気で怒った時の うちの母さんみたいな威圧感……! |
園崎魅音 | えっ、マジで? うちのお母さんも怒るとこんな感じなんだけど。 |
ダル | 『はいはい、いつものそういうアレってわけね。 んと……操作用アプリを起動したら、 右上に設定のアイコンが見える? 歯車のやつ』 |
『それをタップしたら強制停止のボタンが 出てくるから、それを押せば元に戻れるはずだお』 | |
岡部倫太郎 | アプリを起動して……こ、これだな! |
……って何も起こらんぞ! いや、エラーウィンドウは出てきたが……! | |
ダル | 『あー、ひょっとしたらバグが残ってたのかも。 ショーが終わったら直すから、 それまで待ってて。んじゃ――』 |
岡部倫太郎 | あ、おいっ! ショーよりも俺たちのことを心配しろっ!! |
……切れた。 | |
牧瀬紅莉栖 | あ、あの馬鹿……! 帰ったら開頭して 海馬に電極ぶっ刺してやるから! |
岡部の次に! | |
岡部倫太郎 | ちょ、ちょっとまて助手! 過激すぎる発言は、一般大衆のあらぬ誤解を 生むだけだぞっ!! |
竜宮レナ | え、えっと……そのエラーが なんなのかよくわからないですけど……。 |
要するに、あとで無線の向こう側の人が 何かしてくれたら、帰れるってことですか? | |
岡部倫太郎 | ま……まぁ、そういうことだな。 |
牧瀬紅莉栖 | ったく……仕方ない。橋田がバグを修正して くれるまで、当分は待つしかなさそうね。 |
漆原るか | で、でもじゃあ元に戻れる目処は 立ったんですよね? ……よかった、安心しました。 |
安堵の空気が周囲に満ちる中、 私のポケットから電子音が響く。 | |
公由一穂 | あれ? |
ポケベルを取り出して画面を確認する。 | |
公由一穂 | (9から始まる番号……田村媛さま?) |
ごめんなさい。ちょっと電話してくるね。 集会場の電話……。 | |
鳳谷菜央 | 集会場は人がいるでしょ。 ……長電話したら、「迷惑」よ。 |
公由一穂 | えっ、あ……そ、そうだよね! |
(忘れてた……今は綿流しの準備で、 色んな人が集会場に出入りしてるもんね) | |
(そんな中で、田村媛さまの電話を 聞かれたら怪しまれちゃう……) | |
赤坂美雪 | じゃあ、電話ボックスを探しに行くか。 どのあたりにあるかな……えっと……。 |
古手梨花 | みー。それなら、近くにできたばかりの 電話ボックスを使うといいのですよ。 |
石階段を降りて、美雪たちの家の反対方向に ちょっと歩けば、見つかるのです。 | |
古手羽入 | あぅあぅ! 新品ピカピカの公衆電話なのですよ〜! |
赤坂美雪 | へぇ、そんなのあったんだ…… 知らなかったなぁ。 |
園崎魅音 | じゃあ、私たちもそろそろ作業に戻ろうか。 |
竜宮レナ | そうだね。レナたちは先に進めているから、 一穂ちゃんたちは電話が終わったら戻ってきてね。 |
あと……岡部さんたちは、この後どうしますか? | |
岡部倫太郎 | む……そうだな、俺たちは……。 |
赤坂美雪 | おにーさんたちも、 よかったら私たちと電話ボックス来ない? |
面白いもの、見れるかもよ。 | |
牧瀬紅莉栖 | 面白いもの……? |
公由一穂 | 美雪ちゃん? |
私が問いかけると、美雪ちゃんはこちらを見て 「にひっ」と笑う。 | |
……でも私には、 目が全く笑っているようには見えなかった。 | |
みんなと別れて、岡部さんたちと一緒に 神社の階段を降りた私たちは、 少し急ぎ足で村へと向かう道を歩き始めた。 | |
岡部倫太郎 | ……どういうつもりだ。 俺たちを連れ出して、何を企んでる? |
赤坂美雪 | あ、気づいてたんだね。 まぁ、そう固くならないでよ…… ちょっと話がしたいだけだからさ。 |
漆原るか | あ、あの……話って、なんですか? |
赤坂美雪 | ……。現状を理解したい気持ちは よくわかるけどさ、あんまり深く突っ込んで 調べようとすると、危険だって注意をね。 |
牧瀬紅莉栖 | どういうこと……? あなたたち、何か知ってるの? |
鳳谷菜央 | あたしたちも、あなたたちと 一緒……ではないわね、厳密には。 でも、似たようなものよ。 |
赤坂美雪 | おにーさんは、何か知ってる感じだったよね。 この世界のこと、どこまで知ってるの? |
岡部倫太郎 | ……。ここが昭和58年6月の雛見沢村だと いうことは知っている…… それと、さっき神社で出会った6人のことも。 |
赤坂美雪 | じゃあ、あの6人のフルネーム言える? |
岡部倫太郎 | 竜宮レナ。園崎魅音。園崎詩音。 北条沙都子。古出梨花。……北条悟史。 |
だが俺は、お前たち3人のことは知らない。 いや、そこのサイドテール。 | |
さっき美雪と呼ばれていたが…… お前、もしかして赤坂美雪か? | |
赤坂美雪 | おぅ、よく知ってるね。 そうだよ、私は赤坂美雪。 |
岡部倫太郎 | ……だとしたら、おかしい。 昭和58年の赤坂美雪は5歳児のはず。 |
なのに、お前はどう見ても 中学生くらいじゃないか。 | |
赤坂美雪 | …………。 |
岡部倫太郎 | ……お前たちは、いったい誰なんだ? |
鳳谷菜央 | 言ったでしょう? あたしたちは、あなたたち3人と 似たようなもの。 |
別の「世界」から来てしまった、 この「世界」には本来いないはずの人間。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……。今の状況がよくわからないから、 憶測で話すわね。 |
普通、この世界に存在しない人間がいたら 拒絶反応みたいなものが起きるんじゃない? | |
岡部倫太郎 | 白血球が体内に入り込んだ細菌を 攻撃するみたいに……か? |
牧瀬紅莉栖 | えぇ。私は免疫学も風俗学も専門じゃないけど 別の世界から来た、なんて主張が 普通に受け入れられるっておかしいわよ。 |
公由一穂 | ……この世界は、いないはずの存在を 受け入れるようになっているんです。 私たちも、どうしてかはわからないですけど……。 |
漆原るか | あなたたち3人も、別の世界から来たって 言ってましたね。……だとしたら、 元の世界に戻る方法はあるんですか? |
公由一穂 | それは、その……ごめんなさい。 私たちが戻る方法は、わからないんです。 |
岡部・紅莉栖・るか | …………。 |
背後で3人が言葉を失ったのと同時に、 自分たちも同じ状況になったのでは、と 心配させてしまったことに気づく。 | |
それを感じた私は、慌てて取り繕うべく 言葉を繋いでいった。 | |
公由一穂 | で……でも仲間、というか味方はいます! その人から……いえ、人ではないかも しれませんが今、連絡があったんです。 |
だから、この人に相談すれば、 待つよりも早く、あなたたち3人を元の世界に 返してあげられるかもしれないんです……! | |
そう言って私は、取り出したポケベルを見せる。 そこには田村媛さまからの連絡であることを示す 9から始まる番号が並んでいた。 | |
岡部倫太郎 | ……それは、ポケベルか? 見せてもらってもいいか。 |
公由一穂 | えっ、あっはい。どうぞ……。 |
岡部倫太郎 | ありがとう……ん? なんだ、これは。 |
牧瀬紅莉栖 | どうしたの、岡部。 |
岡部倫太郎 | いや、このポケベルだが…… 俺の知っているポケベルとはなんだか 形状というか、機種が……? |
鳳谷菜央 | はいはい、その話はちょっと中断して。 今最優先することは、外部にいる あたしたちの味方と連絡を取ることでしょ? |
パンパンと両手を叩いた菜央ちゃんが、 道の向こう側をくいっと指差す。 | |
それを受けて岡部さんも、「お、おう」と 気圧されたようにこくこくと頷いた。 | |
鳳谷菜央 | ほら。電話ボックス、見えてきたわよ。 |
岡部倫太郎 | ……。この小動物、 若干クリスティーナに似てる気がするぞ。 |
牧瀬紅莉栖 | ティーナって付けるな! |
鳳谷菜央 | あら……? あたしが大きくなったら、 こちらの美人で綺麗なお姉さんみたいに 成長するって褒めてくれてるの? |
だとしたら、とっても光栄だわ。 ありがとう♪ | |
岡部倫太郎 | びっ……だっ、誰がそんなことを言った!? |
牧瀬紅莉栖 | びっ、美人で綺麗って……! |
鳳谷菜央 | え? だって、本当のことだもの。 |
菜央ちゃんはさらっと言ってのけるが、 岡部さんと牧瀬さんは真っ赤だ。 | |
岡部倫太郎 | くっ……! シスターブラウンと似たような 年頃だというのに、こっちの小動物は 何故こうもこまっしゃくれてるんだ!? |
鳳谷菜央 | こまっしゃくれてる、なんてセンスがないわね。 せめて「おしゃま」って言ってほしいわ。 |
漆原るか | お、おしゃま……? |
公由一穂 | あ、あはは……。 |
赤坂美雪 | はーい、お喋りはココで終わり。 電話ボックス、到着だよー! |
目の前にそびえ立つ電話ボックスは、 梨花ちゃんの言っていた通り、 新品のピカピカだった。 | |
赤坂美雪 | おぅ……こんな場所に 新しい電話ボックスなんてあったっけ? |
鳳谷菜央 | なかった、と思うわ。 少なくとも、知ってる「世界」では。 |
牧瀬紅莉栖 | 知ってる世界……って? |
赤坂美雪 | あとで説明させてもらうよ。 先にこっちを済ませちゃうから……一穂。 |
公由一穂 | う、うん。 |
狭い電話ボックスの中に大人数は入れないので、 扉を開け放ちみんなが見守る中、 やや緊張しながら真新しい電話機の受話器を取る。 | |
ポケベルに表示されていた番号を打ち込むと、 間もなく電話は繋がった。 | |
公由一穂 | も、もしもし? 田村媛様ですか? |
田村媛命 | 『――今度は何をやらかした也やッ?!』 |
公由一穂 | わっ?! |
突然の大声に、反射的に耳を受話器から離してしまう。 | |
公由一穂 | やらかしたって……えっ? なに、なんのことですか?! |
田村媛命 | 『そちらに、面妖な異物が侵入したのを捕捉した也や。 疾く疾く排除せねば、その「世界」は崩壊する哉!』 |
みんな | ええっ?! |
岡部倫太郎 | ……田村媛命なる存在の話をまとめると、 この「世界」に本来いないはずの「異物」が 紛れ込んだせいで、『因果律』が損傷……。 |
牧瀬紅莉栖 | 『因果律』が断絶する寸前って……。 |
漆原るか | そ、それって、断絶したらこの「世界」は どうなっちゃうんですか |
田村媛命 | 『具体的にどうなるかはわからない哉。 端的に言えばこの世界は滅びる、と 申すが当たらずといえども遠からず也や』 |
赤坂美雪 | 「異物」って……ひょっとして ここにいる3人のこと? |
岡部倫太郎 | おい! どこのお姫様か神様は知らんが、 この天才鳳凰院凶真とラボメンの 仲間たちを汚物呼ばわりするんじゃない! |
牧瀬紅莉栖 | 「汚物」じゃなくて、「異物」だ! 意味と印象が全然違うっ!! |
田村媛命 | 『共にいる者也や? それが男2人と女1人なら、 こちらでも補足している哉……』 |
赤坂美雪 | いや、違うよ。男性1人と女性2人だって。 補足のアンテナ、ボケてるんじゃない? |
岡部倫太郎 | いや、正しい。ルカ子は男だ。 |
赤坂美雪 | は……え、えぇっ?! |
漆原るか | す、すみません……。 |
岡部さんの指さす先には、 漆原さん……漆原さん?! | |
赤坂美雪 | う、嘘でしょ……? こんなに可愛いのにッ? マジで?! |
岡部倫太郎 | だが男だ。 |
その瞬間、菜央ちゃんの目が光った。 | |
鳳谷菜央 | ……へぇ。スタイルもいいし、 男物も女物も両方似合いそうね。 |
公由一穂 | (菜央ちゃんが、獲物を見つけた目をしてる?!) |
田村媛命 | 『だから聞け、痴れ者が。……その者どもが 人の姿をかたどっているのならば、むしろ逆也や』 |
公由一穂 | 逆……って、どういう言うことですか? |
田村媛命 | 『「異物」が入り込んだことで「世界」に歪みが生じ、 3人はその隙間から入り込んだと考えるべき哉』 |
赤坂美雪 | つまり、穴を開けたのがこの3人じゃなくて…… 「異物」が入り込むために開けた穴から この3人は落っこちてきちゃったってこと? |
田村媛命 | 『左様。ゆえにその異物を排除すれば、 「世界」は元の姿を取り戻す也や』 |
『そこにいる3名も、元の「世界」に 帰還が叶う哉』 | |
公由一穂 | じゃあ……その「異物」を倒せばいいんですね? |
岡部倫太郎 | おい……どういうことだ? 「異物」が何なのか、察しが付いているのか? |
赤坂美雪 | あー、なんて説明したらいいか困るんだけど…… この世界にはね、「バケモノ」がいるんだよ。 |
公由一穂 | ……っ……! |
赤坂美雪 | 私たちはそれを、『ツクヤミ』って呼んでる。 ……で、そいつらはこの『ロールカード』が 変化した武器で倒せるんだ。 |
そう言って美雪ちゃんは、ポケットから 取り出した『ロールカード』を見せる。 すると岡部さんは、驚愕した顔で目を見開いた。 | |
岡部倫太郎 | ……『ツクヤミ』? 『ロールカード』だと!? |
漆原るか | お、岡部さん……っ? |
岡部倫太郎 | くそっ、この世界はどうなってるんだ?! バケモノとか「カード」とか、そんなものは 『ひぐらし』には存在しなかったぞ!? |
牧瀬紅莉栖 | ちょ、ちょっと岡部。落ち着きなさい……! |
岡部倫太郎 | この状況で落ち着いていられるか! いったい誰が、世界観ぶち壊しの別ルールを このゲーム内に持ち込んだのだ!? |
赤坂美雪 | あー……言ってることはよくわからないけど、 気持ちはわかるよ、うんうん。 こんなこと急に言われても、困るよね。 |
けどさ、話はわかりやすくなったと思わない? この『ロールカード』で入り込んできた 「異物」を倒せば、元の世界に……。 | |
と、美雪ちゃんの説明を遮るようにして、 電話口から田村媛さまのため息が聞こえてきた。 | |
田村媛命 | 『……今度ばかりは、その≪札≫では困難也や』 |
公由一穂 | えっ? ど、どうしてですか?! |
田村媛命 | 『例の「異物」とその≪札≫は相性が悪い哉。 効果的に致命傷を与えるならば、 「異物」と同じ世界のモノが必要となる也や』 |
公由一穂 | 「異物」と同じ世界の「モノ」があれば いいんですか……? |
田村媛命 | 『左様。だが、在るだけでは無用の長物。 力が無ければ効果も発揮は不可能哉』 |
『この回線を通じて、吾輩の力を 与えられればよいのだが……何かある也や?』 | |
公由一穂 | な、何かって言われても……。 あのっ、岡部さん! なにか持ってませんか?! 持ち物で、公衆電話に繋げられるようなもの! |
岡部倫太郎 | ……スマホはどうだ? モジュラージャックなど、端末を 繋げられるような穴があれば……。 |
牧瀬紅莉栖 | ……見なさい、このいかにも 昭和な公衆電話のシンプルボディを。 そんな穴あるわけないでしょ。 |
漆原るか | すみません、僕の持ち物なんて ハンカチぐらいで、他には……あれ? |
ポケットを手で探っていた漆原さんが、 驚愕に目を見開きながら手を取り出した。 | |
漆原るか | なんでしょうか、この「カード」……。 さっき見せていただいた、 『ロールカード』に似てますけど……? |
岡部倫太郎 | なに? ま、待て……っ、 俺のポケットにも入ってたぞ!? 『ロールカード』! |
赤坂美雪 | あ……あるんだ。 よかった、それがあるなら 『ツクヤミ』対策はなんとかなりそうだね。 |
岡部倫太郎 | まてまて、そもそも 『ロールカード』とは何なのだ!? おい助手よ、お前もなんとか言って……助手? |
牧瀬紅莉栖 | 公衆電話に繋げる…… 電話回線にアクセスできる代物……? |
岡部さんの声が聞こえていないのか、 牧瀬さんは呟きながらポケットに手を入れた。 | |
そこから取り出したのは、3枚の「カード」。 1枚は他の2人と同じ、『ロールカード』だ。 だけど、残りの2枚は……。 | |
牧瀬紅莉栖 | こっちの「カード」はともかく、 このテレカ……使えない? |
赤坂美雪 | えっ、そのテレカは……。 |
鳳谷菜央 | そのテレカに書かれてるのって…… 梨花と沙都子よね? |
公由一穂 | (どうして梨花ちゃんと沙都子ちゃんが テレカに……ううん、どうしてこんなものを この人たちが持ってるの?) |
岡部倫太郎 | ……っ……。 |
私たちが3人を見つめると、 岡部さんがすぐにふいっ、と視線を逸らす。 ……やっぱりこの人、何かを知っているんだ。 | |
でも、言いたくない……ううん、言えない? | |
公由一穂 | (悪い人ではない、とは思うけど……) |
赤坂美雪 | なんでもいい、試してみよう。 ……これ、貸してもらっていいですか。 |
牧瀬紅莉栖 | いいわよね、岡部。 |
岡部倫太郎 | ……あ、あぁ。 |
沙都子ちゃんと梨花ちゃんの絵が それぞれ書かれた2枚のテレカを受け取り、 美雪ちゃんは公衆電話に差し込む。 | |
田村媛命 | 『ん、これは……?』 |
赤坂美雪 | 田村媛、このテレカはどうかな。 これ……使えない? |
田村媛命 | 『……おぉ、重畳也や。 では、この≪てれか≫とやらに力を転送する哉』 |
岡部倫太郎 | 転送とは、どうやって……うおっ!? |
岡部さんの声を遮るように、 バチン! と大きな音を立てて 公衆電話が大きく揺れた。 | |
そして、カードの排出口から 2枚のカードが吐き出されてきたけど、 それはテレカではなく――。 | |
牧瀬紅莉栖 | テレカが、『ロールカード』に変わった……? |
公由一穂 | つまり「異物」を探し出して この「カード」を使って倒せばいいってこと? |
漆原るか | で、でも……誰が倒すんですか? もしかしてボクたちが……? |
田村媛命 | 『使い方は、≪札≫と同じ也や。 おそらく使い手は、≪札≫自身が選ぶ哉』 |
岡部倫太郎 | ……おい。俺たちに魔性退治など できるように見えるか? |
鳳谷菜央 | できるか、できないかじゃなくて…… やらなきゃ元の世界に戻れないのよ。 だったら、選ぶ道は1つしかないでしょ? |
岡部倫太郎 | くっ……! 生意気だぞミニクリスティーナ! |
牧瀬紅莉栖 | だからティーナって付けるな! ……あれ、でも「クリスティーナ」って 呼ばれてるのはこの子だから……。 |
この場合、私が怒るのは筋違い……? | |
田村媛命 | 『……そろそろ時間也や。切断する哉』 |
公由一穂 | あっ、はい! ありがとうございますっ! |
次の瞬間、通話が途切れる。 後に残されたのは私たち6人と、 テレカが姿を変えた2枚の『ロールカード』。 | |
公由一穂 | …………。 |
静まり返った空気の中…… 美雪ちゃんがぽりぽり、と頬をかく。 そして3人に向き直っていった。 | |
赤坂美雪 | えーっと……まぁ、急に戦えとか言われて 不安なのはよくわかるけどさ。 |
戦闘の方は、私たちもサポートするから、 一緒に頑張ろうよ。ねっ! | |
公由一穂 | も、元の世界に戻れるように 精一杯お手伝いします! |
牧瀬紅莉栖 | あ、ありがとう……でも、その「異物」って どうやって探せばいいのかしら。 |
鳳谷菜央 | ……1つ、心当たりがあるわ。 もしかしたらの話だけど、確認しておきたいわね。 |
公由一穂 | あ……それって、神社の階段の……? |
岡部倫太郎 | 神社の階段……それはどういうことだ? |
公由一穂 | えっと、ですから――あっ……? |
北条沙都子 | あの、皆さん…… そこで何のお話をしておられましたの? |
聞こえるはずのない声が聞こえてきて、 私たちは慌てて背後を振り返る。 | |
公由一穂 | な、なんでここに……。 |
古手梨花 | ……みー。戻ってくるのが遅いので、 様子を見にきたのですよ。 |
北条沙都子 | 「異物」がなんとか、この「世界」が壊れるとか 物騒な言葉が聞こえてきましたけど……。 どういうことなんですの?! |
そこにいたのは、梨花ちゃんと沙都子ちゃんと……。 | |
北条悟史 | 何か困っているなら、相談してくれないかな? |
公由一穂 | ……悟史、くん? |
……沙都子と梨花ちゃん、そして悟史くんに 今の話を聞かれてしまった以上、 もう何を言ってもごまかしきれない。 | |
だから、私……いや、菜央ちゃんと美雪ちゃんが 私たちにとって知られてはまずいことを上手に 省きながら3人に説明をしてくれた。 | |
古手梨花 | みー……つまり、その「異物」がこの「世界」に 来たことで、本来あったはずの「世界」が変わった、 ということなのですか? |
公由一穂 | ……うん。 |
北条沙都子 | そして……本来の「世界」ですと、にーにーは 行方不明になっていて……代わりに前原さん、 という方が存在しておられるんですのね……? |
公由一穂 | うん……あと、私たちの「協力者」の話だと、 このままじゃこの「世界」は長くないらしいんだ。 だから……その……。 |
古手梨花 | ……なんとかならないのですか? 世界を元に戻した後も、せめて悟史だけは 残るように……っ! |
鳳谷菜央 | ……ごめんなさい。 |
古手梨花 | ……っ……! |
北条沙都子 | …………。 |
梨花ちゃんは大きく目を見開いて、声を失い…… その横で沙都子ちゃんは黙ったまま、顔を伏せる。 | |
この「世界」を、元に戻す…… それは、ここにいる悟史くんとの別れを 示しているに等しい。 | |
……納得なんか、できるわけがない。 もし、私が沙都子ちゃんと同じ立場にあったら 泣き叫びながら、全力で抗っていたことだろう。 | |
公由一穂 | っ……! |
残酷な事実に唇をかみしめたまま、 私たちはそれ以上の言葉が出せずに立ち尽くす。 そしてしばらく、沈黙が流れたところで――。 | |
岡部倫太郎 | ……すまない。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部……? |
絞り出すような謝罪の言葉に、 牧瀬さんがはっ、と息をのんで 岡部さんに顔を向ける。 | |
彼は、なぜか手を握りしめたまま 苦渋の形相を浮かべ…… 声を絞り出すように私たちに告げていった。 | |
岡部倫太郎 | 変動してしまった世界線を元に戻すには、 全ての変化を消し去り…… なにもかも無かったことにするしかないのだ。 |
以前のお前たちの世界線、関係が 実際のところどうなっていたのか、 俺にはわからない……だが……。 | |
もし「異物」の存在しない世界線が、 悟史の失踪という事実に収束するのだとしたら…… そこから逃れる手立ては……無い。思いつかない。 | |
……すまない。本当に……すまない……っ。 | |
北条沙都子 | ……どうして、岡部さんが謝りますの? あなたは何も悪いことをしていないのに、 謝る必要なんてありませんことよ。 |
岡部倫太郎 | ……ある。俺たち……いや、俺は 君に大切な人を見捨ててくれと言ってるんだ。 |
それを命じたり頼んだりする権利や資格が、 俺にはないというのに……なのに……っ。 | |
北条沙都子 | ……。でも、この世界がこのままだと 梨花や、部活メンバーの皆さんも死んで…… いえ、世界全体が消えてしまうんですよね。 |
だったら、そっちの方が正しいとは とても思えませんわ。 ……お気になさらなくてもよろしくてよ。 | |
岡部倫太郎 | 正しい、正しくないの話をしているのではない。 これは感情の問題だ! どちらを選ぶことに、耐えられるかどうかの……! |
北条沙都子 | ……だとしたら、なおさらですわ。 私ひとりが感情的に反対したところで、 何も解決はいたしませんことよ。 |
それに……正直なことを申し上げますと 私、巫女服姿のにーにーを見るたびにずっと……。 | |
「……あれっ? にーにーって以前から 巫女服を着ていらっしゃいましたっけ?」って、 若干の違和感がありましたもの。 | |
赤坂美雪 | あ……やっぱ、変だとは思ってはいたんだね。 |
公由一穂 | 美雪ちゃん、しっ! |
北条沙都子 | ですので……平気ですわ。 間違った世界を、元に戻すだけですもの。 |
きっと、大丈夫……私は、なにも……っ! | |
沙都子ちゃんは気丈に笑顔を浮かべようと していたけれど……でも、全然できていなかった。 | |
かたくなな笑顔は、徐々に崩れて…… その頬を、涙が静かにつたい落ちていく。 | |
漆原るか | 沙都子ちゃん……。 |
そんな彼女に漆原さんが歩み寄り、 膝を折って向かい合う。 そして、そっと涙を指で拭っていった。 | |
漆原るか | ごめんね。 今のボクは、何の力にもなれない…… 本当に、ごめんなさい……! |
北条沙都子 | っ、ど……どうして、貴女まで謝りますの?! だ、大丈夫ですわ! 本当に……本当に……。 |
……っ、うぅっ……! | |
ぽろぽろと涙を流す沙都子ちゃんを前に、 漆原さんの目にも涙がにじんでくる。 | |
そんな2人を見た牧瀬さんは、 軽く息をついてから顔を上げ…… 小さく、でも強い意志を込めた声で言った。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……他の方法を、探しましょう。 |
岡部倫太郎 | クリス、ティーナ……? |
牧瀬紅莉栖 | どれだけ猶予が残っているかわからないけど、 これが最善の方法なんてとても思えない。 ……限界まで可能性を探すのが科学者でしょ。 |
もう、ここがVRでもそうでもなくても、 どっちでもいい! このまま彼らを 見捨てるなんてこと、できるわけが……ッ! | |
北条悟史 | いえ……このまま、行きましょう。 |
古手梨花 | ……悟史? |
それまでずっと、黙って状況を見守っていた 悟史くんの力強い声が……その場に、響く。 | |
そして彼は、絶句する私たちに 優しげな笑みを向けながら、ゆっくりと 皆を諭すように言葉を繋いでいった。 | |
北条悟史 | 今の状況を放置していると、 この「世界」が崩壊する……。 |
正直、どういうことなのかは まだ理解できたわけじゃないけど…… このままだとみんな、死んじゃうんだよね? | |
赤坂美雪 | ……。結果的には、そうなると思うよ。 |
北条悟史 | だったら、やるべきことはひとつだ。 ……「世界」を、元に戻そう。 |
牧瀬紅莉栖 | っ……で、でもいいの? 元に戻すってことは、あなたは……! |
北条悟史 | それが、一番確実だっていうなら…… やるしかないと思うんです。 |
北条沙都子 | っ……に、にーにー……! |
北条悟史 | ……大丈夫だよ、沙都子。 |
涙目で見上げる沙都子ちゃんに 微笑みかけてから、悟史くんは 私たちへと向き直る。そして、 | |
北条悟史 | ……一穂ちゃんたちは知っているんだよね。 本来の「世界」の僕は…… 昭和58年6月に死んでいたのかな? |
公由一穂 | それは、……っ……。 |
赤坂美雪 | 生死について私たちが言えるのは、 わからない……だね。 行方不明で、生死についても証拠がないんだよ。 |
北条悟史 | だったら、生きている可能性は あるってことだよね。……うん、よかった。 それを聞いてほっとした。 |
どうやら元の「世界」にも、 まだ希望がありそうです。だから……大丈夫。 ありがとうございます、牧瀬さん。 | |
牧瀬紅莉栖 | ……悟史くん。 |
北条沙都子 | にーにー……。 |
北条悟史 | 大丈夫だよ、沙都子。 僕は消えないし……消されたりしない。 |
いったん「世界」からいなくなったとしても、 僕は絶対に沙都子のところに戻ってみせる。 | |
……だからそれまで、 少しだけ待っていてくれないかな? | |
北条沙都子 | ……っ……! |
悟史くんの静かな呼びかけに、沙都子ちゃんは 目元に残っていた涙を拭い去る。 ……そして、いつもの笑顔を浮かべてみせていった。 | |
北条沙都子 | え……えぇ……っ。 にーにーが戻ってくる時のためにも、 元の「世界」を取り戻してみせますわ! |
――と、その時だった。 まるで沙都子ちゃんの決意に 呼応するように、突然……! | |
赤坂美雪 | えっ……な、なにっ……?! |
振り返ると、美雪ちゃんの手の中にあった 『ロールカード』が光を放っているのが見える。 | |
そして、宙を舞った「カード」は 沙都子ちゃんと梨花ちゃんの前でぴたりと 停止すると、くるくるとその身を回転させた。 | |
まるでそう、自分を手に取れと主張するように……! | |
北条沙都子 | な、なんですの? |
古手梨花 | これは……。 |
赤坂美雪 | 「カード」が選んだ、ってことじゃないかな。 沙都子ちゃんと、梨花ちゃんをさ。 |
北条沙都子 | ……だとしたら、やるしかありませんわね。 梨花。 |
古手梨花 | はい……ボクたちで、やるのですよ。 |
梨花ちゃんと沙都子ちゃんが、 それぞれ「カード」に手を伸ばす。 | |
小さな手に握られた瞬間、 2枚の「カード」は誇らしげに 輝きを増したようにも目に映っていた……。 | |
赤坂美雪 | ……あ、ここだよ。この辺りだ。 |
石段の一番下で、美雪ちゃんが声をあげる。 そして私たちに頷くと、説明を続けていった。 | |
赤坂美雪 | この石段に足をかけたところで、 目の前の景色がぐにゃっ、って曲がったんだよ。 空間が歪むみたいな感じでね。 |
北条悟史 | ……だとしたら、この付近に 話にあった「異物」がいるのかもしれないね。 |
古手梨花 | みー、探してみるのですよ。 |
周囲に気を配りながら、 一歩一歩階段を登り始める。 | |
先頭を歩く梨花ちゃんたちの背中を 背後から追っていると、岡部さんが 難しい顔で私たちにそっと尋ねてきた。 | |
岡部倫太郎 | すまん。聞いておきたいのだが、 目の前が歪んだとはどういうことだ……? |
赤坂美雪 | どういうことって、文字通りだけど…… なにか気になることでも? |
岡部倫太郎 | ……まさかお前たちも、 『リーディング・シュタイナー』を持っているのか? |
公由一穂 | りー……? え、えっと……? |
鳳谷菜央 | たぶん、あたしたち3人はこの「世界」に 本来はいないはずの人間だから…… 世界の変化を受けなかったんじゃないかしら。 |
だから、その……あなたが言ってる リーディングってやつとは違う気がするわ。 | |
岡部倫太郎 | ……そうか。 この場合よかった、と言うべきかは 迷うところだがな。 |
鳳谷菜央 | あなたも……いろいろあったみたいね。 |
岡部倫太郎 | ……。あぁ。 |
鳳谷菜央 | 大事な人を、失ったり……とか? |
岡部倫太郎 | …………。 |
鳳谷菜央 | そう……でもその顔を見る限り、 今は大丈夫そうね。 |
岡部倫太郎 | ん……? おい、待て。 何を根拠にそんなことを言ってのける? |
鳳谷菜央 | 根拠……? ただの勘、センスよ。 |
岡部倫太郎 | あのな…… 仮にもミニクリスティーナの名を冠するならば、 もっと科学的に説明してみせろ。 |
牧瀬紅莉栖 | 岡部が勝手に、「ミニクリスティーナ」って 呼び始めたんじゃない。 |
公由一穂 | 科学……そういえば、 『未来ガジェット研究所』のラボメンって 話でしたけど、何の研究をしてるんですか? |
岡部倫太郎 | ん、聞きたいか? 知りたいか? それはだな、世界の支配構造を作りかえるという 我が野望を実現するための研究に……。 |
漆原るか | えっと……確か役に立つ道具や、 楽しいおもちゃを開発してるんですよね? |
岡部倫太郎 | なっ?! |
牧瀬紅莉栖 | ……まぁ、だいたいそんな感じよね。 正直私の目からすれば、ただのガラクタ作りとしか 見えないんだけど。 |
岡部倫太郎 | く、クリスティーナよ! お前までそんなことを言い出すとは……ッ! |
赤坂美雪 | へぇ、面白そう。 私もそのラボ、入ってみたいな〜! どうやったら参加できるの? |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ!……残念ながら、入りたい、 はいそうですかと迎えるわけにはいかないのだ。 |
牧瀬紅莉栖 | ……別に入れてあげればいいじゃない。 ただでさえ枠は余りまくってるんだから。 |
赤坂美雪 | そうなの? |
岡部倫太郎 | くっ……ならば致し方ない。折衷案だ。 |
ここに、「未来ガジェット研究所」の 雛見沢分室を設立することを宣言しよう! | |
公由一穂 | 雛見沢……分室? |
岡部倫太郎 | そうだ。お前たちチルドレンに、本部所属は まだ早いが……分室のメンバーとしてならば 認めてやらないこともない。どうだ? |
赤坂美雪 | やったー! じゃあ私と一穂と菜央、加入しまーす! |
鳳谷菜央 | ちょ……ちょっと、勝手に決めないでよ。 |
公由一穂 | でも、なんだか楽しそう……。 研究所って何するのかな? やっぱり薬品を混ぜたり……とか? |
牧瀬紅莉栖 | 岡部のラボで薬品は使わないけど…… あなた、もしかしてビーカーで コーヒーを飲むのとかに憧れるタイプ? |
公由一穂 | あっ……そ、それやってみたいです! |
漆原るか | いいですね。 それはボクも試してみたいです。 |
牧瀬紅莉栖 | ふふ……その気持ち、わかるわ。 ただ、やるなら新品のビーカーでね。 |
ビーカーの洗浄が甘かったら、 薬品によっては人体に悪影響を 及ぼす可能性もあるんだから。 | |
古手梨花 | ……みー。 何の話をしているのですか? |
赤坂美雪 | 楽しい話だよっ。 あ、そうだ。梨花ちゃんと沙都子も入ろうよ、 『未来ガジェット研究所・雛見沢分室』に! |
北条沙都子 | あらあら……よくわかりませんが、 なんだか面白そうですわね。 部活との兼任も可能ですの? |
赤坂美雪 | もっちろん! メンバー大募集中だよ! |
岡部倫太郎 | お、おい。勝手に話を広げては……! |
北条悟史 | あはは、楽しそうだね。 なら、僕も入らせてもらおうかな。 |
古手梨花 | ……みー、ということは岡部が ボスなのですか? |
よろしくなのですよ、ボス。にぱー☆ | |
岡部倫太郎 | ぼ、ボス……? ボス、ボスか……ふ、ふふっ。 |
牧瀬紅莉栖 | はぁ、ニヤニヤしちゃって……。 |
岡部倫太郎 | に、ニヤニヤなどしてない! |
北条沙都子 | ボス! 私、トラップ研究でしたら 誰にも負けない自負がありますわ! |
鳳谷菜央 | 私は、服のデザインや制作の研究かしら? 布モノだったら、ある程度は手伝えるわよ。 |
漆原るか | あっ……君も、お洋服を作るの? まゆりちゃんと仲良くなれそうだね。 |
鳳谷菜央 | その人も手芸とかが好きなの? だったら、ぜひ会ってみたいわ。 |
公由一穂 | えっと、え、えっと…… しっ、白いお米が好きです! |
古手梨花 | ……一穂。好きなものを挙げる場面では ないのですよ。 |
牧瀬紅莉栖 | そんなことない。 お米が好きなら、炊飯器の研究とかどう? |
公由一穂 | そ、そんな素敵な研究があるんですか?! |
牧瀬紅莉栖 | どんなことも、果ての果てまで 追及すれば、立派な研究だもの。 |
公由一穂 | はぁ……研究者って、かっこいいですね……! |
牧瀬紅莉栖 | えぇ、そう。研究者ってかっこいいのよ。 |
北条悟史 | いいなぁ、僕は何を研究しようかな。 ……あははっ、想像するだけでも楽しいね。 |
赤坂美雪 | えーっと、となるとレナと魅音と詩音、 羽入と前原くんもメンバーに入るだろうし…… 雛見沢分室は総勢11名になると思われます、ボス! |
岡部倫太郎 | 本部より多いではないか!? |
それより、ボスの意向を無視して勝手に メンバーを取り込んだり色々決めるんじゃない! ……まったく、徹甲弾の娘は鉄砲玉なのか? | |
赤坂美雪 | えっ、なに? 徹甲弾って? |
岡部倫太郎 | あ、いや。こっちの話だ。 |
牧瀬紅莉栖 | はいはい。 年下の女の子たちにボスなんて呼ばれて、 浮かれてるんじゃない。 |
岡部倫太郎 | う……浮かれてなどいない! そして俺はロリコンでもない! ダルとは違う! |
赤坂美雪 | んー、それで研究所に入ったら 何をくれるんですかボス? |
岡部倫太郎 | なっ! そんな金品を要求する 即物的な姿勢で、ラボメンの資格は――。 |
北条沙都子 | あっ……いましたわ! あのヤブの向こう側に、影が見えましてよっ! |
周囲の気配がにわかに騒がしくなり、 楽しかった空気が一変して張り詰めたものになる。 | |
……みんな、わかっていた。 敵が見つかったら、 この時間が終わってしまうことを。 | |
だから、今を少しだけ長引かせるために、 楽しい会話を続けたかったのだけど……。 | |
思った以上に、終わりの時間は 早く来てしまった……! | |
ツクヤミ | ギ……? |
ギィイイイイ!!! | |
ギィイイイイ!!! | |
階段の脇から、ひょこひょこと次々に 小さな影が出現する。そして――。 | |
北条悟史 | あの小さいのに囲まれている、 ひときわ大きいやつ……あれじゃないかな? |
古手梨花 | みー、ボクもあれだと思うのですよ……! |
赤坂美雪 | もしただの『ツクヤミ』だとしても、 あのサイズを野放しにするのは危険だね。 |
公由一穂 | 周りの小物は、私たちで引き受けるよ。 ……危ないですから、岡部さんたちは どこかに隠れててください。 |
岡部倫太郎 | いや……立ち会わせてもらう。 それが、この状況にいるだけの 俺が守るべき、せめてもの矜持だ。 |
クリスティーナ、ルカ子よ。 お前たちはこの場を離れて……。 | |
牧瀬紅莉栖 | だが断る。……科学者として、 経過と結末に立ち会うのは当然よ。 私も見届ける。 |
漆原るか | ……ボクも、ここにいます。 いさせてください。 |
鳳谷菜央 | だったら、自分の『ロールカード』を使って。 戦えとは言わないから、せめて自分の身は 自分で守ってちょうだい。 |
牧瀬紅莉栖 | わかった……って言いたいけど、 大丈夫かしら? |
赤坂美雪 | 大丈夫。私たちでもなんとかできたんだしさ。 |
北条悟史 | ……2人とも、準備はいい? |
北条沙都子 | えぇ、行きますわよ……梨花! |
古手梨花 | はいなのです! |
2人が新たな『ロールカード』をかざすと、 あふれた光がその身体を飲み込んでいく。 | |
そして光が収まった後、そこにいたのは――。 | |
岡部倫太郎 | あ、あれは……!? |
牧瀬紅莉栖 | 私たちと、同じ服装……? |
赤坂美雪 | 私たちの攻撃は、あいつの致命傷には ならない――頼んだよ梨花、沙都子っ! |
古手梨花 | みー、お任せなのです! |
北条沙都子 | 本来の世界…… にーにーが帰ってくるための「世界」を、 絶対に取り戻してやりますわっ! |
古手梨花 | 沙都子! |
北条沙都子 | いきますわよ、梨花! はぁああっ!!! |
2人の息の合ったコンビネーション技が 炸裂すると同時に、巨大な『ツクヤミ』―― いや、「異物」の姿が地に倒れ伏す。 | |
その姿と輪郭は、徐々に薄れて…… やがて、跡形もなく消えていった。 | |
岡部倫太郎 | これは、倒した……のか? |
古手梨花 | ……みー、やりましたのです。 岡部たちが手伝ってくれたおかげなのですよ。 |
公由一穂 | だよね……取り巻きの数も多かったし、 岡部さんたちがいなかったら厳しかったかもね。 |
牧瀬紅莉栖 | ……本当に、やればなんとかなるものなのね。 |
漆原るか | でも、皆さんが無事で本当によかったです。 |
岡部さんと、牧瀬さんと、漆原さん。 そして私たち3人と悟史くんがいたおかげで 周囲の敵は簡単に排除することができた。 | |
梨花ちゃんと沙都子ちゃんも、 さほど大きなダメージを受けたようには 見えない。だけど……。 | |
北条沙都子 | っ、にーにー……? ど、どうしたんですの?! 身体が、光っていますわよ……?! |
北条悟史 | ……。どうやら、ここでお別れみたいだね。 |
北条沙都子 | に、にーにー……。 |
北条悟史 | 元気でね、沙都子――。 |
北条沙都子 | にーにー……ッ!! |
沙都子ちゃんは、名前を呼びながら 一歩悟史くんへと踏み出そうとして…… ぐっ、と唇を噛みしめながら足を止める。 | |
そして、泣き笑いの顔で懸命に 嗚咽をこらえつつも、強い決意を 瞳に込めて……言葉を繋いでいった。 | |
北条沙都子 | ……大丈夫ですわ。約束しましたもの。 私、にーにーが帰って来るまで頑張りますわ。 |
北条悟史 | うん…… 沙都子は頑張れる子だって、信じているよ。 |
古手梨花 | ……悟史。 |
あなたが戻るまで、沙都子のことは ボクが絶対に守るのですよ。 | |
北条悟史 | うん、梨花ちゃんのことも信じているよ。 ……沙都子のこと、よろしくね。 |
そう言いながら、悟史くんは微笑んで…… やがて幻であったかのように跡形もなく 消え去った。 | |
北条沙都子 | っ、く……っ……! |
沙都子ちゃんは伸ばしかけた手をそっと引き、 噛み殺しきれなかった嗚咽をこぼす。 | |
そんな彼女に、岡部さんはそれまでとは 違う……とても優しい、穏やかな口調で 語りかけていった。 | |
岡部倫太郎 | ……大丈夫だ、北条沙都子よ。 |
たとえ絶望的な状況にあったとしても、 心さえ折れなければ未来は必ず変えられる。 死んでいないなら、なおさらだ。 | |
北条沙都子 | 岡部さん…… お気持ちはありがたいのですが、 その根拠はありますの? |
岡部倫太郎 | 根拠は……ある! |
なぜならば、俺たちがここに来た事実こそが、 「世界」を変えられるという何よりの証拠――。 | |
――そう、シュタインズゲートの選択なのだからな! | |
古手梨花 | 岡部……。 |
岡部倫太郎 | 鳳凰院凶真と呼べ、雛見沢の巫女よ。 ……俺は、お前の偉業を知っている。 お前が何を思い、何を成し遂げるかを知っている。 |
お前たちならば、困難を乗り越えられると 信じて……いや、知っている。だから、諦めるな。 | |
古手梨花 | ……みー。岡部はボクたちのことを、 どうして知っているのですか? |
岡部倫太郎 | 説明は難しい……だが、知っているのだ。 一方的に、ではあるがな。 |
古手梨花 | だったらボクたちのことも、 ちゃんと名前で呼んでもらいたいのですよ。 |
岡部倫太郎 | ふむ……名前、か。 |
では、あえてこう呼ぼう。 ――諦めずに頑張れ、フレデリカよ。 | |
古手梨花 | えっ……?! |
岡部倫太郎 | フゥーハハハ! 俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真! 真の名前を読み取る程度、造作も無いわ! |
北条沙都子 | フレ……なんですの? |
梨花は梨花、古手梨花ですわ。 フレデリカなんて、外国の方のような 名前ではありませんのよ。 | |
岡部倫太郎 | 細かいことを言うな! ならばお前は、さと……さと……えっと、 サトノオリハルコンとでも呼んでやろう! |
北条沙都子 | なんですのその競走馬みたいな名前は! ニンジンぶら下げられてパカパカなんて ごめんでしてよーっ?! |
岡部倫太郎 | ち、違う! オリハルコンは最も硬い宝石だ! 固く堅牢なその姿を見た俺が、忍耐強いお前を 称えるために用いただけで……! |
牧瀬紅莉栖 | ……オリハルコンって、架空の石の名前でしょ? |
北条沙都子 | 架空とはどういうことですの、岡部さん?! 私はフィクションの存在ではありませんのよー! |
岡部倫太郎 | よ、余計なことを言うなクリスティーナよ! ややこしくなったではないか! |
牧瀬紅莉栖 | あんたが言い出したんでしょ! |
公由一穂 | あ、あははは……。 |
にぎやかなやり取りを苦笑いしながら 見ていたせいで、視界に入り込んできた 異変に気付くのに一瞬、遅れてしまう。 | |
そう……悟史くんに続いて、当然のことながら 岡部さんたちも――。 | |
公由一穂 | お……岡部さん?! かっ、身体が……っ! |
岡部倫太郎 | ん?……なっ?! |
漆原るか | あ、ボクたちも悟史くんみたいに、光って……? |
牧瀬紅莉栖 | どうやら、私たちもこれでお別れのようね。 |
古手梨花 | ……岡部たちも、消えてしまうのですか? |
岡部倫太郎 | いや、消えるのではない。 元の「世界」に戻るのだ……と、思う。 |
古手梨花 | ……それならいいのです。 岡部まで消えてしまったら、寂しいのですよ。 |
漆原るか | ……色々と、ありがとうございました。 |
公由一穂 | いっ、いえ! こちらこそお世話になりまして……! |
岡部倫太郎 | ……。そっちのお前たちは、 これからどうするのだ? |
赤坂美雪 | おぅ、心配してくれてありがと。 こっちは……まぁ、こっちで頑張るよ。 |
この世界は、岡部さんの言う通り 色々ぶっ壊れてるけど…… それだけ、って訳でもないからさ。 | |
鳳谷菜央 | ……岡部さん。 |
失いたくない人が側にいるなら、 大切にしてあげてね。 ……あたしも、可能な限りそうするから。 | |
岡部倫太郎 | ……言われなくても、わかっている。 ミニクリスティーナも、元気でな。 |
その言葉を最後に、3人の身体を包む光は いっそう強くなり…… やがて、姿が見えなくなった。 | |
――と、同時に……。 | |
公由一穂 | ……えっ……?! |
(また、あの目の前が歪むような感覚……?!) | |
再び襲ってきた奇妙な感覚が収まった時、 そこにいたのは私と美雪ちゃん、菜央ちゃん。 | |
そして……。 | |
公由一穂 | 梨花ちゃん、沙都子ちゃん……。 |
彼女たち2人だけだった。 | |
北条沙都子 | あら……お3方ともこんなところにいましたのね。 |
古手梨花 | ……みー、探したのですよ。 急にいなくなったので、圭一たちが 心配してたのです。 |
公由一穂 | 前原くんが……? |
(ここで悟史くんじゃなくて、 前原くんの名前が出たってことは……) | |
お……岡部さんたちは? | |
古手梨花 | みー……おか、べ? |
北条沙都子 | 私は存じ上げませんわね…… どなたのことですの? |
おそるおそる尋ねると、 2人は顔を見合わせ首を傾げる。 ……その反応が、何よりの証拠だった。 | |
公由一穂 | 本当に、戻ってきたんだ……。 |
鳳谷菜央 | 彼らの言葉で表現するなら、 世界線が変わったのね……。 |
北条沙都子 | ……? 菜央さんたちが何を言っているのか、 よくわかりませんわ。 |
赤坂美雪 | ううん、こっちの話。 さ、綿流しの準備に戻ろっか! |
そう言って美雪ちゃんは、梨花ちゃんと 沙都子ちゃんの肩を抱えると…… 明るい笑顔で元気よく境内の方へ足を向けた。 | |
鳳谷菜央 | 戻るわよ、一穂。 |
公由一穂 | ……うん。 |
私は頷き、みんなの後を追いかける。 | |
公由一穂 | (岡部さんたち、無事に戻ることが できたのかな……) |
(何があったのかは知らないけど、 岡部さんも、戦って戦って…… 最良の現実を手に入れたんだろうか) | |
(私たちも、手に入れられたら……いいな。 あの人達みたいに、最良の未来を――) | |
岡部倫太郎 | う、ぁ……? |
ダル | おー、やっと起きたねオカリン。 |
岡部倫太郎 | ダル……? |
ダル | メイクイーン+ニャン2から戻ってきたら、 オカリンも牧瀬氏もるか氏もヘルメッツ被ったまま ぐーすか寝てたから、びっくりしたお。 |
岡部倫太郎 | ダル……お前、そのPCで何をしてるんだ? |
ダル | なにって、例のVRプログラムが 妙なエラーを起こしてたから、 原因突き止めて修復したところ。 |
岡部倫太郎 | ……そうか。 |
(ダルがプログラムを修復したから、 目が覚めたのか……?) | |
(だとしたら、雛見沢の世界線変動と 俺たちの覚醒は無関係だったのか……?) | |
(いや、そもそもあれは 世界線の変動と呼ぶべきなのか……?) | |
(では、「異物」と呼ばれていた 「バケモノ」は何だったんだ?) | |
(別の「世界」から来たと言っていたが、 現実にあんな「バケモノ」は……いや) | |
(あの「バケモノ」は、何かの象徴か? そして……もしも、もしもだ。それが事実で あったならば、あの「世界」の真の姿は……!?) | |
漆原るか | う……あれっ、ここってラボですか? |
牧瀬紅莉栖 | ……そうみたいね。 |
ダル | ぐっもーにん、牧瀬氏。るか氏。 |
岡部倫太郎 | お前たちも目が覚めたか。 |
牧瀬紅莉栖 | なんだか、不思議な夢を見てたような 気がする……。 |
漆原るか | ……さっきまでの世界は、 いったいなんだったんでしょうね。 |
岡部倫太郎 | お前たちも覚えているのか? |
牧瀬紅莉栖 | ……えぇ。 |
岡部倫太郎 | ゲームの中の世界…… にしてはリアルすぎたな。 |
漆原るか | ボクも、まだあの世界の匂いとか 戦った時の感覚とか、残ってる気がします。 |
牧瀬紅莉栖 | 私もよ……あれっ? |
岡部倫太郎 | どうした? |
牧瀬紅莉栖 | ポケットに入れてたはずのテレカがないの。 ヘッドセットを付ける前に、 確かにポケットに入れたはずなのに……。 |
それと、例の『ロールカード』ってやつもない。 | |
漆原るか | あっ、ボクも見当たらないです。 ちゃんと持ってたと思うんですけど……。 |
岡部倫太郎 | ……俺の「カード」もないな。もしかすると、 あれもタイムリープの一種だったのかも しれんが、だとしたら不可解なのは……ん? |
ゲームディスク用のトレイが空いている……? おい、ダル。ここに……『電話レンジ改(仮)VR』に セットしていた『ひぐらし』のゲームはどこにやった? | |
ダル | ん? ひぐらし……って、なに? 夏に鳴く蝉のアレ? |
岡部倫太郎 | なにって、ゲームの……おい。 ここに置いてたパッケージはどこにやった? |
ダル | 『ひぐらし』、のゲーム……? なにそれ、聞いたことないけど。 ジャンルは? ギャルゲー? |
岡部倫太郎 | …………。 |
……いや、いい。なんでもない。 | |
(あのゲームは、実話を元に作られたゲームだ。 だとしたら、実際に起きた事件がそもそも 存在しなくなったことで、ゲームも消滅した……?) | |
(俺たちが雛見沢に向かったことで、 世界線が変わったのか……?) | |
…………。 | |
(いや、リーディング・シュタイナーが 発動した感覚はなかったはずだ) | |
(だとしたら、あの少女たちが変えたのか? 自らの力と意思で、世界線を……未来を変えたのか?) | |
(ゲームという仮想の電子データを媒介にして、 現実の世界線に干渉したことで彼女たちが気づき、 過去を改変したのであれば……あるいは……) | |
ふっ、ふ……フゥーハハハ!! | |
(いや、できる。否、出来たのだ! なぜなら、あの少女たちは……!) | |
どのように世界を変えたのか、 報告を楽しみにしているぞ……! また会おう、異世界分室のラボメンたちよ! |