リア充こんぷれっくす


第3回 アニメの水着回は作画が安定しない法則
 常々、思っていたことがある。
 三次元女子のダブルスタンダードについて。
 なぜ夏の海っていうだけで、下着同然の格好を
平然とできるんだろう。海でできるなら、街中で
も下着で歩けばいいじゃないか! 下着で歩けばい
いじゃないか! 大事なことなので2回言いました。
 そう、ここは海。家族以外と海に遊びに来たの
なんて、初めてだ。これこそリア充になるための
通過儀礼。僕は今日、ついに念願のアバンチュー
ルを手に入れたのだぜ。
 ちなみに水着は大好物です! 嫌いな男子はい
ません!
「拓巳、お待たせ」
 声に振り返ると、岸本あやせがいつもの無表情
で立っていた。その水着は――
「布面積が、すごく、少ないです……」
「セナほどじゃないわ」
 あやせが指差したその先にいたもう一人の同行
者に、なぜか凄まれた。
「見るな。殺すぞ」
 蒼井セナの水着は、ほとんど紐に近かった。あ
やせ以上の露出度だ。しかも、こんな大胆な水着
を着ておきながら、まったく隠そうとせず仁王立
ちとは!
 さすがセナ他人にはできないことを平然とや
ってのける。そこにシビれるあこがれるゥ!
 こんなハァハァな三次元女子二人と一緒に海水
浴に来られるなんて、僕はどう見ても勝ち組です
本当にありがとうございました!
「おい西條! 見るなといってるだろ! 鼻息を
荒くするな!」
「勝手ね」
 あやせがセナに反論した。
「自分からそんな水着を着ておいて、見るな、だ
なんて。もしかして、実は恥ずかしいの?」
「だ、黙れ……っ」
 あ、セナが赤くなった。図星か。
「なぜ恥ずかしがるのか、不思議でならないわ。
私はうれしい。拓巳に、ありのままの自分を見て
もらえることが」
 痴女発言をしたあやせが、唐突に僕に腕をから
ませてくる。
 み、密着……! 素肌と素肌が直に触れ合って
いる! あやせ柔らかいよあやせ。
素肌と素肌が直に触れ合って
「邪心に支配され己を見失っているセナのことは、
放っておくべきよ。楽しみましょう、拓巳。私た
ちだけで」
 耳元でささやかれて、真夏なのに全身がゾクゾ
クと震えた。まさにコキュートス・フォース・ブ
リザード。僕は死ぬ。性的な意味で。
「待て! 西條を独り占めしようとは……。ズ、
ズルいぞ岸本!」
「だって、見たら拓巳を殺すんでしょう?」
「言葉のあやだ! 西條から離れろ!」
「命令しないで。私は、拓巳とたわむれるために、
この海に来たのよ」
「それは私だって同じだ」
 これなんてエロゲ? 次の選択肢はせっかくだ
から『二人とも僕なんかのために争うのはよせ』
を選ぶぜ!
「やはり、勝負しないとダメなようだな」
「同感だわ」
 ちょっ、勝負ってなんぞ!?
 ディソードを出して殺し合いを始めたりしない
よね!?
 ――などという僕の心配は杞憂に終わった。
 30分後。
「さ、さわるぞ、西條。動くなよ?」
 ぺたり。セナの掌が、僕の胸にそっと押し付け
られた。そのまま、円運動を描くようにゆっくり
と動き、液体を塗りつけてくる。
「気持ち……いいか?」
 息がかかりそうな距離で、おずおずとそうたず
ねてくる。泣き出しそうな表情なのは、恥ずかし
さのせいだろう。そんな顔されたら逆に興奮しち
ゃうだろ! ムハーッ。まあ、声を出すのを我慢
するあまり、さっきからひと言もしゃべれなくな
ってるわけだが。
 それにしても、塗りすぎじゃね? 僕の全身は
すでにサンオイルでベタベタだ。足許には空にな
ったボトルが10本以上転がっている。
 サンオイル塗り勝負。あやせとセナ、どちらが
より上手に僕の身体にサンオイルを塗れるか。
 どうせなら、僕が二人に塗りたかった!
 ……で、あやせはなにを?
 さっきまで、セナ以上に積極的だったあやせは、
今はなぜかオイルを自分自身に塗りたくっている。
テラテラとぬめるあやせの柔肌に、思わず見とれ
てしまった。
「拓巳……私を、受け止めて」
 と、ぬるぬるあやせが、いきなり僕に抱きつい
てきた。
「岸本!? お前、なにを!?」
 たじろぐセナに構わず、あやせは腕だけでなく
腰や足までも僕にからませてくる。こすれ合う肌
から、あやせの体温を感じる。あえてもう一度言
おう。これなんてエロゲ?
「私は、拓巳のためなら、自らの肉体を捧げるこ
ともいとわないわ」
 日本語でおk。
 あやせの手が、僕の頬を包み込んだ。手はサン
オイルまみれ。おかげで僕の顔もオイルだらけ。
 顔まで塗らなくてもいいんじゃね?
「ふふふ。この勝負、私の勝ちよ、セナ。もう拓
巳の身体のどこにも、サンオイルを塗る場所はな
いわ」
 その宣言に対し、セナは悔しそうに唇を噛むと
……なぜかギロリと僕をにらみつけてきた。
「いいや、まだだ……海パンを脱げ、西條! そ
こに、まだオイルを塗っていない場所がある!」
「ちょっ、で、できるわけないだろ!」
「いいから脱げ! ここで負けることは、私のプ
ライドが許さんっ!」
 なにがプライドだ、足コキしろオラーッ!
「どうしても脱がないなら――」
 わずかに周囲の空気が震えた。いつの間にか、
セナの手にディソードがリアルブートされていて。
「ハーーッ!」
 セナはその剣を鋭く閃かせた!
 殺される!
 僕はとっさに頭を抱え、身を縮こまらせた。
 ……痛みはやってこない。代わりに、股間がや
けにスースーすることに気づいた。
「ぎゃああ! 海パンを切り裂くなよぅ!」
 慌てて股間を手で隠したけど、時すでに遅し。
 このビーチには何千人という海水浴客がいて。
早くも周囲で悲鳴と怒号が飛び交い始めていた。
「変態だ!」「痴漢!」「露出狂だ!」
 まずいこのままじゃ社会的に抹殺される!
 逃げなくちゃ! 今すぐどこか隠れられる場所
を探さなくちゃ!
 だがそんな僕の前に、目を血走らせたセナが立
ちふさがった。
「動くな、西條……観念するんだ」
 ちょっ……らめぇっ!
 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた
のと同時に、ライフセーバーの屈強な男たちに取
り押さえられた。死にたい。