Robotics;Notesの無印からELITEへの差分シーン比較


あき穂がハンガーを開けようとして


ELITE
キルバラ勝負でうちが手も足も出ず完敗したのをいいことに、カイ
は堂々とサボっていた。

それでも、帰らずに付き合ってくれてるわけで、そういうところがカ
イを憎めない理由なの。

ホント、照れ屋さんなんだから。


あき穂
「…………」





無印
キルバラ勝負でうちが手も足も出ず完敗したのをいいことに、カイ
は堂々とサボっていた。

それでも、帰らずに付き合ってくれただけマシだけど。


あき穂
「…………」





メンテナンス中の あき穂


無印
ロボ部が今のうちとカイの2人だけになってからは、もっぱらメンテ
ナンスはうち1人で行っている。

カイはさっきのキルバラ勝負のように、ことあるごとに理由をつけ
てサボるのだ。

あれじゃ幽霊部員と変わらない。部に所属はしているけどろくに手
伝ってくれたことなんてない。

月に一度、1人でやる整備にうちはいつも1時間ほどかける。


ELITEでは「カイはさっきの〜」から「あれじゃ幽霊部員と〜」までカット。


メンテナンスを終えて


無印
あき穂の手は油でベタベタしている。それをまったく気にしていな
い様子で、1人で納得したようにうんうんとうなずいた。

あき穂
「てなわけだから、同じ変人同士、いよいよ手を取り合って部のため
に協力すべきなんだよ〜♪ そう思うでしょ?」

海翔
「つまり?」


あき穂
「来月の油注しは、カイがやって?」


海翔
「アキちゃんが俺に勝てたらね」


あき穂
「そんなの無理」


海翔
「っていうか、手を洗いたいんだけど」


あき穂
「おおっ……」


あき穂も自分の手の汚れに気付いて、ようやく手を離してくれた。


手を洗った後、車庫のシャッターを閉めて鍵をかけた。


ELITEでは「てなわけだから〜」から「あき穂も自分の〜」までカット。


充彦宛ての伝言を頼む瑞榎


無印
瑞榎
「だからカイ、伝言よろしく」


海翔
「俺に頼み事なら、条件があります。キルバラで俺に勝ったら――」


瑞榎
「ポケコンは持ってないつってんでしょ。いいから伝えな」


海翔
「は、はい……」


言うだけ言って、瑞榎さんは昨日の新聞を広げて読み始めた。どうや
ら話は終わり、ということらしい。まるでおっさんみたいだ。店番の
態度じゃないよなあ。
ELITEでは「俺に頼み事なら〜」から「は、はい……」までカット。


ゴミ捨ての代わりを頼まれる海翔


無印
早川
「え、でも暇そうじゃん……」


海翔
「変わってもいいよ」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。
無印において、海翔の台詞の誤字は原文ママ。ELITEでは「代わってもいいよ」に修正。


昴 登場


無印

「もう20回以上、そう答えたはずですが」


あき穂
「日高くんが帰宅部を続ける限り、うちはいつまででも勧誘するよ」



「いい加減、学習してください。僕は前にもこう言ったはずです」



「“僕に話しかけないでください”と」


ニコリともせずに、辛辣な言葉を淡々と投げつけてくる。


実に生意気な後輩だねぇ。


あき穂
「でもほら、ロボ部にとっては日高くんの技術力が必要なの!」


ELITEでは「日高くんが帰宅部を〜」から「実に生意気な後輩だねぇ」までカット。


あき穂がガンヴァレルについて熱く語って


無印
あき穂はふてくされて、ガンヴァレル鑑賞へと戻った。


よしよし。今日はけっこう早く話が終わったぞ。


というわけでキルバラを始めよう――


あき穂
「カイも勉強の一環として見ようよ!」


海翔
「それって俺を従わせようとしてる? だったら、勝負してもらわな
いと」

あき穂
「…………」


俺が自分のポケコンを掲げ持つと、あき穂は唇を尖らせて俺に背を
向けた。

あーあ、完全にヘソを曲げちゃったかな。


でもこれは俺の中でのルールなんでね。


誰も俺からキルバラをプレイする時間を奪うことはできないのさ。


ELITEでは「よしよし。今日は〜」以降がカット。


臼井教頭に若さ故の過ち発言をして


無印
海翔
「アキちゃん、どさくさにまぎれてなに言ってんの……」


教頭とあき穂が、にらみ合う。


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


ROBO-ONEで優勝できなければロボ部の廃部が決定して@


無印
あき穂は厳しい表情のまま、拳を握りしめて立ち尽くしている。


海翔
「アキちゃん、とりあえずさ、お腹すかない?」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


ROBO-ONEで優勝できなければロボ部の廃部が決定してA


無印
海翔
「ロボ部は、もう終わりさ。ここまでよくもった方だよ」


あき穂
「…………」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


空腹が限界になり、あき穂を置いて そそくさと その場を後にして


無印
夢をかなえられる人なんて、ほんの一握りなんだ。


海翔
「腹減った……」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


放課後、誰もいなくなった教室で充彦と出かけたまま戻ってこない あき穂を待って


ELITE
海翔
「俺はどう動くべきかね……」


あき穂はおとなしくしててはくれないだろうから、俺の方も方針を
決めておかないと。

とにかくあき穂に無理させないことが最優先だ。


海翔
「…………」





無印
海翔
「俺はどう動くべきかね……」


いや、動く気はないんだよ。ホントに。


海翔
「…………」





名誉部長を復活させると聞いて@


無印
海翔
「少なくとも、俺に手伝えることなんてなさそうだし」


ウインナーに続いて、梅干しを口の中へ。


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


名誉部長を復活させると聞いてA


ELITE
あき穂
「あと、カイのお弁当のウサギリンゴ、1個ちょうだい」


……まったく、人の気も知らないで呑気なもんだよ。





無印
あき穂
「あと、カイのお弁当のウサギリンゴ、1個ちょうだい」


海翔
「じゃあ、キルバラで勝負する?」


あき穂
「ケチー!」


唇を尖らせて、あき穂は俺の席から離れていった。





マニュアル探し


ELITE
海翔
「夜まで探すつもりなの」


しょうがない、手伝うか……。


たまきおばさんの料理も久々にごちそうになりたいしね。


でも結局、夜まで探しても目当てのマニュアルは見つからなかった。





無印
海翔
「夜まで探すつもりなの」


俺はあき穂の手を優しく引き剥がすと、ニヤリと唇をゆがめて見せ
た。

海翔
「ま、いいよ。手伝ってあげるよ」


あき穂
「ホント!?」


目を輝かせるあき穂に、俺は残酷な現実というものを教えてやるこ
とにした。

海翔
「ただし、キルバラで勝負して俺に勝ったらね」


あき穂
「ええー……」


あからさまに不満そうな声を出して、あき穂は肩を落とした。





差し入れのスコールを受け取って@


無印
あき穂
「ふぅ。はー、生き返るー」


あき穂
「でも珍しいね。カイが自分から部活に出てくるなんて」


海翔
「別に手伝う気はないから、安心してよ」


あき穂
「…………」


とりあえずいつもの定位置は濡れていて座れないので、仕方なく部
室内のイスに落ち着くことにした。

ELITEでは「でも珍しいね〜」から「…………」までカット。


差し入れのスコールを受け取ってA


無印
海翔
「それより昨日、マニュアルは見つかったの?」


あき穂
「うん、これ」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


マニュアルが健一郎の書斎にあったと聞いて


ELITE
海翔
「俺の予想通りだったね」


ま、他に探してないのはそこだけだっただけなんだけど。


海翔
「で、名誉部長は直りそう?」





無印
海翔
「俺の予想通りだったね」


あき穂
「カイが一緒に探してくれないから、見つけるのに夜までかかっ
ちゃった……」

海翔
「それはアキちゃんが勝負で負けたのが悪いんだよ」


あき穂
「カイに勝てるわけないでしょー」


ドライバーの先端を鼻先に突きつけられた。


危ないのでそっと押しやる。


海翔
「で、名誉部長は直りそう?」





バッテリー交換以外には何をやるのかと海翔が尋ねて


無印
あき穂
「んーと、全サーボモーターの動作チェックとか、サーボアンプが正常
かどうか調べたりとか」

あき穂
「あ、サーボ用のテストボードが行方不明なんだ……。ね、カイ、隣の
倉庫で探してみてくれないかな? あと、プロボも!」

海翔
「じゃ、勝負を」


あき穂
「しないから」


それは残念。


あき穂
「後でロボクリニックに行ってこようかな……」


ELITEでは「あ、サーボ用の〜」から「それは残念」までカット。


あき穂がオーバーホールを再開して


無印
さてと、それじゃ俺はキルバラを始めるとしようかな。


あき穂
「ゲームするなら、テストボードとプロボ探してよー」


海翔
「んー? んー」


適当に受け流しつつ、キルバラ開始。


あき穂は名誉部長をバラしながら。


ELITEでは「ゲームするなら〜」から「適当に〜」までカット。


海翔がオペレーターとは何かと尋ねて


無印
あき穂
「操縦する人のこと」


海翔
「別に興味ないかな」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


瑞榎にドクの弱みを知りたいと依頼して


無印
瑞榎
「またアキのために一肌脱ぐわけだ?」


海翔
「そんな大層なものじゃないよ。でもま、何事もスムーズに進んだ方
が、自分に降りかかる火の粉も少なくなるでしょ」

ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


あき穂がドクと淳和の関係を知らされて


無印
まだ中身が半分ほど残っている弁当箱に勢いよく蓋をすると、あき
穂は大徳さんのいる隣のクラスへ向かった。

でもすぐに戻ってきて。


あき穂
「なに呑気に見送ってるの!? カイも来てよー」


海翔
「俺、まだ昼メシ食べてないし」


あき穂
「そんなの後でも――」


海翔
「俺に一緒に来てほしいって、それはお願い? それなら、キルバ
ラ――」

最後まで言い終わる前に、あき穂はひとりで教室を出て行った。


ELITEでは「でもすぐに戻ってきて」以降がカット。


淳和に身内価格にしてもらうよう頼もうとして@


ELITE
淳和
「あと、あの、今のあたしの話、藤田のおじいちゃんには、言わないで
ね……っ」

あき穂
「大徳さん、うちの話を聞いて!」


教室に戻ろうとする大徳さんに追いすがったら、横から手が伸びてきて
軽く突き飛ばされた。

大徳さんの友達(お調子者っぽい方)
「ちょっと瀬乃宮。淳和をつけ回すのやめなよ。怯えてるじゃん」


大徳さんの友達(気が強そうな方)
「そうだそうだ。ダメダメロボ部とかかわったりなんかしたら、ろく
なことにならなさそうー」

さっき大徳さんと談笑してた女子2人だ。大徳さんをかばうように、
うちの前に立ちはだかってくる。

大徳さんの友達(お調子者っぽい方)
「淳和は次の週末に国体予選があるんだから。邪魔したら私らが許さ
ないよ」




無印
淳和
「あと、あの、今のあたしの話、藤田のおじいちゃんには、言わないで
ね……っ」

あき穂
「あっ、ちょっと……」


うちの制止を振り切って、大徳さんはものすごい勢いで教室に戻っ
ていってしまった。

あき穂
「ううー、諦めるもんかー!」


逃げていった大徳さんを追いかけて、再び1組へ。


あき穂
「大徳さん、うちの話を聞いて!」


ところが1組に飛び込んでいった途端、さっき大徳さんと談笑してた
女子2人が、うちの前に立ちはだかった。

大徳さんの友達(お調子者っぽい方)
「ちょっと瀬乃宮。淳和をつけ回すのやめなよ。怯えてるじゃん」


大徳さんの友達(気が強そうな方)
「そうだそうだ。ダメダメロボ部とかかわったりなんかしたら、ろく
なことにならなさそうー」

大徳さんの友達(お調子者っぽい方)
「淳和は次の週末に国体予選があるんだから。邪魔したら私らが許さ
ないよ」




淳和に身内価格にしてもらうよう頼もうとしてA


無印
あき穂
「別に大徳さんをいじめようとか、そんなつもりじゃないよぉ」


もう、大事な話してるのに邪魔しないでほしいなあ!


2人を押しのけて教室内に入ろうとする。


でも、相手も抵抗し、通してくれない。


淳和
「ま、待ってみんな……」


ELITEでは「もう、大事な話〜」から「でも、相手も〜」までカット。


淳和に必殺技に使えそうな空手の技を尋ねて


ELITE
淳和
「先に、お手洗いに行ってきても?」


しまった、予想以上に長く引き留めちゃった。


謝りつつ、どうぞどうぞと通してあげた。


……待つこと3分。


お手洗いから出てきた大徳さんは、うちがまだ待っていたことに気
付いてギョッとした。

さっきの話の続きを促すと。


淳和
「じゃあ、えと、使えるかどうかは分からないけど、前蹴りとか」





無印
淳和
「先に、お手洗いに行ってきても?」


あき穂
「えー?」


うちがしょんぼりすると、大徳さんはすぐに苦笑した。


淳和
「じゃあ、えと、使えるかどうかは分からないけど、前蹴りとか」





あき穂にFFの発作が起きて@


ELITE
海翔
「…………」


ったく、このバカ。


だから無理させたくなかったんだ。


ただでさえロボ部の活動に対して焦り気味だったのに。





無印
海翔
「…………」


そんなにも無理してたってことだよね。


ただでさえロボ部の活動に対して焦り気味だったのに。





あき穂にFFの発作が起きてA


ELITE
海翔
「やれやれ……」


でも俺も、あき穂に無理させないように動いてたのに、注意が足り
なかった。

もっとしっかり止めておけばよかったのか?


それとももっと協力しておけばよかったのか?


海翔
「…………」


分かんないよ。


分かんないけどさ。


支え合う、か……。





無印
海翔
「やれやれ……」


それにしたって、無理しすぎだよ。


あんまり世話かけすぎないでほしいよなぁ。


海翔
「…………」


支え合う、か……。





FFの発作が回復し、オペレーターの依頼をしてきて


ELITE
ここでそれを言い出すとは、この女、なかなかの策士。


ズルいよ。


海翔
「分かった」





無印
ここでそれを言い出すとは、この女、なかなかの策士。


ま、そのことは俺なりに考えてたけどね。


今はすべての負担をあき穂が抱え込んでしまっているわけで。


その負担を分散させれば、発作が起きるほどの無理をすることも減
るだろう、って。

気乗りはしないけどさ……。


海翔
「分かった」





ズルしてコンティニューすることになって


無印
安心させるようにあき穂の肩をポンと叩くと、そのまま日高昴のと
ころまで歩み寄っていった。


「……ロボ部は、廃部だそうですね」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


あき穂が健一郎の仕事場で直談判


ELITE
ニコニコしながら、その湯飲みを置いた。





無印
ニコニコしながら、その湯飲みをあき穂の前に置いた。


※このシーンでの地の文は あき穂視点で表現されているのに、ここのみ三人称のような文体となってしまっている。


淳和がロボ部の活動に顔を出して


ELITE
なのに気が付けば、昴とホビーロボ遊びをする羽目になっちゃってる
わけで。

そのせいで、あき穂の保護者的な立ち振る舞いが、あんまりできな
くなってるし。

これじゃ本末転倒だ。


でも、この迷える子羊にあき穂を見ててもらえば、俺も少しは安心
できる。

ちょっと頼りなさそうではあるけど。


空手をやってたぐらいだから、運動神経もいいはず。





無印
なのに気が付けば、昴とホビーロボ遊びをする羽目になっちゃってる
わけで。

その上、あき穂からもあのロボのパイロットになれとかふざけた要
求をされてる現状は、俺にとっては非常によろしくない。

快適なゲームライフが遠ざかっている。


というわけで、迷える子羊を生け贄に捧げよう。


あき穂のお守りとしては、ちょっと頼りなさそうだけど。


空手をやってたぐらいだから、運動神経もいいはず。





伊禮商店で愛理の姿が見切れて


無印
海翔
「いやあ、勘弁してくれないかな……」


顔では笑ってごまかしながらも、内心では苛立ちの感情がわき上
がってきていた。

ELITEでは「顔では笑って〜」がカット。


チーター狩りを終えて あき穂に出くわし、再び極寒の地へ戻ることになって


無印
勘弁してよ……。


海翔
「俺に付き合わせたいなら、勝負を――」


俺に構わず、あき穂は入口のインターホンを押した。


ELITEでは「俺に付き合わせたいなら〜」がカット。


親バレした昴が学校を欠席していることが判明して


ELITE
海翔
「なるようにしかならないって」


そう答えて俺は、キルバラを起動させた――





無印
海翔
「なるようにしかならないって」


海翔
「個人的には、戻ってきてほしくないかな」


あき穂
「カイ!」


海翔
「だって昴が戻ってきたら、ROBO−ONE世界大会に出なくちゃいけ
ないからね」

海翔
「貴重な夏休みが潰れちゃうわけで。俺の望むのは、キルバラ漬けの
日々なわけだよ」

そんなわけで俺は、キルバラを起動させた――





愛理に かつての夢を語って


ELITE
諦めたというより、自然消滅、かな。


俺は幼い頃に発作持ちになっちゃったから。


そしてロケットもまた、打ち上げられなくなった。





無印
諦めたというより、自然消滅、かな。


特にその夢を目指すために努力したわけじゃないし。


そしてロケットもまた、打ち上げられなくなった。





綯に拉致されて


無印
つまり今、ここにいるのはロボ部の4人だけ。


淳和
「うっ、ぐすっ、ひくっ……」


淳和はここに連れてこられてからずっと、しくしくと泣き続けてい
る。

車内では恐怖のあまり声も出なかったらしい。


空手をやってるから、たぶん俺たち4人の中で一番強いはずなんだ
けど。まったくなんの役にも立たなかったなあ……。


「鍵がかかっているわけではないようですね」


ELITEでは「うっ、ぐすっ〜」から「空手をやってるから〜」までカット。


フラウも拉致されてきて


無印
あき穂
「場を和ませるための、会心のギャグでしょ、ギャグ」


と、ドアが開いて、フラフラとした足取りでフラウが入ってきた。


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


拉致後に健一郎が現れて


無印
あき穂
「まさかお父さんの差し金なの!? 説明して!」


健一郎
「いやあ、その、まさかこんな大ごとになるとは、僕も思ってなくて
ねぇ……」

健一郎
「そちらの子は、ええと、大丈夫?」


淳和
「あっ、は、はい……」


おじさんに気を遣われて、淳和は慌てた様子で涙を拭いた。


淳和
「ぐしゅっ、すみません……」


泣き腫らしたせいで、すっかり目が真っ赤だ。


あき穂
「お父さん! どういうことかって聞いてるの!」


??
「それについては、私が説明します」


ELITEでは「いやあ、その〜」から「お父さん! どういうことかって〜」までカット。


女子に危険な役目を担わせることを昴から非難されて


ELITE
海翔
「俺、アキちゃん以外がどうなろうと、あんまり興味ないんだよね」


おっと、さすがに言い過ぎちゃったかも。


要するに、あき穂の想いをないがしろにはできないんだよ、俺は。


もちろん、だから淳和に死ねって言うつもりもないけど。


少なくとも俺は、ここで昂とJAXAに肩入れするつもりはなかった。


ロボ部の今後の方針について、あき穂抜きでコソコソ話したくはな
い。

昴とJAXAの主張が正しいんだろうっていうことは、なんとなく分
かるんだけどね。


「それじゃ、なにも解決せずに放置するつもりですか? 事故を起こ
す可能性が高いのに?」




無印
海翔
「俺、アキちゃん以外がどうなろうと、あんまり興味ないんだよね」


昴とJAXAの主張が正しいんだろうっていうことは、俺にはなんと
なく分かるんだけど。


「それじゃ、なにも解決せずに放置するつもりですか? 事故を起こ
す可能性が高いのに?」




モノポールの落下を目撃


ELITE
海翔
「なんだ、あれ……?」


隕石みたいなものが、空から落ちてくる。


(中略)
青空をバックに、隕石は徐々に高度を落として――


(中略)
別に地面をえぐるようなすごい衝撃が起きたわけでもなんでもな
く、本当に、ポトリと落ちたような感じ。

こんな近くに隕石が落ちてくるところなんて、初めて見た!


落ちた場所があまりにも間近だったから、思わずその落下場所へと
足を運んでいた。

海翔
「これは……」


想像していたよりもずっと小さい。


パチンコ玉と同じぐらいだろう。


表面は黒く、かなり硬そうだ。


摩擦熱のせいかまだかすかに赤く輝いてる。


でもなんで急に落ちてきたんだ?


この島で18年暮らしてるけど、こんなの初めてだ。


もしかしてピーガー音と関係している?


恐る恐る、その隕石に手を伸ばそうとしたら――


(中略)
放電したぞ!


よく見ると、その隕石は黒いというより赤錆色をしていた。


それに表面の発光がおさまらない。もしかしたら摩擦熱によるもの
じゃない?

内部からぼんやりと脈打つように明滅してるようにも見えるけ
ど……そんなこと有り得るのか?

海翔
「これは、いったい……」





無印
海翔
「なんだ、あれ……?」


黒い塊のようなものが、空から落ちてくる。


(中略)
青空をバックに、黒い塊は徐々に高度を落として――


(中略)
別に地面をえぐるようなすごい衝撃が起きたわけでもなんでもな
く、本当に、ポトリと落ちたような感じ。

もしかして隕石?


落ちた場所があまりにも間近だったから、思わずその落下場所へと
足を運んでいた。

海翔
「これは……」


はじめ見たときは動物のフンかと思ったけど、すぐに違うものだと
悟った。

むしろ見た目は、砲丸みたいな感じ。


表面はかなり硬そうだ。


これが落ちてきたのかな?


どこから?


もしかしてピーガー音と関係している?


恐る恐る、その拳大の塊に手を伸ばそうとしたら――


(中略)
放電したぞ!


しかも、よくよく見ると、その塊は黒いというよりもむしろ赤錆色
をしていて、さらには、奥の方がぼんやりと光っているように見え
た。
海翔
「これは、いったい……」





改めて、足許のモノポールへと目をやって


ELITE
まさか、ホントに渦巻いていたりは……しないよね。


パチンコ玉のように真ん丸に見えた形状も、よくよく観察すると違
うことが分かった。

あえて例えるなら、あんパンに切れ目を入れたような形状かな。





無印
まさか、ホントに渦巻いていたりは……しないよね。


砲丸のように真ん丸に見えた形状も、よくよく観察すると違うこと
が分かった。

あえて例えるなら、あんパンに切れ目を入れたような形状かな。





三人でモノポール談義


無印

「それと、もし仮に1号機の計6基のモータに使うなら、八汐先輩が
持ってるだけの量じゃまったく足りません」


「その大きさのモノポールが、100個ぐらいないと」


あき穂
「カイ……」


ELITEでは「その大きさの〜」がカット。


最終回が流出し、君島レポートの内容を思い起こして


ELITE
300人委員会は一部富裕層を、地下深くのシェルターへ避難させること
を計画している。




無印
――300人委員会は一部富裕層を、地下深くのシェルターへ避難さ
せることを計画している。

※地の文で「――同じだ。」が何度か使われているくだりだが、無印では ここのみ文頭に「――」が余計に使われている。


モノポールに関して なかなか興味深いことが分かったというドク


ELITE

「これは……」


それは小瓶だった。


中には、黒っぽい粉末がちょっとだけ入ってる。


火薬かなにかかと思ったら、モノポールを粉々になるまですり潰し
たものらしい。

ビンの蓋を開けて、白い紙の上にその粉末を広げてみる。


不思議なことに、虹色の煙みたいなものが立つのがかすかに見え
た。

キラキラ光ってて、すごくキレイ。



「触っても大丈夫なんですか?」





無印

「これは……」


あき穂
「ステーキみたいだね」


淳和
「あの、その例えは、どうかと思うよ……」


あき穂
「そっか、ステーキじゃなくて、厚切りハムステーキをふたつ並べ
た、っていう方が正しいかも」

淳和
「あき穂ちゃんって、そんなに、ステーキ、好きだった?」


あき穂
「ん? 別にそんなことないよ?」


淳和
「そ、そう……」


藤田
「こいつはな、モノポールをスライスしたもんだ」


厚さは2センチくらい。


8の字型をしてる、って言えばいいのかな?


やっぱり、ふたつの厚切りハムを並べたようにしか見えない。


左右どちらのハムも、例によって細かい粒子が周囲に渦巻いていた。


それに、なんだろう、奇妙な光り方をしている。


右と左で、その規則性は違う。


どっちも、淡い輝きにグラデーションがかかっている。


右のハムは、外周部から中心部に向けて。


左のハムは、中心部から外周部に向けて。


その光景は、自然の鉱物って言うより、昔のSF映画に出てきそうな
チープな小道具にしか見えない。


「触っても大丈夫なんですか?」





あき穂がドクにモノポールが使えるか どうか尋ねて


無印
藤田
「ま、結論出すのは、実際にモータに組み込んでみて、効果を見てか
らだろうな」

あき穂
「電動式モーターに使えるなら、ホビーロボのノウハウが流用できる
んだよね」

ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


ガンつく2用の新型モーターの動作テスト


ELITE
これこそが、ガンつく2のためにドクが設計してくれた新型モー
ター。

モノポールから作った磁石を搭載してるっていう、人類史上初の
サーボモーターなんだ。

ただ――





無印
これこそが、ガンつく2のためにドクが設計してくれた新型モー
ター。

モノポール搭載っていう、人類史上初のサーボモーターなんだ。


ただ――





モノポールのストックについて


ELITE
やっぱり想像つかなかった。


このモーター1基に使ってるモノポールの数は、だいたい100個。そ
れを全部すり潰してから圧縮して固め、さらにそこから永久磁石を
作るのと同じ工程を施してる……らしい。
モーターの内部を見せてもらったけど、モノポールから作り上げた
磁石は内側がかすかに赤く明滅していて、まるで生きてるみたいに
思えた。
モノポールは今も、宇宙ヶ丘公園に降り続けてる。


(中略)
今じゃ、1日に10個も20個も降ってきてる。


これって、冷静に考えると、かなり異常な事態かも。


モノポールが何十個も草むらに落ちてる様子は、まるでネズミの糞
がバラまかれてるみたいでちょっと気持ち悪いし。

さすがに近所の人たちもこのことに気付き始めてるんだけど、だか
らって騒ぎにしようとする人はひとりもいなかった。ある意味、みん
な呑気なんだと思う。
(中略)
藤田
「足りないのは4基分か。今月中にはなんとかなりそうだな」


幸い、モノポールのストックはけっこう溜まってる。


磁石に生成するのにちょっと時間とお金がかかるけど、だいたい想
定通りに進んでる。

うちとしてはむしろ、このモーターで2号機はちゃんと動くのかが不
安なところ。

もっと1基のモーターに使うモノポールの数を増やせないかなって
思ったりする。

使う数を増やせば磁力も増えるかどうかは……よく分かんないけ
ど。

でもうちのその意見には、ドクもスバルも否定的だった。



「年内に組み立てを完成させたいなら、今より数を増やすのは避ける
べきでしょう」




無印
やっぱり想像つかなかった。



「ドク、今、モノポールのことを話していましたが」



「このモータ1基につき、いくつ使われているんですか?」


藤田
「5個だ。1個から5枚、スライスする。つまりモータに使ってんのは、
25枚のモノポールスライスと考えりゃいい」

あき穂
「それって、多いの?」


藤田
「1個1個が小せえからな。それくらいは必要なのさ」


ドクは言いながら、モーターの蓋を10分くらいかけて取り外し、中
を見せてくれた。

あき穂
「わー、なんだか、フジツボみたい……」


モーターの内側には、スライスされひょうたん型に加工されたモノ
ポールが、びっしりと貼り付けられている。

その25個のフジツボが、それぞれ別々に虹色に輝いていて、すごく
幻想的に見えた。

藤田
「モータのでかさとパワーを出すことを考えると、これくらい使わね
えと厳しい」

藤田
「ま、ストックはなんだかんだで100個くらいあんだろ? 単純計算
でもあと20基くらいは作れる計算だ」

モノポールは今も、宇宙ヶ丘公園に降り続けてる。


(中略)
今では、1日に3個ぐらい降ってきたりもする。 


これって、冷静に考えると、かなり異常な事態かも。


さすがに近所の人たちもこのことに気付き始めてるんだけど、だか
らって騒ぎにしようとする人はひとりもいなかった。ある意味、みん
な呑気なんだと思う。
(中略)
藤田
「足りないのは4基分か。今月中にはなんとかなりそうだな」


藤田
「ついでに1号機の方のモータも用意してやろうか? あっちは6基
かそこらで済むからな」

あき穂
「1基のモーターに5個のモノポールを使うのは、確定なの?」


あき穂
「例えばもっと多くしたら、さらにパワーを出せたりしない?」


藤田
「2号機はギリギリまで軽量化されてんだろ?」


藤田
「だったら、今の動力でじゅうぶんだと思うけどな」


藤田
「一度組んでみて、どうしてもパワーが足りねえってんなら、重点的
に必要な箇所のモータだけ、モノポールを増量してもいい」


「年内に組み立てを完成させたいなら、今より数を増やすのは避ける
べきでしょう」

※藤田はボイスだと「そ くらいは必要なのさ」「これ らい使わねえと」と言っている。


あき穂の今日の成果に関する話に適当な相づちを打つ海翔


ELITE
あき穂
「でね、鎌田のおっちゃんとかにも協力してもらって。この島の町工
場総動員、って感じなんだよ」

俺は、キルバラをやりながら。


(中略)
目的はもちろん、モノポールだ。


よし、と。


あき穂の話を聞きながらも、キルバラをプレイする手は止めない。


ランキング200位前後の相手に、ストレート勝ち。





無印
あき穂
「でね、鎌田のおっちゃんとかにも協力してもらって。この島の町工
場総動員、って感じなんだよ」

あき穂
「うちとスバルも、ふたりがかりで、そのガワにモノポールの貼り付
け中なの」

あき穂
「なんだか、クッキー焼こうとしてるみたいだなぁって思ったら、お腹
すいちゃって」

あき穂
「もう、グーグー鳴ってしょうがなかったよ〜」


海翔
「まるで食いしん坊キャラだね」


俺は、キルバラをやりながら。


(中略)
目的はもちろん、モノポールだ。


海翔
「っていうか、クッキー焼こうとしてるみたいって、どういうこと?」


あき穂
「ほら、クッキーって、ペラッとしたものをトレーに並べて、それを
オーブンで焼くでしょ?」

あき穂
「その、トレーに並べられたペラッとしたクッキーとね、モーター内に
等間隔で貼り付けられたスライスモノポールがそっくりで――」

海翔
「そんな連想するのは、アキちゃんぐらいだと思う」


言いながら、キルバラの対戦相手にコンボを叩きこんだ。


ランキング200位前後の相手に、ストレート勝ち。





君島の家にて


ELITE
海翔
「…………」


え、ここって……。


ガンヴァレル最終話に隠されていた画像。そこに映ってた部屋じゃ
ないか?

とりあえず写真は撮っておいた。





無印
海翔
「…………」


……なんだろう。


デジャヴ、って奴だろうか?


どこかで、この部屋を見たことがある気がする。


どこだったかは思い出せない。今にも喉から出かかっているのに。


すごくもどかしくて、地団太を踏みたくなる気分。


しばらくここで過ごせば、思い出せるかな……。


とりあえず写真は撮っておいた。





口に出してはいけないモノポール


ELITE
ギブアップだとばかりに、淳和は涙目になって俺の腕をパンパンと
タップしてくる。

淳和
「うう、ひ、ひどいよ、八汐くん……」


(中略)
淳和
「無理だよぅ……」


最新のモーターにモノポールという未知の存在を使っていること
は、ロボ部メンバーと、ドクをはじめとした何人かの町工場のおっ
ちゃんたちにだけ伝えていた。
その上で、特にJAXAの人には絶対に話しちゃダメだと決めてある。


あき穂
「ま、そんなこんなでモノポールモーター……じゃなかった、新型モー
ターも完成し始めたわけで」




無印
ギブアップだとばかりに、淳和は涙目になって俺の腕をパンパンと
タップしてくる。

指を抜いてやると、苦しそうに咳き込んだ。


淳和
「うう、ひ、ひどいよ、八汐くん……」


(中略)
淳和
「無理だよぅ……」


最新のモーターにモノポールという未知の存在を使っていること
は、ロボ部メンバーにだけ伝えていた。その上で、特にJAXAの人に
は絶対に話しちゃダメだと決めていた。
あき穂
「ま、そんなこんなでモノポールモーター……じゃなかった、新型モー
ターも完成し始めたわけで」




『SUMERAGI』と『KAMINAGI』について情報共有し、
フラウのマトリョーシカ発言にツッコんだ後


無印
いや、全然違うと思う。


海翔
「万博でこの蜘蛛が、暴走して暴れ回ったんだけどさ」


そのときのことを思い出したのか、あき穂がビクッと身を縮こまら
せた。あんな大きな蜘蛛に追いかけられた恐怖は、そう簡単には忘
れられないよね。
海翔
「ひとつ気になってることがあるんだ。突破口になるかもしれない」


海翔
「実はさ、スタンドアローンだったはずの蜘蛛が、ミサ姉に乗っ取ら
れて遠隔操縦されてたんだ」

海翔
「もし遠隔操縦の方法があるなら、それを突き止めれば、無力化どこ
ろか、奪取もできるわけで」


「奪えるアテはあるんですか?」


海翔
「いや、全然」



「言ってみただけですか……」


そもそも実際にあれが遠隔操縦だったのかも、はっきりしてない。


澤田も知らないらしいし。


澤田が東京で言ってた通り、会場にいてエグゾスケルトン社のエン
ジニアとして紛れ込んでいた何者かが、有線でプログラムをいじっ
たりしたのかもしれない。
この件は保留しとこう。


海翔
「それと、エグスケ社の偉い人から、もうひとつ、有意義な情報」


ELITEでは「万博でこの蜘蛛が〜」から「この件は保留しとこう」までカット。


ゲジ姉 消去 〜 フラウを訪ねる間に存在していたシーン


無印
ハンガーに戻った俺は、絶賛組み立て作業中のあき穂を多少強引に
学校の部室へ呼び出した。

部室に入ってくるなり、あき穂は500mlのスコールを一気に飲み干
す。

あき穂
「ぷっはー……」


そんな幼なじみの様子を見ていると、さっきの緊張からようやく解
放されて、どっと疲れが出てきた。

かなりヤバかったよな。


今、こうしてあき穂の顔を見ていられるのも、奇跡的なことかも。


海翔
「ちょっとさ、手、出してよ」


あき穂
「手? 油でベタベタだよ? 石けんで洗っても、なかなか落ちなく
て。へへ」

海翔
「うん。いいから」


差し出されたあき穂の手。


それを両手で包み込むように握りしめた。


あき穂
「カ、カイ? なにかあった?」


海翔
「いや。大丈夫」


その温もりを感じて、少し落ち着きを取り戻すことができた。


海翔
「組み立ては順調?」


あき穂
「え、あ、うん。悪くないペース」


あき穂
「人がたくさんいると……、活気が出て、うちまで元気もらえちゃう
の」

海翔
「だからって、無理しないように。アキちゃん発作持ちなんだから」


あき穂
「たまに休憩もらってるよ。でもね、なんとしても明日の朝までに、ガ
ンつく1を完成させなくちゃ……」

見てて、危うい、って感じる。


そのうちぶっ倒れそうだな。


海翔
「っていうかその格好、寒くない?」


あき穂
「猛烈にたぎってるんで、平気」


あき穂
「それに、ほら、この部室、ちょっと暑いよねっ」


海翔
「そう?」


ま、風さえしのげる場所なら、そこまで寒さは感じないか。


冬でも、天気がよくて風が弱い日なら、半袖短パンで過ごせるくら
いだし。

あき穂
「で、話って?」


海翔
「そうだった」


机の上に置いたナップザック。


それを手元に引き寄せるため、あき穂から手を離そうとして――


逆にあき穂が握ったまま離してくれなかった。


海翔
「アキちゃん?」


あき穂
「うん……」


あき穂
「このまま、話そうよ……」


海翔
「いや、でもさ」


両手が使えないと、中から装置を出せないんだけど。


あき穂
「いや?」


海翔
「まあ、いいけど」


俺としても、その方がありがたいわけだし。


海翔
「こうして手を繋いでると、落ち着くよね」


あき穂
「……そっか。カイも、そうなんだ」


あき穂
「へへ。うちも」


あき穂
「小学生の頃は、よく手を繋いで、学校行ってた。懐かしいな」


海翔
「学校行くときは、俺たち、ふたりきりだったからね」


普段、俺とあき穂とミサ姉の3人が一緒にいるときは、ミサ姉が真ん
中で。俺が左側。あき穂が右側で、それぞれミサ姉と手を繋いでた。

でも、通学中は、年が離れてたミサ姉は、当時すでに高校生で、原付
で先に家を出ちゃってたから、別行動。

そんなわけで、必然的にあき穂と手を繋ぐことになった。


あき穂
「他に、ふたりきりのときなんて、ほとんどなかったもんね」


あき穂
「お姉ちゃんが島から出ていったあとは、ずっと、ふたりきりだったけ
ど」

海翔
「……アキちゃん。ホントに大丈夫?」


海翔
「ミサ姉と戦うことになるけど、いける?」


あき穂
「……カイが、一緒なら」


あき穂
「うちは、大丈夫だから」


じっと。


俺はあき穂と、見つめ合った。


あき穂
「カイ……」


海翔
「……うん?」


あき穂
「その……」


海翔
「うん」


あき穂
「…………うちは」


海翔
「…………」


あき穂
「ええと……」


海翔
「…………」


あき穂
「えとえと……」


あき穂
「だからっ……」


あき穂
「ぅ〜〜〜」


あき穂
「……んにゃろー!」


海翔
「うわっ!」


なぜかあき穂の方から繋いでいた手を離し、そればかりか人の髪を
ぐしゃぐしゃにされた。

海翔
「なにするんだよー」


あき穂
「ちょ、ちょっといろいろ妄想したら……テンパった!」


あき穂
「だから、煩悩退散するために、カイの頭を使わせてもらったよ!」


海翔
「意味が分からない……」


まあいいや。


気を取り直して、両手でナップザックを引き寄せ、中から電磁波照射
装置のリモコンを取り出した。

海翔
「呼んだのはさ、ちょっと試したいことがあって、アキちゃんに手伝っ
てほしいんだ」

リモコンをあき穂に手渡す。


あき穂
「なにこれ?」


海翔
「敵が使ってた秘密道具、ってところ」


海翔
「それを、こっちでも使えるようにしちゃったんだ」


ナップザックの中身をチラ見せすると、あき穂はムッと唇を尖らせ
た。

あき穂
「そんなの、使わない方がいいよ。悪の超兵器じゃん」


海翔
「敵の武装を奪って自分の有利になるように使うってのは、ロボアニ
メじゃセオリーじゃないの?」

あき穂
「あ、そっか。ΖガンバムとかガンバムSEEDだと、第1話でガンバムが
盗まれちゃう」

海翔
「つまりそれ」


あき穂
「むむぅ。納得、できるようなできないような……」


海翔
「ま、アキちゃんが納得するかしないかはどうでもいいんだよ」


海翔
「実戦で使えるかどうか、試してみたいんだよね」


海翔
「そのリモコンのボタン押すと、装置が動き出すからさ、ちょっと離
れたところから押してみてくれない?」

あき穂
「カイが自分で実験台になるの?」


海翔
「そうでもしないと、効果のほどが分からないでしょ」


あき穂
「大丈夫かな……?」


海翔
「平気平気。どうせ俺は休んでるだけの身分だし」


海翔
「ただ、アキちゃんは離れてて」


海翔
「ふたりして同時に幻覚見たら、どんな効果が出たか分からないか
ら」

あき穂
「ちょっとだけだよ?」


あき穂は渋々と言った様子で、部室を出た。


中庭を横切って、部室の向かいにある情報処理科の教室に入ってい
く。

避難してきた人たちはほとんどが体育館の方にいるから、こっちに
は周囲に人もいない。実験をするなら最適だ。

あき穂が配置についた。俺は部室の中から手を振って、OKの合図を
出す。

さて……なにが見えることやら。


あき穂
「カウントー! 3! 2! 1!」


あき穂
「スイッチオン!」


海翔
「っ……!」


急に、世界が重く・・なった。


息が苦しくなって、呼吸しようとしても、自分の身体がうまく動かな
い。

この感覚は、これまでに腐るほど経験したことがあった。


『スローモー』。


発作だ。


部室の外へと、視線を向けてみる。


それさえも、やけに時間がかかる。


自分の身体の動きは鈍く、医師は遅延する。


部室の外――


中庭に立つ、俺のお気に入りの木が、やけに緩やかに風に揺れてい
る。

なんで?


幻覚を見るんじゃなくて、なんで発作が起きてるんだ。


前兆なんてなにもなかった。


休んでるから、身体だって疲れてない。


息が苦しい。


脳髄が痺れてくるような錯覚に陥る。


手足の先が冷たくなり、感覚が薄れていく。


早く……。


早く終わってくれ。


苦しい。息を吸いたい。


海翔
「がはっ……」


世界に音が戻ってきた。


重たさは消え、身体も自由に動くようになる。


海翔
「はあっ……はあっ……!」


必死に深呼吸を繰り返した。


実際には、3秒程度しか経っていないから、窒息死することなんてな
い。

でも、脳は明らかに毎回、窒息状態だと勘違いしてる。


心臓はバクバクと激しい動悸を繰り返しているし、血管が沸騰した
かのように身体が火照る。

そして後に待ってるのは、全身を襲うだるさだ。


発作の後の肉体的疲労は、尋常じゃない。


長時間運動した後、乳酸が溜まりまくっているような感じ。


おかげで、その場から一歩も動けなくなる。


あき穂
「カイ……?」


戻ってきたあき穂が、俺の肩を揺すってくる。


あき穂
「ねえ、どうしたの? なにがあったの?」


海翔
「はあ……はあ……」


あき穂
「もしかして、発作?」


かろうじて小さくうなずく。


あき穂
「ウソ……。なんでこんなときに……」


その後のあき穂の対応は早かった。


普段、お互いに介抱し慣れてるっていうのもある。


すぐに丸イスをどかして、床に俺を寝かせ、膝枕をしてくれた。


これで10分くらい安静にしていれば、この疲労感も消えてくれる。


あき穂
「もしかして、この装置のせい?」


あき穂
「やっぱり、使わない方がいいよ……」


あき穂が、額にそっと手を乗せてくれた。


ひんやりしたその手が、心地よかった。


さて、どうしたものやら。


幻覚を見せるんじゃなくて、発作が起きるなんて。


例えば、発作を持ってる俺やあき穂以外の人間に使えば、ちゃんと幻
覚が見えるようになるのかな?

そもそも効果の有効範囲は不明だし。


たとえ幻覚を見せられるようになるとしても、どんな幻覚を見せら
れるのか、その指定方法も分からない。

これだけ不確定要素が多いと、戦術としてアテにするのは難しいか
な。

……いや、それならそれで、使い道はある。


ELITEでは全カット。台詞の一部が後の あき穂パートで回想という形で使われている。


作戦会議


無印
俺は足許に置いてある電磁波照射装置を指差した。


海翔
「だから今の俺の反応速度は、チート並みってこと」


ELITEでは この二つのテキストの間に地の文が加筆されている。


スーパーガンつく1が南種子町に到着


無印
1時間半くらいかけて、ようやく、南種子町との境界まで来た。


車なら5分、原付でも10分かからない距離で、こんなに時間がかか
るとはね。

今、スーパーガンつく1は停止していた。


ロボ1号機時代の名残で、のぞき穴から外を眺めると、大きなクレー
ン車が目の前に停まっていて、パイルバンカーをつり下げている。

ドクと昴が追いついてきたんだ。


やっぱり車だと圧倒的に早いよね。


さっそく、ふたつめのパイルバンカー取り付け作業に入った。


とび職人のおにいさんたちが肩の上に乗り、つり上げたパイルバン
カーを誘導する。

アタッチメントにはめるまで、ものの10分も掛からなかった。さす
がプロ。

あき穂
「カイ、取り付け終わったよ」


海翔
「じゃ、再起動させる」


すぐにキルバラシステムを再起動した。


俺のポケコンと、スーパーガンつく1とのシステムとが結合される。


こいつの起動時は、かなり地味だ。


エンジンを積んでたときは、うるさかったけど、それなりに雰囲気が
あった。

でもそういうのがなにもない。


海翔
「再起動完了」


フラウ
「コ、コマンド、増えたんで」


フラウ
「右のガンヴァルストレートと同じ」


海翔
「分かった」


それだけで情報としてはじゅうぶんだった。


ガンヴァルストレートは、キルバラに出てくるガンヴァレル――俺の
持ちキャラ――が使う必殺技だ。

殴り技がメインのガンヴァレルにおいて、一番基本的な技だね。


ここから、いろんなコンボに派生していく。


左右の腕で微妙にコマンドが変わるのがミソ。


俺にとっては使い慣れたコマンドだった。


藤田
「それと、もしもの場合のギミックも仕込んでおいた」


海翔
「ギミック? なにそれ?」


藤田
「使えるのは一度っきりだ。しかも使っちまったら、パイルバンカ自体
が無力化しちまう」

藤田
「使いどころを間違えんな」


海翔
「で、具体的にはどんな技?」



「ガンヴァルアンクストライカーです」


海翔
「へえ……」


それだけで聞けば、じゅうぶんだった。


どんな技か、察しは付いたよ。


ガンヴァレルの最大最強の決め技。


そんなの仕込んでくれるなんて、気が利いてるね。



「ここからは僕も合流します」



「八汐先輩、今装着したパイルバンカのテストをさせてもらいますん
で、よろしく」

あき穂
「じゃ、スバルはサンダーエンペラーに」


あき穂
「アイリ、悪いけど、スバルが荷台に上がるの、手伝ってあげて」


愛理
「はい、分かりました」


ドクは作業員の人たちとともにクレーン車で一度、旧空港に戻り、C
部隊を編成して後詰めに回る。

作業員のおにいさんたちも、“がんばれよ〜”と俺たちを見送ってく
れた。

海翔
「昴くんさ、足は平気なわけ?」



「平気じゃないですよ。誤ってタンスの角にでもぶつけたら、痛みの
あまりしばらく立て――」


「〜〜〜〜っ」


海翔
「どうした?」


愛理
「た、大変です、銃座に、足、ぶつけて」


淳和
「今、悶絶中……」


フラウ
「もっともだえていいのよ。妄想の足しにするから。デュフフ」


淳和
「日高くん、大丈夫?」



「だ、だいじょうぶでちゅ……」


顔を真っ赤にして、涙目のまま、昴はかろうじて声を絞り出した。


平静を装うとしてるんだろうけど、完全に失敗してるよ。


あき穂
「根性でどうにかなる!」


海翔
「ならないと思うよ」


あき穂
「カイ、スバルの代わりにうちがテストするね」


あき穂
「まず立った状態で、右手のパイルバンカー90度発射、使ってみて」


あき穂
「その後、歩きながらの使用テスト」


あき穂
「ジュン、レーザー光の照準、しっかりね」


淳和
「うん……!」


海翔
「右パイルバンカー、試射するよ」


失敗
くっ、ミスった。


落ち着いて再入力だ。


成功
フラウ
「作動を確認」


海翔
「相変わらず、衝撃がすごいな」


ちなみに、すでに取り付けてあった左手のパイルバンカーについて
は、旧空港を出発前にテスト済み。

海翔
「これ、左右で連続使用したら、コクピットもげたりしない?」



「パイルバンカは急ごしらえで付けたものですからね」


昴はようやく落ち着いたらしい。



「スーパーガンつく1に取り付けることも想定せず、ドクが勝手に
作ったものですし」


「八汐先輩の心配が的を射ている可能性は高いです」


海翔
「おいおい。ホントに大丈夫なわけ?」



「それをこれから確かめるために、テストをしてるんです」


海翔
「もしやばいって分かったら、どうするつもり?」



「…………」


海翔
「…………」


海翔
「おいおい、なんか言ってよ」



「パイルバンカの出力調整は、この段階ではもう無理です」


海翔
「じゃ、なんのためのテストなわけ」



「何発ぐらいまでボディが耐えられそうかを、なんとなく見極めるた
め、ですね」

海翔
「あ、そう……」


攻撃するのにも命がけってことね。


もういいよ。どうせ危険なことには変わりないんだし。


あき穂
「限界を知っておけば、どんな戦い方ができるか、参考になるよ」


あき穂
「限界以上に使うのは、ダメだからね」


そんなの、いざ戦いに突入したら考えてる余裕はないと思うけど。


あき穂
「じゃ、進撃再開!」


……分かってたことではある。


スーパーガンつく1は、そもそも戦いには向いてない。


かなりの突貫工事をしてるし、あちこち、無理が出てくるはず。


それでも、この装備でやるしかないんだ。


ELITEでは昴視点で語られる。ただし無印では1時間半くらいかけて南種子町との境界まで来たが、
こちらでは「南種子町まで辿り着くまで およそ3時間弱かかった計算になる(要約)」と差異がある。
※以降、決戦時にELITEでは たびたび部員や綯の視点に切り替わるが
無印では終始 海翔の視点で進行していく。


『SUMERAGI』のミサイル攻撃


ELITE
結果、大崎射場には30体以上の実物大ガンヴァレルが溢れかえるこ
とになった。しかもまだまだ増殖中。

これが、ARデコイ!


これならどうよ、ミサ姉……!


※淳和パートは割愛
『SUMERAGI』との距離は、30メートルまで迫った。


近くに着弾したミサイルの爆風で転倒しそうになりヒヤリとした
けど、まだどこも異常なし。


「資料によれば、『SUMERAGI』搭載のミサイルポッドは10発」





無印
結果、大崎射場には30体以上の実物大ガンヴァレルが溢れかえるこ
とになった。しかもまだまだ増殖中。

これが、ARデコイ。


フラウ
「もう、なにも怖くない!」


海翔
「はしゃぐなよ、こなちゃん。狙い通りだったけどさ!」


海翔
「ジュンちゃん、送電途切れさせたりしないでよ。スーパーガンつく1
の生命線なんだから」

淳和
「はい、頑張ります!」


前進を続ける。


蜘蛛はその場からまだ一歩も動かない。


再びミサイルを発射した。


また2発。


今度はさっきよりもさらにミサイルの狙いはでたらめだった。


一発はVABの扉を。


もう一発は第2射点の避雷針に飛んでいき、これを吹き飛ばす。


当たらない。


ミサイルは、スーパーガンつく1には当たらない。


海翔
「『SUMERAGI』がコンセプトモデルなのが災いしたね、ミサ姉……!」


エグゾスケルトン社はこれまで、軍事用HUGを開発した実績はな
い。

そのミサイルをどこから調達したかは知らないけど、本社にも内緒
でこっそり武装させたんでしょ。

でも軍事用HUGとして造られたとはいえ、あくまでコンセプトモデ
ル。実用化にはほど遠い試作機だ。

当然、ミサイル管制システムなんて積んでなくて。


手っ取り早く、『居ル夫。』で代用した。


その応用は、フラウ曰く“大したヤツだ”ってことらしいけど。


『SUMERAGI』と『居ル夫。』がオンライン上で繋がってるのを見つけ
ちゃった俺たちなら、細工ぐらい簡単だ。

フラウ
「じ、時間がなくて、かなりの突貫工事だったわけだが――」


フラウ
「今の『SUMERAGI』の目には、じじ、実物大の、ガンヴァレルが、20
機とか30機とか、映ってる……!」

フラウ
「んで、ミサイルは、そのデコイに、じ、自動的に狙いを定めちゃう」


フラウ
「フラウちゃん大勝利!」



「これではっきりしましたね……!『SUMERAGI』のミサイルは、画像認
識誘導です!」


「高度なことをやろうとしたのが、逆に仇になったわけです!」


海翔
「悪いね、ミサ姉! そのクソったれなミサイルは、スーパーガンつく1
には当たらない!」

そう言ったにもかかわらず、懲りずに蜘蛛はミサイルを射出。


あき穂
「今度は4発!」


前進は、止めない。


距離、だいたい50メートル。


4発すべてのミサイルが、急激に方向を変えて飛んでいく。


燃料タンクかなにかに当たったのか、背後で今までより一際大きな
爆発音が聞こえた。

淳和
「きゃあ!」


ミサイルがすぐ近くで着弾。


同時に、機体が大きく揺れる。


すごい爆風だ。


充彦
「大徳、振り落とされんなよ!」


淳和
「は、はいっ!」


彼我の距離、30メートル。



「資料によれば、『SUMERAGI』搭載のミサイルポッドは10発」





ミサイルをパイルバンカーで迎撃後


ELITE
海翔
「っ――」


あき穂
「カイーっ!」


※あき穂パートは割愛
海翔
「アキ!」


さっき拒否られたときはどうしてやろうかと思ったけど。


今度は応えてくれた!


サンキュー、アキちゃん!


これだけ短い間隔での3回連続使用なんて、今まで経験はなくて。





無印
海翔
「っ――」


コクピットの中で、身体ごと振り回される。


踏ん張りが利かなくて、回転式のシートの上で為す術もなく翻弄さ
れた。

猛烈な熱で、蒸し焼きになるんじゃないかと錯覚する。


コクピットの一部が衝撃波によって凹み、押し潰される恐怖に晒さ
れた。

あき穂
「カイーっ!」


淳和
「八汐くん!」


愛理
「八汐さん……!」


フラウ
「先輩!」


充彦
「八汐!」



「八汐先輩!」


海翔
「かはっ……」


吐きそうになるのをこらえる。


どうやら生きてる……!


発作後の気怠さと、爆発の衝撃で、顔を上げる気力さえ失いかけた。


それでも歯を食いしばり。


苦しい胸を手で押さえて。


ぜいぜいと息をつきながら、蜘蛛との距離を確認。


すでにパイルバンカーの間合いだ。


それはつまり、蜘蛛の前足ブレードの間合いであるとも言える。


あき穂
「カイ! よかった……」


海翔
「もう一発は……?」



「もう一発は、VABに!」


なおも前進コマンド入力。


フラウ
「左パイルバンカーは吹っ飛んだお。もう使えない」


フラウ
「無茶しやがって」


海翔
「はあ、はあ……右がまだある……!」


あき穂
「声、すごく苦しそう……」


海翔
「アキちゃんがすぐ反応してくれなかったら、死んでたよ……」


でも、なんとか生き残った……!


すでにパイルバンカーの間合いだ。


後は、狙いを定めて攻撃をぶち込めさえすれば――


そう思った直後、蜘蛛が、その身をゆらりと持ち上げた。


海翔
「……!」


2本の前足を振り上げ、カマキリみたいに構える。


あき穂
「カイ、それを食らっちゃダメ!」


海翔
「アキ!」


あき穂
「――っ」


音が消える。


コマンド入力。


ゆっくりしか動かない自分の指がもどかしい。


ターン。


俺の要望でフラウに頼んでおいた。


ターンは“コマンド入力後、最後のボタンを押し続けた分だけ、ター
ンを行う”ようにしてくれって。

それによって、細かな方向転換が可能だ。


決してその反応速度は速くない。


それでも、微調整できるのとできないのとじゃ、大違い。


ゴクリと息を呑もうとして。


できなかった。


息ができないから、息を呑むことだってできない。


スペースアメは、とっくに口の中から消えていた。


叫び出したくなるような苦しみ。そして、喉の痛み。窒息する。


そこに気を取られている最中に、蜘蛛が左のブレードを振るってき
て――

海翔
「ごほっ――」


あき穂
「カイ!」


時間の流れが元に戻った!?


ブレードが今にも振り下ろされようとしている。


連続使用しか――


海翔
「もう一度……!」


あき穂
「ダメっ! できないよっ!」


海翔
「くっ」


あのバカ!


パイルバンカーをとにかく射出。


運よく、振り下ろされた蜘蛛の前足、その関節部分を弾くようにぶ
ち当たった。

その反動も利用しつつ、一歩だけ、後退。


『SUMERAGI』は再び6本足での歩行に戻り、追ってくる。


あき穂
「カイ……っ」


海翔
「ためらうな……!」


あき穂
「だって、カイが死んじゃうっ」


海翔
「信じ、てるから……! そっちも、信じろ……!」


間合いを詰めてくる『SUMERAGI』は、前足を片方だけ横に広げた。


こっちの生命線である足を払おうって魂胆か。


そのブレードは山吹色に発光している。単なる刃じゃない。悪趣味だ
ね。

だったら、いっそ前進してゼロ距離へ。


前へ――


同時に、パイルバンカーの射出角度を45度に。


ブレードが振るわれる。


海翔
「アキ!」


今度は応えてくれた。


これだけ短い間隔での3回連続使用なんて、今まで経験はなくて。





受け付けない打ち上げ中止コマンド


ELITE
綯さんからの報告に、あき穂がハッとした。


※綯パートは割愛
今の綯さんからの報告を受けて、俺はきつく唇を噛んだ。


ロケット打ち上げが先か、スーパーガンつく1の電源が切れるのが先
か、って状況になってきたね。

愛理
「Xマイナス5分です」


藤田
「よお。話は聞かせてもらったぜ」





無印
綯さんからの報告に、あき穂がハッとした。


ただ、綯さんの表情は冴えない。



「指令センターは制圧しました。テロリストは、あなたたちと戦って
いる最中の瀬乃宮みさ希以外、全員……自殺」

あき穂
「え……」



「それで、ロケットの打ち上げ阻止は?」



「……ごめんなさい」



「何度試しても、ここからの打ち上げ中止コマンドを、受け付けない
んです」

あき穂
「なにそれ、どういう……」



「分からない……」


途方に暮れた様子だった。


ミサ姉と君島コウは、こうなることを想定していたのか?


海翔
「VABの横に、大型ロケットの発射管制棟があったはず」


前進コマンドを打ちながら、指摘する。


海翔
「そこは?」


健一郎
「その管制棟は、今回、使われていない……」


あき穂
「お父さん! 無事でよかった」


あき穂の言葉に、瀬乃宮のおじさんはうなずいた。


少しやつれてるようだけど、元気そうだ。


健一郎
「あのロケットの発射管制システムは、イプシロンと同じように、モ
バイル管制で行われているはずだよ」

健一郎
「でも、担当者だった藤代くんのPCは、オンラインパスをブロックさ
れて、アクセスできなくなっている」


「現在の権限者は……」



「君島コウになっています」


あき穂
「え……!」


君島コウ……!


みさ希
「面白い話をしているわね」


ミサ姉の声が、またも響き渡った。


みさ希
「でも、これで分かったでしょう」


みさ希
「あなたたちに、ロケット打ち上げは阻止できないわ」


みさ希
「『SUMERAGI』を無力化したのは、大したものだったけれど」


みさ希
「でも、これまでよ」


みさ希
「あなたたちに、もう手はない」


みさ希
「そこで、打ち上げを見届けなさい」


海翔
「……っ」


たまらず、ギリリと奥歯を噛みしめていた。


悔しい……!


俺もあき穂もまだ、ミサ姉に対等に見られてないっていうのか。


こっちがどれだけ前進したって、『KAMINAGI』との間合いはまったく
縮まらないし。


「海翔くん、あき穂ちゃん、ロボ部のみなさん」



「あなたたちはこの瞬間、陽動部隊ではなくなりました」



「世界を救えるのは、文字通り、そこにいるあなたたちだけです」



「どういう結論を出すにしても、私は……あなたたちの選択に、従い
ます」


「ここで逃げても、誰も、あなたたちを責めたりは――」


海翔
「ちょっと静かにしてくんないかな、綯さん」



「え……!?」


海翔
「逃げるって? そんな真似、するわけないでしょ」


海翔
「俺はさ、ここに、全一になるために来たんだ……!」


海翔
「ミサ姉との7年振りの決着を付けなきゃ、このたぎった気持ちはお
さまらないんだよ!」

淳和
「八汐くん……」


愛理
「…………」


フラウ
「デュフフ……濡れるッ」



「実にナンセンスですが……おおむね、同意します」


充彦
「人には、やらなきゃならないときがある、ってな。これ、豆知識」


あき穂
「カイ」


あき穂
「お姉ちゃんを……」


あき穂
「お姉ちゃんを、倒そう」


海翔
「そう来なくちゃ……!」



「……健闘を」


健一郎
「あき穂……」


あき穂
「ごめん、お父さん」


あき穂
「お姉ちゃんのこと、助けられないかもしれない」


健一郎
「……無事で」


愛理
「Xマイナス5分です」


ロケット打ち上げが先か、スーパーガンつく1の電源が切れるのが先
か、って状況になってきたね。

藤田
「よお。話は聞かせてもらったぜ」





間に合ったアンチ君島コウウイルス


ELITE
どうやったって、ミサ姉には、追いつけないのか……!?


※フラウパートは割愛
ポケコンのキルバラシステムがフリーズのような状態になる。





無印
どうやったって、ミサ姉には、追いつけないのか……!?


フラウ
「おっ、おっ……!」


フラウ
「おおおお!」



「古郡、こんなときにふざけてるんじゃない」


フラウ
「じゃなくて!」


フラウ
「澤田きゅんから連絡ktkr!」


海翔
「澤田……?」


フラウ
「繋ぐお」


澤田
「間に合ったか」


澤田
「待たせたな。こちらで、君島コウを消滅させるためのウイルスを用
意した」

澤田
「DG297 3rd EDITION……もにょもにょと連動するように作って
ある」

澤田
「ただし、効果を発揮させるためには条件を満たさなければならな
い」

澤田
「ウイルスが有効に作用するのは、ARの君島コウ本人の姿が映って・・・・・・・・・・・・・・・
いるときのみ・・・・・・だ」

澤田
「一度作用さえすれば、それでカタはつく」


澤田
「以上だ。後は任せたぞ」


言うだけ言って、勝手に話を切り上げてしまった。


あの男、このタイミングで連絡してきて、それだけ?


自分勝手すぎるよ。


いったいどんなウイルスなのかって説明もないし。


あき穂
「姿が見えてなくちゃいけないって……そんな」


あき穂
「『KAMINAGI』の操縦席は、外からは見えないよ!」



「胸のハッチを、なんとかしてこじ開けるしかありません……!」


淳和
「でも、向こうからは、仕掛けてこないし」


いや……。


片手で頬を叩き、目を覚ます。


そんなの説明する余裕がないのを分かって、手短に概要とぶち込む
方法だけ教えてくれたんだろう。

せっかくの武器だ。


使わない手はない。


海翔
「それを使えばミサ姉を殺さずに済む」


あき穂
「カイ……」


海翔
「だったら、使うさ」


澤田が俺たちを騙してる可能性もあるけど。


ここまで来たら、なりふり構っていられない。


海翔
「こなちゃん、そのウイルス、今すぐにでも使える?」


フラウ
「く、組み込むのはすぐだけど、さ、再起動が必要な件」


フラウ
「その間は、スーパーガンつく1は動かせなくなるわけだが」


あき穂
「かかる時間は?」


フラウ
「だいたい1分」


淳和
「それだけあったら、やられちゃう」


愛理
「でも……向こうも、じっとしてます」



「気付かれなければ……再起動している間も、膠着状態が続くはずで
す。向こうからは、きっと仕掛けてきません」

海翔
「それに賭けよう。こなちゃん……再起動よろしく」


あき穂
「でも、カイ……! もしバレたら!」


海翔
「打ち上げ時刻までは?」


愛理
「Xマイナス3分です」


海翔
「もう後はないでしょ」


あき穂
「…………」


海翔
「アキちゃん」


あき穂
「フラウ坊、お願い!」


海翔
「いい判断だ」


貴重な1分を失うことになる。


残りは2分。


それで、決着をつけなくちゃならない。


あき穂
「カイ、安心して。この1分、カイのことは、うちらが守る」


フラウ
「じゃ、じゃあ、キルバラシステム、ダウンするお」


ポケコンのキルバラシステムがフリーズのような状態になる。